惜別 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101006109

感想・レビュー・書評

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  • 魯迅の噺だと意識せず、一人の悩める留学生「周さん」として読みすすめるとなかなかに切ない。

  •  太宰治の新潮文庫にある作品のうちこれだけ読んでなくて、死ぬまでには読まないとと思いながら、ずっと手が出なかった。これを読んだらもう新しい作品には出会えないと怖かったので。
     しかしこのご時世いつ死ぬか分からないからと、読む決意をしたのであった。

    「右大臣実朝」は「鉄面皮」で多く引用されていたので、読まないといけないと思ってた。しかも熱意をかけて書いていたことを知っていたから余計に。思ってたよりも難しくなくて、実朝の人間性の移り変わりがドラマチック。「駆け込み訴え」に似た感じと解説にはあったけど後半は特にそう思う。そして最後の引用で締め括るとこまで手を抜いているように見えて、全然いない(少し贔屓目に見てるとこもあるけど
    鎌倉での描写はちょっとドキッとした。作者の影が少し。

    「惜別」は一昨年の日本近代文学館での展示で仙台での取材の資料を見ていたので、作品自体何となく知っていたけど、読んでからまたあの資料見たら違う風に見えるんだろうなとちょっと後悔(特別展だったので
    国策?で書いたという異例の作品だけれど、思い通りに書いてやるものかー!っていつもの感じになっていて流石無頼派、そういうとこ好き。周さんの転換に少し悲しみを思いながら、魯迅の「藤野先生」を読もうと思った。

    また改めて読み直したら印象変わるかもしれない。

  • 読書会のため。課題は『惜別』なんだけど、ついでだから『右大臣実朝』も読んだ。太宰って、憑依が得意だな。

  • アウトサイダーだったからこそ
    あの時代に
    こういった物語がかけたのかなと
    津軽の人の反骨
    中央に阿らない感じ

  • おもしろかった。勝手に太宰治は読むと暗くなると思っていたけれどそんなことなかった。藤野先生と周さんの言葉が印象に残った。いちばん気に入ったのは、「文明というのは、生活様式をハイカラにする事ではありません。つねに眼がさめている事が、文明の本質です。偽善を勘で見抜く事です。この見抜く力を持っている人のことを、教養人と呼ぶのではないでしょうか。」

  • 表題作「惜別」のみ読了。
    フィクションにしても私小説的な作品にしても無頼派としての性格がよく出ており、退廃的であったりブラックユーモアが溢れたりという太宰作品が馴染み深いので新鮮でした。
    魯迅の日本留学時のことを同級生の日本人が語るという形式の物語ですが、太宰が唯一執筆した国策小説ということで支那に対する想いや愛国心について懸命に描いたのであろうことが伝わってきました。
    私自身、まだまだ青い小娘で戦時下の情勢など勉強不足なのですが、ただその時代に支那人を侮蔑も見下しもせず同じ人間として向き合うことを大々的に伝えた太宰は
    なかなか勇気があり、その優しさも彼らしいと思いました。

  • 吾妻鏡における鎌倉第三代将軍実朝の生涯を太宰なりに解釈し、近習に語らせる形で詳述した『右大臣実朝』は、尊敬語、謙譲語、丁寧語の文が格調高く。
    武家ながら雅な性質を帯びた実朝の行状に、やがて公暁に暗殺されるといった、危うさ、滅びを仄めかせる文章が巧み。
    魯迅の仙台留学時代を、その友人であった同窓生の回想で描く『惜別』は、太宰作品で一番好きかも。
    支那の革命のためには洋学が必要で、それを厳選して受け入れている日本に留学し、医学を身に付け、病気を治せるようにし、人民に希望を持たせ、その後に精神の教化を、と目論んでいた魯迅が、日露戦争で日本が勝ったことで変わっていく。
    明治維新の源流が国学にあり、洋学はその路傍に咲いた珍花に過ぎず、日本には国体の実力というものがある。だから、医学という遠回りをせずに、著述で直接に人民を教化しようという風に。
    かなり日本に都合よく書かれているきらいはあれど、それは内閣情報局と文学報国会から太宰が依頼を受けて書いた国策小説だからとのこと。
    それを差し引いても、魯迅とその同窓生たち、そして恩師である藤野先生との交流は暖かく、青春小説としても楽しめた。

