職業としての小説家 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101001692

作品紹介・あらすじ

いま、村上春樹が語り始める――小説家は寛容な人種なのか……。村上さんは小説家になった頃を振り返り、文学賞について、オリジナリティーについて深く考えます。さて、何を書けばいいのか? どんな人物を登場させようか? 誰のために書くのか? と問いかけ、時間を味方につけて長編小説を書くこと、小説とはどこまでも個人的でフィジカルな営みなのだと具体的に語ります。小説が翻訳され、海外へ出て行って新しいフロンティアを切り拓いた体験、学校について思うこと、故・河合隼雄先生との出会いや物語論など、この本には小説家村上春樹の生きる姿勢、アイデンティティーの在り処がすべて刻印されています。生き生きと、真摯に誠実に――。

感想・レビュー・書評

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  • 【読もうと思ったキッカケ】
    20年以上前に村上春樹氏の『ねじまき鳥クロニクル』を読了したが、何が面白いのかが全く分からず、それ以来、村上春樹氏の作品は全く読んでいなかった。ただ最近本好きの知人から、村上春樹氏の長編作品はなかなか理解が難しいが、短編やエッセイは、同一人物が書いたとは思えない程、非常に読みやすいとのこと。『じゃあ、一度エッセイでも読んでみよう』と思ったのが切っ掛け。

    【読了後の感想】
    知人の言う通り、びっくりするぐらい読みやすかった。また、勝手にイメージしていた作者像とは全く違い、長編作品を描くときは、毎日5〜6時間座り、調子が良い時も、調子が悪い時も関係なく、原稿用紙400字×10枚分は(4,000字)欠かさず書くとのこと。また1日1時間のランニングは欠かさず30年以上続けているんだとか。

    この上なくストイックで、真面目に小説と向き合っていることが伝わり、正直に読んで良かったと思った。今後また村上春樹氏の長編作品を読んでみようと思ったことが、この作品を読んだ最大の収穫かも。
    また最後の12回の項目の【河合隼雄先生との思い出】に記載してあった、過去出会った人間の中で唯一河合隼雄先生のみが、深い共感を感じれた人物だったんだとか。
    そんな魅力的な人物なら、書いた作品を当然読んでみたくなってしまい、この後河合隼雄氏の『こころの処方箋』を読むつもり。

  • 世には「ハルキスト」という人たちがいるようだ。村上春樹さんの小説をこよなく愛し、村上さんのものの考え方や生活スタイルやよく聞いておられる音楽にも影響されている方々が。私はそういう方々が羨ましくなる。

    村上さんの数々のエッセイや紀行文は昔からワクワクしながら読んでいる(安西水丸さんのイラストが入ったものも多かった)。その文章、考え方、生活スタイルに憧れるし、同意することや自分と同じだと思うところも多々あり、私が愛してやまない作家さんの1人であることに変わりはない。

    村上さんが書かれる文章全体、一文一文洗練された言葉の使い方等々、素晴らしいと言わざるを得ない。少し読むだけで村上さんの作品であることが直ぐに分かってしまう。真似をしようとしてもできるものではない。人生の大先輩として尊敬している。それは大前提としてある。

    しかし、短編であれ長編であれ、小説のストーリーが心の底の方で面白いとは思えない場合がある。おそらく私自身の感性の問題なのか?人生経験の問題なのか?相性の問題なのか?とにかくせっかくの作品を読んで楽しめないのは損をしているような気分になってくるのだ。

    私にとっての問題は、「それでもふと気がつくと、長編、短編を含め、村上さんの小説を手に取ってしまっている。」ということ。そして性懲りも無く「????」という気持ちを抱いてしまう、ということ。

    これは学生時代に「ノルウェイの森」を読んだ時から。世間で大きな評価を得て、本屋にも平積みされている時代にワクワクしながら読んだのだけれど、あまり楽しめなかった。

    最近だと、短編集「女なのいない男たち」の中の一編に「木野」という作品がある。これは村上さんご自身が語っておられたのだが、単行本化するに際して相当修文されたということであった。しかし、私には「どうしてこのような展開になるのか?」「どこが面白いのか?」「どうして木野がこのような目に会わなければならないのか?」が分からなかった。悲しいことに。それでも、今まさに書いたように頭のん中にストーリーが残ってしまっている。

