- Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101005140
感想・レビュー・書評
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「そうやないねん、僕の云うのんは、ああ云う風な引っ込み思案の、電話も満足によう懸けんような女性にもまた自ずからなるよさがある。それを一概に時代遅れ、因循姑息と云う風に見んと、そう云う人柄の中にある女らしさ、奥床しさ云うもんを認めてくれる男性もあるやろうと思う。それが分るような男でなければ、雪子ちゃんの夫になる資格はないねんな」(p.154)/雪子はじっと黙っていながら、余程前から妙子に対して無言の批難と軽蔑とを示していたのであった。(p.179) 一大王朝絵巻のようなストーリーも、大団円の予感を残しつつ終幕。谷崎潤一郎が戦時中に、発禁処分にもめげず、訴えたかったことはなんだったのだろうか。昭和初期大阪の旧家をめぐる人々の会話、考え方を記しておきたいということであれば、成功しているように思うが。今の価値観から当時の価値観を論じてみても、相違に頭が痛くなるほどであったけど。家柄や身分、「職業婦人」を低く見る、結婚はするのが当たり前、体面、立場…。そして、三女・雪子の存在が最後までのどに引っかかり続けた。当時としても因循姑息という見方をする人がいるのだとしたら首肯。美しいが、引っ込み思案で自分からはまったく何もせず、周囲のお膳立てにあれこれ云うだけ、そして批判は鋭い、と。三浦しをん「あの家に暮らす四人の女」つながりで手にとってみたが、いろいろ対比しつつよみなおすもまた一興か。
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漸く全巻読了。いやー素晴らしい文学作品であった。長いんだけど長さをあまり感じない。文章の流麗さと登場人物に魅力があるからこそこんなにサクサク読めるのだろうけど。この小説は雪子と妙子の物語だなーと改めて思った。姉妹の中でも最も対極にあるふたりの性格の対比が鮮やか。妙子の身に起こることにいちいちはらはら。雪子の縁談もまとまるけど、最後の最後までシュールなところが凄い。日本語、日本文化の美しさを感じられるとても素晴らしい作品。数年後に読み返したい大作。2012/624
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淡々と描かれていく姉妹をめぐる物語。面白かった。
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2014/11/17
這本書封底的介紹實在太爆雷了,當拿起這本一眼瞄了一下最後看到「縁談がまとまり」,就不敢在看封底,直接翻看裡面。讀完之後發現,封底居然把所有的雷爆光了,實在很危險…
這一卷還是雪子的相親過程(其實因為太想知道她到底怎麼相親成功,讓我不禁一直看一直看,一天之內把這本書K掉了…),妙子和奥畑持續關係,本家為了擔心敗壞家名危及雪子的婚姻,因此將她勘当。妙子生了一場生死關頭的病之後回到本家,雪子再與貴族相親之時又爆出懷孕,這是她和奥畑分手的方式之一。最後貞之助決定瞞住貴族趕快讓雪子結婚,妙子生了一個死胎。卷末就在幸子上京仍在拉肚子結束,究竟雪子將來是否會結婚?奥畑會不會再來膏膏纏?妙子的八卦會不會被爆開?就留下許多想像空間。大阪的上流社會破落名家風俗繪卷就此完結。對於整個家世、制度、舊弊尾大不掉的的感覺充斥全卷(我對本家實在相當感冒…),卷末解說中磯田光一提到:「しかし人間生活を大きく包んでいる習俗そのものが、じつは人間の情熱やエゴイズムを規制していく緩衝装置のようなものであり、つまり習俗あるいは慣習があるからこそ、人間はそれにおのれをゆだねることによって、大過なくことを運んでいくことができるともいえる。ストーリーの変化に乏しい細雪が、それにもかかわらず読者を捕らえてはなさないのは、”習俗”や”制度”を衣をかぶって出現する人間のエゴイズムやかけひきが、きわめて陰微な形でドラマを形づくり、事態の動きに一喜一憂する登場人物の心が、あたかも読者自身のものであるかのように伝わってくるためである。」 -
お見合い話の度に雪子の男性への対応に確かにもどかしいものが……
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四姉妹の四季折々、人間の機微、風俗を描いた至高の物語文学。隠微なエゴイズムとかけひきが細やかに描かれ非常にドラマチックな展開を見せている。味わい深い文学であると共にどこか親しみやすい物語の味を感じさせてくれるところがよい。作者の主観はかなり抑えているようだが、折々見せる女性趣味(といっては何だが)が心地よい。姉妹が互いに着物の着付けをしたり、爪を切る場面などが印象的。市川崑の映画版も観たいです。
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面白かった。最後は「これで終わり?」と思ったけど無事に雪子も結婚できたし納まるべき形なのかな~という気もする。ものすごい大事件が起きるわけでもないのに、(いろいろ小さなことは起こるけど)続きが気になるのはやはり書き手の力なのだろうな~と改めて思った。読んでよかった
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「痴人の愛」と「卍」を読んだ後には、もう谷崎は読まなくて良いかと思っていた。しかし、リサイクル市でもらった「細雪」三巻が本棚に並んでいたので、ちょっと手を出す気になった。これは読んで正解だった。先がどうなるのかを早く知りたい、けれど早く終わらせるのはもったいない、そういう思いになれる小説はそんなに多くはない。それくらいストーリー全体的におもしろかった。大阪弁も洗練されていると思う。何と言っても、神戸で水害のあった場面が最も印象深かった。実際に体験したとしか思えないほど真に迫っていた。それから、雪子のお見合い。合計何回登場したのかしっかり覚えてもいないのだけれど、終わりから二つ目の見合いが最も印象に残る。この上ない相手のように思って、ここでやっと決着がつくのかと思うと、雪子の人見知りでぐずぐずした性格が相手を不愉快にさせ、結局うまくいかない。「何してんの、ほら、しっかりして」と思わず声をかけたくなるようであった。また、妙子の生き方については、昭和20年前後にあっては、たいそう問題行動だったのだろう。しかし、そういう時代であっても、もちろんそういう女性はいたのだということがよく分かる。映画になっているようだから早く観てみたい。(その後観ました。水害のシーンがなかったのが残念でした。)さらに、ドラマも観た。こちらは意外とよかった。中山美穂はあいかわらずこわかった。柄本明の息子はちょっとくせがあり過ぎかなあ。
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昭和11年11月から16年4月までの、約4年半にわたる物語が終わった。目まぐるしく数々の事件が起こった中巻とは打って変わって、下巻も四姉妹の三女・雪子の縁談と破談を繰り返すといった上巻のようなゆったりとしたスピードでお話が運んでゆく。
この小説は結局何の話だったのかと問われれば、「関西の没落した上流階級の四姉妹の、未婚の三女と四女の行く末に気を揉む話」というほかはない。
物語それ自体は淡々としているんだけど、不思議と読んでいる間はずっと楽しかった。登場人物たちの心裡描写が丁寧で、微妙な駆け引きにワクワクしたから。引っ込み思案の雪子と、奔放を通り越してもはや不良の四女・妙子の対比が鮮やかだったから。貞之助・幸子の次女夫妻の周囲に対する気の配り方に是非とも見習いたい上品さがあるから。関西弁の会話文が生き生きとしていて耳に心地よいリズムがあるから。
この小説を読む前に作者谷崎のエッセイ『陰翳礼讃』を読んでいてよかった。殊に作中に描かれる家屋の描写などに、谷崎が「礼讃」した日本美が見て取れて楽しめた。