倫敦塔・幻影の盾 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101010021

作品紹介・あらすじ

イギリス留学中に倫敦塔を訪れた漱石は、一目でその塔に魅せられてしまう。そして、彼の心のうちからは、しだいに二十世紀のロンドンは消え去り、幻のような過去の歴史が描き出されていく。イギリスの歴史を題材に幻想を繰りひろげる「倫敦塔」をはじめ、留学中の紀行文「カーライル博物館」、男女間における神秘的な恋愛の直観を描く「幻影の盾」など七編をおさめる。

感想・レビュー・書評

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  • 漱石初期の短編集 

    【倫敦塔】1905年
    留学中の倫敦塔観光記
    英国の歴史を塔の中に感じ、戯曲「リチャード3世」・絵画「ジェーングレー」などからの発想を ブラックファンタジー的に随所に表現。観光後、現在イギリス人(当時の)に現実に戻される。興醒めして(たぶん)もう二度と行かないとか言う。
    観光記でも普通には書きません。

    【カーライル博物館】1905年
    留学中のカーライル博物館訪問記 備考によると、味の素の発明者・池田菊苗さんと訪問しているらしい。まだ、海外渡航は珍しいから、外国で会うと仲良くなるのかしら。
    たぶん、漱石はカーライル大好きに思える。見学中の表現は、案内のおばさんをあんぱんみたいだとか、ベッドをたいしたことないような事言ったり、口が悪いけど、蔵書目録を発表したりね。

    【幻影の盾】1905年
    アーサー王物語・北欧神話を元に、「一心不乱」を書いたらしいのだけど、前説で上手くいかなかったみたいな言い訳している。
    主人公ウィリアムは霊を宿す盾を持つ。戦闘中の相手の城に恋人がいる。いよいよ戦争が始まり、恋人を助け会いたいのだが、戦火が回る。
    その後からは、幻かなと思う。馬が飛んできて、それに乗って南へ走る。女神が出てきて、盾に問えみたいなこと言われて、盾の中で恋人と会う。こんな感じ?元の話を知らないので難解でした。

    【ことのそら音】1905年
    異質の頑張った怪談風小説。
    結婚間近な主人公の周辺に起こるちょっとした怪談風出来事。ラストでほぼ全部解決して、めでたしめでたし。

    【一夜】1905年
    難解。「吾輩は猫である」の作中で「一夜」の事を
    誰が読んでも朦朧として取り留めがつかないとか書いてあるらしい。やめてほしい、3回は読んだんですけど。人生を書いたので小説を書いたのではないと。
    登場人物は、髭のある人、髭のない人、涼しき眼の女。三人で禅問答みたいな会話して、最後は、思い思いに一緒に寝ちゃう。
    森鴎外の「寒山拾得」的。

    【薤露行】1905年
    アーサー王物語題材。擬古体。
    ○夢 アーサー王円卓の騎士らと試合に出発。
       騎士ランスロットは仮病を使って王妃と密会
       バレそうなので急いで試合に行く
    ○鏡 魔法の鏡に映るランスロット
       それを見たシャロットの女。鏡は割れる。
       ランスロットへの呪いをかける
    ○袖 古城に住まうエレーンは一夜泊めたランスロ 
       ットを好きになり袖を兜に付けさせる
    ○罪 試合は終わり皆帰るが、ランスロットは帰ら         
       ない。王妃は密通の糾弾を受ける。
    ○舟 エレーンはランスロット行方不明のショック
       断食自殺
       死体を乗せた舟は王妃のもとへ
    ランスロット持てすぎ疑惑あり。

    【趣味の遺伝】1906年 書いたのは1905年かな
    これは、なかなか良いです。
    主人公は一貫して、余。
    日露戦争で亡くなった、尊敬していた先輩を思い出す。戦争で、目を引く活躍をしただろうと想像する。ここの表現が、生き生きとしすぎて物悲しい。
    後半は、先輩の好きだった女性を探しだすという感じ。

    だいぶ時間かけて読み切ろうとは思ったのだけど、英文学に無知で難解すぎました。

  • 初期短編集(明治38〜39年)。言文一致の現代書き言葉ではない作品もあったりする。近代日本文学直前のプロトタイプ集とでも呼びたくなる。作品ごとに変化するチャレンジングな表現が面白い。個人的には「趣味の遺伝」のサイコパスすれすれのユーモアがツボだった。

  • 夏目漱石の短編集。

    「幻影の盾」「薤露行」「一夜」はただただ美しさにうっとりする。
    美文調は正直何を言っているのかわからない部分もあるが、短編なのでさほど苦痛にならず、美しい絵をただ眺めるような気持ちで読める。

    漱石の戦争観を垣間見ることができる「趣味の遺伝」は面白い。
    主人公は戦死した友人にたびたび思いを馳せる。戦死の場面(あくまで想像)は白黒のショートフィルムを見ているよう。「塹壕に入ったまま上がってこない」というシンプルな表現が繰り返されることで、明るく平和な日常生活の中、サブリミナルのように戦場と死がちらつく。
    遺された者たちの思いが清らかで切ない。
    畳みかけるようなラストひと段落も胸を打つ。

  • 「倫敦島」のみは再読だった。
    夏目漱石の作品は一読だけでは理解し難く、全体像を把握出来なかった。
    伝説小説を基にして書かれた幻想的な「幻影の盾」「薤露行」は、「アーサー王」を読んだ事がないので分からなかった。
    しかしこの二作品は、是非とも映像で観たいと思わせる程流麗な描写が印象的だった。
    現代で言えばファンタジーになるだろうか。
    漱石には「倫敦塔」をはじめとした暗さが先入観にあったが、意外にもメルヘンチック且つロマンチックな一面を持っているのだなと感じた短編集だった。
    近代小説風の「琴のそら音」が最も純文学らしくて気に入った。

