白痴 (新潮文庫)

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著者 : 坂口安吾
  • 新潮社 (1949年1月3日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (282ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101024011

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白痴 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

  • 『私はそのころ耳を澄ますようにして生きていた』
    極度に物を所有したがらなく、1か月の給与を1日で無理にでも使い切ろうとする語り手は、複数の女たちの間で爛れるような生活を送る。
     /いずこへ

    『その家には人間と豚と犬と鶏と家鴨が住んでいたが、まったく、住む建物も各々の食べ物もほとんど変わっていやしない』
    井沢の住む町は安アパートが立ち並び、淫売や山師や軍人崩れが住んでいた。
    井沢の隣人は気違いで、気違いの母はヒステリイで妻は白痴だ。その白痴の妻が井沢のアパートに転がり込んできた…。
     /白痴

    『母親の執念は凄まじいものだと夏川は思った』
    郷土の実家との関係を断ち切ろうとする夏川だが、その母はどうやったか夏川のアパートを突き止める。
    アパートに帰るか帰らないか…そしてその生活を顧みる。
     /母の上京

    『二人が知り合ったのは銀座の碁席で、こんなところで碁の趣味以上の友情が始まることは稀なものだが、生方庄吉はあたり構わぬ傍若無人の率直さで落合太平に近づいてきた』
    一人の女を巡る男たち。
    脱がなかった外套とその向こうの青空。
     /外套と青空

    『私はいつも神様の国へ行こうとしながら地獄の門を潜ってしまう人間だ。ともかく私は初めから地獄の門を目指して出かける時でも神様の国へ行こうということを忘れたことのない甘ったるい人間だった』
    元女郎と暮らす男。私は一人の女では満足できない。私は不幸や苦しみを探す。私は肉欲の小ささが悲しい、私は海をだきしめていたい。
     /私は海をだきしめていたい

    『カマキリ親爺は私の事を奥さんと呼んだり姐さんと呼んだりした。デブ親爺は奥さんと呼んだ。だからデブが好きであった』
    私は昔女郎だった。今はある男と暮らしている。戦争中だけの関係。
    日本が戦争に負けて、男が全員殺されてもきっと女は生きる。
    でも可愛い男のために私は可愛い女でいようと思う。
    私は夜間爆撃に浮かぶB29の編成、そして被害の大きさに満足を感じている。
    男たちは日本中が自分より不幸になればいいと思っている。
    だから戦争が終わった時には戸惑いを感じたのだ。
    『私たちが動くと、私たちの影が動く、どうして、みんな陳腐なのだろう、この影のように!私はなぜだかひどく影が憎くなって胸が張り裂けるようだった』
     /戦争と一人の女

    『匂いってなんだろう?
    私は近頃人の話を聞いても、言葉を鼻で嗅ぐようになった』
    私の母は空襲で死んだ。
    私は私を迎えに来た男のオメカケになっている。
    私は避難所の人ごみで死ぬのなら、夜這いを掛けてきた青鬼に媚びて贅沢してそしていつか野垂れ死ぬだろう。
    すべてがなんて退屈だろう、しかし、なんて、懐かしいのだろう。
     /青鬼の褌を洗う女

  • どの短編も、冒頭の文章がすばらしい。ここで引き込まれない日本人はいないんじゃないか?というくらい魅力的な書き出しで始まる。本書の最初の短編「いずこへ」の冒頭はこんな感じ。

     私はそのころ耳を澄ますようにして生きていた。もっともそれは注意を集中しているという意味ではないので、あべこべに、考える気力というものがなくなったので、耳を澄ましていたのであった。(「いずこへ」冒頭)

    その冒頭と呼応するような一文が、本書の最後に所収されている「青鬼の褌を洗う女」の冒頭である。

     匂いって何だろう?
     私は近頃人の話をきいていても、言葉を鼻で嗅ぐようになった。ああ、そんな匂いかと思う。それだけなのだ。つまり頭でききとめて考えるということがなくなったのだから、匂いというのは、頭がカラッポだということなんだろう。(「青鬼の褌を洗う女」冒頭)

    考える代わりに、耳を澄まし、匂いを嗅ぐ。この短編集の登場人物たちは、頭ではなく身体的にものを考える傾向にある。戦中戦後の退廃的な空気の中で、倫理や道徳といった確固たる基準が薄まり、人々に残されたのはカラダ一つであった。人生をオモチャにし、身体をオモチャにする。そんなニヒリストたちが物語を彩る。

