鍵・瘋癲老人日記 (新潮文庫)

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著者 : 谷崎潤一郎
  • 新潮社 (1968年10月29日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (446ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101005157

鍵・瘋癲老人日記 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 僕の初めての谷崎が「鍵」だったンだけども、駅のホームで読み始めていきなりウワチャーとなった。冒頭から夫の日記で、「最近性生活が充実してない」「妻は類稀なる名器で絶倫なのに自分は満足させることができなくてくやしい」とかそういうのが頻出する。

    「鍵」は夫と妻の日記が交互に提示され、地の文が存在しない日記体の作品。夫は自分の日記で自分の衰え始めた性能力がどうやったら盛り上がって妻を満足させることができるかを書いていて、その日記を妻に読ませようとあれこれ仕掛ける。でも妻もそんな夫の浅い作戦なんてとうに見破っていて、そんな日記読むもんか、ということを自分の日記に書く。お互いの日記の内容が呼応して、その両者の日記の積み重ねで物語が展開していくところが実に巧妙。

    夫は自分の性欲がどうしたら盛り上がるか考えて閃く。己の性欲を燃え上がらせるもの、それは「嫉妬」!! んで、娘の結婚相手にしようかなと考えている若い大学教授を妻に接近させる。できるかぎり接近させる。関係を持ってしまうギリッギリのところまで近づけて妻を淫蕩にする。自分は嫉妬で燃え上がっちゃう、という計画を立てて実行する。

    妻は妻で、自分は貞淑な女性で、夫の妙な計画には乗るまいと、日記に書く。満更じゃないけれど最後の一線は越えないと、日記に書く。この日記に書くというのが基本的な仕掛けで、夫も妻も日記に書いているだけで、それがイコール作品内の真実とは限らない。そう考えて読んでいくと終盤が近づくにつれどんどん推理小説の体を成していく。
    読むまで谷崎は官能小説というか、事件や策謀といった、推理小説犯罪小説とは関係ないと思っていたけど、それは誤りで、実は非常に推理小説らしいところが沢山ある。実際推理小説も書いているようで。

    「鍵」の見事なところは、主要な登場人物の動機は全員性欲、性衝動であるにもかかわらず、性行為という具体性を伴うはずの題材にかかわらず、作品全体は抽象的に仕上げられているところにある。ただエロいだけではなく、計算されて、演出の一部としてのエロティックなのです。エロティックはリアリズムとも重なる。谷崎のエロスはあくまでリアリズムの一環だったりする。リアリスティックなのに抽象。谷崎は計算ずくで作品を構築していて、実に構造的なのに、それを鼻にかけないところがかっこいい。惚れる。でも女好きすぎて引くわ。

    「鍵」は連載中に大いにその過激な描写(読むと単なる過激ではないことがわかる)が話題になり、国会でまで取り上げられた。それらの騒ぎへの対応なのか、結末が、推理小説やサスペンス小説としてならありえるものだけれど、全体としては不自然な出来となっている。これは本人も不完全燃焼を認めているらしい。このリベンジは「瘋癲老人日記」にてされる。


    「瘋癲老人日記」は、老人が嫁(息子の妻ってことね)の首をれろれろ舐めたり、足の指をちゅばちゅばしゃぶって、嫁に殴られたりする日常を、日記体で綴った作品である!! 谷崎じいさん元気!!(執筆時もう70歳過ぎてたかな?)

    嫁は颯子というのだけれど、この颯子がとにかく魅力的。一方じいさんは寄る歳波で不能ではあるが、性欲はある。なお盛ん。もう嫁が好きすぎて好きすぎて、嫁にちょっかい出しまくる。嫁は嫁でじいさんをあしらいつつ、個人的なお願いなどのためにじいさんを利用してる。マア嫁は家の仕切りに関しては有能なので単なるわがまま奥さんではなく、むしろやり手なところが素敵。

    じいさんは嫁にあしらわれてもウヒヒ、ものねだられればウヒョヒョてな感じで、老人扱いでうざがられるのすら楽しんでる。ジジイ・テリブル!!
    颯子がシャワー浴びてて、じいさんに背中拭いてと頼むシーンがもう爆笑必至。

    背中拭いてと頼まれたのに、じいさん何を思ったか颯子の首をペロリと舐める。

    颯子、じいさんの頬をバシィーッ!! ヘラヘラするじいさん。

    おい、ジジイ!!! 


    僕と代われ!!!!


    その後、タイガーアイを買ってやることを条件に颯子様から首とか足ペロペロし放題の権利をいただくのですが、最後までキスはお許しいただけないあたり、ドMにはたまらないんじゃないでしょうか。

    体調の悪化で、墓を撰ぶことになったじいさんは、颯子の足形で仏足石を作り、自分の墓石に刻むことで、死んでも颯子に踏みしめられ続けることを望む。ここらへんにくると、じいさんの日記だから彼の一人称なんだけど、ちょっとボケてきたのかなと思わせる。お墓選ぶ旅行中に颯子は我慢できなくなって逃げ出して、じいさんも追いかけて急いで東京帰ってきたら駅にストレッチャーが待ち構えていて、そのまま入院させられちゃう。颯っちゃ~ん。

    「鍵」に似た部分があるので、じいさんも最後死ぬのかなーと思ったら、じいさんは結局最後まで死なない。死なないのがこの作品を明るくしているし、逆に薄気味悪くもしている。じいさんの大いなる夢は凡人にはちょっと理解するのは難しいのであった。


