彼岸過迄 (新潮文庫)

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著者 : 夏目漱石
  • 新潮社 (1952年1月22日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (307ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101010113

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彼岸過迄 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

  • 本書名は著者が最初に記すように、元日から書き始めて、彼岸過迄に書き終えるぞ!という決意をそのまま書名にしたとのことで(笑)、本人いわく「実は空しい標題」であるとのこと。しかし、一方で「自然派」でも「象徴派」でも「ネオ浪漫派」でもなく、そうした色分けではなく「自分は自分である」という孤高宣言をした上で、明治知識人を対象とした小説を書くのだという気概も謳い上げられている。短編を紡いで長編にするという構想の下に、当時の朝日新聞に連載されたものとのこと。
    最後に著者は、敬太郎という主人公に「世間」を「聴く」だけという役割を与え、彼を取り巻く人々の諸相を描いたとしているが、むしろ、前半は敬太郎が主人公そのものになって、就活中の身の上ながらも冒険心を内に秘めた性格として描かれ、隣人との関係のこと、占いをしてもらう話、知らない人の尾行を依頼されての任務経緯などお気楽な話が続きます。(笑)新聞紙上での連載ということもあって、テンポの良い1章1章の流れにのって割とスラスラ(そしてダラダラ)物語が進んでいく感じです。
    しかし、後半から一転、尾行した家の娘の死の話から始まって次第に物語が重くなり、本書の後3分の1頃からは、実主人公が敬太郎の友人の須永に変わった上で、従妹の千代子との結婚問題に苦悩する心理描写が重たく描かれることになる。知識が逆に内向・深読み化する方向へ向かいがちな須永が、母と千代子との板挟みに苦しむ姿の描写は漱石ならではの展開でとても秀逸。千代子が須永へ、愛してもいない自分に何故嫉妬するのかと罵倒するシーンはボルテージ満開で最高のシーンでした。(笑)そして、須永に千代子を強いる母のプレッシャーとその想いの根源にも重圧感どっしりです。
    読者をその共感に引き込む巧みな描写力でなかなかの深い感慨が残る後半と、前半のお気楽さの差には驚きました。(笑)これは2冊の本に分けても良かったのではないかな・・・。途中からの路線変更ですが、過去を語る須永の話は敬太郎とともに読者は現在をわかっているので、ある意味、安心して読めてしまいますしね。それぞれの短編物語に明確な結末がないのは、経緯そのものを読者への印象として強く残すことになっている。

  • 20131230読了。

    漱石先生、後期三部作の一作目。
    特に印象に残ったのは、「報告」のなかで、田口を批評する松本のことばと、「須永の話」での、市蔵の千代子に対する嫉妬と自意識との葛藤の様子。

    上滑るように生きなければ、またたくまに精神を病んでしまうような現代人の生きづらさへの漱石先生なりの警鐘を感じた気がした。

    誰もがなにものでもない市井の人として生きていくなかで人一倍、自意識のなかに埋没し自意識のみを肥大化させた須永。愛に対峙したときでさえ、自尊心から心を解放できないさまは、見ていて心苦しいがそれもまた“正直”であることの一面だと思った。

    たしかに、『こころ』や『それから』ような劇的な展開はないけどだからこそ、実生活においてそこらじゅうに転がる人間の本質が垣間見える気がした。

  • バブル期のトレンディドラマのような、どうでもいい男女の空騒ぎがいつまでも続く。けれど普段から自分の仕事、事業、実績、学業などがどの様に評価されているかが気になって仕方ない現代人の小市民性と、その気もないのに千代子のことでイチイチ嫉妬する市蔵の自意識が重なる。世の中と接触する度に内へとぐろを捲き込み、刺激が心の奥に食い込む性質というのは鬱陶しいが、巷説の新型「うつ」だと原因を外に求めて、これっぽちも自分の責任を考えないという点で全く違うし、流石の漱石もそこまで現代の病魔が進むとは考え及ばなかったに違いない。

  • 気づけばすっかり須永に感情移入してしまう作品でした。タイトルもちっと何とかならなかったのか(笑)と思いつつ、なんというか本人が考えてることと第三者から見た本人像ってどっかずれてたりするよなぁと思いました。敬太郎視点の話では須永とかいう高等遊民甘ったれたこと言うなよー家が裕福だから退嬰主義気取れるんだろうがって印象でしたが、須永視点に話が変わると、彼のじめじめネバネバした思考(ほんとに思うだけ思って考え尽くすけど行動には決して移さない)に虜になっていました。千代子に対する一言じゃ表白しきれない気持ち、自分でも原因がわかるような判らないような嫉妬心、多分好きなんだけど、結婚することはお互いにとっていい方向に行かないと理解しちゃってるところ、自分なんかより男らしくて爽やかな高木のほうが絶対千代子にとってお似合いだ〜でもむかつく〜みたいな心のなかで繰り返す矛盾。
    個人的に一番ドキッとしたのは、須永が、松本叔父さんに自分で考えみなよと言われて泣く場面です。どうにかしたいのに誰も何も言ってくれない、そもそも自分でもどうしたらいいのか判らない、気持ちを言葉にしきれない時って感情的になってしまうよなと思いました。とにかく須永がいじらしくて……。
    こころでも感じたけど、この作者が書くモノローグがとても好きです。物語に出てくる高等遊民が先生とか須永みたいなキャラクターばっかだったら私は読み漁りまくるぞ。