  • 漱石がロンドン留学中の折、ロンドン塔を見学した時の感想文。内容は今にして見るとそんなに深くないんだろうけど、言語の豊かさが見事。

    「幻影の盾」途中で挫折。

  • 漱石は悪くない。ただ僕の集中力と読解力が不足しており、ほとんどページをめくっているのか読んでいるのかわからない感じになり、唯一真面目に読んだのは「解説」という有様。もはや漱石の筆ですらない。自分の実力不足を切に感じた。

  • 初めて読んだのは19歳(遠い目)あの時に読んだ、幻想がちで胃痛(真似した訳でなく、高校時代から胃カメラ飲んでた正味の胃炎持ちだった)持ちの私が、勝手に漱石に親近感を感じて読んで読んで読みまくった中で、特に共感してしまった作品。まぁ、ウルトラ有名作家の有名作なので細かい説明はしませんが、イギリス留学中にロンドン塔に行った漱石の旅幻想妄想エッセイのようなもんです。冒頭からロンドン塔の見物は一度に限ると思うと言い切ってしまったのは、なんでなのかというのが読み進めば理解できる。やっぱり漱石ってヲトメだなぁ、、と思いますねぇ。

  •  表題作「倫敦塔」「幻影の盾」を含む夏目漱石の初期の7小品を収める。
     夏目漱石は明治38年1月に雑誌『ホトトギス』にて『吾輩は猫である』を連載開始。本書に収められた作品はその連載と並行して様々な雑誌に発表されたものである。
     ⑴「倫敦塔」 『帝国文学』明治38年1月号
     ⑵「カーライル博物館」 『学鐙』明治38年1月号
     ⑶「幻影の盾」 『ホトトギス』明治38年4月号
     ⑷「琴のそら音」 『七人』明治38年5月号
     ⑸「一夜」 『中央公論』明治38年9月号
     ⑹「薤露行」 『中央公論』明治38年11月号
     ⑺「趣味の遺伝」 『帝国文学』明治39年1月号

     本書の表題作「倫敦塔」を読む前に、インターネットで「ロンドン塔」の歴史や逸話に触れておくことを強くお勧めする。実は私自身、本書は二回目の挑戦。数年前に手に取ったが、一作目「倫敦塔」の前半で挫折した。まったく何が何やらわからずお手上げ状態で眠らせていた。しかし今回は、何とも面白くて読む手が止まらなかった。「ロンドン塔」に関する有名な逸話を扱っているため、事前に調べた情報と結びつき、主人公の妄想が鮮やかに躍り出す。こんなに面白かったとは…。5番目に収められた「一夜」以外は面白く読むことが出来た。
     これらの作品が一年の間に発表され、そして「猫」の連載が一貫して続く。「猫」とこれらの作品を比べても、方向性や執筆動機や目的が明らかに違うことがわかる。夏目漱石の中で、何か精神のバランスを取ろうともがいている?と感じてしまった。

  • 端正なお顔に髭が立派で癇癪持ちの小説家である前に「英文学者」なことに気付かされ、やはり漱石先生は英国の文学のみならず文化、歴史に学者+東大ならではの能力で吸収したんだな!と気づき、そういう認識の薄かったことにびっくりしてしまった。そうです、漱石先生はそういう能力のある人なのです。

    文語、漢文読み下し文は読了に困難。
    イギリスでの体験から来る4編は英文学の知識と文化的建造物?を前に漱石が空想の世界へすうっと入っていく調子が分かり、ものすごい創作力。残る言文一致の2作は江戸っ子ならではの口調に、英国文学をまったく匂わせないし、1編の詩的な情景は甘美。
    これが専業作家前夜の作品群とはすばらしいさまざまな文体。
    英国でも神経を病んだようだけど、その後も妻に狂気と思われる激しい幻想癖。今なら不思議くんで通れるのにと思われる夢想家な様子を思い描く。

    とにかく色彩に満ちた作品群。描かれているアーサー王やイギリスの騎士物語はアン(赤毛の)が扮したり朗読した物語でもあったことに気づき、それらはアンがあこがれ、漱石先生も憧れた懐かしい物語に再会した気分。

  • 漱石は文豪なんだよ凄い人なんだってとわかっている筈なのに、どうも吾輩は猫なんて庶民的な作品のイメージからか侮りつつ読み始める感じなんですが、いきなり「倫敦塔」で度肝を抜かれ。
    何これ、基本英国史、それにダンテにシェークスピアに仏教の無一物に終いには都々逸まで!何この人、本当に万能なんじゃないの。何でも知りすぎでしょうよ。
    あと「一夜」がお気に入り。「草枕」や「虞美人草」に近いかなと。綺麗綺麗しい文章。艶やか。
    でも「幻影の盾」と「かいろ行」はこの人こういうのは向かないんじゃ?と思っちゃったけど。日本の話に英文的雰囲気が有るのは良いけど逆はなんだかな。英国紳士に和傘持たせるような違和感。

    でもなんだかんだで圧倒的なる筆力に畏まって読み進めていたのに、また「趣味の遺伝」で笑わされ。趣味の遺伝って結局一目惚れってこと?しかし一度合った美人が何処の誰だろうという問題を「そうだ、この問題は遺伝で解ける問題だ。遺伝で解けばきっと解ける」ってどんな思考回路だ!あと高跳びを応用したチラ見にも笑い。

    うーん漱石。勿論凄いんだけれど、彼はちょっと高みに置くには面白すぎる。

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著者プロフィール

1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)にて誕生。帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、『吾輩は猫である』を発表。翌年、『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表。1907年、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。

「2021年 『夏目漱石大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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