犬と魔法のファンタジー (ガガガ文庫 た 1-19)

著者 :
  • 小学館
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本棚登録 : 208
感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (343ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094515633

作品紹介・あらすじ

「剣と魔法の大冒険」は遠く昔になりにけり

かつて、偉大な始祖文明が大地に栄えていた。
だが滅びた。
かつて、剣と冒険と神秘の時代があった。
だが廃れた。
現在、『新大陸』はとても平和である。

未踏の地を夢見て、若者たちが冒険の旅に出たのも、今は昔。冒険なんて、時代遅れもいいところ。今の若者の夢は、無事に就職すること。
主人公・チタンは一生安泰の宮廷務めを目指し就職活動中。しかし、なかなか採用されず苦戦続きでやさぐれていた。
そんなチタンの前に現れ、冒険という悪の道に誘う中年男・ケントマ。しかし、今時、冒険者など流行らない。食べていけない。
冒険者の才能がある、としつこく誘うケントマから逃げ回るチタンだったが……。

さえない大男、あまり美しくないエルフ、そして一匹の白い犬が織りなす「ファンタジー世界」の青春とは?

感想・レビュー・書評

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  • 『就活』という切り口から、人生の岐路に立たされた時に何を選びとるかを描いた作品だと理解しました。

    ネット文化に馴染みが深い人にとっては、そこかしこに散りばめられたネタの数々に思わず頬が緩むこと請け合いの本作品。ガガガ文庫の読者層にはマッチするのではないでしょうか。

    ファンタジーの世界観でありながら、これでもかと現実を突きつけてくる描写の数々に成り立つ独特の世界観が非常に面白かったです。新感覚。ファンタジーはあまり得意じゃない私でもサクサク読める。すごい。


    私自身、就活中にはよく主人公のチタンの思考に親しいことを考えたもので、有り体に言ってしまえば感情移入ができたのも大きかったですね。

    ロミオ氏は就活まっただ中の人には本書をオススメしない旨を書いていましたが、私としては是非とも読んで欲しいと感じました。もちろん、これからの人に対してもでオススメしたいです。ネタバレ箇所だけ反転させて宣伝したい感。

    ――企業に収まることは選択肢の1つに過ぎない(唐突な文体モデルチェンジ)。そこで高い壁にぶち当たったとしても、どうか人生を諦めないで欲しい。生き方なんていくらでもある。企業文化も一大勢力とはいえ所詮ひとつの文化圏にすぎず、この文化圏が規定する枠内に収まらなかったとしても人生すべてを否定する理由とするには些か早過ぎる。社会は幾重にも編みこまれている。その表層に揺蕩う常識や価値観についても、今一度見つめなおしても良いと思う。

    評価が4である点については、もう少し最後の事件を経た後日譚が欲しかったという点です。(あとがきに納期という言葉がありましたが。。。)
    様々な種族、考え方を持った集団を取り上げており、それぞれが最後には(おそらくは)考え方も変わっただろうと思っていますが、その思考の変遷が読めたらよかったなと。
    特に、イディアくんの最後の描写があれでは、救いが感じられなかった。意図的なものだったのだろうか。そこがわだかまりとして残った。

    それでは、最後に冒険野郎からの有難いお言葉を。
    「旅に出ようと思うんだ」

  • 主人公は、今日も今日とて就職活動に精をだす。

    日本とファンタジーが混合したような生活の中
    必死に就職活動をするけれど…な状態。
    その横では、サークルに入り浸るお姫様女が
    僕といたり、新しいエルフが入ってきて駄目になったり。

    就職活動という、もっとも心折れる現実と
    あてはないけれど心躍る冒険者。
    平穏に、確実に、と思う現代人にとって
    冒険者は確かに難問です。
    というよりも、不安定すぎるわ、体力がいるわ。
    読んでいて、かなり心折れそうな内容でした。
    切実すぎて、辛すぎて。
    社会の縮小図を見ている感じでしたし。
    女の子とか、男の方とか、主催者の言動とか。

    今まさに就職活動を! という人は
    読まない方がいいと思います。

  • 全1巻完結。
    ライトノベルには珍しい大学生を主人公にした作品。魔法が発展している世界が、なぜか現代世相と生き写し。現代でのカタカナ言葉が絶妙な漢字に変換されているのがおかしい。
    就職活動の殺伐さ、登山の緊迫感が他のライトノベルと違う。大人のラノベ。

  • 就職活動に直面して人生に悩む大学生が登山などを通してじこじつげんする話
    題材は面白いがいろいろ盛り込みすぎで
    キャラクタたちや設定が充分に整理されておらず中途半端なできばえ
    ちゃんと推敲してかけば良いものが書ける力があるのにまことにもったいない

