小澤征爾さんと、音楽について話をする (新潮文庫)

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  • 新潮社 (2014年6月27日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (467ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101001661

小澤征爾さんと、音楽について話をする (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 同じかもしれないし、違うところもある、二人の話。

    村上春樹のエッセイが好きだ。ジャズが好きなのは知っていたけれど、クラシックにも詳しいとは。レコードを聴き比べたことがないし、それほどオーケストラに思い入れもないけれど、二人の対談は色々と感心することが多かった。指揮者の話、小澤さんの考え方だけでなく、バーンスタインやカラヤンほかの指揮者、またソリストのことや、弦楽四重奏の魅力など、今まで注目していなかった世界を知ることができた喜び。

    「良き音楽」とは。楽譜を演奏するとは。指揮とは。考えたら、楽譜を書いた作曲者の意図は、もしかしたら指揮者や演奏者が思っているのと、全然違うかもしれない。それは、作家が描いた物語が、全然意図していない、もしくは意図していたものを超えて、読者に読まれるのと似ているのかも。でも、音楽は、作曲者、指揮者や演奏者だけでなく、聴く人というポジションもある。

    異なるかもしれないけれど、通じ合えるかもしれないところ。それを探すのは、ロマンだな、と。

  •  ハルキストでも熱狂的なオザワ信者でもないが、それでも、読み進むうちにどんどん膝を乗り出すように2人の対話に引き込まれてしまった。

     音楽家は、楽譜に書かれた音符を通し作曲家と対話することで音楽と向き合う。それに対して、楽器を弾かず、ろくすぽ譜面も読めず、だが人一倍音楽を愛する人間は、とかく聴こえてくる音楽のむこうになにかしら文脈のようなものを読み取ろうとするものである。ここでの村上春樹の立場は、いわばそうした「音楽愛好者の代表」にほかならない。ぼく自身、まさにそのようなごくふつうの「音楽愛好者」なので、この本の中での村上春樹の発言やその意図については手に取るようにわかる。

     ふつう、おなじ「音」について語ったとしても、こうしたまったく異なるアプローチの仕方で音楽とつきあってきた者同士の対話は失敗に終わることが多い。
     ところが、会話が「滑ってる」という印象を受けないどころか、むしろ「奇跡」と呼んでよいほどに濃い対話が生まれているのは、それが一流の音楽家でありながら誰よりも強い好奇心と行動力をもつ小沢征爾と、音楽愛好者でありながら作家として誰よりも深い洞察力と多彩な語彙をもった村上春樹という選ばれた2人によるものだからにちがいない。元々、音楽を離れたところで2人が友人であったという事情も大きいだろう。

     ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番をめぐっておこなわれた「第1回」のインタビューでは、村上春樹による巧みなリードの下、「指揮者という仕事」についてその手の内を明かすようなエピソードがさまざま語られていて興味深い。たとえば、太く長い「線」をつくることをなにより重視するカラヤンの音作りの指向性(文中、小澤は「ディレクション」と呼んでいる)は、たしかに指揮者カラヤンの音楽性を端的に表現したものである。

     いっぽう、第3回「1960年代に起こったこと」を読んで、ぼくは、他にもたくさん優れた才能の持ち主がいるなかでなぜオザワが世界の頂点にまで登り詰めることができたのか、その「秘密」の一端に触れえた気がした。それは小沢征爾の天性の「人間力」、そしていい意味での「鈍感力」ではないか。
     そのことは、第5回「オペラは楽しい」にもつながっている。しばしば「総合芸術」といわれ、音楽以外にも文学、美術、歴史などヨーロッパの文化や伝統に対する深い理解を求められるその特異な世界にあって、楽譜を深く読み込む力さえあれば十分通用することを小澤は証明してみせた。これは、もう、本当にすごいことだと思うのだけれど、ザルツブルグで、しかも『コシ・ファン・トゥッテ』(!)で彼をオペラデビューさせたカラヤンの慧眼にも驚かずにはいられない。

     だが、いちばん興味深かったのは、小沢征爾がスイスで開催している若い音楽家たちのためのセミナーについて語り合った第6回「決まった教え方があるわけじゃありません。その場その場で考えながらやっているんです」。現地で視察した村上春樹によるレポートも併せて収められている。
     技術を超えたところで、はたして「音楽」はどのように教えられるのか、教えられたものはどのように咀嚼され、継承されるのか。音楽家にとってはあたりまえでも、音楽愛好者にとっては秘密めいた儀式のようにもみえるそのやりとりが、「文字で」書かれていることにまず感動をおぼえる。目の前に、予期せぬご馳走を並べられた気分。
     「それはちょっと僕には聞けないことだし、聞いてもきっと正直には言わないだろうな」。村上春樹が、セミナーに参加した東欧人+ロシア人からなるクアルテットに「どうして(自分たちのルーツとは疎遠な)ラヴェルの楽曲をあえて選んだの?」と質問したと聞いたときの小澤の反応である。
     単身ヨーロッパに渡り、「東洋人がなぜベートーヴェンやモーツァルトを演るのか? バッハは理解できるのか?」と言われながら現在の地位を得た小沢征爾の胸中には、そのときさまざまな思いがよぎったことだろう。そして、なによりも大切なのは、音楽と深いところで対話すること。それさえできれば、どこに行っても通用する。彼が若い音楽家たちに伝えたいのは、あるいはそういうことかもしれない。

     文庫版の付録には、一度は引退を決めたジャズピアニスト大西順子を小澤がサイトウキネンフェスティバルになかば強引に引っ張り出し、共演を果たした際のエピソードが明かされている。そんな出来事があったとはまったく知らなかったのが、たまたま入った喫茶店で小澤・大西両氏の打ち合わせ場面に遭遇したぼくとしては、とても興味深かった。

