雁 (新潮文庫)

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著者 : 森鴎外
  • 新潮社 (2008年2月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (184ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101020013

雁 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 著者:森鴎外

    本書を手に取るに至った経緯は、夏目漱石氏の作品をいくつか拝読したあとで、
    何かの書評に『夏目漱石より森鴎外』 というような事が書かれていたからである。

    過去の作品、個展と言われる書を殆ど読んだ事は無く、余りに無知識だった為、
    夏目漱石氏と森鴎外氏の作品群は対極にあるものなのかなと勝手に想像した。

    それは物語の種類なのか言葉の違いなのかは全く分からない。
    というより比べる事すら滑稽で余程検討違いなのかもしれない。

    ただ、読んでおかなければいけないのではないか、というある種の強迫観念が脳の一部を占めた為、
    追い払う為に古本屋へ行った記憶がある。

    何を選ぼうかと思ったがそもそも知らないので、棚にあった一番ページ数が少なく
    薄い『雁』を手に取ったという、非常に曖昧で不誠実な態度であったと思う。

    さて、読もうと思ったが本書『雁』の読み仮名が分からない。
    流石にこのまま黙読していってもこの『雁』という文字が何度も出られては堪らない。

    確かiPhoneでsafariを開きインターネット検索をして『雁』が『がん』という事を知った。
    しかしここで何故『雁』の意味まで目を通さなかったのか不思議でならない。
    もしくは記憶に留まらなかっただけかもしれないが。

    そんな予備知識がない上に無防備で考え無しにページを開いていった。


    これがそもそもの間違いだったかもしれないし、まだ森鴎外氏の書を一つしか読んで
    いない事が理由かもしれないが、森鴎外氏よりも夏目漱石氏の作品の方が私には向いていた。


    その理由を考えた時に思いついたのが『描写の違い』ではなかろうか。

    夏目漱石氏の作品は主観的で感情的で批判的。
    著者の想いが全面に語り口調で反映されている様に思える。

    対して森鴎外氏の『雁』だけて言えばというかこれしか知らないのだが、
    背景、風景、光景といった客観的で一旦思い描いた頭の中の影像を
    文書化だけで描写し、文章を読んだだけで読者の脳に影像として映し出される様に
    描かれているように感じた。


    どちらが良いという訳ではないが、そういった違いかなと勝手に解釈した。

    もう一つの理由は昼ドラのような内容だからかもしれない。
    高利貸しや妾、不倫や嘘、すれ違いといった物語で普段好まない事による事かもしれない。


    そして最大の要因は私の無知による。
    『雁』の意味を調べれば読了後の感想が変わったかもしれない。

    『雁』とは水鳥の事だそうです。
    このタイトルと物語が意味している事は読むか他のレビューを読んでみて下さい。

    もしくは私のように無知のまま頭に大きな『はてなマーク』をつけたまま読んでみるのも
    それまた一考かもしれない。
    http://blog.livedoor.jp/book_dokushonikki/

  • 夏目さんより、鴎外の方が好きだという気がしている。

    鴎外の文章、上品。格調ある感じ?
    お玉、魅力的で素敵。
    岡田さんとのすれ違いが、切ないけどああー!ありそう!
    と思う感じ。人生は、少しの勇気とタイミングですね。

    不忍池とか、その辺りを先日散歩したのでそれも相まって面白く読みました。

  • 旦那と妾奉公という古典的な状況設定の中に、人智のむなしさを込めた中編秀作。物語るようなわかりやすい文体の中に当て漢字の多用と、英語・フランス語といった外国語を織り交ぜるという鴎外ならではの、明治の香り高い文章になっている。
    物語は高利貸しの末造一家、妾奉公することになったお玉一家、そして、学生岡田と「僕」周辺の大きく3つに分かれるが、特に末造と女房、お玉と高齢の父親の心情描写が優れていて面白かった。
    才覚に優れた末造の思いに反し、しだいに別心するお玉。そして制御不能な女房。お玉は時を経ず図太くなって、学生岡田と心を通わせていく。そして、あの日あの時に投じられた思いがけない一球に全てが収斂していく。書名は人の思惑とは裏腹に状況が進展していく象徴なのですね。

  • この小説の語り手は「僕」であります。時は明治十三年(本作の執筆は明治四十四年~大正二年)、この「僕」と同じ下宿屋に止宿してゐるのが、医科大学の書生であるところの「岡田」君でした。
    岡田君は特段のがり勉ではないが、必要な勉強はそつなくこなし、試験の成績は常に中位を保ち下位にはさがらず、しかし遊ぶ時はしつかり遊ぶといふメリハリをつける人。几帳面らしく、生活習慣は実に規則正しく、時計を号砲(ドン)の時刻に合はせるのを忘れた人は岡田君に時刻を尋ねるほどださうです。
    勢ひ周囲の信頼も厚く、下宿屋のお上さんからは「岡田さんを御覧なさい」と、他の学生を諫める時に必ず引き合ひに出されるほどでした。

