世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 上巻 (新潮文庫 む 5-4)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (397ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101001340

感想・レビュー・書評

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  • 世界の終わりとハードボイルドワンダーランド上 読了。

    交互に進む世界観と交わりそうでまだ交わらない2つの物語

  • 計算士である「私」の現代風な街での物語と、夢読みである「僕」の幻想的な街での物語。村上春樹さんが織りなす不思議の国。

    村上春樹さんの作品を今まで読んだことがなかったのですが、少しまわりくどいような、でも小気味の良さもあるクセになる言い回しが特徴的だと感じました。

    全く異なる世界観の2つのお話が交互に進んでいく中で、だんだんと「おや?」と思う要素や瞬間の重なりが訪れて、それが波紋が次々と広がるように増えていく感覚がとても楽しいです。

    上巻では特に計算士編が盛り上がってきて、続きがとても気になるところで終わってしまったので、下巻もさっそく読み進めていこうと思います。

  • これは面白いですね。会話文を中心にテンポ良く進む、いつもの展開とはちょっと違うのもポイントかも。世界の終わりの地図まで付いていて、情景描写が緻密なこともあり、この世界観への移入が比較的容易ってところもお気に入り。まだ謎は深まっていくばかりで、これからどういう結末に向かっていくのか、期待大です。

  • 何作目かのハルキ作品。
    ハルキ作品はどんな作品も文体ゆえかどこかファンタジーちっくに私は感じるんだけどこの作品は王道にファンタジーだと思う。
    地下のやみくろの世界、一角獣、計算士、シャフリング。組織(システム)といった存在。現実に存在するように緻密な描写でそれらのものが描かれる。
    「世界の終わり」というキーワードが何度もいろんな形で登場するのが良い。冒頭の引用もスキータ・デイヴィスの「end of the world」だし。「世界の終わり」って言葉にはどこか陶酔的というかうっとりする響きがある。終末感を感じさせるものって何故か魅力的に感じる。
    ハルキ作品にはいつも完全な闇が登場する。現代の普段の生活では体感することのなくなった完全な闇。闇の中で主人公が自分と向き合う時間があるのが印象的。自分の中に深く潜る行為をしたくなったときにハルキ作品を読みたくなるのかなとおもう。
    性的な描写が多いけど、この作品読んでて主人公が危機を迎えて(巻き込まれて)暗闇で勃起するときに目覚めの象徴なのかなとも思った。男性的、人間的、本能的な力を取り戻したことの象徴。
    続きが気になるので以降下巻にて。

  • 再読。
    7年ぶりくらいに読んだらおもしろかった。
    内容もすっかり忘れてて続きが楽しみ。
    やっぱり村上春樹は長編がすきー

  • 正直、感想というほどの感想を抱けなかったので、とりあえず春樹にまつわる個人的な思い出を。

    好きな人が好きな本を自分も読んでみたくなる、と云う甘酸っぱく且つ微妙にキモい乙女系中2病を長いこと患っており、たまたま付き合った相手が世に謂う「ハルキスト」だったため、それじゃあっつって手を出したのが『風の歌を聴け』。
    薄い本だったのですぐに読み終わったものの、本当にただ「読んだ」だけ、字面を目で追っただけで、びっくりするほど引っかかる所がなかった。もう1周しようにも主人公が好きになれない。いや、むしろ嫌いでその気が起きない。
    だから私は正直に言ったね。

    「読んだ後、なんにも残らない小説だったわ」

    そしたら彼はこう言うのさ。

    「僕は学生の頃から春樹作品を愛好してきたけれど、その魅力を端的に表す言葉を見つけられずにいた。けれどあなたと話していてそれが何なのかやっとわかったよ。つまり、『何も残らない』ということ。だから僕は春樹の書く小説が好きなんだ」

    【こんな調子で下巻のレビューに続く】

  •  しかしもう一度、私が私の人生をやり直せるとしても、私はやはり同じような人生を辿るだろうという気がした。何故ならそれが――その失いつづける人生が――私自身だからだ。

