細雪 (下) (新潮文庫)

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著者 : 谷崎潤一郎
  • 新潮社 (1955年11月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (420ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101005140

細雪 (下) (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  • はぁー面白かった! あらすじから受ける印象とは比べ物にならない面白さだった。下巻後半になると上巻にあったおっとりした雰囲気が消えることもあり、ほぼ幸子視点で妹二人に気を揉み続け。途中で「ちょっと待てよ」と我に返る隙も与えられず、妙子の行状が明らかになるシーンでは幸子同様にショックを受けてしまった。『細雪』は閉じた人間関係の不健全さを流麗に描いて傑作なので、日本の美とか興味なくてもどろどろホームドラマが好きならおすすめ。

    それにしても妙子。有能なのに人の気持ちに興味がなくて、それでおかしなことになり、姉さんたちも妹がかわいくて波風立てたくなくて、きちんとフィードバックを返さないために事態を拗らせて。家族って互いの短所を強化してしまうところがあるから怖い。

    最後のあれは、聖女を人間の女に引きずり下ろしてるんだな、と思いました。

  • だいたい1930年代後半~40年代初頭を舞台にした、芦屋の金持ち四姉妹の話。船場老舗商家の蒔岡家。主人公姉妹の父の代までは豪奢に暮らしていたが、晩年には既に経営は傾いていたようで、父の死後は後を継いだ長女の婿が店をたたんでいる。妹たちはそれが面白くなくて、他にもいろいろ(非理性的なものも含めて)理由があって妹たちはこの義兄とはあまり仲良くない。
    長女(40くらい?)の婿は銀行員。この夫婦は「本家」。子だくさん。転勤で東京渋谷に引っ越す。
    二女(30後半?)の婿は会計士。この夫婦は「分家」。芦屋に住む。娘がひとり。
    三女(30ギリ前半くらい)と四女(ギリ20代くらい)は未婚。本家と東京が嫌いなので分家に住んでいる。
    多くが二女視点で書かれていて、三女のなかなかうまくいかない見合い、四女の奔放な恋愛沙汰、それらの監督責任を本家から問われるかも、といったことに悩みながら、ピアノを弾いたり芝居を見たり鯛を食べたりお買い物をしたり習い事をしたりして暮らしている。専業主婦ね、と思うなかれ、主婦業は当然、女中のお春どんやらお久どんやらがやるのです。
    「これは当時の最高級品だった」とか「これを当時持っていた家庭は数パーセント程度だろう」とか、そういう巻末注釈ばかりふられる生活の描写。
    四女が丁稚あがりの男と恋に落ちようものなら「あれはまったく種類の違う人間だと思っていたからそんなこと想像もしなかった、まさか蒔岡家の娘がそんな、」と慌てふためく。

    …と、こう冷静に書くとなかなかいけすかない女たちのようにも思えるのだが、読んでいる間は不思議とそんなふうには感じなくて、結局「お嬢さん育ちで人が好い」ということなのか、作者の筆力ですっかり芦屋ライフに引き込まれているからなのか、いろんなエゴも「人間臭くて共感できる」というくらいに感じられる。
    戦争はどんどん激しくなるのだが、洋裁の修行のためにパリに洋行したかったけど危ないなとか、お隣さんだったドイツ人家族が帰国していったけど達者だろうかとか、あまり華美にするとやかましいご時世だから父の法事を盛大にできなくて寂しいとか、婚礼衣装を新調できないとか、恒例の花見でいつも行っていた料亭は今年はやめねばとか、、、切迫感に欠ける。

    何が面白かったか、と聞かれるととても難しい。でも面白かった。映画を先に観ていたおかげもあるだろう。そしてこの、起伏のない長編を、市川崑はきれいに映画にしたもんですね。すごいなー。
    原作のほうもまた最後の終わりかたがねー。そうやってこの長編を終わるんか!っていう。やってくれる。(別にどんでん返しとかじゃないですよ。)

  • 美しい4姉妹の物語。義理の兄までもが大きく巻き込まれて縁談の話をまとめるために奔走する時代が、そう遠くない昔にあったのだということにまず驚きました。それに関わって、あれこれ思い悩む次女の心中が細かく描かれています。
    あれこれ思い悩むことがあると、こんなに悩んでいてはいけない、と思ったりもしていましたが、悩むだけ悩んで、人にも相談して、よりよい対策を練るという手順を踏んで日々の生活を送ってもいいじゃぁないかと思えるようになりました。
    これは、名作と言われる本書の本道の読み方ではないかもしれませんが、読んでよかったです。
    神戸育ちなので、地名や駅名がわかって頭の中で風景を想像できるのも楽しく、また姉妹の関西弁が頭の中に自然にはいってくるので、関西を離れて暮らしている自分にはとても懐かしいような心の落ち着く文体でもありました。