    もちろん、短編集「一人称単数」の中に収められている「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノバ」のように鮮烈な光と音楽を感じさせながら、静かな余韻に耽ってしまうような(私にとっての)名作もある。本作が私の印象に強く残っているのは、作品の中に登場してくる、バード、ジョビンたちの姿形、演奏等を頭の中で再現できるからなのかもしれない。とすると、やはり私自身が経験した、記憶、感性が作品の感動に大きく影響を与えていることになってしまう。

    どうして、これだけ精根を込めて作られたことがわかっている作品を楽しむことができないのか?素晴らしい文章なのにストーリーの中に没入できないでいるのか?損をしている気分になる。私自身の感性や経験の問題であれば仕方がないのだが、それでは残念なのでなんとかならないか?と考え続けている。

    一度何らかのヒントになるような作品を読んでみよう、というわけで「職業としての小説家」を読むことにした。既に存じ上げている村上さんの自伝的なところも多かったのだが、それなりに納得するとことも多々あった。

    村上さんが小説を書くときの状況を思い浮かべてみる。作品中の登場人物たちの背景、キャラクター、心理状態の描き方について考えてみる。村上さんが文章を書いておられるその時を想像して私自身に重ね合わせようとしても難しい。(あたりまえだ!)

    「職業としての小説家」を読んで、村上さんが作品を創り上げる真摯な姿勢というものは既にわかっているつもりだったが、更にしっかりと理解することができたと思う。

    ご自身がおっしゃる通り、村上さんの作品はオリジナリティの塊であることは十分に理解できる。しかし、私が上手く理解できないということは私の感性がそのオリジナリティについていけてないということなのだろうか?

    世界中で村上さんの作品が読まれる様になった背景についてもよく分かった。優れた翻訳者というのは重要なポイントだろう。文化・歴史的な背景が異なっても人間というものに大きな違いはない。

    もう少し時間をかけて読んだり、人生経験をさらに積んだり、視点を変えてみたりすれば読後感が変わってくるのだろうか?小説以外の村上さんの作品はこんなに楽しめるのに?

    それでも「つい読んでしまう」ということ自体が既に魅せられているということだろうか?

    • Macomi55さん
      ヒロキンさん
      いえいえ、若輩者なのに対等に扱って頂いて畏れ多いです(^^)。
      毎週土曜日に生オケを聴きにいらしてたとは、贅沢でしたね。月1で...
      ヒロキンさん
      いえいえ、若輩者なのに対等に扱って頂いて畏れ多いです(^^)。
      毎週土曜日に生オケを聴きにいらしてたとは、贅沢でしたね。月1ではなく、週1でしょう?
      どんな世界的なオケのCDよりも地元の生演奏に勝るものはないのではないでしょうか?
      ヒロキンさんの高校時代の国語の先生は手強い先生でしたね。私、高校時代にそんな宿題出されていたら国語が嫌いになっていたかもしれないです。
      ところで、わたしも村上春樹の最初の3部作のレビューは書いていますので、暇があったら読んで頂けると嬉しいです!
      2023/09/03
    • hirokingさん
      Macomi55さん

      ご指摘、痛み入ります。
      週一の土曜日でした。
      最近は録音のクオリティも格段に上がってきたのでネットの音源でもとても良...
      Macomi55さん

      ご指摘、痛み入ります。
      週一の土曜日でした。
      最近は録音のクオリティも格段に上がってきたのでネットの音源でもとても良いのですが、やはりホールで聴くと断然違います。映画を観る時もネトフリで観るよりも映画館で観る方が画像、音の圧倒感が待ったく違いますよね!

      音楽もイヤフォンで聴くのとコンサートホールで生で聴くのとは全く違います。「空気」「肌感覚」が全く異なります。(個人的な意見ですが)指揮者や演奏者の息付いと緊張感が肌身で感じられます。