     「世界の終り」で人々は、自分の「影」を死なせることにより、感情を消滅させ、喜びもないかわりに苦しみもない、穏やかな世界に暮らしている。そこには義務も寿命も時間もなく、存在することはとても楽だ。しかし、心はどこへ行くのだろう。心を失って生きることが、果たして生きることになるのだろうか。
     村上春樹はあまり好きでないのですが、この作品だけは宝石箱のようにすばらしいと思います。どのページを開いても、その言葉や文章のひとつひとつに、啓示のようなものを感じます。主人公の男性はある理由から、自分の意識の中に閉じ込められることになりました。そこは「世界の終り」であり、心を捨てた人々が、苦しみも悲しみも争いもなく、穏やかに暮らしています。しかし彼は気付きます。人々が捨てた自我は、「獣(一角獣)」が引き受けていることを、そして彼らが人々の代わりに苦しみ、やがて自我の重みで死んでゆくということを。
     生きることは心を持つこと。苦しみ、悲しみ、あるいは喜ぶこと。ユートピアなんてない、幸せにはなれないかもしれない、それでも心をもつことだけが、ただ唯一生きている証である。大学生のときにこの本に出会い、私は自分の心が救われるような気がしました。
     一番好きな一節を冒頭に引用しました。確かに人生とは失うことのような気がします。それでも自分は自分にしかなれないと、村上春樹は言いますが、それは決して絶望するようなことではなく、逆に希望や安心なのだと思います。自分が自分であることが生きる価値であり、自分は自分以外にならなくて良いからです。
     すべての感情は心の作用(あるいは脳の電気信号)なので、あまりに大きな苦しみ・悲しみに直面した際、いっそ心を捨ててしまえたらと思うかもしれません。しかし、心を捨ててしまえば、生きることも死ぬこともできなくなってしまいます。不条理な世の中で、辛いことのほうが多いくらいですが、それでも、心をもって生きて行かねばなりません。それが生きることの価値だから。人間にとって最も大切な真実が、この作品の中にあります。

  • すごく好き。村上春樹、ってこの作品書いてる人だと思うと、やっぱり好きな作家だなあと思う。夢のなかにいるような読書体験ができる。しかも長いから長時間体験できる。すべてが不思議なので、読んでると何があっても驚かないような冷静な心になる。村上作品で一番好きなお話です。

  • 序盤はオシャレな電話帳を読んでいる気分だったが,慣れれば割とサクサク読める。
    後半に続く。

  • 村上春樹版不思議の国のアリスって、まさに。

    こんな突拍子もない世界を、本当にあるかのごとき細かな描写で描ける春樹さんに脱帽。
    現実逃避通り越して違う世界いっちゃった感がやばい。

    静と動、という感じで二つの物語が繰り返し紡がれていくのだけど、
    どちらの世界も好き。
    最初に読んだ時は、世界の終わりの方がなんというか退屈で途中であきらめてしまったのだけど、
    今は案外サクサクと読み進められています。

    太ったショッキングピンクのスーツの女の子の、メロンの匂いのする首すじが好き。

    博士がサンドウィッチを食べる時の描写が好き。

    世界の終わりの女の子のコートの色が好き。
    (ひきちぎられた空の切れはしが長い時間をかけてその本来の記憶を失くしてしまったようなくすんだ青)


    自分の備忘録的に、気になった個所をいくつか。


    世界とは凝縮された可能性でつくりあげられたコーヒー・テーブルなのだ。(ハードボイルド・ワンダーランド)
    ※この例えすばらしく最高!

    角笛の響きはほかのどのような音の響きとも違っていた。
    それはほのかな青味を帯びた透明な魚のように暮れなずむ街路をひっそりと通り抜け、
    舗道丸石や家々の石壁や川沿いの道に並んだ石垣をその響きでひたしていった。(世界の終わり)
    ※この描写が一番美しく、一番すんなりと想像できた。

    「いつもお母さんが言っていたわ。
    疲れは体を支配するかもしれないけれど、心は自分のものにしておきなさいってね。」(世界の終わり)
    ※しんどくなったらいつも心の中で唱えることば。

    人の性向というものはおおよそ二十五までに決まってしまい、そのあとはどれだけ努力したところでその本質を変更することはできない。
    問題は外的世界がその性向に対してどのように反応するかということにしぼられてくるのだ。(ハードボイルド・ワンダーランド)

    『心というのはもっと深く、もっと強いものだ。そしてもっと矛盾したものだ。』(世界の終わり)

    「最後には何もかもがよくわからなくなるのだ。
    いろんな色に塗りわけたコマをまわすのと同じことでね、
    回転が速くなればなるほど区分が不明確になって、結局は混沌に至る。」(ハードボイルド・ワンダーランド)

    人間のあるひとつの行為と、それとは逆の立場にある行為とのあいだには、
    本来ある種の有効的な差異が存在するのであり、その差異がなくなってしまえば、
    その行為Aと行為Bを隔てる壁も自動的に消滅してしまうのだ。(ハードボイルド・ワンダーランド)

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著者プロフィール

1949年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。79年『風の歌を聴け』で「群像新人文学賞」を受賞し、デビュー。82年『羊をめぐる冒険』で、「野間文芸新人賞」受賞する。87年に刊行した『ノルウェイの森』が、累計1000万部超えのベストセラーとなる。海外でも高く評価され、06年「フランツ・カフカ賞」、09年「エルサレム賞」、11年「カタルーニャ国際賞」等を受賞する。その他長編作に、『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』『街とその不確かな壁』、短編小説集に、『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『一人称単数』、訳書に、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』『ティファニーで朝食を』『バット・ビューティフル』等がある。

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