パンドラの匣 (新潮文庫)

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  • / ISBN・EAN: 9784101006116

感想・レビュー・書評

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  • 希望に満ちた二つの物語。
    太宰治もこんなに明るく爽やかな青春小説を書くんだ!

    「パンドラの匣」は、結核療養所で病気に負けずに明るく精一杯生きる少年の話。友へ宛てた手紙という形で物語は展開していく。看護助手のマア坊や竹さんへの恋心。少年の想いが明らかになる瞬間、書簡形式ならではのトリックにやられた。とても好きだったんだね。

    「正義と微笑」は、中学生の内面が日記形式で描かれる。なぜ人生に勉強は必要なのか。ここにその答えがあった。…あれ?太宰治ってこんなに情熱的な人だったかなと思うほど、きらきらと眩しかった。

    いつか、子どもがなぜ勉強するのかと訊いてきたら、迷わずこの本を手渡そう。

    • ひろさん
      1Qさん♪
      太宰治なのに明るく爽やかすぎて驚きましたよ~!
      先日、私が太宰治の本を読んでると知った母が心配そうな顔をしたので、別に病んでるわ...
      1Qさん♪
      太宰治なのに明るく爽やかすぎて驚きましたよ~!
      先日、私が太宰治の本を読んでると知った母が心配そうな顔をしたので、別に病んでるわけじゃないよ!と必死で弁解しておきました(^_^;)
      やっぱりそういうイメージですよねw
      この本は間違いなく太宰治の違った一面が見られます( * ¯꒳¯ )b
      2023/09/09
    • 1Q84O1さん
      必死に弁解!w
      ひとつ勉強になりました!
      人前では太宰治は読まない方がよいw
      もし読むなら「パンドラの匣」にしておきましょう
      必死に弁解!w
      ひとつ勉強になりました!
      人前では太宰治は読まない方がよいw
      もし読むなら「パンドラの匣」にしておきましょう
      2023/09/09
    • ひろさん
      やはり「人間失格」とかの印象が強いのでしょうねぇ
      そうですね!人前で読むなら「パンドラの匣」がお勧めです( *ˊᵕˋ)ノ
      やはり「人間失格」とかの印象が強いのでしょうねぇ
      そうですね!人前で読むなら「パンドラの匣」がお勧めです( *ˊᵕˋ)ノ
      2023/09/09
  •  「正義と微笑」(昭和17年6月)と「パンドラの匣」(昭和20 年10月〜11月)の二編が収められている。
     「正義と微笑」は太宰の年少の友人の十六歳から十七歳の時の日記を下敷きにし、「パンドラの匣」は結核で亡くなった太宰のファンの闘病日記を下敷にしている。両方とも下敷はあるがフィクションも含み、太宰自身の心情を濃く反映している。そしてどちらも、十代後半から二十歳くらいの青年の心のうちの懊悩、挫折、喜び、生命力……などに満ちた青春小説である。
     「正義と微笑」の主人公は、父親替わりの兄の愛情を受けながら、自分の進路について悩んだり、友人との確執に悩んだり、教師のことを批判したり、家族の愛情に感謝したりする日々を日記に書く。今日清々しく、未来が明るく見えたかと思うと、次の日には何もかも訳もなく、虚しく感じ、自殺したくなるというような、青春の心の浮き沈みを書いている。
     理解あるお兄さんに背中を押され、俳優を目指す主人公。希望する劇団に入り、毎日修行の日々。初舞台がおわり、楽屋風呂に入ったとき、
    「あすから毎日、と思ったら発狂しそうな、たまらぬ嫌悪を覚えた。役者は、いやだ!ほんの一瞬間の出来事であったが、のたうち回るほど苦しかった。いっそ発狂したい、と思っているうちに、その苦しみが、ふうと消えて、淋しさだけが残った。なんじら断食するとき、……あの、十六歳の春に日記の巻頭に大きく書き付けておいたキリストの言葉が、その時、鮮やかに蘇って来た。汝ら断食するとき、頭に油をぬり、顔を洗え。苦しみは誰にだってあるのだ。ああ、断食は微笑と共に行え。……」と、自分を奮い立たせる。
     そうだね。社会に出始めの時、自活し始めたとき、誰もがそんな淋しい気持ちになるよね。新社会人でなくても、私だってこの主人公の倍以上の年齢だけど、新しい道に進む時には、そんな淋しい、自分がとてつもなく愚か者のような気持ちになる瞬間が一日に何度もある。そんな、一瞬の気持ちを三十代で表現した太宰さんは本当に心底真面目な人だったのだと思う。
     大阪、名古屋公演を終え、二ヶ月ぶりに東京に帰り、駅に迎えに来てくれた兄さんの顔を見て、
    「僕は、兄さんと、もうはっきり違った世界に住んでいることを自覚した。僕は日焼けした生活人だ。ロマンチシズムはもうないのだ。筋張った、意地悪のリアリストだ。」
     こんなに清々しく、自分の成長を認められたことが私にあっただろうか。いつまでも、誤魔化して、甘えている子供であり続けたと思う。
     最後の主人公の決意の言葉が好きだ。
     「真面目に努力していくだけだ。これからは、単純に、正直に行動しよう。知らないことは知らないと言おう。出来ないことは出来ないと言おう。……磐の上に、小さい家を築こう。」

