刺青・秘密 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101005034

感想・レビュー・書評

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  • 中学の教科書に刺青が載っていて、その感想文が担当教員に絶賛されたwww
    どんな中学生だよ

  • 江戸の文化が残っている時代、清吉という腕利きの彫り師である彼にはある宿願があった。彼の年来の宿願は、光輝ある美女の肌を得て、それへ己れの魂を刺り込む事であった。美女に渾身の刺青を彫り込むためには、まず美女を探さねばならない。清吉は4年目にして、自分の魂を込めた刺青を彫るに値する美女を見つけた。美女の脚を見て、清吉はこのように反応する。
    『その女の足は、彼に取っては貴き肉の宝玉であった。……(中略)……この足こそは、やがて男の生血に肥え太り、男のむくろを蹈(ふ)みつける足であった。』
    この表現から、谷崎本人の、あるいは清吉のマゾヒスト的思考があらわれている。
    件の美女を取り逃がしてしまった清吉であったが、刺青師5年目にして、今度は美しい小娘を見つける。その娘に対して、清吉はある絵を見せ、こう言うのだ。
    『「この絵の女はお前なのだ。この女の血がお前の体に交って居る筈だ」』
    それは「肥料」と云う画題であった。画面の中央に、若い女が桜の幹へ身を倚せて、足下に累々と斃れて居る多くの男たちの屍骸を見つめている。物騒な題名であるが、男はみな若い女に踏みつけられながら桜の肥料にされてしまうのだ。
    娘は絵をしまうように清吉に嘆願し、
    『「私は確かにこの絵の女のような性質を持っています。認めましたからそれをしまってください!」』
    と言う。怯える娘に、清吉はそっと近づいて麻酔を嗅がせ、麻酔で眠る娘の背中に刺青を施した。
    刺青ができあがり、放心状態の清吉は『「男と云う男は、皆お前の肥料になるのだ」』と呟く。娘は目を覚まし、激痛に苦しむが、娘は
    『「親方、早く私に背せなかの刺青を見せておくれ、お前さんの命を貰った代りに、私はさぞ美しくなったろうねえ」』
    と、昨日までの臆病な人物とは別人のように言う。
    刺青の色仕上げに湯に入った娘は、
    『「親方、私はもう今迄のような臆病な心を、さらりと捨ててしまいました。お前さんは真先に私の肥料になったんだねえ」』
    と、娘は剣のような瞳を輝かして言った。

    主人公の清吉は男に対してはサディストであり、女に対してはマゾヒストである。この相反するはずの嗜好を両立している清吉の心情が実に興味深い。清吉は刺青を彫るとき、客のうめき声に快楽を感じるというのだ。『彼が人々の肌を針で突き刺す時、真紅に血を含んで脹れ上がる肉の疼きに堪えかねて、大抵の男は苦しき呻き声を発したが、その呻きごえが激しければ激しい程、彼は不思議に云い難き愉快を感じるのであった。』とある。
    ところで、清吉はなぜ脚ばかりを見ているのだろうか? ふつう刺青を彫りつけるのは背中である。女性の背中を直接見る機会は少ないにしろ、うなじや首筋からその女性の背中が美しいか否か、想像できないものだろうか。刺青師であれば、美女の背中やうなじや首筋に注目がいきそうなものである。
    しかし清吉は脚に注目する。ここに、作者本人の性癖が出ているのではなかろうか。谷崎は、「自分の墓石を好きな女の脚の形にしてほしい」と頼んだという逸話を残すほど女性の脚への執着が強い人物で、死んだ自分が納められている棺を、永遠に踏まれていたいという欲望が前面に出ている。本作でも、『顔を見たことはないけど脚は見たことがある』という発言から、脚にしか興味がないことや、踏まれることへの願望が現れていて、そんな谷崎の嗜好が色濃く出た作品だと思った。また、娘の背中に彫られた女郎蜘蛛の雌の特徴は、雄よりも最大で5〜6倍の大きさがあった。身体に黄色い模様が入っていて、非常に目立つ印象だった。一方で、雄は雌に比べてかなり小さく、色も地味だった。女郎蜘蛛の雌は、雄を捕食することもあるという凶暴な一面も持っており、女郎蜘蛛の刺青は、艶やかで美しく、今後男を食い物にするであろう娘の象徴なのだと考えた。