  • (旺文社文庫特製版)
    中巻読み終わった辺りから忙しくなって、2週間くらいずっとなかなか読めん日が続いたんやけど、7月入ってからやっと一気にばーっと読んだ。

    3巻通して面白かった。下巻だけで言うと雪子(橋寺の件)妙子(こっちはもう言うまでもない)まじおまえらなんなんていうくらいの展開で精神的には中巻のあの水害よりも修羅場やと思った。幸子の心臓もたんのと違うか。
    幸子視点やけん、雪子妙子の心情は幸子の想像なんやけど(鶴子もじゃ)、実際のところ何考えとんて思った。妙子の本心は結局分からんままでちょっともやもやするわ。進歩的なフリやったのか、気持ちはそのつもりやけど…とかなのか。
    幸子は結局ずっと狂言回し的な役割で、自分が中心になることはほとんどないのに、間近で大変なことが起きたり板挟みやったりと、ほんと苦労人気質やわ。
    そうそう、下巻の最後の方でようよう鶴子の心情なんかも見えてきたりしてそれも面白かったよ。3人だけで遊びに行くって言われたら寂しいよ。

    これから本格的に戦争に入っていくくらいの時期で、華やかで優雅な彼女らのお話はここでおわっとくのが一番ちょうどいいやな。雪子のあのラストはすごく好きです。

    6月30日に、西宮に遊びに行ったついでに神戸文学館に行ったんやけど、細雪でいっこのコーナーができてたー。きちんと読み終わってから見たかったな。西宮への道中、作品の中で見知った地名の駅に停まったりすると内心興奮してしまった。

  • 雪子の縁談はまとまるのか、妙子は多くの問題を引き起こしながらどうなるのか。

    船場、蘆屋、京都といった幸子家族の暮らす関西地方、妙子の暮らす名古屋、鶴子家族の暮らす東京と主に幸子の移動に伴い舞台を移しながら物語は進む。
    巻末の注解も詳しくされているため、関西や東京の地理に疎い読者でも情景を思い浮かべやすく書かれている。

    妙子の奔放というよりは寧ろ、厚かましいに近い行動に眉をしかめつつ、一家にひとりはこういった人物は欠かせないと面白く読んだりする。

    谷崎潤一郎による回顧といった文章や、磯田光一さんの解説もわかりやすく、余り谷崎潤一郎に詳しくないわたしにも興味を持って読むことが出来る。

    この作品は、栄華を誇った上流家庭が、父親の死後衰退していく没落の美学といったものを感じさせるのみならず、物語に併せ奇しくも戦況厳しくなり、敗退へとまっしぐらの日本と重ね合わされてくる。

    戦中であっても市井のひとびとの日常は、華美を控えつつも悲壮感漂うといったものではない。戦争を知らないわたしたちの思うよりもずっと普通の暮らしを送っている。
    有吉佐和子さんや宮尾登美子さんの作品でも、何ら変わりない毎日を送るひとびとが描かれており、食べるものもなく生きることに必死といったイメージを覆される。

    終わり方も、めでたしめでたしでも涙溢れるというでもなく、あくまで人生のひとつの章が終わったといった形であるところが、これからの四姉妹の人生をあからさまに示すでもなく想像を許す余裕があり、読者それぞれの読み方でその後が感じられる。

    いつか読もうと思い、読む前は険しい山を登るように意気込んでいたけれど、時間を忘れて谷崎潤一郎の世界に引き込まれる読書だった。

    戦中、時代に即さないと軍からの圧力を受けながら、谷崎潤一郎はどんな思いで書きつづけたのだろう。作家の意地とも矜恃とも言える強い思いで書いたであろう「細雪」は、そんなことは微塵も感じさせない美しくたおやかな一冊だった。