    「パンドラの匣」は「健康道場」という風変わりな結核療養所で、迫りくる死におびえながらも、病気と闘い、明るく精一杯生きる二十歳の青年と患者(塾生と呼ばれている)同士の交流、看護婦さん(助手と呼ばれている)との恋愛感情などを描いた青春ドラマだ。学園物でもない、病院ものでもない、閉ざされた特有の空間での青春ドラマ。新聞連載だったそうで、書き進むにつれて太宰自身が虚しい気持ちになり、連載を早々に切り上げたそうなので、ストーリーはなんだか盛り上がりにかける気がしたが、ドラマ化されたら面白いかもしれないと思った。

     

  • 「パンドラの匣」「正義と微笑」、戦中戦後期に書かれた青春長編二作。
    太宰の根底にある懐っこさに触れられた気がして何度も頬が緩んだ。

  • 『正義と微笑』がお気に入り。高校生の時に「なんで勉強なんかしなきゃいけないんだ」と、うじうじ考えていた時間に、本書に出会いたかった。でも、大人になってからの方が勉強の楽しさとか大事さが分かっているから、余計に言葉が染みる。

  • 今日6月19日が桜桃忌だと気付き、急遽太宰の作品を読む。

    戦後間もない時代、結核療養所「健康道場」を舞台に書簡形式で生き生きと綴られた物語。
    主人公の二十歳の男性「ひばり」と、互いに渾名で呼び合う仲間達や看護婦達との日々のやり取りは実に微笑ましい。
    特にひばりの恋にはキュンとなった。
    時代の違いを全く感じさせない。
    愛しい女性からの「かんにんね」の囁きに対し「ひどいやつや」とそっと呟くひばり。
    互いのままならない、想いの込められた短いやり取りが切ない。
    彼の歩む道はきっと陽の当たる方へ伸びて行くはず!
    希望に満ちた物語。

  • 「正義と微笑」
    自分のやりたいことを悩みながらも見つけていく姿を見て、自分本位でムカつくときもあったけど、良かった。
    「パンドラの匣」
    恋愛観というか、女性観は昔のもので共感はできないけど、昭和のツンデレ男子が見れた。コロコロ変わる気持ちがいかにもウブでかわいい。

  • 「正義と微笑」
    話が通じないという悩みの根底には
    儒教だの体育会系だのいった紋切型への嫌悪がある
    腹を割って互いの話を聞く姿勢を誰もが持ったならば
    そんな悩みはすぐに解消するだろう
    しかしそうはならない
    理由は様々だけど、紋切型に全部はめ込まなければ
    不安になってしまう人が大勢いるからだ
    どこに逃げてもそういう人々からは逃れられない
    そして、紋切型を嫌悪する自分もまた
    実はそういう紋切型に人々をはめ込もうとしているわけだ
    それらに気づいて絶望できなければ
    インチキな大人になるしかないだろう
    じゃあ最初の悩みを解消するために何をどうすべきかといえば
    結局、堕落を覚えて自らに幻滅するしかないのである
    そんな逆説を17歳で味わう人の日記
    対米開戦の直前に発表された作品であるらしい