    現代的な雰囲気がある、後半の「私は海をだきしめていたい」「戦争と一人の女」「青鬼の褌を洗う女」の3編がわりと好き。

  • これまで読んだどんな小説よりも、エロティックで背徳的。戦時下、常に死と隣り合わせの日常で、享楽を貪る男と女を描いた7編を収録。

    その中からいくつかの感想。
    「白痴」
    空襲の最中、男と女が押入れで息を殺しておびえている状況が現実感を伴って空恐ろしい。がなりたてるラジオ、警戒警報のサイレン、高射砲の音、B29の通り過ぎる音。照空灯の真ん中にぽっかり浮かぶ機影、真っ赤に色ずく夜空……
    畳み掛ける恐怖のイメージに鳥肌が立つ。戦争という言葉は、あまりに大きすぎて概念として捉えることしか難しいけれど、この物語はリアルに教えてくれる。

    「戦争と一人の女」、「青鬼の褌を洗う女」
    戦時下の日常において、自分の体をおもちゃにして遊ぶ女たちを描いた作品だ。
    ただ、己の肉欲のために肉欲の塊と化した女の匂い立つようなエロス。
    背徳的、官能的で、エロ小説以上にエロい。快楽のアリ地獄に落ちていきそうだ。苦しくて切なくて胸がふさがれそうな物語だ。

    肉欲でつながった相手の喪失感は、時に心でつながっていた相手の時よりもダメージが大きいのは、それは一点の曇りもない純粋さがそうさせるのだろうか。人間の理智なんて肉欲の前では簡単にひざまずいてしまうのだろう。

  • 『いずこへ』
    どうしようもなくなった主人公が、ある小説の一節を思い出し、図書館へ行く。そこで手当たり次第に本の目録をめくるのだが。

    「俺の心はどこにあるのだろう? どこか、このへんに、俺の心が、かくされていないか?」

    これを読んだとき、まさに「これだ!」と感じた。本を読むという事は、なんだか、そういうことなのかもしれない。


    『私は海を抱きしめていたい』
    高校の教育実習で知り合った方が、この題名をいたく気に入っていたのがとても印象に残っている。
    曰く「なんて綺麗な言葉だろうと思った」。


    まあ、基本的にダメな男と女なんだけども。

  • 高校時代、すっげぇ好きだった。

    いま、あらためて読んでみた。
    「文人ってオトナになれん人なんやなー」と思いながら、やっぱ好きだった。

  • ★更新中★

    初・坂口安吾。青空文庫で読み進め中。

    ☆白痴
    現在は使われていない単語のため、具体的にどのくらいどういう状態を白痴と呼ぶのかは想像を巡らせるしかない。登場するとある女を明らかな白痴と表現しているけれど、物語を読んでいくと主人公本人も含めて、誰もが戦時下のどうしようもない中で、おかしな感じになっているのが物悲しい。
    私たちが多くの戦争作品で出会う「欲しがりません勝つまでは」のような美しい国民像とはかけ離れた、ひとつの本当の姿を描いた作品なんだと思う。
    途中で出てくるメディア批判にはニヤニヤさせられた。いつの世も意外と変わらないのかな。


    ☆母の上京
    ☆外套と青空
    ☆私は海をだきしめていたい
    ☆戦争と一人の女

    ★青鬼の褌を洗う女
    何だろう、お妾さんの子供がお妾さんとして生きていく様を一人称で淡々と語る、不思議な作品。モデルがいるのかなぁ…すごく身勝手に思えるのにちっとも憎めない、不思議な魅力を醸し出している女性なのだ。男の人の目線でこういう作品を書くの、難しそうだと思うけど、女性作家が書いたら「ちっとも憎めない」女性にはならないと思う。上手く説明できないけど。その感性というか、バランスというか、この主人公の立たせ方が際立っていた。

  • 表題作を含む7つの短編集。
    「私はそのころ耳を澄ますようにして生きていた。」
    「匂いって何だろう?」など、どの話も出だしの文章が特にかっこいい。
    『青鬼の褌を洗う女』が好き。

    希望がなくても生きていかなければならない人間臭さはわかるんだけど、
    現実と理想のギャップにもっとじたばたしている方が私は好みだ。
    お屠蘇気分で読んでいたので、きちんと読み取れなかったかも。
    またいつか読み返してみようと思う。

  • 前回読んだ岩波文庫とは収録されているものが若干違うので(かなりかぶってはいるけど)、こちらも読んでみた。
    やっぱり「白痴」には格別に感動するけど、他も全て良かった。
    「青鬼の褌を洗う女」の主人公が好き。