  • 敬太郎が関わった人たちそれぞれを主人公にして話が展開していく、スラップスティックな構成。写生文というジャンルなんですね。
    なんだか全体的に静かな小説。
    外からみるのとその本人が考えてることなんて随分隔たりがあって、詰まるところ人ってわかんないなぁと思った。
    高等遊民に憧れる一方、やりがいを感じて日々幸せな生活があれば普通でも十分だと思えました。

  • 漱石作品に共通しているのは肉親への諦観と、コケティッシュな女に振り回されたいという願望と、いっそ馬鹿が羨ましいよというある意味選民思想の様なもの。故に漱石作品が好きなんですが。

    特にこの作品は、「これじゃダメだと思って昔は色々努力もしてみたけれど、それが悉く失敗に終わったので今じゃすっかり諦めて表面だけ取り繕ってるよ」みたいな漱石の肉親観がモロに出ていた。血のつながりがない場合もあるから親族観って言った方がいいのかな。滲み出るなぁ。ただそんな経験をしてない人が読んだら全く別の見方をするのかもと思わなくもない。

  • 印象に残っているのは宵子の死の場面。漂う線香の煙が見えるようだった。骨を拾う時の、もうこれは人じゃないという感じがリアルで、市蔵の言葉があまりに冷淡で少し気になる。
    読み進めていくうちに市蔵に対するイメージが変わり、次第に共感を覚えるようになっていった。空虚な努力に疲れていた、という一文が刺さった。

  • 文学作品の重みを抹殺しない軽妙洒脱な文体で流石夏目漱石だと感動した。
    100年前以上に書かれたにも拘らず全く古臭い
    男女の複雑な関係が細密に描かれていて、思わず読者を惹き込むのが上手い。
    連作短編集なので時々視点が変化する為、時系列を推測するのが少々難しい。

  • 高校生の頃に読んだ。終いまで鉛筆で手書きのルビがふってあった。でも内容が全然頭に残っていない。今読み返すと、須永が千代子に対して抱く嫉妬も含めた思いと、行動には移せない態度が我がことのように感じられた。宵子の亡くなる場面を描いた場面は、漱石の実体験を基にしたものだけに切なさが伝わってくる。序盤の敬太郎のエピソード、須永の長い独り語り、松本の締めくくりの話というのは、推理小説の謎解きのようで構成そのものを楽しめた。

  • 2017年33冊目。

    夏目漱石の作品を読むのは、小さい頃に「こころ」を読んで以来。
    内容はほとんど覚えていないけど、割と悪戦苦闘しながら読んでいた記憶がある。
    ので、この作品をこんなにストレスなく読めるとは思っていなかった。
    深刻になり過ぎず、それでいて退屈もなく、全体的な重さが自分にはちょうどよかった。
    啓太郎の観察眼に唸ったが、それを描いた作者のそれはもっとすごいと思う。
    好奇心は人一倍強いくせに、その対象に付き合った先々を皮算用すると恐れをなしてしまう性格が、自分とよく重なって笑ってしまった。
    前書きも秀逸。

  • いい作品だと思うが漱石文学のなかではあまり人気がない。
    主人公の敬太郎。大学出で就活中の彼が見聞きした出来事が語られる。敬太郎の視点で綴られた短篇集のようで構成の妙が効いている。前半は探偵小説のよう。千代子が話す幼児の死(雨の降る日)のエピソードは三島作品を彷彿とする。

  • 敬太郎という大学を出たばかりの男が主人公。敬太郎の目線から様々な周りの人々の様子が描かれている。「恐れない女と恐れる男」の解釈が自分には難しい…

    タイトルの『彼岸過迄』は元旦から彼岸過迄書く予定だからこのタイトルにしたっていうのははじめて知った。大ざっぱだなぁ…

  • 人の心の襞をうまく書くなぁ、と感心した。構成もすばらしい。20年前は、話の筋を楽しみ、それはそれでおもしろかったが、今回は違う面でもより一層楽しめた。

  • 章が細かく区切られていて読みやすい。ただ、内容はあまり入ってこなかった。

  • 漱石が巻頭で述べているように、短編を繋げた連作のようなものなので統一感が今一つの長編。題名も正月から開始してお彼岸の頃までの新聞連載という意味。中盤の探偵小説風の尾行話は面白いが他は印象が薄い。