    「パンドラの匣」
    身体が弱くて兵役検査に落ちたのだと思う
    肺病の悪化を周囲に隠したまま
    死ぬことばかり考えている若者がいた
    しかし玉音放送を聞いて憑き物が落ちたのか
    死ぬのをやめて療養所に入ることにした
    彼は看護の女たちに囲まれながら
    規則正しいモラトリアム生活を送ることになり
    日ごと変わりゆく社会情勢のなか
    恋と気づかぬような恋をするなどして
    欧米の自由主義とは異なった日本ならではの
    モラトリアムな自由に目覚めていく
    自堕落なのではない
    個々の献身によって優しい社会を作り、守ってゆく決意だ
    ただしそれは死に瀕した人への優しさなのかもしれないけれど…
    敗戦直後で何も決まってなかった頃の奇妙な呑気さを
    リアルタイムで書いた作品と言うべきだろう
    「トカトントン」の主題を肯定的に書いたらこうなった、みたいな
    戦争の悲惨さを思い出させるものはなにもなく
    そしてやっぱり結末は明るい

  • 「正義と微笑」は日記形式、「パンドラの匣」は書簡形式で書かれていて、著者と対話をしているような感覚で読み進められた。とても読みやすくて面白い。
    なかなかに辛辣な表現もあり、くすっと笑ってしまう表現もあり、なるほどと感心する表現もある。
    戦後の新しい世の中に踏み出す人々はこんな気持ちだったのかなあ、と、想像を膨らませて読むことができた。約80年前の人々の暮らしや思想、言葉遣いは今と違っていることもあれば、同じ部分もあって、なんだか面白い。
    「正義と微笑」の、勉強する意義を語る場面は本当に素晴らしいと思った。また、学生時代特有の、受験や将来に対する焦燥感や、自分は何者なのかといった悩みも書き表されていて、共感した。

  • 学問なんて、覚えると同時に忘れてしまってもいいものなんだ。
    けれども、全部忘れてしまっても、その勉強の訓練の底に一つかみの砂金が残っているものだ。
    これだ。これが貴いのだ。
    勉強しなければいかん。
    そうして、その学問を、生活に無理に直接に役立てようとあせってはいかん。
    ゆったりと、真にカルチベートされた人間になれ!
    p19

    人間は不幸のどん底につき落とされ、ころげ廻りながらも、いつかしら一縷の希望の糸を手さぐりで捜し当てているものだ。
     〜
    それはまるで植物の蔓が延びるみたいに、意識を超越した天然の向日性に似ている。
    p232

    この道は、どこへつづいているのか。
    それは、伸びて行く植物の蔓に聞いたほうがよい。
    蔓は答えるだろう。
    「私はなんにも知りません。しかし、伸びて行く方向に陽が当たるようです。」
    p402

    またいつか読み直したい。

  • 太宰治にしては設定に関わらず不思議に明るい2作。いずれも主人公が20歳前の青年だからであろう。
    ’’正義と微笑’’は芹沢進という主人公が一高に落ちてR校(立教?)に合格したものの幻滅して、姉は嫁ぎ先と実家との不仲に落ち込み(もっとも杞憂だったが)、結局は主人公はR校を辞めて当時でも明らかにアウトローな存在の役者に邁進するという、モラトリアム人間を描いた話。でも話が完結しているのと、これを戦時中に執筆したという点に満足。
    ’’パンドラの匣’’はひばりという主人公が健康道場に入院している間、竹さんという看護師とマア坊という看護師をめぐっての三角関係のようなものを展開した話。終戦直後に書かれている。恋の駆け引きの際のやりとりが太宰治の女性観を表しており、時代は違えど夏目漱石の’’明暗’’に通じる。

  • 「正義と微笑」
    青春期の清潔で純粋で高飛車な、フワフワとした理想家が、地に足をつけ現実の目標へと向かい始める、鮮やかな成長が嬉しかった。
    30代、青春を思い出しながら読んだが、10代に読んでいたらきっと違った感想を抱いていたと思うと、出会う時期の遅かったことに少し後悔。

    「パンドラの匣」
    パンドラの匣の隅に残っていた希望の種が、主人公ひばりにとって何なのかを探しながら読んだ。
    この時代、結核という病気は人を絶望させるに十分だったと思うが、戦後直後特有の命への執着の軽さや、だからこそどう生きるかという命題に向かっていく青年の純粋な葛藤は、今を生きる私たちにも投げかけてくるものがある。
    希望の種は、高潔な理想などではなく、心に秘めた清潔な恋心を指していたのか。
    恋こそ、明日を生きようとする 、生きてるからこその心の動きとも読めた。

