新版 動的平衡: 生命はなぜそこに宿るのか (小学館新書 ふ 7-1)

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784098253012

感想・レビュー・書評

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  • 雑誌連載の記事を編集加筆してまとめた著書。
    『動的平衡』というキーワードを軸に生命とは何か、ダイエットやES細胞などの日常関心のある話題を素材に論を展開しておる。

    まずは筆者の読ませる文章力に脱帽。
    次に、どこかで直感的に思い込んでいる機械的システムとしての人間観に、一石を投じる論にも目を覚まされる力強さがある。手放して良いことだと短絡的に賛同してしまっているES細胞などの万能細胞に対する、不確定さと気味悪さの指摘はとても新鮮で考えを改めるきっかけとなったのです。

    シリーズものとのことで、適宜手に取っていこうと思う。「ベリクソンの孤」理論がどのように展開しているかも気になるので。

  • 「動的平衡」ハカセの有名な言葉。
    新版「動的平衡」なので、新書化にあたり、増補改変してある。
    人間の記憶は、脳のどこかにビデオテープのようなものが古い順に並んでいるのではなく、「想起した瞬間に作り出されている何ものか」である。よって、過去とは現在のことであり、懐かしいものがあるとすれば、それは過去が懐かしいのではなく、今、懐かしいという状態に過ぎない。
    なぜ学ぶことが必要なのかー学校で勉強しなくても実社会で体得する直感や、経験則の法が生きていく上でずっと有効か?いいえ違います。「私たちを規定する生物学的制約から自由になるために私たちは学ぶのだ」生物学的規定?それは、私たちが世界をごく直感的にしか見ていないこと。直感が導きやすい誤謬を見直すために勉強し、自由になる。
    森鴎外は、脚気の原因を病原体による感染症だと死ぬまで脚気菌を探していたという。コッホの影響。

    人間の身体はチクワ。生命活動はアミノ酸の並べ替え。
    汝とは、汝の食べたものである。コラーゲンは、そのままコラーゲンになるのではなく、一度アミノ酸に分解され、再び必要なタンパク質に合成される。
    エントロピー増大の法則。秩序から乱雑さへ。生命はそのことを予め織り込み準備した。エントロピー増大の法則に先回りして自らを壊し、再構築するという自転車操業=動的平衡。

  • ベストセラー『生物と無生物のあいだ』(2007年)を始めとする一般向けの科学書等の著者・翻訳家であり、雑誌や新聞の文化・読書面にも頻繁に登場する、分子生物学者の福岡ハカセが、自ら主著という2009年発表の作品を新書化したもの。新書化に伴い、生命科学研究の最前線の状況などについて大幅に加筆したほか、新章が加えられている。
    本書の題名にして、ハカセが「私自身のキーワード」という「動的平衡」の表すものについては、言葉を変えて、繰り返し説明されているが、端的に言うと、「秩序あるものは必ず、秩序が乱れる方向に動く。宇宙の大原則、エントロピー増大の法則である。この世界において、もっとも秩序あるものは生命体だ。生命体にもエントロピー増大の法則が容赦なく襲いかかり、常に、酸化、変性、老廃物が発生する。これを絶え間なく排除しなければ、新しい秩序を作り出すことができない。そのために絶えず、自らを分解しつつ、同時に再構築するという危ういバランスと流れが必要なのだ。これが生きていること、つまり動的平衡である」ということである。
    また、分子生物学の見地から、以下のような多数の興味深い示唆がある。
    ◆歳をとると1年が早く過ぎるのは、分母が大きくなるからではなく、自分の生命の回転速度(代謝回転速度)が遅くなるから。
    ◆人類は進化の過程で、生き残るために有利なように、ランダムなものの中に法則やパターンを見出す能力を高めてきた。
    ◆我々が摂取したタンパク質は、元の情報が自分自身の情報と衝突しないように、アミノ酸まで解体されて吸収される。よって、コラーゲンを食物として摂取しても意味はない。
    ◆生命は単なる部品の集合体ではなく、その成立には時間が関わっており、それが柔らかさ、可変性、バランスを保つ機能のような機械とは全く異なるダイナミズムを生み出す。
    ◆生命のプロセスに関わる時間を逆戻りさせることは不可能。よって、遺伝子操作や生命操作を用いた生命科学研究には懐疑的。
    ◆生命現象を支えるsustainableな仕組みは総合的なもの。よって、エイジングと共存するには、sustainabilityを阻むような人為的因子・ストレスを避ける、つまり「普通」でいることが一番。
    そして最後に、「生命」について、「生命が「流れ」であり、私たちの身体がその「流れの淀み」であるなら、環境は生命を取り巻いているのではない。生命は環境の一部、あるいは環境そのものである」と述べているが、これはある意味、自らの死生観にも影響を与えるようなものである。
    自ら主著という通り、福岡ハカセの主張・問題意識が網羅的かつコンパクトにまとめられた良書である。
    (2017年6月了)

