倫敦塔・幻影の盾 (新潮文庫)

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著者 : 夏目漱石
  • 新潮社 (1952年7月22日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (307ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101010021

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倫敦塔・幻影の盾 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

  •  表題作「倫敦塔」「幻影の盾」を含む夏目漱石の初期の7小品を収める。
     夏目漱石は明治38年1月に雑誌『ホトトギス』にて『吾輩は猫である』を連載開始。本書に収められた作品はその連載と並行して様々な雑誌に発表されたものである。
     ⑴「倫敦塔」 『帝国文学』明治38年1月号
     ⑵「カーライル博物館」 『学鐙』明治38年1月号
     ⑶「幻影の盾」 『ホトトギス』明治38年4月号
     ⑷「琴のそら音」 『七人』明治38年5月号
     ⑸「一夜」 『中央公論』明治38年9月号
     ⑹「薤露行」 『中央公論』明治38年11月号
     ⑺「趣味の遺伝」 『帝国文学』明治39年1月号

     本書の表題作「倫敦塔」を読む前に、インターネットで「ロンドン塔」の歴史や逸話に触れておくことを強くお勧めする。実は私自身、本書は二回目の挑戦。数年前に手に取ったが、一作目「倫敦塔」の前半で挫折した。まったく何が何やらわからずお手上げ状態で眠らせていた。しかし今回は、何とも面白くて読む手が止まらなかった。「ロンドン塔」に関する有名な逸話を扱っているため、事前に調べた情報と結びつき、主人公の妄想が鮮やかに躍り出す。こんなに面白かったとは…。5番目に収められた「一夜」以外は面白く読むことが出来た。
     これらの作品が一年の間に発表され、そして「猫」の連載が一貫して続く。「猫」とこれらの作品を比べても、方向性や執筆動機や目的が明らかに違うことがわかる。夏目漱石の中で、何か精神のバランスを取ろうともがいている?と感じてしまった。

  • 端正なお顔に髭が立派で癇癪持ちの小説家である前に「英文学者」なことに気付かされ、やはり漱石先生は英国の文学のみならず文化、歴史に学者+東大ならではの能力で吸収したんだな!と気づき、そういう認識の薄かったことにびっくりしてしまった。そうです、漱石先生はそういう能力のある人なのです。

    文語、漢文読み下し文は読了に困難。
    イギリスでの体験から来る4編は英文学の知識と文化的建造物?を前に漱石が空想の世界へすうっと入っていく調子が分かり、ものすごい創作力。残る言文一致の2作は江戸っ子ならではの口調に、英国文学をまったく匂わせないし、1編の詩的な情景は甘美。
    これが専業作家前夜の作品群とはすばらしいさまざまな文体。
    英国でも神経を病んだようだけど、その後も妻に狂気と思われる激しい幻想癖。今なら不思議くんで通れるのにと思われる夢想家な様子を思い描く。

    とにかく色彩に満ちた作品群。描かれているアーサー王やイギリスの騎士物語はアン(赤毛の)が扮したり朗読した物語でもあったことに気づき、それらはアンがあこがれ、漱石先生も憧れた懐かしい物語に再会した気分。

  • 漱石は文豪なんだよ凄い人なんだってとわかっている筈なのに、どうも吾輩は猫なんて庶民的な作品のイメージからか侮りつつ読み始める感じなんですが、いきなり「倫敦塔」で度肝を抜かれ。
    何これ、基本英国史、それにダンテにシェークスピアに仏教の無一物に終いには都々逸まで!何この人、本当に万能なんじゃないの。何でも知りすぎでしょうよ。
    あと「一夜」がお気に入り。「草枕」や「虞美人草」に近いかなと。綺麗綺麗しい文章。艶やか。
    でも「幻影の盾」と「かいろ行」はこの人こういうのは向かないんじゃ?と思っちゃったけど。日本の話に英文的雰囲気が有るのは良いけど逆はなんだかな。英国紳士に和傘持たせるような違和感。

    でもなんだかんだで圧倒的なる筆力に畏まって読み進めていたのに、また「趣味の遺伝」で笑わされ。趣味の遺伝って結局一目惚れってこと?しかし一度合った美人が何処の誰だろうという問題を「そうだ、この問題は遺伝で解ける問題だ。遺伝で解けばきっと解ける」ってどんな思考回路だ!あと高跳びを応用したチラ見にも笑い。

