こころ (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101010137

作品紹介・あらすじ

親友を裏切って恋人を得たが、親友が自殺したために罪悪感に苦しみ、自らも死を選ぶ孤独な明治の知識人の内面を描いた作品。鎌倉の海岸で出会った"先生"という主人公の不思議な魅力にとりつかれた学生の眼から間接的に主人公が描かれる前半と、後半の主人公の告白体との対照が効果的で、"我執"の主題を抑制された透明な文体で展開した後期三部作の終局をなす秀作である。

感想・レビュー・書評

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  •  長い解説は読まずに書く。
     作者の意図を理解出来ているかどうかは分からないが、これは人間の原罪を描いた作品だな。
     Kという内向的な精神的に鋭く脆い友人を助けるため、自分の下宿に引き込んだ“先生”。そのために兼ねてから自分が思いを寄せていた下宿のお嬢さんを巡ってKと三角関係になり、“先生”の気持ちに気付かず、お嬢さんに対する思いを“先生”に打ち明けたK。“先生”は友人の告白を聞いて動揺し、あろうことか「精神的に向上心の無いものは馬鹿だ」とKを一番打ちのめす言葉で罵倒しておきながら、自分はそのすきに“お嬢さん”の母親と話を付けて、お嬢さんとの婚約に取り付けてしまった。
     酷いといえば酷い。けれど恋愛ってそんなものだ。
     そしてその後のまさかのKの自殺。Kの自殺は単なる失恋とか、“先生”への復讐とかそんなものではないだろう。もっと精神的に深いところで、理想と現実、理性と愛の矛盾みたいなところに失望したんじゃないかな。
     だけど、“先生”はその後ずっと罪の意識に苦しみ続け、世間の中で自分が認められるような何かも生計を立てるような何かもする気になれず、死んだつもりになって生き続けた。
     “先生”もKも真面目で理性的な善き人であったが、“先生”が本能的に愛を勝ちとったことで、Kを死に追いやって仕舞ったことも、あまりに自分だけに真っ直ぐすぎて失恋を機に自殺したことで、“先生”を生涯苦しめたKの行いも人間の“原罪”の成したことだと思う。
     どちらかというと前半のほうが面白く、語りてである主人公の大学生が何故廃人のような“先生”にそこまで惹かれたのか、“先生”はどうして何も仕事をしていないのに奥さんとまあまあ余裕のある生活を送ってられるのかというところが疑問であったが、そこのところの答えがないままだった。
     だけど、先生は時々ドキリとするような洞察力のあることを言い放つのが面白かった。例えば、主人公が「まだ恋は知らない」と言ったことに対して、先生は「あなたは物足りないから、私のところに来たんでしょ。」。「それは恋とは違います。」という主人公に対して、「恋に上る階段なのです。異性と抱き合う順序として、まず同性である私の所に動いてきたのです。」というセリフなど。
     こんなことを言って仕舞ってはオシマイだが、明治時代というと昔朝ドラで見た「おしん」のように生きることにただただ必死であった人も多かったのに、“先生”やKのように働かず、精神世界ばかりに生きていたこと自体は善であったといえるのだろうか。
     でもまあ、“先生”の遺書を読むと自分自身の胸がチクチクしたことも事実。やっぱり読者の原罪を背負って自ら罰したキリストのような人。
     高校の時の教科書にこの小説が部分的に掲載されていて、全く理解出来ず、唯一得意だと思っていた現国に自信が無くなってしまった。今読んだら分かるかなと思ったが、やはり難しい。
     高校の国語から“小説”が削除されるということを小耳に挟んだ。「そんなバカな」と思ったが、小説の解釈について正解を求めるような授業ならないほうが良い。だけど、接する機会は失わせないでほしい。

  • うん、言わずと知れた名作ですね。この「こころ」という作品には日本人が持つ「恥の文化」の極限を見た気がします。多くの日本人が共感するからこれだけ読まれているし、評価されているのだと思います。天邪鬼な自分をよく読んだな褒めてやりたいです。

  • 日本語が凄い。表現が凄い。もうどうにもならないほど損なわれてしまった人の、孤独な告白。そういう暗闇は周りの人も不幸にしてしまう。奥さんが一番かわいそうだ。お嬢さんが好きなのに、どうしても幸せにしてあげられなかった先生もかわいそうだ。

  • 存在はもちろん知っていたけれど読んだのははじめて。一言で言えそうなことを5行くらいかけて言っているような気がした…笑。漏れがなく表現するためにはそうなってしまうものなのかなあ、、、むずかしかった。
    心理描写がまどろっこしいけれど言い得て妙で、練られた文章なのだろうな…と思った。登場人物の行動だけを見ると、なんで!?!?!?というものだらけだけど、許してくれる人やわかってくれる人はいるだろうにひとりで自責の念にかられた経験は私もあるので、人間の心の天邪鬼さ(?)みたいなものも表れているのかなと思った。