  • “ハカセは気がつかなかったが、その花はどこから見てもツユクサそのものだった”

    よくできたSF的言い回し素敵。

    ランゲルハンス島先輩も登場。

    キノリン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼは、ただ言う、それだけのために覚えたい。

    死ぬまで脚気菌を探す森鴎外、絵が浮かび滑稽。誰にも分かられなくても、誰でしょうモノマネをしたい。

  • 「生命とは何か」という永遠の課題をテーマに、日常生活に関わる話題などを通して俯瞰的に解説した本。

    秩序あるものは必ず、秩序が乱れる方向に動く。この世界において、最も秩序あるものは生命体である。生命体は常に酸化、変性、老廃物の発生に対処する必要があり、自らの分解と再構築によってバランスを保っている。これが、「動的平衡」である。

    著者の生命論は非常に的を得ていてとても納得できます。生物の知識を持ってない人でも、生命についての理解を深めることができる良書だと思います。

  • 生物と無生物のあいだに、で福岡伸一氏の視点に共感してから、暫くたった。その間、私は分子レベルではお変わりありまくりで、細胞が全て入れ替わった私が読んだ本書でも、同じく福岡伸一氏に共感したことが、まさに動的平衡の体現である。
    象と鯨の低周波音での対話のストーリーが素晴らしい。伊藤若冲の象鯨図屏風も、実際に観て感激した事にこの話が加わって新しい思い出になった。
    また、動的平衡の数学的説明も、とても楽しい。端折って解説されているので論理が飛躍しているようにも思うが、モーメントで平衡を考えることは悪くない。どこかの大学入試問題でパクられそうだ。

  • これはもう、読まなきゃいけないやつ!

  • 生命の構成するの分子は、絶えず分解して、再構築することで更新し続けている。一年もたてば、全ての分子が更新されて、前の自分とは別の自分になっている。それは、つまり、変わらないために、変わり続けている。それが生命の根源である。

  • 生命になぜ寿命があるのか、どのような仕組みで生命活動が行われるのか平易な文章で分かりやすく書かれている。
    腑に落ちる事がかなりあった。

  • 一度、動的平衡の概念を知ると、後には戻れない。絶えず人は変わっていっている。細胞レベルから。ものごとに対する思いは絶えず変わることが是なのだろう。変わってるのに変わらないとは、アップグレードしているということ。だと思う・・

著者プロフィール

福岡伸一 (ふくおか・しんいち)
生物学者。1959年東京生まれ。京都大学卒。米国ハーバード大学医学部博士研究員、京都大学助教授などを経て、青山学院大学教授。2013年4月よりロックフェラー大学客員教授としてNYに赴任。サントリー学芸賞を受賞し、ベストセラーとなった『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)、『動的平衡』(木楽舎)ほか、「生命とは何か」をわかりやすく解説した著書多数。ほかに『できそこないの男たち』(光文社新書)、『生命と食』(岩波ブックレット)、『フェルメール 光の王国』(木楽舎)、『せいめいのはなし』(新潮社)、『ルリボシカミキリの青 福岡ハカセができるまで』(文藝春秋)、『福岡ハカセの本棚』(メディアファクトリー)、『生命の逆襲』(朝日新聞出版)など。

「2019年 『フェルメール 隠された次元』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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