  • 太宰特有の湿っぽい暗さがなく、明るく希望に満ちた作品だった。
    「正義と微笑」は希望を持って前に向かっていくという最後だったために、自分が太宰の作品を読んでいるということを忘れるくらいだった。
    太宰の暗さが苦手だという人には一度読んでもらいたい。
    きっと太宰の印象がこれまでとは違うものになると思う。

  • 「正義と微笑」との2編である。どちらも青春小説で、暗いところがなく好きだ。特に、「パンドラの匣」は、友人との書簡形式文章であるが、好きなのになんとも思わない振りをし続ける青年をいやらしくもなく書かれている。最後に素敵な文章が書かれている。

  • まだ少年の域から抜けきれていない、ちょっとばかしイタイ部分もある二十歳のヘタレ君の、キュートで明るく、そしてほろ苦い青春失恋小説です。  

    結核治療のため、終戦と同時に「健康道場」と称するまことに風変わりな療養所で暮らすことになった二十歳の青年「ひばり」。  
    彼は親友への書簡として、閉じられた退屈な世界の中のささやかで他愛もない日常を、青少年期という微妙な時期特有の悩ましさと滑稽さ、さらに、愚直さによって様々な色彩を加えながら、日々、綴っていきます。  
    自身を、何事にも惑わされない「あたらしい男」になったなどとうそぶき、硬派な男をよそおっているくせに、その実、最も多く記すのは、道場の奇怪な風習や同室のへんてこな男たちのことではなく、身近にいる女性たち ―― 仕事はできないけど、天真爛漫で愛らしくて、いつも彼を振り回す十八歳の若き看護婦「マア坊」と、優秀な年上の美人看護婦「竹さん」 ―― のこと。    

    愛嬌ある年下の小悪魔系美少女と、面倒見のよい年上美女の間で揺れ動く優男の話かい!!・・・と、途中でツッコミをいれたくなりますが、それだけでは終わらないところは、さすが、文豪の腕。  


    書簡という、身近な他者が「読み、返事を寄越してくる」ことを強く意識して描かざるを得ない特異な状況を文体として採用することで、親友にさへひた隠しにして胸に秘め続けたひばりの本心を最後の最後にようやく暴露させる手法や、三人の関係に終焉をもたらす予想外のどんでんがえしを暗示するかのように実は話の始めからちゃっかり織り込まれていた伏線の存在、好きな男への女心の機微の表出の仕方など、読み終わって振り返ると、思わずうなってしまう心憎い演出が散りばめられています。  
    若者特有の軽妙で少しばかり斜に構えた語り口と、内面的にも外面的にも精密になされた描写の絶妙な融合によって、多かれ少なかれ誰しもが持つ虚栄心と自己欺瞞、そして、実らなかったすれ違い両想いのほろ苦く優しい切なさとそれでも失われない希望を、暗さを感じさせないどころか、儚かった恋に傷つく大人になりきれない少年に愛おしささえ感じさせるように描ききった良作です。

    「正直に言う事にしよう。人間は不幸のどん底につき落され、ころげ廻りながらも、いつかしら一縷の希望の糸を手さぐりで捜し当てているものだ。それはもうパンドラの匣以来、オリムポスの神々に依っても規定せられている事実だ。」

  • 10代のころ太宰治がすごく好きだった
    手に取らなくなって久しかったが、久しぶりに女生徒を読んだのを皮切りに
    未読だったこの作品も読んだ。
    太宰治の著作の中で一番好きかもしれない。
    死の影を背負いながら、生きてること、人生を無条件に肯定しているぐらい、前向きで光に溢れた作品。
    よんでいるとフッと笑みが漏れる、作中の人物が全ていとおしい。

  • ・あらすじ
    「正義と微笑」
    芹川進という少年の16歳から18歳までの日々を綴った日記形式の作品

    「パンドラの匣」
    健康道場(結核療養所)にいるひばりという渾名の男の子が友人に宛てた書簡形式の作品

    ・感想
    どちらもYouTubeの朗読で聴いたのが初読?で、とても面白かったので活字で世界観に浸りたいと本を購入。
    私の好きな朗読者の方は読み方・声・演技(私が聴いてる方はただの朗読というより若干の演技(誇張された読み手の解釈が入っている)がとても太宰作品の雰囲気に合っていてもうそのイメージが固定されてしまっている所がある。
    今回はその雰囲気を保ったまま活字で読むことになったんだけど、なんだかよりこの作品たちの魅力が伝わってきてすごく面白かった!