  •  すっごい良かったのだが、一番の山場で重要な場面がものすごく早足になってしまった。でも、田中ロミオは田中ロミオだと思う。とっても良いのだ。なんというか。妙に突き刺してくるものがある。
     僕の世代は、田中ロミオがいわゆる野球でいえばイチローではなくて、知る人ぞ知る人であり隠れチャンピオンである。例えば、日米のガチンコオールスター戦で、川尻が最強のアメリカバッターをガチで零封完封投球だったが、死球一つでなぜか交代させられた。「日米野球ではカート・シリングと投げ合い、MLB選抜を0点に抑える投球を見せた。日米野球史上初完封目前の9回一死で死球を与え、監督の長嶋茂雄によって大塚晶文に交代させられた。」とある。そんな「伝説の人」が田中ロミオである。決してイチローではない。もしかしたら偽名で、イチロー並みの活躍をしているかもしれないけれど。
     すっごい良いファンタジーになりそうだし、「負い目」と「魔獣シロ」の関係とか美しいし、それぞれのいけ好かない登場人物たちが、容赦なくひどい目に合うところとか、展開には一切無駄はなく、面白いのだが、やっぱり「急いで書かれている」がひどかった。巨漢のラノベ主人公も斬新だし、それでいて、朴訥で誠実なのは素晴らしい。Fランの人間のふりしたエルフも良い。見事な収め方だった。主人公が冒険者から、英雄へと昇華される流れもばっちり。冒険者になる、から、その次へと進む。これはとても心に響く。ここで終わりかなと思わせてさらに一歩。あとはしつこいまでの、面接落ちる描写。読者はやや退屈するかもしれないが、こういうストレートではなく、ジャブみたいなギャグ的なものをしつこく繰り返すことで、後半燃えるようにしてくるのは、ひとつの技術である。クロスチャンネルの自転車に乗った女がなんども主人公をぶんなぐるギャグの繰り返しに似ている。
     途中、一か所だけ「円」といってしまうお金の描写もあったし(円でいいのか?)、校正もばたばただったろう。だが、小学館のロミオの編集者は、ロミオが好きなのはよくわかる。ロミオ氏は、クロスチャンネルという源氏物語以来の伝説を作った人である。そしてエロゲーを終わらせた人でもある。そんな人が、どんどん、世界的に活躍してほしいのである。偽名で、活躍してそうだけれど。久々に読んで、懐かしかった。ああ、あのロミオだ、と。

  • 就職活動なんてもう二度としたくない、と存分に思える本でした。

    ちょいちょい面白いところあるんだけど、↑が全てを覆い隠すよね。

  • 主人公はお話のほとんどを就活に費やします。就職活動。
    …果たしてそんなラノベが面白いのだろうか?と普通なら考えるでしょう。

    はい、面白くないです(真顔

  •  我を過ぐれば憂ひの都あり、
     我を過ぐれば永遠の苦患あり、
     我を過ぐれば滅亡の民あり
     義は尊きわが造り主を動かし、
     聖なる威力、比類なき智慧、
     第一の愛、我を造れり
     永遠の物のほか物として我よりさきに
     造られしはなし、しかしてわれ永遠に立つ、
     汝等こゝに入るもの一切の望みを棄てよ
     地獄が現実のパロディならば、この世は地獄そのものだ。
     田中ロミオの送る現実的ファンタジー。
     ライトノベルで作品を世に出すようになってから社会風刺に偏り過ぎている気がする。『人類は衰退しました』は風刺色が強くも面白かったが、この小説はストーリーそのものがあまり面白くなかった。『CROSS†CHANNEL』のようなストーリーも面白い作品を今後期待したい。

