- Amazon.co.jp ・本 (293ページ)
- / ISBN・EAN: 9784094088779
感想・レビュー・書評
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目次
・風立ちぬ
・菜穂子
今まで読んだことがなかったのだけど、サナトリウム文学ということである程度イメージはあった。
でも、今、このご時世、この小説に需要はあるんだろうかというのが、読後の感想。
死病というのは、今でも小説の重要なモチーフの一つだけど、この作品が書かれた戦前という時代、結核というのは本当に身近な死病だったのだろう。
伝染したら困るからというので隔離されていたと思うのだけど、実に気楽にサナトリウムにお見舞いに行き、看病のために泊まり込む。
菜穂子にいたっては、大雪の降る日に病棟から抜け出して駅に向かうのだが、途中であった病棟の看護婦に「早くお帰りになってね」と見送られる始末。
あまりにも緊迫感がなくない?
そして、時代のせいなのか堀辰雄という個人がそうなのかはわからないけれど、どの人物も自分のことしか考えていない。
病気だとか病気じゃないとか関係なく、自分の感情にまわりの人を巻き込むのを当たり前と思っている。
小説は、登場人物に必ずしも共感しなくてもいいと思ってはいるけれど、登場人物同士の共感すらまったくなくて、自分の問題で手いっぱい。
ストーリー自体に起伏もなく、共感できない登場人物たちの屈託を延々聞かされる。
「風立ちぬ」はまだ、節子とその父親の互いを思いやる心情とか、節子が語り手の私を精神的に支えようと努めるところなどがままあるが、「菜穂子」に至っては、母と娘の冷たい断絶、夫婦の間の無関心、恋人への自分勝手な怒りなど、ちょっと読んでいてイライラしたなあ。
解説も、この作品の解説は書けなかったのか、宮崎駿の映画について多くの文字を費やしているくらいだった。
私が日本近代文学が苦手だからなのかな。
サナトリウム文学を読むなら、『魔の山』で充分。
宮崎駿の映画「風立ちぬ」には感動したけれど、あれとこれとは別作品。
このご時世に、読む必要はあるのかなあ。詳細をみるコメント0件をすべて表示