    正義と微笑は太宰で一番好きな作品(次点は黄村先生言行録シリーズ)で初読?は朗読だったんだけどやはり活字で読むとまた違った魅力がある。
    芹川少年のあの年代特有の青臭さと潔癖さと万能感が微笑ましくて可愛い

  • 「パンドラの匣」もいいけど「正義と微笑」のほうが好きかな。
    「正義と微笑」の主人公が小生意気でタイヘンです(笑)人を見下す様子が可愛げなくて何度か本を閉じかけましたが、我慢して読んで良かった。

    お兄ちゃんとのやり取りも良い。

    「なんだ、もう行くのか。神の国は何に似たるか」と言って、笑った。
    「一粒の芥種のごとし」と答えたら、
    「育ちて樹となれ」と愛情のこもった口調で言った。

    作家のお兄ちゃん、流石よね。この部分に影響されて
    聖書もちょっと気になりましたよ。

  • こどもとおとなの狭間、どちらともいえないとき。

    若手の先生の、生徒たちへの言葉がとっても印象的…
    いつもと違って感情がのっていたからこそ、先生の言葉がやけにリアル?で、生徒たちに届いたんだろうなぁ

  • 「もう君たちとは逢あえねえかも知れないけど、お互いに、これから、うんと勉強しよう。勉強というものは、いいものだ。代数や幾何の勉強が、学校を卒業してしまえば、もう何の役にも立たないものだと思っている人もあるようだが、大間違いだ。植物でも、動物でも、物理でも化学でも、時間のゆるす限り勉強して置かなければならん。日常の生活に直接役に立たないような勉強こそ、将来、君たちの人格を完成させるのだ。何も自分の知識を誇る必要はない。勉強して、それから、けろりと忘れてもいいんだ。覚えるということが大事なのではなくて、大事なのは、カルチベートされるということなんだ。カルチュアというのは、公式や単語をたくさん暗記あんきしている事でなくて、心を広く持つという事なんだ。つまり、愛するという事を知る事だ。学生時代に不勉強だった人は、社会に出てからも、かならずむごいエゴイストだ。学問なんて、覚えると同時に忘れてしまってもいいものなんだ。けれども、全部忘れてしまっても、その勉強の訓練の底に一つかみの砂金が残っているものだ。これだ。これが貴いのだ。勉強しなければいかん。」

  • 太宰治作品の中では明るめの青春(?)小説。
    とても読みやすく、ページをめくる度めくる度、
    楽しく読めた。
    かるめの小説なのでオススメ。
    正義と微笑は、少年ながらの様々な感情が感じられるようで良かった。

  • パンドラの匣は太宰治がこんな話を書けるのかと初めて知った一冊。まず第一に言葉が良い。美しくて味わい深い。そして、結核治療の道場というのに内容は底抜けに明るくて脳天気で、そして生きることと性愛に必死で一生懸命な人物たちが良い。見え隠れする死よりも、今ここでの生に必死になり、一喜一憂しときに自己防衛的に自分を誤魔化したり騙したりする主人公には、可愛らしさも感じる。太宰治の暗いイメージが一気に覆される。

  • 太宰治作品は読まず嫌いで、今回初めて読んだのが
    このパンドラの匣。
    友人から太宰治作品にしてはポジティブな作品だよと言われチョイスしたのだが、うーん。自○という単語が割と多かったりなぜそこそうネガティブに捉えた!?と不思議に思うところがややあったので、他の作品がよほど暗めの作風なんだと気になる笑
    ただ人の感情を描写するところはやっぱりすごいし、
    正義と微笑では、勉強の必要性を感じさせてくれてこれこそ人を動かす純文学なんだと感じた。
    エンターテイメントの小説だけではなく、こういった学びのある純文学もこれから読んで、人生を豊かにできたらと思う。

  • 「囀る雲雀。流れる清水。
     透明に、ただ軽快に生きて在れ!」

    不幸と絶望が跋扈する匣に残る
    一条の光、或いは希望の糸。

    死病と闘う彼らの糸を編めば
    柔らかな毛布となり心を包む。

    「作者なんか、忘れられていいものだよ。」

    蔓は伸びる。陽の差す方へ。

    /////

    中後期の太宰作品で数少ない「希望」に満ちた小説。やっと読めた!『正義と微笑』『パンドラの匣』2作収録。

    『正義と微笑』序盤の勉強論が刺さり投稿したツイート、とっても多くの人に見て、色々教えても頂きました。感謝

    これを機に勉強に一歩踏み出せたり、本好きな人がもっと増えたら嬉しい!!