  • 「右大臣実朝」が読みたくて借りた。実朝は、日本化したキリストであり、実朝を殺した公暁がユダの役割、ということらしい。なるほど。

  • 「右大臣実朝」
    源実朝は、鎌倉幕府三代目の将軍である
    まつりごとに対しては常にあざやかな采配をふるい
    風流人にして、その短い生涯のうちに「金槐和歌集」を編んだ才人でもある
    鷹揚な性格で、多くの人に愛されたが
    海外に旅立つ夢だけはかなえられず
    最後は甥の公暁に暗殺された
    実朝は、幕府と朝廷の結びつきを深めることで
    権力の一極集中を進めようとしていたから
    それに危機感を抱く人々が公暁をそそのかしたのだ、とも言われる
    ……「右大臣実朝」は昭和18年の作品
    太平洋戦争に敗色の濃くなってきた時期であるが
    それを踏まえるならば、これは近衛文麿への皮肉ともとれるだろう
    進歩主義を唱えながら、結局は開戦に加担する形となった
    そんな近衛には殺す価値もない、そういうことではないだろうか

    近衛文麿は「大政翼賛会」というものの創設に携わったことでも知られている
    「右翼も左翼も日本を思う心において同じ」という思想のもとに
    すべての政党勢力を統合しようとする、大連立構想で作られた組織である
    それはつまり、理想主義者が臭いものに蓋をしただけの
    おためごかしの平和にすぎないが
    国民向けのプロパガンダとしては強い魅力を放っていた
    …「大東亜共栄圏」は、その延長線上にあったスローガンである

    「惜別」
    大政翼賛会の下部組織にあたる「文学報国会」からの依頼によって書かれた作品
    大東亜共同宣言をたたえる小説を書きなさい、ってなことで
    魯迅の日本留学時代をネタにしている
    魯迅は、「狂人日記」「阿Q正伝」などで知られる近代中国の大作家なんだけど
    中国共産党からどういう評価を受けているかは知らん
    同胞の死をあざ笑う中国人の姿に衝撃を受けて
    孫文の民族主義に追随したと言われるが
    太宰ならではの視点で、これに異を唱える内容となっている
    その要点は、やはり「理想を一途に追い求める人々」の欺瞞性だ
    つまりこの作品は
    いわば「大きな物語」を欲してやまない人々に対する
    痛烈なアンチテーゼなのである
    こんなもの採用した報国会こそいい面の皮、であると同時に
    ここでは、晩年の「如是我聞」につながっていく
    太宰文学の最終的なテーマをも見て取ることができる

  • 「右大臣実朝」を読みたくて求めた一冊だけど、表題作の「惜別」も実朝に勝るとも劣らぬ充実感、540円でこれだけのものが読める幸せ。

    どちらも第二次大戦末期の言論統制下で書かれただけあって、いかにもそれらしい表現にしばしば出会う。そこはそれとして、両作に共通するのは、太宰の実朝・魯迅への思い入れの深さ。これが読者を引き込む力になっているんだと思う。

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著者プロフィール

1909年〈明治42年〉6月19日-1948年〈昭和23年〉6月13日)は、日本の小説家。本名は津島 修治。1930年東京大学仏文科に入学、中退。
自殺未遂や薬物中毒を繰り返しながらも、戦前から戦後にかけて作品を次々に発表した。主な作品に「走れメロス」「お伽草子」「人間失格」がある。没落した華族の女性を主人公にした「斜陽」はベストセラーとなる。典型的な自己破滅型の私小説作家であった。1948年6月13日に愛人であった山崎富栄と玉川上水で入水自殺。

「2022年 『太宰治大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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