      偉そうなことを言って申し訳ないのですが、ぜひネットで聴かれた音楽をホールで聴いてみてください。

      そう言いながら、私も長らくホールには行けていません。

      Macomi55さんの村上さんの3部作のご感想、ありがたく読ませていただきますね!おそらく鈍感な私には、「はっ」と驚くような気づきがあるのでしょう。楽しみです。
      2023/09/03
    • Macomi55さん
      ヒロキンさん
      ホールで聴くと演奏者達が「自分のために演奏してくれてる」って感じがたまらないですね。
      ではでは~おやすみなさい。
      ヒロキンさん
      ホールで聴くと演奏者達が「自分のために演奏してくれてる」って感じがたまらないですね。
      ではでは~おやすみなさい。
      2023/09/03
  • 20代の頃「風の歌を聴け」に出逢って以来ずっとファンです。
    なぜ彼の作品が好きなのか。あれこれ読んでみたくなるのか。
    さて、感想を書こうかなと言葉をさがすのですが、いろんな思いがどんどん溢れてきてとても苦労します。
    そんなとりとめのないところが魅力なのかもしれない。

    小説家になったきっかけも個性的ですが、逆に普通ぽくも感じられる。
    この本を読んで、生き方の勉強にもなりました。

    彼と同じ時代に生きていることを嬉しく思います。

  • いつ購入して読み始めたかわからず、途中まで読んでまた再度初めから読み返しました。ようやく読了したのは令和5年12月1日で、とても清々しく達成感を得ました。

    読了後の書籍には沢山の付箋を付けましたが、一番私が気に入ったのは、あとがきに書かれていた『最後にお断りしておきたいのだが、‥‥得意ではない人間である。ロジカルな論考や、‥‥考えられない。フィジカルに‥‥把握していくことができる。』という文章でした。
    この文章は、何度も読み返しました。

    それは比べるのも恐れ多いのですが、私自身が文章を書く時と共感出来る部分があったからです。私は文章を「論理的思考法」や「抽象的思考」で書くのは得意ではありません。その技法さえ私の場合は持ち合わせていません。ただひたすらペンで書き進め、何度も読み返して、書き直します。

    『職業としての小説家』という題名で何を村上春樹氏が語るのか、とても興味深く読みました。村上春樹氏が小説家になるまでの経歴や作品を書き上げるまでの経過など、その他現在に(出版当時に至るまで)至るまでの考え方が書かれていて、とても興味深く[随分と細切れに読みましたが]読めました。

    一言で言えば、この様なことを考えてて小説家として小説を書かれていたのか!?という驚きや納得で楽しく読めた一冊でした。

    村上春樹さん、ありがとうございます。今後も少しずつですが、また読み続けます。

  • 村上春樹の講義を受けているような気持ちになる。小説を書いたきっかけ、文学賞について、自身の高校時代、翻訳の出版などどれも興味深い話だった。最近村上春樹の小説を読んでいなかったので今年は読もうと思う。

  • モチベーション高まって最高です。職業作家として力を発揮するために早寝早起きして体を鍛えるところ、共感します。昔の自分ならがっかりしただろうその姿勢。健康的にいきいきと生きたって、文学者としての根っこはかわらないからいいんです。

  • 小説家・村上春樹として自身を語るエッセイ。
    村上春樹作品を網羅してから読むのがおすすめ。時代とともに変わっていく彼の細かい作風や小説をどこでどのように描いたかの背景が分かりやすいと思う。

    村上春樹は私の中で一番好きな作家である。
    他の作家の作品は、通り過ぎるだけのものに過ぎないが、村上春樹の作品は、心身に留まるし、貯まるし、積もっていく。
    忘れないし、何度でも読み返したいと思うし、再読しても新鮮な気持ちで読めるし、新たな気付きがある。まるで、何度でも聴きたいと思うクラシック音楽のような特別な存在。

    たくさんの作品を読んで、この村上春樹という人間は、どのような家庭で生まれ、どのような環境で育ち、どのような人生経験を積んだのか、誰しもが興味を持つと思う。

    というのも、全ての作品において、いろんな立場の人が読んだとしても、決して「誰も傷つけない」配慮がされていると思ったから。
    ブレない芯や軸がありながらも、語弊や誤解を生まないように、慎重な言葉選びを配慮している。

    村上春樹氏は、特別な経験を積んだというよりも、目の前の出来事や物事の(ある時期の一面だけを)見て、早く結論を出さない(判断を下さない)人なのだということ。慎重に丁寧に観察する。白黒や善悪のジャッジをせずに、ただじっと見守る人。
    このような人は、色んな意味で寛容だと思う。