  • 生への執着、生きがい。戦争もずいぶん昔のこととなってしまった。13.4.29

  • 何度目かの白痴読了。
    相変わらず面白かった。
    自分の存在意義同様に孤独さえも他人との関係の中でしか見出すことできない。
    だけど、白痴の女との間では関係は揺るぎ不安定である。
    そんな中で一瞬ではあるが意思表示された女に伊沢は感動で狂いそうになる。
    そんな希望を垣間見たのは伊沢が本音で女に接したからかもしれない。

  • 表題作「白痴」を含む7篇が収められてゐます。
    それにしても、何とまあ無気力な主人公たちでせうか。ここまでやる気が感じられないと笑つてしまふほどであります。

    「いずこへ」の三文文士、「白痴」の伊沢、「母の上京」の夏川、「外套と青空」の太平など、一見志が低い、どうしやうもない奴等ではあります。
    一種の理想主義者なのかも知れません。故意に情けない姿を見せてゐるのも、堕落してもいいぢやんとばかりに挑発してゐるやうに見えます。
    常に戦争の影がちらつき、明日の生命も分からぬ当時の世相も関係があるのでせう。それでも適当に諧謔を交へて、それなりに逞しく生き抜く男女の姿は善悪を超えた存在として迫るのでした。

    「戦争と一人の女」「青鬼の褌を洗う女」は女性の一人称で語られる作品。戦争を歓迎する発言などを、女性の立場からさせてゐます。これは計算づくか。
    ちなみに「戦争と一人の女」は、元々男性の視点から書かれてゐたさうで、本書に収められてゐるのは、その後書き直されたもののやうです。元のやつも読んでみたいのですが、高価な全集版でないと載つてゐないのでせうね。

    今風の小説に慣れた読者には、少し読み辛いかもしれませんが、今でも版を重ねてゐるのも事実。人によつて意見が分かれさうな作品群と申せませう。

    http://genjigawakusin.blog10.fc2.com/blog-entry-206.html

  • 遠藤周作「私が 棄てた 女」の延長で読んだ。遠藤の方が良作。

  • 戦争の描写が多く読みづらいかと思いきや、一気に読み終えた一冊。
    文章力が凄い。

  • 中学生の頃だったか、浅野忠信の映画のポスターがすごく印象的で気になってて、でも何かエロスな感じもあって見に行く勇気のないまま、映画館の前を通るたび悶々としてたのを思い出します。

  • ダダイスト。

    太宰は自分のこと嫌いで、嫌いで、結局そんな自分が好きだけど、

    安吾はその逆というか、

    「堕落は呑んでも呑まれるな」と思いつつ、結局呑まれてしまう感じがする。

    そんなダメっぷりが、ちょっとおちゃめ。

  • 空襲下の限界状態で、人間の尊厳を問う。

    本能のみで生きる白痴を豚と変わらないと言い切り、徹底して人間の表層を取り除いている。

     多少、露骨な表現が多いが、私の存在意義を再考させられる。

  • この本、高校時代に読書感想文を無理やり書くために読んだような・・・
    でもほとんど内容を覚えてなかったので、もう一回読んでみました。

    それもそのはず。

    文章が読みにくいです。やたら難解。
    ホントに高校生の時、ちゃんと読んだのだろうか・・・。

    ついでにいうと、私あんまりこの手の小説好きじゃないです。デカダン派というやつでしょうか。それでも読みかけたので頑張って読みました。

    表題作「白痴」を含む代表作7作が収録されているのですが、「私は海をだきしめていたい」「戦争と一人の女」はどうやらリンクしているらしく、良かったです。

    苦手な類の小説なんだけれど、戦争を取り扱った小説としてはかなり珍しいものだと思います。そういった意味で興味深いです。
    私は当然、日本で戦争があった時代に生きては居ないので、戦争観というのはメディアによって形作られています。
    坂口安吾は時代的に第二次世界大戦を経験しておられると思うのですが(終戦10年後に亡くなっています)、「戦争と一人の女」は戦争体験者が書く小説としては私にとって衝撃のものでした。

    「私は然し夜間爆撃の何が一番すばらしかったかと訊かれると、正直のところは、被害の大きかったのが何より私の気にいっていたというのが本当の気持なのである。照空燈の矢の中にポッカリ浮いた鈍い銀色のB29も美しい。カチカチと光る高射砲、そして高射砲の音の中を泳いでくるB29の爆音。花火のように空にひらいて落ちてくる焼夷弾、けれども私には地上の光芒たる劫火だけが全心的な満足を与えてくれるのであった。」
    −−「戦争と一人の女」より


    それから、殆どの作品で女性が登場するのですが、この女性たちが思わず疑問を抱いてしまうような人物です。
    坂口安吾の人生と、女性との関係を知りたくなりました。