    谷崎は、1886年に江戸情緒の残る東京の蠣殻町(現・人形町)に生まれた。代表作は、『刺青』『卍』『痴人の愛』『春琴抄』『細雪』などがあり、流派は江戸川乱歩・夢野久作・三島由紀夫と同じ耽美派。戦時中も執筆を辞めることなく活動し、63歳で文化勲章を受賞。73歳のころから口述筆記で創作活動をし、79歳のときに病気で亡くなった。

  • ・読んだきっかけ
    刺青を友だちにおすすめされて
    ・感想
    刺青は艶かしい綺麗な話だった。最後自分で作り出した強い女の屍となるっていうのがまた良い。秘密は最初は「こーゆーのあるよなー、分かる」とか思いながら読んでたけど最後の方に行くにつれて男の狂気も見え始めて最後の分の理解が難しかった。

  • 刺青・秘密 谷崎潤一郎 2020/12/20

    嗜虐と被虐、その逆転、同性愛、汚物嗜好など耽美な要素が盛りだくさん。
    刺青を掘りながら苦痛に呻く声に快感を得ていたと思ったら最後は女の肥やしになったり、
    少女を虐めていたと思ったらその少女に蝋燭を垂らされていたり、サドとマゾの逆転があるのは谷崎のなんらかの主張だろうか。

  • 短編集なのだけど、それぞれのパンチがだいぶ強い…
    特に「少年」の、読者の幼年期の経験に訴えてくるような不気味でよくわからない雰囲気はかなり印象的。

  • 谷崎初期の短編集。この時代ならではの耽美的な世界観を堪能できる作品が7篇収録されています。追求された文章の美しさに、また暴かれた性癖を覗き見るような感覚にゾクゾクさせられます。中でも『秘密』は秘密であるがゆえに得られる背徳感や高揚感が読み進めるごとに高まり、読後夢から覚めたような感覚が気持ちよくて好きです。『異端者の悲しみ』は唯一谷崎の自伝的な作品ですが、自分に重なる部分がかなり多く読んでて辛かったです。全体的に性や死、不道徳的な内容が多いのが共通ですがバラエティに富んでいて、めっちゃ谷崎って感じ。

  •  谷崎潤一郎 (1886-1965) は「刺青」(1910)、「少年」など奔放な幻想と豊富な措辞を操る文章の洗練とで耽美の世界を描き、永井荷風によって激賞された。これにより、谷崎はバイロンの如く一夜にして文壇に華々しく登場した。
     次の文は、「刺青」中の一節である。。

     「年頃は漸う十六か七かと思われたが、その娘の顔は、不思議にも長い月日を色里(いろざと)に暮らして、幾十人の男の魂を弄んだ年増のように物凄く整って居た。それは国中の罪と財(たから)との流れ込む都の中で、何十年の昔から生き代り死に代ったみめ麗しい多くの男女の、夢の数々から生れ出づべき器量であった」

  • 短中編7つ。前3つは著者のM的な性格を窺わせる。「二人の稚児」は王朝物。森鴎外の「山椒大夫」と重なる。2021.4.25

  • 病人の愛で興味を持ったのがきっかけで読み始める。刺青はなかなか良かったけど少年が結構気持ち悪い下品さで苦手だった。母を恋ふる記はなんかほんわりしててよかった。

  • 本人曰くのこれが処女作であるという、刺青が一番良かった。
    なんともまあ濃密に耽美だ。

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著者プロフィール

1886年7月24日~1965年7月30日。日本の小説家。代表作に『細雪』『痴人の愛』『蓼食う虫』『春琴抄』など。

「2020年 『魔術師  谷崎潤一郎妖美幻想傑作集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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