トラオ 徳田虎雄 不随の病院王 (小学館文庫 あ 29-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094120479

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  • 徳田虎雄、全国に展開される徳州会の元理事長は、先般の公職選挙違反で一躍有名になったが、ALS (筋委縮性側索硬化症)に侵され寝たきりにながらも実験を握ってグループを率いていたという話も併せて広く知られるところとなった。本書は、公職選挙法違反により、徳州会の存在とその活動が世の中一般で広く知られるようにになる前に書かれたものだ。その事件の前後によって、おそらくは徳田に対する印象と評価がほとんど変わらないであろうということからもその稀有さがわかる。著者と同じく、自分もこの徳田虎雄を悪人だと断罪することができない。

    「一般的には間違っているといわれるようなことでも、正しい目的を成し遂げるためなら、そのために使った手段もすべて正しくなってしまうんですよ(笑)」というグループ幹部の言葉が、徳田虎雄の選挙問題や医師会との軋轢に関するすべての論理であるように思える。

    本書は、不治の業病であるALS罹患が結果として持つ意味と、そのALSに罹った上でいまだ強い意志を持って徳州会という団体に君臨する怪人徳田の物語だ。徳田がALSを患わなければ、またそれ以前に政治に出ていかなければ、どうなっていただろうか、と問うと同時にそんなことは無意味だと思う。当の徳田自身がそういった「たられば」とは最も遠いところで生きている。体の自由が奪われ、栄養の補給も人工的に行われ、いずれ呼吸も自律的にはできなくなり気管切開手術が必要となる。患者の意思の伝達は唯一残る目の動きで示す文字盤の位置によって行われるのみ。介護する家族にも、負担が重くのしかかる。徳田は、医師としてそこから逃れられないことを知りつつ、自らの思いに生きる。全身不随となってからも全国の病院の会議や数字を確認して、病室から指示を出すというのだから正直信じられない思いだ。それは、嫌われることを引き受けることで、自分の意志を通す、それができるのは自分しかいないという想いからの行動なのかもしれない。

    「生命だけは平等だ」というスローガンを掲げ、「年中無休、24時間オープン」、「患者様からの贈り物は一切受け取らない」「困った人には健康保険の3割負担も免除する」というモットーを掲げ、幼き頃の弟の死から誓った離島医療の実現と、徳州会を世界へ拡げるという意志は衰えない。公職選挙法違反に問われたのは、自身の側近を切った意趣返しであったと言われているが、このように情報の入力経路が極端に限定された独裁者が全体をコントロールすることの危うさが伺える。

    徳田が、ALSにかかる前に、死期がある程度わかるので、癌で死にたいと語っているが、その心性は理解できる。ALSに罹った上で戦う徳田の死生観として印象的な言葉ではある。

    公職選挙法違反は間違いないが、そのことと徳州会が突き付ける医療問題、医師会の問題はないがしろにはしてはならないと思う。

  • トラオさん、近くにいると鬱陶しいと思うけど、こういう人がいるから革新はされていくんだろなと思わせる。
    病気になってもとにかくエネルギッシュ。
    まだご存命なので安心したけど、会の中でゴタゴタが起きてて今の時代やってくのはきついんだろうなと感じた。でも頑張って欲しいなあ。トップが夢を見させてくれるって組織の中にいる限りは居心地良いだろな。

  • ASLと徳田虎雄について知りたかったので゜
    図書館から借りた。日本ALS協会と「ハリーポッター」シリーズとの関係について教えてもらった。

  • 狂気すら感じる徳田虎雄の行動力・執念にあてられ、自分の生き方を考えさせられた。

  • 徳洲会という病院を一代で築き上げた経営者の、壮絶な人生を振り返った話は、幼少時代の悔しい思いが、その後の医師になると言う方向を決めつけ、医師だけでは留まらず、政治に参戦したりと話題に欠ける事がない印象であるが、その志はぶれる事がなく、高尚な目的を果たす事に直向きに生きている姿が分かります。晩年、難病に罹ってもグループの指揮を執り続け、そのカリスマ性は誰も超える事が出来ない。

  • 異形の病院王、徳田虎雄の正体に迫るルポルタージュ。
    幼少期に徳之島の貧しい一家で育ち弟を病気で亡くし、苦学の末に大阪大学医学部に入学する様子に始まり、徐々に病院を拡大させながら多額の金がばら撒かれた衆議院選挙当選を経て、鳩山政権時代の普天間飛行場の徳之島移設問題まで、徳田虎雄を巡る様々な出来事が語られていくが、そのどれもがすさまじく面白い。

    文庫版終章では王国の終末として、2012年12月の衆議院選挙を巡る東京地検特捜部による徳洲会への捜査と、徳田虎雄の理事長退任の模様が追記されている。それから約5年が経った今、徳田虎雄が何をしているのかが気になるところではある。

  • 難病との壮絶な闘病生活。今までのパワフルな生き方。波瀾万丈の人生には、タフなトラオ魂がしっかり根付いている。大した人間だ!

  • 島育ちの少年が浪人をしながらも猛勉強の末に医師となり、若いときに自身に保険をかけて銀行からカネを借りて徳洲会グループを立ち上げた徳田虎雄氏。彼の尋常ではないエネルギーの源泉の正体。同氏の生き方と徳洲会にあり方に迫る。

  • ALSという難病にかかりながら、離島にも病院を、という理念を掲げ、大病院グループのトップを務め、政治に関わるバイタリティは、ほんとすごいと思う。
    同じ病気にかかったら、、と想像してみたが、とてもやって行けないと思う。。

  • 裏話が面白かった。

著者プロフィール

1966年長野県生まれ。ジャーナリスト、ノンフィクション作家。慶應義塾大学卒業後、共同通信に入社。社会部、外信部、ソウル特派員などを経て、2006年に退社しフリーに。テレビ・ラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『日本の公安警察』(講談社現代新書)、『絞首刑』(講談社文庫)、『トラオ―徳田虎雄 不随の病院王―』(小学館文庫)、『増補版 国策捜査―暴走する特捜検察と餌食にされた人たち』(角川文庫)、『誘蛾灯―鳥取連続不審死事件―』『抵抗の拠点から 朝日新聞「慰安婦報道」の核心』(講談社)、『青木理の抵抗の視線』(トランスビュー)などがある。

「2015年 『ルポ 国家権力』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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