  • 「正義と微笑」との二作。R大に合格するも俳優という職業に挑戦する芹川進。「パンドラの匣」では健康道場という結核療養所で看護婦への恋愛感情に迷う小柴利助(ひばり)。二作とも人間観察力の鋭い青年が悩みながらも日々真面目に考え抜いて人として成長していく青春物語。大人経験が長くなるにつれ、適当にやり過ごし鈍感になって、いつしか失ってしまった若者の純粋な気持ちの揺れ動きが、vividに表現されていて懐かしく微笑ましい。結局、凡人の私には、何十年たっても働くことの本当の意味、愛することの本質はわからずじまいですが、それでも希望をもち続け陽が当たる方向に進むしかない、と思っております。

  • 色鮮やかな青春の苦悩と成長を美しく描いている2作品でした。
    「正義と微笑」は家族、主に兄との交流についてが主で
    苦悩や挫折を経験しながら俳優を目指していく姿が日記形式で描かれており、その時々のリアルな心情が其の儘に現れていて
    時に卑屈に頑なになりながらも必死で歩み、希望へと進む終わり方で非常に清々しい気持ちになりました。

    表題作「パンドラの匣」は書簡形式で、
    療養施設に居る主人公から親友への手紙といった内容でした。
    施設の様々な人との交流についてが主で、日常の報告でありドラマ感のある派手な内容ではないですが
    戦争終期〜戦後にかけて生きる人々の難しい心情が色鮮やかに美しく描かれていました。
    高望みせずありのままの自分を受け入れ未来を生きる道を得た時に、肩の荷が下りて酷く安心してしまうような表現は
    道化精神を貫いた太宰治自身、本当はこのような生き方がしたかったのではないか、と感じました。
    読み進めるうちにひばりが愛おしくて堪らなく、太宰が託した希望の世界をひばりが歩んでいることを切に願いました。

  • 2015.09.20再読。

    読み終わったになっていたけど、読んだ記憶がなかったんだけどな。

    『正義と微笑』
    高校受験に失敗し、俳優を目指す主人公の話。
    周囲は白痴ばかりと認識しながら、自分の才能に関しては臆病でもある。
    しかし、そういう自分を省みることが出来る点で読んでいて苦はなかった。すっきり前向き

    『パンドラの匣』
    最初の喀血シーン。怖っ!
    死を前にして、人はどう生きるのか。
    話の筋はあまり面白くなかったが、明るい太宰を読めた。

  • かっぽれさんの天然っぷりが素敵でした。ひばりのツッコミもなかなか。孔雀のあだ名を「孔雀が地味になったんだから一字取って雀にしよう」という案は機知に富んでていい。「亀は意外と速く泳ぐ」の主人公の少女二人の名前が孔雀と雀なのは、ここから来てるのかな?

  • 太宰治の作品にしては凄いポップな感じの作品です。自分は単純に太宰治は女性が本当に好きなんだなと感じた。いいも悪いもあれだけ深く観ているのは特定の人が好きなのではなく女性が好きなんだなと。
    この作品に関しては共感することも多く太宰治作品の中で1番楽に読めました。
    映画版も鑑賞したがこちらもいい出来でした。

  • 根拠もなく自分は特別なんだと思い込んでいて、
    そのくせちょっとした事で傷つきやすくて、
    自分にもこんな気持ちがあったなと、読んでいてうわぁーってなる。
    「パンドラの匣」と「正義と微笑」のどちらの主人公も
    青春のぐるぐるした感情に振り回されていてかわいらしい。

    手紙や日記形式の小説は盗み読んでるような感覚になるからか
    妙に惹き付けられるものがある。

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著者プロフィール

1909年〈明治42年〉6月19日-1948年〈昭和23年〉6月13日)は、日本の小説家。本名は津島 修治。1930年東京大学仏文科に入学、中退。
自殺未遂や薬物中毒を繰り返しながらも、戦前から戦後にかけて作品を次々に発表した。主な作品に「走れメロス」「お伽草子」「人間失格」がある。没落した華族の女性を主人公にした「斜陽」はベストセラーとなる。典型的な自己破滅型の私小説作家であった。1948年6月13日に愛人であった山崎富栄と玉川上水で入水自殺。

「2022年 『太宰治大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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