蜘蛛の糸・杜子春 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (128ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101025032

作品紹介・あらすじ

地獄に落ちた男が、やっとのことでつかんだ一条の救いの糸。ところが自分だけが助かりたいというエゴイズムのために、またもや地獄に落ちる「蜘蛛の糸」。大金持ちになることに愛想がつき、平凡な人間として自然のなかで生きる幸福をみつけた「杜子春」。魔法使いが神の裁きを受ける神秘的な「アグニの神」。少年少女のために書かれた、健康で明るく、人間性豊かな作品集。

感想・レビュー・書評

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  • 芥川龍之介さんに出会えた作品。
    短編集で一話一話が短いので読みやすい。

    この人は、
    凄く丁寧な言葉遣いだった。
    このような言葉遣いの人は
    初めてだったけど
    読みにくいなと感じることはなかった。
    それは、話が面白いからだと思った。


    この中では「猿蟹合戦」が一番好き。

    「猿蟹合戦」は、昔話のさるかに合戦の
    続きをえがいたもの。

    猿を殺した蟹は死刑になる。
    昔話だけを読んだ読者は蟹を可哀想だと思うだろう。
    だが、蟹の死は当然だ。
    蟹は必ず天下のために殺されるのだ。

      昔話の奥深さを知って改めて面白いなと思った。


    「白」も好き。

    臆病な自分を見返せる。

    大切な仲間を見捨てると、自分も見捨てられる。
    忘れられる。必ず自分に返ってくる。

    でも、ただ悲しいと思うだけではだめなのだ。
    それを反省して心を入れ直す。
    臆病な自分を捨てることが大切なのだ。


    この本で自分を見直すことができた。
    臆病になってしまったり、欲張りになってしまった時は
    この本を読もう。

    人間の現状が今、ここにある。

  •  日本文学の金字塔、王道、一番有名な文学賞に名前が付けられている方なのに、恥ずかしながら小中学校の教科書に載っていた「トロッコ」「羅生門」「蜘蛛の糸」を読んだくらいで、もうすっかり分かった気でそれ以降まともに読んでいなかったことに愕然とした。
     「トロッコ」の主人公の少年の心細さは、当時小学生だった自分が等身大で入り込めるくらいの心理描写だったが、今読むと結末の大人になった主人公と同じようにその当時の自分の心理を回想出来る。実際にはトロッコのあった風景は自分の人生の中にはなかったのに。
     やはり、さすがに「芥川賞」の芥川龍之介さんである。明治の方というと難しい感じがするが(この本の作品は年少者向けのものを集めているせいもあるが)、どの部分の表現も美しく、優しく、易しく、品があり、それでいてキリッとして締まりもあり、非常に短い作品ばかりであるが心に残る。
     良い映画を観ているような錯覚にも陥る。「蜜柑」という作品のクライマックスのシーンはそのまま額縁に入れて飾っておきたい。「杜子春」の冒頭、「或る春の夕暮…唐の都洛陽の西の門の下にぼんやり空を仰いでいる一人の若者がありました。…油のような夕日の光の中に…土耳古(トルコ)女の金の耳輪や…絶えず流れていく様子はまるで画のような美しさです。」この下りを読んだだけで、もう私は遥か唐の時代の洛陽に立っている。カメラを使っていないが、言葉の表現、文字の表現で舞台、衣装、光などを作り、映画を撮影している。異国情緒もあり、国名など難しい漢字が使われていたりするが、教養をひけらかすようなものではなく、東京の外国人居留区に近い所で育ち、新聞社員になってからは中国に派遣されたこともある人生の中で見てこられた光景だと思うので、味がある。
     でも晩年の頃の暗い思想に裏打ちされた作品も読まなければ芥川龍之介は語れないのだろうと思う。

  • 「お釈迦様は極楽の蓮池のふちに立って、この一部始終を、じっと見ていらっしゃいましたが、やがてカンダタが血の池の底へ石のように沈んでしまいますと、悲しそうなお顔をなさりながら、又ぶらぶら御歩きになり始めました」(「蜘蛛の糸」13p)

    文章として1番洗練されていたのは、やはり「蜘蛛の糸」であると思う。鈴木三重吉に頼まれて初めて書いた芥川の童話集である。研究によって、元ネタが判明し、更にはトルストイの童話にもほぼ似た話があることが判明した。芥川の凄いのは、その2つとも最後に小難しい教訓をつらつら述べているのに、芥川はラストをお釈迦様の顔でさらりと流したことである。

    私が20世紀最大の知識人と評価している加藤周一の「青春ノート」を覗き込むと、青年加藤は芥川に影響を受け、かつそれを如何に超えるか苦心していた。よって、単なる短編小説家と思っていた私の芥川龍之介評価は変わりつつある。確かに芥川の知識は、当時の日本の知識人の水準を遥かに超えていたと思う。この小さな童話集だけに絞っても、インド、中国、日本古代の知られざる典籍が元になっていて、更に短編小説の手法はヨーロッパ文学が基になっている 。それでも彼は自殺せざるを得なかった。大きな課題が、加藤周一の前に立ちはだかっていたとしても不思議はないと思うのである。