    うーん漱石。勿論凄いんだけれど、彼はちょっと高みに置くには面白すぎる。

  • 倫敦に行くのならば読まねばなるまい。
    そんな考えの元のチョイス作品の一つ、


    いやはや予想だにしなかった。
    あまたと日本作家がいるものだが、まさか夏目漱石に読みにくい作品があるなんて私は思いもしなかった。
    「親切丁寧・夏目漱石」
    が私の中の漱石のイメージである。
    それが裏切られてしまった。


    もともと物語がどうのこうの、という意味でこれを読み始めたのではない。
    倫敦に行った文人=夏目漱石のチョイスである。
    だから「倫敦塔」「カーライル博物館」は現地の見聞録として楽しめたのだが、それ以外の物語でかなりうんざりしてしまった。
    特に「幻影の盾」。
    なんとも追いかけづらいのだ。
    話がぽんぽんと訳のわからない方向に流れて、あべこべすぎる。というわけではないのだが、読みにくく何となくめんどくさい感じで描かれている。
    なぜなのか、わからんさ。
    ただ、読みにくいというよりは、とっつきにくいといった方がいいのかもしれない。
    基本的に私は美文調というものが苦手なのである。
    そのためものすごく時間を消耗してしまった。
    そしてその割にはあまり内容が心に残らなかった一冊である。



    印象的であった短編としては「趣味の遺伝」だろう。
    冒頭の描写、これはやはり舌を巻くものがある。
    以下引用してみる。

     ”陽気のせいで神も気違になる。
      「人を屠(ほふ)りて餓えたる犬を救え」と雲の裡より叫ぶ声が、逆しまに日本海を撼かして満洲の果まで響き渡った時、日人と露人ははっと応えて百里に余る一大屠場を朔北(さくほく)の野に開いた。
      すると渺々(びょうびょう)たる平原の尽くる下より、眼にあまる狗(ごうく)の群が、腥(なまぐさ)き風を横に截(き)り縦に裂いて、四つ足の銃丸を一度に打ち出したように飛んで来た。
      狂える神が小躍りして「血を啜れ」と云うを合図に、ぺらぺらと吐く炎の舌は暗き大地を照らして咽喉を越す血潮の湧き返る音が聞えた。
      今度は黒雲の端を踏み鳴らして「肉を食え」と神が号(さけ)ぶと「肉を食え! 肉を食え!」と犬共も一度に咆え立てる。
    やがてめりめりと腕を食い切る、深い口をあけて耳の根まで胴にかぶりつく。
      一つの脛を啣(くわ)えて左右から引き合う。
      ようやくの事肉は大半平げたと思うと、また羃々(べきべき)たる雲を貫ぬいて恐しい神の声がした。
      「肉の後には骨をしゃぶれ」と云う。
      すわこそ骨だ。犬の歯は肉よりも骨を噛むに適している。狂う神の作った犬には狂った道具が具わっている。
      今日の振舞を予期して工夫してくれた歯じゃ。鳴らせ鳴らせと牙を鳴らして骨にかかる。
      ある者は摧いて髄を吸い、ある者は砕いて地に塗(まみ)る。
      歯の立たぬ者は横にこいて牙を磨ぐ。”



    何という混沌。
    びっくりした。
    漱石にそんな慣れ親しんではいないが、さらっと描写をしてくる作家である認識ぐらいはある。
    さらりとしているが、けして淡泊なのではなくて、受け入れやすい美しさを描く。
    的確なのである、そして灰汁がない。
    そんな漱石がこんな風に描くとはおもわなんだ。
    この人が「蜘蛛の糸」のように地獄を描写をした物語を描いたらそれはそれはおもしろいのではないだろうか。
    私は漱石の著作を全部を読んでいないのでそんな気配を探すのも一興である。
    「趣味の遺伝」は全体としても不思議な描き方で描かれている。
    主人公である私がとても強い。
    帰還兵を迎えたお祭り騒ぎの中で旧友である浩さんにそっくりな人物を目撃し、その姿に彼の墓を参った先である女とのすれ違い、そこに恋物語をうまく鋳造する。
    わかりやすい彼の分析を通した物語は、何とも予想通りのままのそれであるという。
    物語として... 続きを読む

  • 趣味の遺伝、面白かった

  • 漱石の初期短編集7編を収める。古雅な文体でもありすらすら読むこと能わず、生硬な感じを否めず。

    英国中世の騎士物語に材をとったとされる「幻影の盾」、「薤露行」は、叙事詩的な内容を明治の古い文体で書いている。そのため、正直とても読みづらいのであった。
    「倫敦塔」は、いわばロンドン塔探訪記なのであるが、かつてその監獄に閉じ込められ、命を絶たれた者たちのうめきの声や幻影が、眼前の石壁に次々に立ち上がるという、自由で大胆な構成で、それなりに面白い。
    「カーライル博物館」は、評論家カーライルの生家が博物館となっているところを訪ねたもので、随想・紀行文。7編のなかでは最も読み易い。