  • 読書のやる気が起きずにこれで相当の時間を費やしてしまった。

    敬太郎を取り巻く人々の話が伝聞形式で進んでいく、一種のオムニバス形式のような小説。
    気だるい空気がひたすら続く。
    個人的には前期三部作の方が好きやなあ。

    引き続き行人も読みたいけど、しんどかったのでちょっと休憩。

  • 読み終わって、こういう流れなのね…ってびっくり。
    最初は敬太郎を主軸に回るお話かなと思ってのですが、なるほどなあ…と。
    相変わらず通勤中に少しずつ読んでたのですが、面白かったです。一気に読んだ方が良かったかな。

    漱石の書く女性って瑞々しく生々しいですよね。なんともいえない魅力があります。

  • あらすじに出てくる登場人物がぜんぜん登場しないし、話に脈絡がなく、この場面になぜこんなに頁を割くのか、など色々思いましたが、聞き手としての敬太郎の人物造形と須永の自己心情に対する詳細すぎる分析、二人の性格の対比が面白かったです。私は敬太郎が主役だと思っています。漱石の表題作の要素が全て散りばめられたような作品です。
    やっぱり、心情を考えすぎだろうというくらいだらだらと語る話は面白い。

  • 主人公が聞き役となり、様々な人間から事実のみを聞く形を取る写生文のような小説。個々が抱える様々な人間の内面の悩みを、出口が見えないままに描き、考えさせられる。主人公自身が憧れる「探偵」のような役割を聞き役ととして演じる構想がおもしろい。

  • この小説は恐らく約40年ぶり2度目。敬太郎の同宿者・森本が語る過去と失踪事件、敬太郎が謎の人物を追う探偵談は夢の中の懐かしい!出来事のようで、読み返しても面白かったが、むしろ敬太郎の友人・須永が実質的には主人公であって、主客が代わるところが不思議な小説構造だと感じる。須永の深い悩みはいかにも漱石の世界。幼い日から母が願う結婚を意識してきた従妹の千代子。高木なる魅力的な若い男性が登場し、千代子との言葉に出さない緊張感!結婚するかどうかを決めかねているのに、所有欲?から嫉妬する知識エリートの醜さ。そこに罪として自己認識するかどうかは別として須永の葛藤がある。敬太郎が謎の人物を待ち受ける小川町交差点、洋食店のある駿河台下はまさに、これを読んだ夜、宿泊した。(2月5日泊)思わぬ偶然に100年前の東京の街の情景を重ね、思い浮かべながら読書を楽しんだ。

  • 戦前の小説は、「難しい」というよりも「まわりくどい」。なので読むのに時間がかかる。

    本書は『こころ』のような悲壮感はあまりなく、呑気な雰囲気で読みやすかったが、終わり方は良くない。ついでに恐れ多くも文豪の小説に突っ込むのなら、最初の森本のくだりはいらないんじゃないかと感じた。

    この話は須永夫人、田口夫人、松本の3姉弟を中心とした松本家の物語。日本の家庭制度は表向きは男系で男が嫁をもらい親の名前を継ぐ。しかし現実は女系。親戚付き合いは母親の親族と係りが深い。現代はそうだが、漱石の時代もそうだったのかと思わされた。

    自分の子どもが生めないばかりに夫の愛人の子どもを育て、自分の妹の子どもを一緒にさせようとする。婚家の血筋ではなく実家の血筋、自分の血筋を残そうとする須永夫人がなんとも不憫に感じた。

  • ラッセル「幸福論」に「人間は、自分の情熱と興味が内ではなく外へ向けられているかぎり、幸福をつかめるはずである」と書いてあったけど、そんな話として読んだ。

    「行人」の後に読みましたが、あちらより構成が弱め、道に迷いながら書いている感じがある。それも悪くないけど。

    ここの文章がすごく好きです。
    「敬太郎の頭にはその時から怪しい色をした雲が少し流れ込んだ。その雲が身体(からだ)の具合や四辺(あたり)の事情で、濃くなったり薄くなったりする変化はあるが、成長した今日(こんにち)に至るまで、いまだに抜け切らずにいた事だけはたしかである。」

  • 市さん「こころ」に出てくるKみたいな人だったな。もう一度読み返したい作品だった

  • 前半で一年前に詰まってしまい、色々と思うところあってまた読んでみた。

    恋なのか情なのか、分からない。そんな人たちのお話し。
    考え過ぎると人間ってのは前に進む勇気がなくなってしまうのかもしれない。
    勿論それは一つの正解だと思う、人の道に正解も不正解もないんだろうけど。
    でもどこにも行けなくなってしまったら人はどこに落ち着けばいいのだろう。落ち着く必要ってなんなんだろう。

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