坑夫 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.54
  • (46)
  • (75)
  • (143)
  • (13)
  • (2)
本棚登録 : 1011
感想 : 92
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101010175

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • なーんにも起こらないんだけど、起きている。
    漱石の描写の全てが好き。
    時間をかけて、のんびり読みたい1作。

  • 前作の『虞美人草』とは打って変わって、生々しい現実が牙を剥くような、異様なおぞましさを放つ作品でした。

    恋愛事件のために東京の家を出奔した主人公の19歳の青年は、周旋屋の長蔵に誘われるまま坑夫になる決心をし、栃木の足尾銅山に向かう。途中、周旋屋から勧誘された"赤毛布(あかげっと)"や"小僧"も加わり、奇妙な行程を経た末銅山にたどり着く。
    飯場にひとり放り出された青年は、異様な風体の坑夫たちに嚇かされたり嘲弄されたりしながらも、地獄の坑内深くへ降りて行く…。
    漱石の許を訪れた未知の青年の告白をもとに、小説らしい構成を意図的に排して描いたルポルタージュ的異色作。

    『虞美人草』の直接的な続編ではないものの、恋愛事件がきっかけで出奔している点は『虞美人草』の小野を想起させます。
    また、主人公が自らの育ちの良さを自嘲するあたり、『坊っちゃん』の変奏のようでもあります。
    しかし、紋切り型だった前作の人物造形とは異なり、本作の主人公が血肉の通った、揺れ動く人物として描かれているのが印象的。
    周到に用意された舞台のような『虞美人草』に対し、容赦のない現実をつきつける『坑夫』は、好対照をなしているように感じます。
    むしろ、前作を批判的に描き、乗り越えようとした「続編」と呼ぶこともできそうです。

  • ある若者の体験談を夏目漱石が小説にしたんだそうだ。

  • 読了

  • 底辺へ向かう人間の意識の流れを読み続けるのでもろに思考促迫を食らったような感覚になる。戻った方が良いのは百も承知だけど戻ったところで何もない、進んでも地獄が待っている。焦燥感のような虚無感のような凄まじいやるせなさ。それでも進むのが人間というもので、その歩みにある種の強さを感じるものの、やはり一層大きな虚無主義に襲われてしまい、人生のなんたるかを思い知らされるようだ。

  • (個人的)漱石再読月間の7。15作品の半ばまで来ました。

    異色作。
    地獄のような最底辺の話で、「それから」の高等遊民の世界が好きな私にとって、これは胸つき八丁。
    後半の地底も辛いが、そこに到着するまでの山越えがキツい。主人公がまだ今までいた世界と別れる踏ん切りがつかないところがその要因かと。

    この後は何回も読んだ作品群なので楽勝かと。

  • 学も富もある立場から一夜にして坑夫という最底辺に堕落した主人公を通し、人間の内面を描く。時代設定は100年以上も昔になるが、自らの置かれた環境の有り難みが感じられる。

  • 読み終えました。

  • それなりの家に生まれて学問も修めていた青年が
    言い寄ってくる女と、許嫁との三角関係に苦しんだあげく
    死にたくなって、そこを逃げ出してしまう
    ところが死に場所を探すうちにだんだん死ぬ気も萎えてきた
    そんな折、ぽん引きのおっちゃんに引っ掛けられて
    鉱山労働者になる決心をする
    安易なわりにプライドの高い彼は
    何度も引き返すチャンスを与えられながら
    その誘惑をことごとく跳ね返し
    ついには居直り者のふてぶてしさを手に入れる

    「虞美人草」に続く、夏目漱石の新聞連載第二弾
    ただしこれは、「春」の執筆が進まない島崎藤村の穴埋めとして
    急遽書き下ろされたもの
    いちおう教養小説としての体裁をつけており
    また、前作「虞美人草」とのテーマ関連をにおわせてもいるが
    基本的には、人に聞いた話をそのまま出したような形である
    人間は時々で考えが変わるものだという無責任主義を掲げ
    むしろ反・教養小説としての完成を試みているが
    しかし最終的に主人公は
    一個の刹那主義者として自己規定するに至った
    自己規定があるからこそ、こんな告白を小説家相手にするわけで
    だからまあその点、失敗作と言うべきなんだろう
    反・教養小説(つまり堕落だ)の試みは
    芥川龍之介の「羅生門」へ受け継がれたように思う

  • 足尾鉱山の現地レポートとしてよむと
    とても価値がある。

全92件中 11 - 20件を表示

著者プロフィール

1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)にて誕生。帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、『吾輩は猫である』を発表。翌年、『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表。1907年、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。

「2021年 『夏目漱石大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

夏目漱石の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ドストエフスキー
村上 春樹
夏目漱石
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×