村上朝日堂 (新潮文庫)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101001326

作品紹介・あらすじ

ビールと豆腐と引越しとヤクルト・スワローズが好きで、蟻ととかげと毛虫とフリオ・イグレシアスが嫌いで、あるときはムーミン・パパに、またあるときはロンメル将軍に思いを馳せる。そんな「村上春樹ワールド」を、ご存じ安西水丸画伯のイラストが彩ります。巻末には文・安西、画・村上と立場を替えた「逆転コラム」付き。これ一冊であなたも春樹&水丸ファミリーの仲間入り!?

感想・レビュー・書評

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  • 日刊アルバイトニュースに連載されたコラム集。
    三十代の若き春樹さんのエッセイ。相変わらず自由でのびのび。安西水丸さんのイラストでさらに脱力感。

    お気に入りは、
    タクシードライバーがわけわからない民族音楽をかけて、「どこのくにの音楽かわかる?」と質問されるエピソード。スーダンの○○地方の音楽を当てるお客がいたなんて本当かな?

    早稲田の映画演劇科卒業だったのか。映画を年間200本以上観ていたことにビックリ!お金がない時は、演劇博物館でシナリオをかたはしから読んだという。自分の頭の中だけの映画を作り出せるから。
    知らない土地に行くと映画が観たくなるというのも面白い。
    パートナーとの馴れ初めまで書いてあって若き日の素顔が垣間見えた。

  • 1984年刊。『日刊アルバイトニュース』に連載された、安西水丸さんが挿絵を手掛けた村上春樹さんのエッセイ。挿絵で1ページ、エッセイで2ページの計3ページが1篇の分量です。

    村上春樹さんって、思ってたよりもずっと外向的だなあ、とこのエッセイから感じられました。アウトサイダーってほどじゃないまともな感じがしてる。なんか、とっても健康なんです。

    80年代。こういった、くだらなさと嘘と雑学と気楽さとが混ざり合った空気感の創作物で笑ったり楽しんだりする、というのがおそらく生まれでたのが80年代ですよね。僕は77年生まれなので、物心ついてから小学校を卒業するまで80年代の(でも地方の)空気にどっぷりと染まって育ちました。だから、このエッセイを読むと、当時のどこか空っぽというか、飄々としたというか、そういったすかすかなおしゃれさの、ポジショニングがとても高いところにあったような印象が甦るのです。それは都会的なのでした(まあ、村上さんはそんなおしゃれさから片足をはみ出している感じはあります)。

    今読んでみると、またそれとは別の、今だからこその違った感想も、先述の当時を想起して甦るものと並走して立ち上がってくるのでした。並走するもの、それはまず、けっこうな力業で軽業をこなしている感じがあります。書く人は、当時は当時の枠組みの窮屈さを感じていたのでしょうけれども、それでも自由闊達さがそこにはまだある。未知の荒野が眼前に広がっているなかで書いている。

    つまり、今と比べてやりにくさというものもあったのだろうけれど、別の意味で今と比べてやりやすさがあったはずで、そのやりやすさはたとえば、書いた文章が売れても密やかな空間で躍動していられる、というのではないかと思う。今と80年代の、衆目というものの違い。今ってとくに情報も文章もバイアスがかけられた状態で広まりやすいだろうから。

    今って良くも悪くも、すべてが同一空間に並べられやすい。みんなおしなべてまな板の上の魚にされやすい。1984年って、いくつもの小さなまな板が点在していて、それらはそれぞれの場所で密やかだったのではないか。サブカルの異空間がぽつぽつと別々にあったというみたいに。

    だから、それぞれ密やかで目立つことなく、異空間の仕切りで区切られていたから、『村上朝日堂』のようなある種のやりたい放題的散文(そこにはちょっとした放縦ゆえの小さな解放感がある)がエンタメとして成立していたのかもしれない。というかまあ、そのやりたい放題が当時の若さの一面なんだろうね。本書刊行時の村上春樹さんは35歳前後だし、大人として書いているのだけど、それでも今の僕が読むと「まだまだ青さがあるぞ」と読めてしまう。そして、どことなく乱暴さをうっすらとはらんでいる。それはこの時代に許されていた(あるいは抑えられていなかった)、無知のゆえの乱暴さではないか。無知というか、当時、未だ知られていないものが多すぎて、許容されざるを得なかったものや議論されずにいたものたちの自由さ(勝手さ)からくる乱暴さ。文化人の中で、武闘派でもない、たぶん穏健派に仕訳されるような少数の人たちのなかにも、そういった「腕力」が簡単に見受けられる時代だったのでしょう。いや、現在の時代性からくる価値観で眺めると、そこに「腕力」が見えるだけで、当時はとても平和的なものとして目に映っていたと思います。こういうかたちで時代の変化を体感するとは、思いもよりませんでした。

    本書のような、放縦な創作。それは、現代では抑圧がすごくてなかなか作る気にならないというか、たぶん視野の外にあるような創作論からできている。現代のこの息苦しさを認めてしまっていいのかなあ。ほどほどに放縦できるくらいが生きやすい。枠内にばかり収めようとせず、ボーダーライン上だとかグレーなところだとかを狙っていこう、と言いたくなってくるのでした。

