日本論の視座―列島の社会と国家 (小学館ライブラリー)

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著者 : 網野善彦
  • 小学館 (1993年11月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (424ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094600537

日本論の視座―列島の社会と国家 (小学館ライブラリー)の感想・レビュー・書評

  • 日本中世史の大家、網野善彦先生の著作です。
    本書では一般的に語られている「日本」のイメージに対して、歴史学の立場から批判を加えイメージの中に収まらない日本の姿を提示します。
    今回批判の対象になっているのは「単一民族論」「稲作国家論」「日本島国論」といった巷で語られる日本の姿です。
    これらの日本のイメージに対して網野は中世の史料や民俗学を援用しながら、中世日本においてはこれらのイメージは事実ではないことを明らかにしていきます。
    蝦夷地や琉球のみならず東国と西国でも大きな差異があった日本列島の社会構造。稲作農業だけにとどまらない生産活動。そして国家レベルでの交易はなくとも民間では頻繁に行われていた国際交易。こうした中世の有り様を明らかにすることで、日本人を一面的なイメージの中にまとめる「日本論」は中世史の立場からは成り立たないことを明らかにしています。
    そして網野はさらに日本人自身の認識よりも多様な中世社会のあり方を明らかにしていきます。それは無主・無縁や公界といった定住民に間で生きている遍歴の民の存在です。職人や商人として諸国を旅し、道・浦・市などの境界の世界に生きている彼らの姿を絵巻や伝承、そして史料から描き出し、定住者と遍歴者が交じり合い彩りのある世界が成り立っていることを浮かび上がらせています。その中には後世に賤民として扱われることになる遊女や傀儡子、博奕といった人々の姿もあり、彼らが室町以前の社会では芸能の職人として認められていたこともわかるのです。
    そして最後に何が日本を「日本」たらしめているのかという問いに対して、網野は文字、特にかな文字の存在に注目します。方言という話し言葉の際にもかかわらず、日本の各地域で共通化しているかな文字で記述された文書の存在。そして古代以来世界にもまれに見る文書中心社会を築いてきた日本。これこそが日本社会の根本を形作る一つの要因なのではないかと提示しています。

    本書は網野史学のエッセンスが詰まっていると思います。無縁・公界に関する考察や非人や遍歴民に対する考察がまとまっており、民俗学の援用といった網野先生の仕事の特徴が発揮されています。また、中世社会における女性たちの活躍や賤民たちの聖性についての記述など日本の「伝統的社会」のイメージの外にある実際の姿というものを強調するのも他の著作と共通している部分です。史実に基づかない安易な「伝統」や「通時的な性質」というものを鮮やかに否定し、そういったものにとらわれない多様な社会への眼差しを目の前に提示してくれます。
    更に本書では文字社会・文書社会としての日本について論述を進めています。日本の文字中心の統治機構についての考察は本書で初めて見かけましたので、今後この議論がどのように展開していったのか確認をすることが出来ればと思います。
    一方で気になることとしては、中世社会を無視した日本論が存在し得ないように近世・近代を無視した日本論も存在し得ないのではないかということがあります。本書では中世の多様な社会は室町時代を境に徐々に定住民が優勢となっていくことが度々述べられています。確かにその中でも中世的な様相というものは残滓として確認できるのだと思いますが、やはり現代日本を考えるときに近世・近代、特に明治維新以後の近代化の流れを無視することはできないのではないでしょうか。確かに女性たちは中世社会において社会で積極的な役割を担っていたし、地域ごとに統治機構をもって半ば自治的な活動をしていたのも確かです。しかしこれらのものは後世には失われたものであります。それは日本の本質ではないにしても現代の構造として(少なくとも中世社会よりは)大きな影響を持っています。そのために近代を克服するための議論としては近世・近代を無視することはできないのだろうと考えます。

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