    「アグニの神」は、在り来たりなジュブナイル・ストーリーなのだが、驚くことにその発端は「いったい日米戦争はいつあるか」という占い師への問いかけだった。日米開戦の16年前の記述である。

    約40数年振りの再読。320円で、お釣り調整のために買ったのだが、下手な現代小説よりも考えるところがあった。

  • 昔から何度も読み返している作品。
    読み返せるだけの深みと面白さがやっぱり詰まっている。短いストーリーだからこそ印象に残って、後世に伝えたいと思えるのだろう。たぶん笑

  • 学生時代の教科書で読んだきりの芥川
    実家の父の書棚にいくつかあったのを拝借


    ■蜘蛛の糸
    お釈迦様のいる極楽の美しさ、穏やかさと地獄の暗さ、絶望のコントラストがいいですね
    子供の頃はそんなことより、人を蹴落として自分だけが助かろうとするとバチが当たるんだと教訓めいた読み方しか出来なかった
    大人になると、さてこれは自分ならどうするよ?
    となる
    うんうん考えてみたが、とりあえず誰にも追いつかれないようにダッシュで糸を登ってみる…という何とも器の小さい結論に
    大した人間じゃないことがバレます

    ■犬と笛
    植物、動物すべての生命体を魅了し、神から褒美まで貰える笛を奏でる主人公
    どんな音色かぜひとも聞いてみたいものだ
    まさに芸は身を助ける
    最後に二人の姫のどちらと結婚したのか気になるなぁ
    だってこれって一波乱ありそうじゃないですか(笑)

    ■蜜柑
    短いながらも見事に映像化される作品
    主人公の疲れ切った倦怠感とうんざりする平凡な日常
    そこに現れた嫌悪感を抱かせる少女
    ザラっとした男の心が爽やかな旋風が吹き飛ばされ、美しい情景に変わる鮮やかな筆術

    ■魔術
    凄い魔術を扱うインド人の不思議な館で人の欲深さが試される
    この不思議な雰囲気のある館が気になり、妄想が止まらない
    妄想→古くて埃っぽくて暗い よくわからない調度品が無秩序に配置されている
    微かにエスニックなお香の香りが漂う
    出されたティーカップは古くて茶渋がこびりついている
    ティーソーサーは少し欠けている………なんて感じ
    そしてジンが登場
    どうやら芥川は「アラビアンナイト」の翻訳を試みた事があるようだ

    ■杜子春
    舞台は唐の都洛陽
    主人公杜子春はお金のある贅沢な暮らしと無一文の暮らしを仙人に操られ、人間に愛想を尽かす
    そして仙人の弟子になるのだが…
    この修行により人間らしい正直な暮らしに目覚める…
    この修行がなかなかのものでちょっと杜子春を見直した
    ようやく彼は大切なものに気づいたのだ
    大切なことは目立たなくて案外近くにあるってやつですな

    ■アグニの神
    上海が舞台
    強欲な魔法使いのインド人老婆
    その婆さんの元に香港の日本領事館の娘が拉致られている
    救世主はピストルを所持している遠藤という日本人
    いつも婆さんが魔法を使うときに呼び出すのがアグニの神
    最後はこの神の怒りに触れお陀仏になるのだが…
    これはよくわからなかったなぁ
    内容はともかく、「杜子春」の華やかだが柔らかい雰囲気の都、洛陽とこの華やかだが下世話な感じの上海の雰囲気がそれぞれしっかり浮かび上がる

    ■トロッコ
    もうこれは誰しもが味わったことのある酸っぱ苦い思い出だ
    それを思い出す大人の疲れた、特に明るい未来があるかわからない先の見えないような日常が重なる…
    という描写

    個人的にはこの「あるある体験」の生々しい少年の感情が鮮明で悪くない

    ■仙人
    うわー
    これまた強欲な人間の登場
    えげつないわ この医者夫人のおばさん
    でも正義は勝つのです
    ああ、良かった!

    ■猿蟹合戦
    なんとまぁ「猿蟹合戦」のその後の話
    猿と仕留めた蟹たちは警察に捕まり、監獄に投ぜられ、主犯格の蟹は死刑に
    社会の風刺を取り入れて面白く話を展開させて膨らませているパロディ作品なのだろう
    面白さが全く理解できなかったが…

    ■白
    罪を冒した犬が命をかけて(本心は生きる事を諦めて)罪滅ぼしをしていく
    これが最後に報われる
    こういう話は子供の情操教育にとても良さそう
    複雑さやヒネリはないが、素直に読めて心が洗われる
    個人的に好きである


    道徳や哲学が散りばめられており、とにかく全ての作品に余韻があり、読書後暫く考えさせられる
    映像描写の素晴らしさと奥行き感が見事である
    ただ、好みではないなぁ
    うーん
    ワタクシの情緒が欠落しているのでしょう
    まぁ正直になることは大切なはず…