    そんな岡田君の散歩コースに、無縁坂の家の女がゐました。彼の散歩時には、その女は必ず窓から顔を出し岡田君を見つめてゐるのです。どうやら岡田君が来るのに合はせてわざわざ表に出るやうだと岡田君本人も気付き、以降は脱帽し会釈するやうになります。女はそれが嬉しいやうです。

    そもそもこの女は、末造なる高利貸しの下へ迎へられた「お玉」といふ女性でした。しかし末造は妻帯者で、高利貸しといふ職業も隠してゐました。真実を知つたお玉の心は、この旦那さんから離れていきます。そんな時、毎日極つて家の前を散歩する書生さんに気付き、まだ会話をした訳でもないのに淡い慕情を抱くやうになるのでした。無論、この書生が岡田君であります。

    或る時、お玉の飼ふ鳥が、青大将に襲撃され、絶体絶命のピンチに立たされます。そこへ偶偶やつてきた岡田君が青大将を退治するのです。田中邦衛さんではないよ。その事件をきつかけに、お玉は岡田君と会話をする機会を得たのであります。
    岡田君は事が済むと直ぐに立ち去つたので、お玉はお礼を述べるといふ口実で、次回岡田君が家の前を通つたら、思ひきつて声をかけやうと決心しました。

    しかし運命は残酷であります。とことんツイてゐないお玉。お玉の念願を打ち砕いたのは、下宿屋の賄に、「青魚(サバ)の味噌煮」が供されたことでした。「僕」はこの献立が気に入らなかつたらしい。喰はずに、岡田君を誘ひ外へ出てしまひます。散歩中に、不忍池で戯れに投げた石が偶然雁に当り、雁が死ぬといふ印象的な出来事がありました。岡田君たちは無縁坂に差し掛かりますが、彼一人ではなく、「僕」がくつついて行つた所為で、お玉は声をかけるタイミングを失するのです。つまり語り手の「僕」の罪は大きいですな。

    お玉といふ、幸薄い女性のはかない恋愛が読者の胸を打ちます。偶然当つた石で落命する雁と、偶然「僕」の嫌ひな献立が出たことで断ち切られたお玉の想ひ。それだけに、意図的ではないにせよ「僕」の偏食が恨めしいですな。子供ぢやあるまいし、サバの味噌煮をそこまで嫌ひますか。美味いのにねえ。

    唐突に挿入されるフランス語単語の数々(“fatalistique”とか“solennel”など)には、まあ微苦笑で迎へるとして、そもそも語り手を「僕」にする必要があつたのでせうか。特に末造やお玉関係の出来事など、余人の知り得ない内容がわんさか有るのですが。一応最後の辺りで、その事情に関して言ひ訳をしてゐますが、とても首肯できるものではないよね。

    ......などとぶつくさ言つてみましたが、読後にはどつしりとした満足感が得られます。その文体はまるで明治の御代に別れを告げるかのやうに、(明治といふ空前絶後の変革期が生んだ)口語文小説の完成を急ぐ森鷗外の使命感みたいなものを感じるのであります。いや、わたくしがちよつとさう思つただけですがね。
    ぢや、また。御機嫌よう。

    http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-614.html

  • 末造が、お玉が、岡田が、「僕」が、みんな僕に降ってくる。いい小説です。

  • 直接言葉にしなくても、目と目を合わせただけで情熱的な恋ができた時代なんだな。
    物悲しい読後感がなんとも言えない。

    「僕」とお玉が相識になったきっかけと、その間柄について読者が興味を示すことを想定して、最後「読者は無用の憶測をせぬが好い」という文章で締めるところが粋である。

  • 最近現代小説ばかりだったので、久々の近代小説であった。初、鴎外作品。
    100年も前の作品だが、とてもそうとは思えない。人の感情の機微というのは、いつの時代にも変わらないのかも知れない。

    読んでいて感心したのは、ごく普通の、言ってみれば地味なお玉の心情の微妙な心の動きを描いている点だ。
    無邪気で純粋な少女であったお玉が、世の中の苦みを知り、ドラマチックな出来事ではなくあくまで日常の生活の中で徐々に「女性」へと変化していく様子が、とても繊細に描かれている。
    鴎外は一体どれだけの女性と交際してきたのだろう、と思ってしまうほどだ。