    「職業として小説家」になった経緯は、とても興味深いものがあった。
    もともと、小説家になりたいという夢があったわけではなく、小説家になるための勉強も一切していない。
    ただ小さい頃から、本を読むことが何よりも好きだったことぐらい。(ぐらいと書いたが「好き」という気持ちは、読書に限らず、一般人が一番見落としがちな、重要な生きるポイント=価値だと思う)

    ①ある日、ふと「小説を書きたい」と思い立ち、すぐに行動を起こす。
    ②仕事を終えた後の深夜に、ダイニングテーブルに向かって、小説を書く時間がとてもわくわくして楽しかった。
    ③生活のためや、お金のためや、誰かに読ませたいため、ではなく、ただ、自分のワクワクのために(自分が楽しむため)に書いた。
    ④自分が書きたいものしか書かないし、自分がやりたくないと感じる他の仕事は、しっかり断っている。期限も設けず、約束もしない。(誰かのために書かない、やらない)
    ⑤賞賛も批判もすべてを受け入れる覚悟。(批判されたり、嫌われる勇気)
    ⑥日本での居心地の悪さを感じた時、小説をより集中して執筆するために、店を売却し、住まいを引き払って、海外に移住した決断力。
    ⑦自分の「ワクワク」や「楽しい」や「気持ち良い」を貫いた結果、小説家1本で職業として成り立ち、不自由なく生活でき、成功している。

    これって、成功者の生き方(マインド)そのもの!!
    成功するための行動ではなく、まず自分の好きなことをどれだけ熱中して楽しめるかに重きを置いている。
    自分自身を満たした結果が、なぜか知らないけれど、本業となり生活ができるようになり、更には世の中や誰かのためになっている。
    「ワクワク楽しむ」やっぱりここに生き方のコツがあるのだなぁて思う。

    ・脈略も根拠もなく「ふと」頭に思ったことを、やってみる。
    ・自分がやりたいと思うことをやり、自分がやりたくないと思うことはやらない
    ・ワクワク・ドキドキ・ときめき・気持ちがいい・テンションの上がることを選択してそれを極めていく
    ・賞賛だけでなく、批判されたり、嫌われる勇気、それら全てをひっくるめた覚悟

  • 村上春樹が小説を書き始めたきっかけは前から知っていた。ヒルトンも赤鬼もすぐ思い浮かぶ。
    音楽と読書が彼の抽斗を増やし、それが多彩な小説を生み出す素となっている。

    もし全員を楽しませられないなら
    自分で楽しむしかないじゃないか

    という歌詞には勇気づけられる。
    面白い箇所はたくさんあったが
    河合隼雄先生の思い出は興味深い。
    河合先生が、意識してとった受動体勢アンダーグラウンドの春樹の姿勢とシンクロする。

  • 本書を読んで、村上春樹さんの人となりや小説家になった経緯、それから小説家という職業について知ることができました。エピファニー(突然何かが現れて、そこから一気に物事が変化してしまうさま)によって小説家になったというのはとても驚きました。
    嫌ことがあっても、自分の信念を貫いて、30年以上も作品を書き続けてきたことに尊敬の念を抱きました。何かを継続するには、生活の規則性とそれを維持する確固たる意志が大事なんですね。
    村上春樹さんの作品を読み始めたばかりなので、これからじっくり堪能したいと思います。

  • (本書は結果的に「自伝的エッセイ」という扱いを受けることになりそう)とあったが、私にはファンブック(?)に思えた。表紙からしてやけに目が合う(笑)こんなふうに考えて小説を書くんだ!とか、この作品はこんな感じで書いてたのか!とか、海外進出ってこんなふうにするんだ!とか。

    なんだか自分がひどく村上春樹ファンになってしまっている気がするが、、楽しんで読みました。

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著者プロフィール

1949年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。79年『風の歌を聴け』で「群像新人文学賞」を受賞し、デビュー。82年『羊をめぐる冒険』で、「野間文芸新人賞」受賞する。87年に刊行した『ノルウェイの森』が、累計1000万部超えのベストセラーとなる。海外でも高く評価され、06年「フランツ・カフカ賞」、09年「エルサレム賞」、11年「カタルーニャ国際賞」等を受賞する。その他長編作に、『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』『街とその不確かな壁』、短編小説集に、『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『一人称単数』、訳書に、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』『ティファニーで朝食を』『バット・ビューティフル』等がある。

村上春樹の作品

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