  • 中巻でだいぶ妙子を応援したい気持ちになっていたので、下巻はなんだかショックが大きかった。そういえばこれまでずっと幸子の目線で書かれていることもあって、妙子の言い分がすべて本当かはわからないぞ、と思いつつもいつの間にか幸子の「身びいき」に無意識にこちらまで引っ張られていたのだと読んでいて気が付いた。啓坊嫌いだけどちっとは同情する。雪子がズバッと妙子に物申すところはただの内気なお嬢様ではない一面が垣間見れて印象深い。
    いつかは雪子も妙子も嫁に行くだろうというのはわかっていたことだけれど、そこがちょうどこの物語の幕切れというのがまた…。バラバラになった姉妹はそれぞれどんなその後を送るのだろう。戦争がこれから本格化するというのも気になるところ。幸子は二人の妹が家を出て喪失感は味わうだろうけど、頼りになる夫がいるので細々と幸せに生きそう。でも雪子と妙子は…あまりいい未来が想像できない。

  • 読み進めようと思っても、この物語の起伏の少なさのためかなかなか手が伸びず、
    かといっていざ読み始めてみると何となしに読み続けてしまう、
    そんな不思議な小説だったように思います。

    優美で品のある関西の上流階級の習俗。
    それが時局の変化とともに変わりゆく様子が幸子たち4姉妹を通して描かれており、全体に僕はもの寂しさを覚えました。

    日本語の勉強にもなったように思います。あーこの言葉ってこんな漢字で表せるんだ、こういう表現があるんだ。とか。

  • 鶴子、幸子、雪子、妙子の四姉妹の物語だが、ほとんどが次女の幸子の視点で語られており、幸子の住居のある蘆屋を中心に話は展開していき、長女の鶴子は当初大阪に住んでいて、物語の前半で東京に転居するため、鶴子の登場場面は少ない。
    良いとこのお嬢さんたちの話であり、歌舞伎を見に行ったり、高級料亭で食事するなど、その暮らしぶりの描写に階級の高さが垣間見える。
    私は男性なので、それほど関心が持てない話ではないかと思っていたが、予想以上に引き込まれる物語であった。私は神戸市に住んでいるので、馴染みのある地名が数多く出てきて、場所のイメージがしやすかったということもあるが。
    雪子のお見合い話、阪神大水害に遭遇する話、板倉と妙子の間の出来事、雪子の再度のお見合い、妙子の病気、雪子の再々度のお見合い、妙子の爆弾発言とその顛末、といった大きな出来事が次々と起こり、最後まで読者を退屈させない。
    この物語の根幹にあるのは、当時の日本に重く存在していた「家」中心の考え方。雪子や妙子の結婚相手には、家柄、階級というものが何よりも重要視されているなど、当時の人の生き方において、いかに「家」や「家族」が大きな存在を占めていたかを感じさせる作品だ。
    幸子、雪子、妙子の三人の性格の違いも印象的である。
    幸子は家のことを第一に考え、家族思いな日本の平均的な女性。
    雪子は、大人しくて控えめで、外では自分の意見を言うことができない、内向きな、古いタイプの女性。
    妙子は、活動的、開放的で、自立した、新しいタイプの女性。
    面白いと感じたのは、鶴子の夫の辰雄も、幸子の夫の貞之助も、雪子のことは大事に思っているが、妙子を疎んじていること。雪子のような女性が当時の男性には受けが良かったのだろう。
    幸子は、雪子にも妙子にも、その行動にイライラさせられるのだが、それでも二人のことを憎むことができない。性格は大きく違う姉妹だが、お互いを理解し合って、尊重しており、強い絆で結ばれている。
    三姉妹が離れ離れになるラストの場面には、そぞろに淋しさを感じた。

  • こういう終わり方なんですね、覚えてない、、、
    まぁさておき意図的なものだったらちょっと鳥肌もんですが、ほかの作品とかも見るにどうもそうでもないような気がする。時代に逆らってないんじゃないかな、この作家。無理言うなと言われること必至ですが、だからこそ余計に残念感が募るというか何というか。
    まぁそれは横においても特に雪子・妙子の描写がしつこくて若干ええ加減にせい、と突っ込みたくなる。ちょっと時間の感覚が現在とは異なるってことかな?

  • 上巻、中巻は絵巻物らしい風光明媚さが際立っていたようだったが、下巻は四姉妹それぞれの駄目なところというか、人間らしい至らなさが目につく書きぶりであったと思う。
    姉妹の中でもわけてイデア的な存在だった雪子も最終行において、風に散った桜が地面に落ちたような、現実感を示されて物語が終わる。

    まさに「物語」という感じ。今は古典とされるものも、当時読む人にはこの作品のような活き活きとした情景や心情のもとで読まれたのだろうなあということに思いを至らせるような。
    面白かったです。

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