     あらすじ。
     チタン骨砕は宮廷大学に在籍する学生である。身長二メートルに及ぶ巨漢だが、小心者で口下手な面がある。現在、就職活動中だが何十社受けてみても芳しい戦果が上げられず苦労していた。冒険組合に所属しており、とある遭難事故で救い仲良くなった仲間と、偶々拾った犬が拠り所だった。
     チタンは幾つもの面接を繰り返したが、内定を貰える気配はなく、日にちだけが過ぎていった。就活塾に通い切磋琢磨するも何の成果も得られずに刻一刻と時が過ぎていった。そんな中、冒険組合で買っていた犬「シロ」が不調を来たし始める。同じくシロを気にしけていたヨミカ来倉と共に獣医を巡るも、はっきりとした診断を下す獣医が見つからない。ついに不調の原因の分かる獣医を見つけたところ、シロは動物ではなく魔獣の類であり、魔力不足による体調不良だと判明した。だがシロは冒険組合の主催する内定者のみの登山のために連れられてしまう。登山の目的地はこの上なく危険と評される〈霧吹山〉であり、学生風情が登るのは無謀としか思えないような山だった。だが登山の参加者である内定者たちは、気の緩みか内々定の慢心か、霧吹山へ意気揚々と冒険と銘打った登山に向かう。その道中で遭難し、学生の団体は山中に転移までしてしまう。チタン骨砕は冒険組合の面々の救助に向かう。己が「冒険者」でいることを理由に。
    〈霧吹山〉を進み、遭難者たちがいると思われる地点に到達し、ヨミカを救いに行った先にいたのは魔獣の姿を取り戻したシロだった。チタンはシロに己が生き行く道を定めたことを告げ、別れる。後日、チタンは正真正銘の冒険者となり、雑誌のインタビューを受けていた。好きで冒険者をやっている訳ではない。冒険をする道しかなかったから冒険者となったのだ。だがそこには仲間がいる。同じ様に己の道を開拓し進もうとする仲間がいる。チタンはこう答え、冒険者としての人生を歩んでいく。

     ストーリーがつまらないのが致命的だった。社会風刺を主としているので、前半はほとんど就職活動の話だ。現代における就職氷河期をファンタジーの世界に置き換えたパロディであり、言葉や道具、設定のセンスは非常に優れているものの、ストーリー自体は起伏に欠ける。ファンタジーの世界で書き換えたリアルな就職活動記録のようなもので、面白味というものは一切排されている。『人類は衰退しました』ではブラックジョークとして社会風刺を描いていたが、この小説では自虐、またはルポの体で社会を風刺している。だがそれだけに退屈だ。冒険者という道を選択するまでの過程がストーリーの基本となっているが、冒険者になること自体に壁らしい壁はなく、妥協するか否かが分水嶺となっていて非常にネガティブな印象を受ける。就職活動に限定すれば、勝利は一つもなくただ負け続けるのみ。ひたすら負け続けた高校球児がプロの漫画家になる物語を野球の物語とは言えないし、漫画家の物語とも言えない。同じ不安定さがこの小説にも言える。サクセスストーリーの正反対を地で行く物語である。
     キャラクターはロクな奴がいない。味方が少なく、敵ばかりだ。かといって敵と面と向かって戦う訳でもない。非常に現実的だ。巨悪はなく、周囲の小ずるい人間に辟易とする生活。およそファンタジーとは思えない設定で物語は進んでいく。
     世界観は非常に優れている。キャラクターとストーリーを犠牲にして、魔法と異種族の存在するファンタジー世界の就職氷河期を描き切っている。端々にパロディや社会風刺を散らばめて、もう一つの世界を構築し切っている。就職活動関連は小学館の社内アンケートを利用しているためか、真に迫った内容になっている。
     また就職氷河期というテーマもきちんと描き切っている。主人公は結局就職を逃したが、就職難とそれに伴う脱落者の道行をきっちりと描いたのは好感が持てる。ストーリーやキャラクターを犠牲にしなければできないことだ。
     文章は硬質かつ古風で冒険小説風となっている。パロディやジョークを大真面目に語るのが良い。
     台詞は幾つか素晴らしいものがあったが、切れのある台詞は少ない。『人類は衰退しました』に比べると鋭いジョークの少なさが物足りない。
     総合的に見て社会風刺に舵を切りきった作品だった。物語的な面白さはないが、社会風刺の変化球として『人類は衰退しました』を同じように価値がある。だがストーリー性のなさが非常に悔やまれる。

    キャラクター:☆
    ストーリー :☆☆
    世界観   :☆☆☆☆☆
    テーマ   :☆☆☆☆☆
    文章    :☆☆☆☆☆
    台詞    :☆☆☆☆

  • 想像したのより大分リアルに就活だった。ファンタジーなのに。ちゃんとファンタジー世界なのに…!

  • 異世界においてのリアル現実の再構築は、人退でも何度もやられてた手法なので安心して読めるのだが、だったらコメディとして人退の一話としてやればよかったのにと。
    逆に、就活を絡めたシリアスをやるなら、ファンタジーではなく現実に則した世界観でよかったのにと。

    貴殿の今後の活躍を、心より祈念申し上げる。

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著者プロフィール

小説家・ゲームシナリオライター。代表作『CROSS†CHANNEL』『人類は衰退しました』『Rewrite』(竜騎士07、都乃河勇人との共著)『ミサイルとプランクトン』など多数。

「2016年 『アウトロー・ワンダーランド 1 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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