    なんとなく、全体的に太宰治を彷彿とさせるなあと思ったら、太宰も坂口も無頼派だったんですね。何にしろ苦手です。

  • 戦中戦後という特殊な時代状況が舞台であるとはいえ、それにしても、男と女の造型、息遣いがとっても生々しい。それまでの近代文学では読んだことのないもので、刺激的であった。
     7編の短編を収録。「いずこへ」では、女に付随する所帯じみた感じのうっとしさが、描かれる。わかる気がする。一方、表題作「白痴」では、言葉もろくにしゃべれず押入れに潜んで脅えている女に、男はいじらしさを覚える。
    男の傲慢さがあり、優しさがある。
    男が女に対して甘い愛の言葉をささやく、という恋愛小説よりも、自分は、こうした、いわば女に媚びない、つべこべ言わせない感じのほうが、好みのようだ。
    以前モーム『月と六ペンス』を読んでいたく気にいった。ストリックランドのぶっきらぼうで豪放磊落な生き方と、どこか同じにおいを感じ、“そうか僕はこういう世界が好みなのか” とふと思い至る。そういえば、同じく好んで読んできた中上健次の作品世界も、少々その傾向があるわ。

     ドストエフスキー「白痴」読了後、“はくち繋がり” で読んだ。 

  • 昭和の時代において、いや、現代にとってもこのような作品を排出するのはとても勇気がいりそうな感じ。特に戦争と一人の女はかなり不謹慎で、戦争を体験していなければ考えつかない心情だし、経験していない自分にとっては共感しにくい。だけどこんな感情を持つ人は少しはいたはずだし、そういう意味で人間という生き物の新しい発見でした。登場する女性は「青鬼の褌を洗う女」以外はどこか変な人ばかりだが、それを客観的にみる側にも変であり人間の赤裸々な内情が彫りだされています。支離滅裂感のある作品もあり「青鬼の~が顕著」途中でいい加減な気持ちになるが、読み返して楽しむ類の本かとも思う。

  • 戦争の状況を賛美しているが、戦争に含まれるべきである他国、指導者への敵意といった意味は包括していない。たとえそれが災害であってもこの本は書けると思う。オチが素晴らしい。環境による美化を捨てろということだ。

  • 七編から成る本だけど、最初の五編を読むのに2週間くらいかかった。
    あとの二編は女性視点で書かれているためかぐいぐい読んで、面白くてもういっかい読んだ。なのでこの二編についての感想になるけど、愛情に関して、精神的なものと肉欲的なものの捉え方がとても腑に落ちるなあと思った。

  •  坂口安吾という人は天才だ。文章が本当に美しい。誰もこのような形で戦争や生活を描けないと思う。美しいのだけれど感情が爆発している。なんというか、書きなぐっている感じがする。だけれどその文章の優れた部分に誰も太刀打ちすることができないように思う。精緻を重ねた文章では恐らくないのにも関わらず、だ。
     まるでのんべんだらりとしている浮浪者の体の男が、オリンピックの会場で堂々と金星を挙げている趣がある。重ねていうが、この人はやはり天才なのだろう。
     表題作の「白痴」には、どこか清々しい匂いが漂っている。文字通り白痴の女と、空襲に生活を追いやられる一人の男を描いた作品なのだけれど、爽快感がある。読んでて気持ちが良い。これって、すごくないですか?

  • 【速読】どんな調子で書いてあったかな、というざっと読みでの確認です。

  • 白痴の勉強としてドエトスフキーの分厚い本の前に安吾の白痴のタイトル白痴を読む。

    白痴:白痴がキチガイと違う点は大人しく、知能が低く幼い感じ、語源認知能力も低い。何故かキチガイ共々美人なのはメルヘンティック。戦争中物はエネルギーが強い物が多く、言葉で言い表せない部分も詳細に的確に書いていて入り込める。 白痴女との男女の関係とはなんだか少し現代的なズレを感じるのが読みどころ。

    いずこへ:男性作家は今も昔も問わず「こういう系」の話を皆1つ2つ書いてる気がする。雑に一言で言うなら男も女も勝手だなという感じ。

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白痴 (新潮文庫)の作品紹介

白痴の女と火炎の中をのがれ、「生きるための、明日の希望がないから」女を捨てていくはりあいもなく、ただ今朝も太陽の光がそそぐだろうかと考える。戦後の混乱と頽廃の世相にさまよう人々の心に強く訴えかけた表題作など、自嘲的なアウトローの生活をくりひろげながら、「堕落論」の主張を作品化し、観念的私小説を創造してデカダン派と称される著者の代表作7編を収める。

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