    でも100年以上前の小説なのにこれだけ衝撃を与えられるのはやっぱり作品の力がすごいのだろうなーと。読み継がれるのはわかる。夏目漱石の他の作品も一生に一度は読んでみようかなと思わされました…笑
    でもやっぱり先生も「私」も定職に着いた方がいい気がする(余計なお世話)

  • 高校時代以来、10年以上ぶりに読み返しました。

    神経衰弱や失恋など、高校生の私にはいまいちピンと来ないものでした。
    確かに気持ちが塞ぎ込んだり、叶わなかった恋をしたりはありましたが、その結果「死」を選ぶ理由というものが分からなかったのです。
    おそらくですが、そのときの私は「K」に感情移入しようとしていたのだと思います。
    そして懸命に理解しようとしていたのだと思います。

    しかし、月日が流れ、多くの人間と触れ合ってきたことにより、一人ひとりが「何と言われようとも変えられないポリシー」というものを持っていることを知りました。
    Kの場合は、「精神」や「精神的な向上心」などですが、それは私の中ではそれほど重要視されていないものだったので、Kの心も理解できなかったのだと思います。

    逆に今の私は、「先生」の心がとても理解できました。
    目先の欲望を抑えることができず、成し遂げることによって一時的な満足感は得られるが、あとで取り返しのつかないことをしてしまったと気付いてもそれを打ち明けることができない…そんなことはよくあります。
    ましてや先生は、懺悔すべき相手を亡くしてしまったのだから、悔やんでも悔やみきれない気持ちになるのは当然です。
    奥様の「Kさんが生きていたら、貴方もそんなにならなかったでしょう」という言葉が、どれほど残酷に先生の胸に刺さったかを思うと、とても辛いです。
    でも、これは誰にでも起こりうる悲劇なのです。

    時代こそ違えど、夏目作品は古くなることを知らないと痛感しました。
    さて、10年後、20年後の私は、この本をどういう風に読むのでしょうか…。

  • 高校の現代文の授業で一部抜粋して読み、そこから興味が出て本を買って読んだ。
    なんだろう、何とも形容し難い気持ちが心のなかに渦巻く作品。
    K、お嬢さん、先生や奥さん、多くの人の感情が入り交じり、読む人の立場で作品の味や見解が変わる作品だと思う。

    人間の汚らしさやエゴイストな部分、不器用な部分が上手く表現されていて、もはや苦しい。

  • この作品は学生の頃にも読んだ記憶があります。今読むのとはまったく違った感想だったと思います。

    作品は3つに別れていて、かつ、途中で一人称というか、物語を進めていく人物が変わります。(私→先生)

    学生の頃は・・・「先生」の思惑通りなのに失恋のような感じと、友人との別れと「私」のこれからどうするのかということが興味深かった記憶があります。
    今回、再度読んで見ると・・・胸が苦しいしく、さまざまな感情が飛び交い熱い感じがしました。

    人は強欲、嫉妬、後悔などさまざまな心の動きを持ちながら生きていて、誰かに分かってもらいたいと思いながらも、誰にも見せたくないという部分があると改めて思いました。読む年齢、読む時期によって思うことが変わる作品だと思います。また、この本を読み終わり、本を閉じたとき「こころ」という題名の意味を感じることができるのかもしれないとも思いました。

  • 世間を恐れず己の信念のままに、自虐的とも言える生き方を貫く友人Kに、
    彼の人生を根底から覆すような言葉を吐き、裏工作をして手に入れた妻。
    先生はKに恋を諦めさせたかっただけなのに、
    その言動はKの人格の全てを打ちのめし、死に追いやった。
    主人公の私は親に言われるがままに、先生に就職の斡旋を乞う手紙を書く。
    この手紙が私の思惑とは無関係に、結果的に先生を自殺へと導いてしまう。

    人間の言動というものは、それを発する側の意図しない働きをすることがある。
    軽い行き違いで済むものならいいが、
    この話のように、取り返しのつかない事態になるかもしれないから、
    言葉を発する際は気を付けなければと、感情的な私は思うのでした。

    Kの自殺以来、先生自身もいずれは自殺するという予感を抱きながらも
    実行に至らなかったのは、誰かに腹の中を全て曝け出し懺悔したかったのだろう。
    自分の罪悪感と心情を酌んでくれる「真面目な人」に全てを告白したとき、
    心の欲求が満たされ、この世の未練を断ち切ることができた。
    本書は、先生がそうまでして手に入れた妻を置き去りにして、
    自害するという究極の矛盾を描く事によって、
    人間が人間たる所以の難解な「こころ」をあぶり出している。