    タイトルの「雁」に込められた意味も色々と分析されているようだ。
    中盤までは全く登場しないのだが、終盤、お玉と岡田の運命がすれ違う分岐点として「雁」がとても象徴的に現れる。この雁の意味するところは多くの解釈があるところだが、渡り鳥である雁が死んだ、ということは、洋行した岡田の運命を暗示しているような気もしてしまう…。あくまで個人的な印象であるが。
    また、お玉のその後に関しては、「僕にお玉の情人になる要約の備わっていぬことは論を須たぬ」(p128)と言いながらも、僕がお玉に好意を抱いていたことは明らかであり(p115)、「僕」が岡田に対して劣等感を抱いていることはなんとなく読み取れるから、どんな形にせよお玉とお近づきになれたことは確かだろう。
    そう考えると、本作は単なる哀愁に溢れた淡い恋愛話というだけではない、どこかひんやりしたものを感じさせる。最後のたった一段落のあるなしで、物語の印象が大きく変わり、思わずウーンと唸らされた。。

    馴染みの上野が舞台となっていたこともあり、情景を思い浮かべながら楽しめた。
    この本を手にしながら上野を歩いてみたいと思う。

    レビュー全文
    http://preciousdays20xx.blog19.fc2.com/blog-entry-473.html

  • 『森鴎外を読む』

    読みやすく入りやすい作品だった。以前読んだ森鴎外は辞書とにらめっこだったが、今回はほとんど辞書を引かずに読了。言わずと知れた名作。

    静かに狂う登場人物の思考に現代文学に欠けたカオス(明治時代にすでにカオスを使っているのには驚いた)を感じた。

  • 『雁』は1911年(明治44年)に発表されたこの作品で言わずと知れた代表作となっています・『灰燼』は同じく同年に発表され同時進行にて執筆されたと言われています。

    『雁』の時代の設定は、1880年(明治13年)であります。高利貸しの妾・お玉が医学を学ぶ大学生の岡田に慕情を抱くも結局その思いを伝えることが出来ないまま岡田は洋行する。はかない女性の心理描写と身の上が如実に表現されています。
    といった内容なのですが、『舞姫』の発表は、1890年(明治23年)となっていますので、御年28歳の時に発表された『舞姫』と49歳の時に発表された『雁』は、独逸留学つながりなので敢えて年齢の対比をさせていただきました。
    言うなれば作品の設定が、鷗外先生が留学する前と留学した後に書かれた作品という事になります。
     さて、この作品が何故鷗外先生の代表作なのか、と言う疑問が僕自身にはあります。
    作品そのものは、どちらかというとはかない女性と岡田の物語で、取り立てて秀逸とは言えないと思ったからです。その疑問があって、この作品に限っては3回程読み直しました。

     鷗外先生がこの作品を書かれたのは、満49歳、官職では陸軍軍医総監の位、陸軍省医務局長という軍医行政最高のポストにあったことを思えば、いかにも積極的な表現意欲といわざるを得ないが、僕の個人的な意見で言うなら49歳の年齢なれば本職の官職をこなしながら、『雁』と同時に『灰燼』も執筆しているのです。ここに何らかの因果関係があるのかと思わざるを得ません。しかしながら、そこでも作品自体の評価が高いことの理由が判然としないのです。
    ただ、3回も読み返すと見えてくるものが、作品自体の内容ではなく作品の構成なのです。
    巻末の解説にも書いていますが、「前に見た事と後に聞いた事と」を一つにまとまった「物語」に再構成されているのではないかと思うのです。
    この構成の性格は、単に『雁』一個のものではなく、鷗外文学の深処に通じるものと思いのです。
    「体験した話と聞いた話の融合」は、物語小説の世界では当たり前のように思われますが、例えば真ん中から折り畳める鏡があったとしたら、折り畳むと左右対象であることは「初めに見た物語をもってきて、最終部分にもまた見た話に戻る物語の進行で帰結しています。
     これは、偶然か作為的なのかは分かりませんが、現実世界から夢を見てまた現実世界に戻ると言うものです。もしそれが作為的に構成を計算されたものであるなら、鷗外文学の真骨頂ではないかと思いました。一夜の長い夢を見た様な気分になりました。
    ネットで検索をしても、この作品の書評はあまり見かけませんが代表作であるという理由は心情的に細やかな点と、思いが伝わらなかった残酷さを併せ持つ妙なのかもしれません。
    既読の方も多いかと思いますが、今一度再読されてみては如何ですか。

  • この話からは見えない、「僕」とお玉の関係がとても気になる。

    お玉が岡田に出会うまでの引き込み方がものすごく上手くて、違う世界に行っていた所で岡田との出会いに戻され、ハッとした。

    すれ違い続ける人間模様、なんだか哀しい。

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雁 (新潮文庫)の作品紹介

貧窮のうちに無邪気に育ったお玉は、結婚に失敗して自殺をはかるが果さず、高利貸しの末造に望まれてその妾になる。女中と二人暮しのお玉は大学生の岡田を知り、しだいに思慕の情をつのらせるが、偶然の重なりから二人は結ばれずに終る…。極めて市井的な一女性の自我の目ざめとその挫折を岡田の友人である「僕」の回想形式をとり、一種のくすんだ哀愁味の中に描く名作である。

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