    「鍵」も「瘋癲老人日記」も日記体という地の文が存在しないスタイルで、それでも物語が成り立つところに、地の文が存在するよりもリアリティが迫ってくるところに、谷崎の巧妙さを感じることができる。
    ちょっとマゾかも、美女に罵られたいかも、という男子にはお勧めの作品。

  • エロス・足フェチ・ドMと、谷崎の小説をあまり読んだことがない頃に
    抱いていたイメージをそのまんまぎゅぎゅっと濃縮した1冊。
    どちらも日記形式のお話。

    『鍵』は、はじめはこの旦那さん鬼畜だなぁーと思ってたけど、
    終盤はぞっとした。最近よく週刊誌の見出しで「死ぬまでS〇X」なんて
    フレーズをよく見るのを思い出して、あれは生涯現役な意味
    なんだろうけど、こちらは本当に命をかけて性欲を満たそうと
    しちゃうんだからすごい。
    敏子と木村も日記を書いていたら、どんな内容なのだろうと
    想像が膨らみます。

    『瘋癲老人日記』
    『鍵』に比べるとこちらの方がちょっと陽気というか、滑稽味がある。
    足の形の墓石を作って、死んだ後も踏んでもらおうと企むところが
    やはり印象的。自分だったらどんな墓石がいいかななんて
    想像してしまいました。

    これだけ性癖をさらけ出した内容だと嫌悪感が募りそうなものだけど、
    それよりも結末が気になる気持ちの方がずっと強かった。
    カナの文章が多くてちょっと怖気付くけど、やはり文章が綺麗なので
    濃密な世界をたっぷり堪能できました。

  • 究極のハニカミと淫乱の交差。

  • 図書館で。鍵は前に読んだことがあったのですが瘋癲の方は読んだことが無かったので借りてみました。旧仮名とでも言うのか、片仮名表記が実に読みにくい。というわけで結構苦労して読みました。

    老いと性、というか夫婦と性、というか。性は生なんだなぁなんて思いながら読みました。果たして敏子さんは貞女なんだろうか?そこは疑問に思うけれどもダンナが喜んだんだろうからまあ貞女といえば貞女なのか?

    瘋癲の方はまあもう、ホント、気持ちの悪い老人で(笑)罵倒されてもそれを喜んでるんだから始末におえない。女性からしてみると(というか妻や娘の立場からすると)颯子さんみたいな女性は同性に嫌われるんだろうなって思います。でも息子の嫁をいやらしい目で見てお金を使いたがってるのは老人の方なんだから仕方ないですな。颯子さんにしてみたらお金ぐらいもらわなきゃ割が合わないって事だろうなぁ、うん。
    そうやって考えるとやっぱりお金って大事だ。そして年取って相手してくれた若い女性にコロリとまいっちゃう人が多いから遺産の半分は妻に渡すよう法律で決められてるんだなぁ… 色々と感慨深い。ウム。

  • 鍵は8/24読了

  • 「瘋癲老人日記」
    カタカナ表記でとても読みにくい。日記調の物語。息子の妻に甘い、そしてエロい主人公のお爺ちゃん。後半は病気に悩まされる。

  • 『鍵』のみ。
    全く考えずに読んでいたらさいごにどんでん返し的事実が発覚。
    お互い知らない設定ででも読んで欲しくて、その辺りがすごく面白い。

  • カタカナ部分を読み、ひらがな部分を五行ほど読んで、いきなり解説を読んだ。単なる「エロ、グロ、ナンセンス」
    中央公論が箸休めのように執筆を依頼したとしか思えない

  • 「鍵」読了(瘋癲老人日記はまた今度)。
    熟年夫婦の性を軸に、微妙な人間模様が描かれる。
    愛してるけど、信用しない。
    肉体的には求めるけれど、時に嫌悪する。
    性格的にも、性的にも倒錯した熟年夫婦。

  • 『鍵』…他の人を好きになったから、血圧が上がりがちな夫を興奮させてどうかさせるために頑張っていた、っていう妻の考え方が恐ろしかった。
    しかも、結局妻は夫の日記を隠し読みしてたのね。
    文面通りに「読んでないんだ~」と受け取っていた自分が愚かだった。
    これも、先日読んだ『少女たちの羅針盤』と同様、人間の複雑な考えが描かれているなぁと感じた。
    読んでいると人間不信になりそうな作品だった。娘の敏子が特に恐ろしい。

    『瘋癲老人日記』…漢字以外全部カタカナで書かれていて、すっごく読みづらかった(しょうがないけど)。
    70過ぎたお爺さんが、息子の妻である颯子の足に惹かれていって、終いには、颯子の足の形をした仏足石をお墓にしてもらいたい、死んでも颯子に踏まれ続けていたい、というような考えにまで行き着いてしまうお話。さすがの颯子も爺さんのその発想にはドン引きして、精神科医に旦那と一緒に相談していたらしい。
    確かに普通に考えれば、あの考えは正気の沙汰ではないだろうけど、分からないでもない自分が怖かった(笑)。

    いやー、でも谷崎さんはやっぱりフツウじゃないな…
    そして注釈多すぎぃ!薬の名前出てきすぎぃ!
    どちらも(特に後者は)、すごくお金持ちのお話だった。

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