    ……と論じてみてもまあ、これは完全に後出しじゃんけんであります。今回は言いたい放題ぽく書いてみました。

  • 村上春樹はエッセイの方が好きですね。朝日堂シリーズ。1作目が一番ですね。
    時間のかかるステーキより、すぐ食べられる枝豆的な。
    水丸さんの脱力感ある絵も良いです。
    気楽になりたいときに読めます。
    一躍有名になる前の頃の作品で大のお気に入りでした。
    どーでもいいことしか書いてないんだけど
    気分転換で再読したりしました。
    ノルウェイの森あたりでバカ売れしたら手の届かない人みたいになってなんか残念な気分になりましたねえ。

  • ゆるいエピソードが多くて、心が落ち着く。特にタクシードライバーの話がお気に入り。自分は、滅多にタクシーには乗らないが、乗る機会があれば、タクシードライバーさんとお話してみたいなと思った。

  • 「日刊アルバイトニュース」(今は「an」という名前に変わっているらしい)に1年9ヵ月にわたって連載されていたもの。1984年(昭和59年)発行からの文庫本、平成8年4月15日 25刷
    実家に行ったとき持参の本を読み終わってしまい、弟が残していった段ボール箱を漁ったら素敵なものが入っていた。(小池真理子なんかも入っていたから、昔のカノジョ箱かもしれない)
    この先も続けて村上春樹エッセイを読もうと思う(弟所蔵の)。

    およそ40年前くらい、春樹さん、33歳〜35歳頃のコラム。
    世相を反映しているかというとそうでもなく、やはりここは村上ワールドだ。
    時代を感じるのはモノの値段くらいかな?
    安西水丸氏の味のあるイラスト入りで見開き2ページが1回分のようだけれど、日刊だから毎日だろうし、よくネタが尽きないと思う。
    1回分に一度は目から鱗というか、おおおっ!!!というか、良くもこんな文章を考えつけるなあと感心してしまう。
    職探しの若者が、これだけ読んだら満足して、もう求人のページは見なくていいやと思ってしまわないか心配である。
    映画の話、「こんな死に方はしたくない」ネタ、食べ物のこと、有名人の悪口ネタ(!)
    そういえば「文豪の悪口本」というのを読んだことがあったけど、文豪は悪口を書くとき、やたら筆が冴えるのよね(笑)

  • 今まで読んだ中で一番とがっている頃の村上春樹。
    らしさは健在。

    生活スタイルは自分でつくるもの

    2021.4.5

  • 2019年13冊目。

    素晴らしく脱力させてくれるエッセイ集。この「人生の足しにならない感」が、敬意を抱くほど心地いい。そこに輪をかけて、安西水丸さんの脱力イラスト。描きづらいイラストにするためだけに豆腐を話題にしたエッセイを続けて書くような村上春樹流いたずらも最高。

    1テーマにつき、文章が2ページとイラストが1ページ。村上春樹さんのリズム感の良い文書に乗っかって、ノンストレスで延々と読めてしまう。ときどき毒気が入ってくるのもやみつきの一因。人生において役立つかは定かでないテーマばかりだけど、文章を読む楽しさを思い出させてくれる意味で素晴らしい良薬。

    途中までは夜寝る前にダラダラと読んでいたけど、後半は間違えて昼間の生産的な時間に読んでしまった。「間違えて」と言ってしまいたくなるほど、「さて読書するぞ!」と思って読む本ではない。これは間違いなく、ダラダラと読む本だ。そしてダラダラと読むのであれば、こんなに適した本はないのではないかと思う。

  • 「これから日本は成長していくだろう」という希望的観測を、若年層のうちに胸に抱きながら、自分の人生を歩んできた世代をうらやましく感じた。
    自分の人生がうまくいってなくても、けっこう成長している我が国に対しては、文句を言えなくなってきているのが、最近の若者の閉塞感といったところなのかなと思った。

  • おもしろい!
    初めて村上春樹のエッセイを読んだがこんなに面白いとは思わなかった。普段の小説からは考えられないシュールさやゆるさ、だけど文章はしっかりと村上春樹のものでとても新鮮だった。1つの話が2ページで終わるのも良かった。あっさりしていて、テンポ良く進めていけるのも好きだった。
    安西水丸さんの絵がなかなか可愛らしくて、想像が捗った。
    つけで本を買う話は、子供がツケ払いをすることが可能な町が存在すること自体が面白かった。今じゃ考えられないことであるからこそ、日本っていいなあと思う。
    「千倉における朝食のあり方」を読んで、千倉に興味が湧いた。これを読むまで千倉の存在すら知らなかったが、肉屋がほとんどなくてサザエが大量に食べられる街 なんで面白いんだ。

  • 初期の昭和のエッセイ集。
    本についてのところは面白い。
    子供の頃、父親のつけで本を買っていたらしい。
    No.318(個人的通版) 処分

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著者プロフィール

1949年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。79年『風の歌を聴け』で「群像新人文学賞」を受賞し、デビュー。82年『羊をめぐる冒険』で、「野間文芸新人賞」受賞する。87年に刊行した『ノルウェイの森』が、累計1000万部超えのベストセラーとなる。海外でも高く評価され、06年「フランツ・カフカ賞」、09年「エルサレム賞」、11年「カタルーニャ国際賞」等を受賞する。その他長編作に、『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』『街とその不確かな壁』、短編小説集に、『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『一人称単数』、訳書に、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』『ティファニーで朝食を』『バット・ビューティフル』等がある。

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