    その他の3編は明治期日本を舞台にした掌編である。「趣味の遺伝」だが、この“趣味”は、男女が互いにひきあう縁、つまり異性の好み、の意なそうである。
    墓所で見かけた美人が頭から離れず、この女性の身元について、あれこれ思案し推理していくという話。過去の同様の男女のエピソードに遡って推理。その子孫もまた、異性の好みや出会い方も同様に違いない、とする恋愛スタイル遺伝理論らしい。

    「琴のそら音」は、“むしの知らせ”ともいうべき感覚を描いた短編。心配になって許嫁の家を訪ねる。この小品は、淡々とした日常がベースなので、後の漱石の作品のような親しみやすさと読みやすさがある。

  • 夏目漱石の初期の短編集。イギリスが舞台になっていたり、イギリスの神話をもとにしていたり、イギリス留学の影響を強く感じる1冊です。
    文体が古いものも多く、少し読みにくかったです…

  • 『倫敦塔』を読みたくなって購入。
    最初期の作品を集めたもので、小説とも随筆ともはっきりしない散文も収録されている。
    ある種の幻想風味は後の『夢十夜』に通じるのだろうか。

  • おそろしいほどに音としての言葉が美しい。

  • 「倫敦塔」と「カーライル博物館」は英国留学時の経験をのべたもの、「幻影の盾」と「薤路行」は中世騎士ロマンスで美文が駆使してある。「琴の空音」は怪談にちかく、「一夜」は草枕のような美的世界が書いてある。最後の「趣味の遺伝」は日露戦争で亡くなった友の恋人への思いを推理するものである。とても多彩で表現も面白い短編集である。

  • 漱石の最初期の作品集。アーサー王伝説を漱石流解釈で再構築した「幻影の盾」のような作品は、文体が古臭すぎて読み辛かった。随筆と小説の中間のような「琴のそら音」がこの中では完成度が高い。

  • 『ぼくらの頭脳の鍛え方』
    文庫&新書百冊(佐藤優選)177
    文学の力・物語の力

  • (1980.08.09読了)(1966.06.12購入)
    (「BOOK」データベースより)
    イギリス留学中に倫敦塔を訪れた漱石は、一目でその塔に魅せられてしまう。そして、彼の心のうちからは、しだいに二十世紀のロンドンは消え去り、幻のような過去の歴史が描き出されていく。イギリスの歴史を題材に幻想を繰りひろげる「倫敦塔」をはじめ、留学中の紀行文「カーライル博物館」、男女間における神秘的な恋愛の直観を描く「幻影の盾」など七編をおさめる。

    ☆夏目漱石さんの本(既読)
    「三四郎」夏目漱石著、新潮文庫、1948.10.25
    「それから」夏目漱石著、新潮文庫、1948.11.30
    「門」夏目漱石著、新潮文庫、1948.11.25
    「坊ちゃん」夏目漱石著、新潮文庫、1950.01.31
    「明暗(上)」夏目漱石著、新潮文庫、1950.05.15
    「明暗(下)」夏目漱石著、新潮文庫、1950.05.20
    「道草」夏目漱石著、新潮文庫、1951.11.28
    「こころ」夏目漱石著、新潮文庫、1952.02.29
    「行人」夏目漱石著、新潮文庫、1952..
    「草枕・二百十日」夏目漱石著、角川文庫、1955.08.10

  • 漱石の中ではかなり難読に入るだろうか。あくまで個人的に。

  • 夢十夜が好きな人におすすめとあった本たけど、私はあまりそうとは思わないかな。

  • 幻影の盾はタイトルからして漱石らしからぬ雰囲気を感じたが、
    やはり中身も漱石らしくなかった。頭ごなしに否定しているわけではない。
    こころや坊っちゃんなどの代表作からはかけ離れた、普段
    お目にかけられない作風に出会えた貴重な機会であった。