  • 国語の教科書で読んだだけのこの作品は、今読んでも本当に、見事としか言いようがない。
    時代背景知りませんので、先入観抜きで作品自体のレビューします。

    3章から成り、「先生と私」「両親と私」そして最も知名度の高い「先生と遺書」と構成されていますが、
    まず言いたいのは、「先生と私」の素晴らしさ。
    結末を知った今読み返すと、如何に著者が先生の苦しみを表すのに適切な言葉を選んだかがわかります。
    「私は今より一層淋しい未来の私を我慢する代わりに、淋しい今の私を我慢したいのです。」
    「平生はみんな善人なんです。少なくともみんな普通の人間なんです。それが、いざという間際に、急に悪人に変わるんだから恐ろしいのです。」
    結末に対して100納得するのはやはり気が進まず、平成の日本人として何かしら反論を、と読後考えたりもしましたが、
    振り返ってみれば、1章から続く先生の渇いた佇まいは異論を挟み込む余地など無いように思います。
    その牙城を更に完璧に築く後押しをするのは、あまりにも美しい日本語で書かれた3章の手紙。
    有名だからという理由でこちらも身構えてましたが、そんなアンチの意など何の意味も無い程、終盤の文章は圧巻です。
    しつこく繰り返される先生の葛藤は、あまり好感は持たれないものの、共感という点で誰もが頷かざるを得ない。
    というか時代を越えた今私なんかを唸らせている時点で、もうそれは真理でしょう笑。

    いわゆる文豪の小説に手を出したくなるきっかけとして、本作はとても良いと思います、
    少なくとも私は今、文豪モード

    • HNGSKさん
      な、なんと素晴らしいレビュー。
      私もはばかりながら、この作品が大好きです。
      tacbonaldさんのレビューに、引用されている文章がどこにあ...
      な、なんと素晴らしいレビュー。
      私もはばかりながら、この作品が大好きです。
      tacbonaldさんのレビューに、引用されている文章がどこにあるのか、確かめてみたくてたまりません。今すぐに、「こころ」を手にとって読みたい衝動に駆られました。
      もしよろしければ、フォローさせてください。
      2013/01/29
    • tacbonaldさん
      すみませんコメントに気付いてませんでした…
      コメントありがとうございます。
      レビューを書くことで、気持ちの整理にもなってさらに作品を好きにな...
      すみませんコメントに気付いてませんでした…
      コメントありがとうございます。
      レビューを書くことで、気持ちの整理にもなってさらに作品を好きになりますよね。
      これからもガンガンレビューしてってください!
      2013/02/24
  • 高校の頃初めて読んで以来読み返すたびいつも思うのは、なぜこんなにこの小説に惹かれるのか?です。
    人間の生と死、恋愛、友情、お金、学問などテーマが普遍的だからであることはもちろん、読んだ自分の年齢やその時どきの立場によって毎回感想が異なることも興味深いところです。

    評論はまだあまり読めてはいませんが、ある人は不完全な小説といい、ある人は名作といいます。最近ではBL方面からの解釈も出ているようですし、推理小説風に見ると「私」を犯人とする説もあるようです。

    謎が多いことも自分が惹かれる理由のひとつです。先生はなぜ自殺したのか、Kはなぜ外ではなく部屋で所決したのか、私は先生のどこに惹かれていたのか、お嬢さんはどこまで知っていたのか、なぜタイトルはこころなのか、なぜ三部構成なのか、なぜあんなに分厚い遺書を四つ折りにできるのか、なぜ登場人物がこんなに少ないのか、当時どう読まれ、今どう読まれているのか、…等々
    すでに答えの出ているものもありますし、わからないことは今後、自分なりに調べていこうと思います。

    ※【自由研究】用タグ→ #こころ

    • yhyby940さん
      おはようございます。コメント、ありがとうございます。たくさんの本が、乱発されていて、なかなか出会えないんですよね。それと音楽なんかにも共通す...
      おはようございます。コメント、ありがとうございます。たくさんの本が、乱発されていて、なかなか出会えないんですよね。それと音楽なんかにも共通するのですが私自身、新しいものに対応しきれなくなっている感もあるんですよねえ。
      2023/05/29
    • lem@本郷文学散歩編  さん
      確かに新しいものが次々出てきて追い付けない感はありますね。ご無理をなさらず良い出合いがあることをお祈りしております。
      確かに新しいものが次々出てきて追い付けない感はありますね。ご無理をなさらず良い出合いがあることをお祈りしております。
      2023/06/01
    • yhyby940さん
      ありがとうございます。その通りですよね。
      ありがとうございます。その通りですよね。
      2023/06/01
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著者プロフィール

1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)にて誕生。帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、『吾輩は猫である』を発表。翌年、『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表。1907年、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。

「2021年 『夏目漱石大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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