     たぶん、いずれまた読み返すであろう刺激的な一冊。

  • インタビューという割には村上さんもよく喋る。レニー・バーンステインとの関係など、若き頃の貴重なエピソードがどんどん掘り出される。

  • 単行本が出版された時から読みたいと思っていたが、クラシックに詳しくなく、よくわからないかなと思い、その後、文庫になった時も同様で、ここまで読まずに来た。図書館の文庫本の棚で、読まないままだとずっと気になってそうなので借りて読むことにした。

    出てくる音楽をスマホで検索し、そのままYouTubeで流しながら、読んだ。同じ時の同じ演奏者の演奏をそんな簡単にタダで聴けるわけもなく、ただ曲が一緒、良くて演奏者も一緒、というレベルなので、厳密に言えば参考にはならないのだが、私にとってはありがたいことだった。

    日本を代表する指揮者と小説家の対談が面白くないわけはない。村上さんは小澤さんも感心するほどの音楽通だ。
    私にとっては、ほとんど本当の意味ではついていけてないのだが、面白かった。

    全編楽しみながら読めたのだが、特に、スイスの小澤さん主宰の音楽塾の章が印象に残っている。
    ここは対談ではなく、村上さんの訪問記。
    「良き音楽」が出来上がるのに必要なのは、スパークとマジックだと村上さんは書いている。これは、音楽だけではなく他の「良き〇〇」にも当てはまるような気がする。

    あと、文庫版の方だけに収録されている「厚木からの長い道のり」も。個人的に厚木に思い入れみたいなものがあり、文庫本出版の時から、どういうことだろうと気になっていた。「そういうことだったのか」と長年の謎?が解けた気分だ。

    結局私にとっては、偉大なもうお亡くなりになった音楽家たちに対して、知識が少なすぎて、肝心の小澤さんの回顧の部分が、面白くはあるけど、印象としては薄いということなのだろう。
    小澤さんは、村上さんと話すことによって、次から次へと思い出が溢れてくるとおっしゃって、この対談を始められたので、そちらがメインということになるだろう。でも、仕方がない。クラシックファンの方が楽しくお読みになれる素晴らしい対談集だったと思う。そして、しつこいが私のような門外漢もとても楽しめたと改めて書いておこう。

  • 小澤さんとの対談部分はもちろん興味深いものばかりだったし、村上春樹の造詣の深さには心から敬服した。

    しかし最も圧倒されたのは、小澤さん主宰のスイスでのサマーセミナーのエピソードだった。「良き音楽」が立ち上がっていくさまがあまりに鮮明で、音楽家が肌感覚で捉えていることがつぶさに描かれ、まるで自分がその場で音楽を作っているかのような錯覚を覚えて思わず涙が出た。まさに慧眼。

    誰もが認める一流作家なら朝飯前のことなのだろうけど、こんな形で村上春樹の凄さを再認識させられるとは。意表を突かれた。

  • 16/07/17、ブックオフで購入。

  • 小澤征爾と村上春樹という、クラシック音楽と文壇の巨人による対談集。「マーラー」「オペラ」「バーンスタイン「グレン・グールド」というテーマについて、二人は縦横無尽に語り尽くす。あるときはレコードを聴きながら、あるときは村上の仕事場で。この二人にとって、バーンスタインの存在は大きいようだ。小澤征爾の若手音楽家に接する姿勢やリハーサルの仕方は、ほとんどバーンスタインのやり方をまねていると言っていいだろう。文庫化にあたり、日本を代表するジャズ・ピアニスト大西順子が、小澤指揮のサイトウ・キネン・オーケストラと2013年9月に共演したときの顛末が追加収録されている。 大西はこの公演の直前に引退を表明し。音楽とは関係ない仕事に就くことが決まっていた。ところがこの演奏を引き受けたことで、彼女はその仕事を断られてしまう。村上は淡々と事実をふり返るが、おそらく内心では、彼女ほどの実績を持つ人間が正当に評価されていないという憤りを感じているに違いない。

  • 小澤征爾という人は人を惹きつける不思議な魅力を持っているな。何を語るにも全く鼻に付くところが無い。
    もっと多くの言葉を後世に伝えてほしい。
    村上春樹のツウぶりには辟易するところもあるけど、彼の感性とそれを表現する力は認めざるを得ない。

  • 読みながら音楽を聴ける環境推奨。セットで音つきで高くなってもほしい。小澤さんが砂糖だよねと確認したものはどんなものだったのか見たい。

  • 今まで読んだ対談集の中で一番面白かった。村上春樹さんの知識と聞いた音楽の数は凄まじい。だからこそ小澤さんの忘れていたこともたくさん導き出せているのだろうな。村上春樹さんの作品は小説よりエッセイが好きなのだけれど、これから他のインタビューものも読んでみたくなった。

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小澤征爾さんと、音楽について話をする (新潮文庫)の作品紹介

「良き音楽」は愛と同じように、いくらたくさんあっても、多すぎるということはない――。グレン・グールド、バーンスタイン、カラヤンなど小澤征爾が巨匠たちと過ごした歳月、ベートーヴェン、ブラームス、マーラーの音楽……。マエストロと小説家はともにレコードを聴き、深い共感の中で、対話を続けた。心の響きと創造の魂に触れる一年間にわたったロング・インタビュー。

小澤征爾さんと、音楽について話をする (新潮文庫)はこんな本です

小澤征爾さんと、音楽について話をする (新潮文庫)の単行本

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