    個人的には、倫敦塔でも幻影の盾でもなく、一番最後の趣味の遺伝が
    一番気に入った。やはり漱石には漱石らしい作品がふさわしい。

  • 表題作「倫敦塔」「カーライル博物館」読了。
    世界史の知識ほすぅぃ…

  •  明治33年10月より2年間漱石は英国に留学した。どこに行っても日本人がうようよ状態の現在と違って、当時は海外で生活する日本人は少なく、とても心細かっただろうと想像される。
     元々神経質だった漱石は「英国人全体が莫迦にしている。そうして何かと自分一人をいじめる。これほど自分はおとなしくしているのに、これでもまだ足りないでいじめるのか」と思い詰めるほどの神経衰弱にかかってしまい、周囲の者に心配を掛けていたという。
     しかし、この外国生活は作家としての漱石に大きな影響を与えたのは間違いない。 というのも、漱石は明治38年一月の「ホトトギス」に「吾輩は猫である」の第一編を発表して小説家としての第一歩を踏み出しているが、それと並行して「帝国文学」の一月号に発表したのがこの「倫敦塔」である。
     さて、作品は『二年の留学中只一度倫敦塔を見物した事がある。その後再び行こうと思った日もあるが止めにした。人から誘われた事もあるが断った。一度で得た記憶を二辺目に打壊わすのは惜い、三たび目に拭い去るのは尤も残念だ。「塔」の見物は一度に限ると思う』という感想から始まる。
     恐々ながら一枚の地図を案内として、漱石は倫敦を徘徊した『無論汽車へは乗らない、馬車へも乗れない、滅多な交通機関を利用仕ようとすると、どこへ連れて行かれるか分からない。(略)予は已むを得ないから四ツ角へ出る度に地図を披いて通行人に押し返されながら、足の向く方角を定める。地図で知れぬ時は人に聞く、人に聞いて知れぬ時は巡査を探す、巡査でゆかぬ時は又外の人に尋ねる』
     もちろん、「夏目の語学は行く船の中からあちらの方に賞められたというくらいだからだいじょうぶでしょう」と夏目鏡子が「漱石の思いで」の中で書いているぐらいだから、会話には自身があったのだろう。
     ダブルデッカー(二階建てバス)とアンダーグランド(地下鉄)を利用し、タワーヒル駅で降りる。地下から上がればすぐ目の前に『空は灰汁桶を掻き交ぜたよう様な色をして低く塔の上に垂れ懸っている。壁土を溶かし込んだ様に見ゆるテームスの流れは波も立てず音もせず無理矢理動いているかと思われる。(略)見渡したところ凡ての物が静かである。物憂げに見える、眠っている、皆過去の感じである。そうしてその中に冷然と二十世紀を軽蔑する様に立っているのが倫敦塔である』と書いている堀と城壁に囲まれた中世風の城と、その向こうにタワー・ブリッジが見える。
     倫敦塔は、王室の居城としても使われたが、貴族や王室関係者の牢獄としての役割をしていた。しかも、死刑執行場ともなっていて、ここで処刑された囚人は数知れなく、権力争いで殺された、王子や妃も多く、暗いイメージが定着しているようだ。
     ビーフイーター(衛兵)の案内で館内を見学する。リチャード二世が殺された白塔。作品中で、死刑執行人が斧を研ぎながら「切れぬ筈だよ女の頸は恋いの恨みで刃が折れる」と歌っていたボーシャン塔。エドワード王子(12才)とその弟が叔父に殺されたといわれている血染めの塔(ブラディタワー)を案内される。
     帝王の歴史は悲惨の歴史であったと漱石は書いているが、まさに謀略のために血が流された歴史でもあったのだろう。
     塔内見学途中で、気分が悪くなり早々に引き上げる。タワー・ブリッジに冷えた体でたどり着くと、風はますます強くなり、時折霙までが横殴りに吹き付けてきて、凍てつく気分になる。にぶく濁って波立ったテームズ川の向こうは、怨霊が倫敦塔を渦巻いて騒いでいるように強風が吹き荒れていた。

  • 全体的に『夢十夜』に似た作品集。幻想的な雰囲気が味わえました。

  • ラファエル前派の絵画を思い出す。
    「草枕」にもミレイの「オフィーリア」が登場した。
    作中人物が、あれの日本版を描きたいと言及していたっけ。

  • 表題の2作品は非常に詩的なのでとっつきにくいかも。ただ漱石ここにありって感じ

  • 夏目漱石ではこれが一番好き

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倫敦塔・幻影の盾 (新潮文庫)の作品紹介

イギリス留学中に倫敦塔を訪れた漱石は、一目でその塔に魅せられてしまう。そして、彼の心のうちからは、しだいに二十世紀のロンドンは消え去り、幻のような過去の歴史が描き出されていく。イギリスの歴史を題材に幻想を繰りひろげる「倫敦塔」をはじめ、留学中の紀行文「カーライル博物館」、男女間における神秘的な恋愛の直観を描く「幻影の盾」など七編をおさめる。

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