  • 芥川龍之介と言えば羅生門を教科書で読み、地獄変、蜘蛛の糸を思いだしたんです。

    こちらは少し物語がやさしい、わかりやすい感じでした。

    その中でもはじめて読んだ蜜柑にとても惹かれました。

    これは…好みのやつだ。

    どの時代も、平然たる、日常の、生活での感情の機微は凹凸があるのだと思うが、作品そこにトリップしたような後読感で気持ちよかった。

    こういう生活感があって、そこでのちょっとした非日常がすきなのかも。

    龍之介目線。

    列車でどこぞへ向かうのだが、ほぼ客のない列車内で、発車まで座席でなにを思うでもなく退屈に待つ龍之介。

    やっと発車の笛がなる中、一人の娘が乗り込んでくる。
    身なりがいかにもいなか者然としている娘。

    その娘の存在が龍之介の退屈を払拭してゆくイメージなんですが、龍之介が娘を見る目の変化と、娘の境遇、諸々がわたしにはとても善き。でした。

  • H29.10.2 読了。
    ・初芥川作品。蜘蛛の糸、犬と笛、杜子春はお気に入り。羅生門も改めてじっくりと読んでみたい。
    ・現代作品にあまり見られない道徳観がちりばめられた短編小説でした。

  • 健全健康な短編集。読みやすさ100%。
    これよ、これ。
    「蜜柑」にハマれなかったのが悔しい。
    心が荒んでいるのかも。

  • 教科書やどこかで読んでたものも多かったが『夢見る帝国図書館』に出てきた『魔術』読めて嬉しい。新聞報道を取り入れるスタイルが新鮮な『白』やシニカルな『猿蟹合戦』など意外性あり楽しめた。

  • 引き続き昔の文学を…の流れで、芥川龍之介作品を。
    オーディオリスニングにて読める代表作をパラパラ(蜘蛛の糸、蜜柑、羅生門、トロッコ、杜子春、鼻)と…代表して感想をここに記載。

    いや…何かエモいやん、芥川龍之介・大先生( ̄∇ ̄)

    美しいながらも読みやすい…程よく装飾性のある文章、個人的にはスゴく心地良かったです。

    今読むと話自体は決して珍しくはないんですが…
    芥川龍之介作品とは、その超絶王道なストーリーを「巧みな筆力」と「偉大なる文豪の肩書き」を命綱にして読む作品なのかなぁと…我ながら、結構なお手前で…( ̄∇ ̄)wwwww

    あと、どの作品も最後(あたり)の一文が素晴らしいですね。
    羅生門で言うところの「下人の行方は、誰も知らない。」的な(笑)

    綺麗なフリオチのストーリーを、最後の圧倒的な美しい文章で仕上げつつ、ピリッとした緊張感を持たせる…コレが「文学」感を出してるんかなぁと。

    「ええ感じのオチ書いたやろ」って、ほくそ笑んでる芥川龍之介さんの顔が浮かんできますね…うっすら漫才の最後で言ってんなぁ…「もうええわ」って…したり顔で…(´∀`)


    <印象に残った言葉>
    ・下人の行方は、誰も知らない。(P18)

    ・ーこうなれば、もうだれも嗤うものはないにちがいない。内供は心の中でこう自分に囁いた。長い鼻をあけ方の秋風にぶらつかせながら。(P29)

    ・しかし極楽の蓮池の蓮は、少しもそんなことには頓着致しません。その玉のような白い花は、お釈迦様の御足のまわりに、ゆらゆら蕚を動かして、そのまん中にある金色の蕊からは、なんとも言えないよい匂いが、絶え間なくあたりへ溢れております。極楽ももう午に近くなったのでございましょう。(P70)

    ・暮色を帯びた町はずれの踏切と、小鳥のように声を挙げた三人の子供たちと、そうしてその上に乱落する鮮やかな蜜柑の色とーすべては汽車の窓の外に、瞬く暇もなく通り過ぎた。が、私の心の上には、切ないほどはっきりと、この光景が焼きつけられた。そうしてそこから、ある得体の知れない朗らかな心もちが湧き上がってくるのを意識した。(P152)

    ・塵労に疲れた彼の前には今でもやはりその時のように、薄暗い藪や坂のある路が、細々と一すじ断続している。……(P236)


    <内容(「BOOK」データベースより)>
    この天才を越えた者がいただろうか? 近代知性の極に荒野を見た作家の珠玉作品集。
    小説家の登龍門である「芥川賞」に、その名をとどめる芥川龍之介は、深刻な人生の悩みに耐えながら、機智と諧謔と博識を駆使し、みごとな短篇小説を書き残した。
    平安時代、荒廃した都で途方に暮れていた下人は、若い女の遺体から髪を引き抜く老婆に怒りを燃やす……「羅生門」。
    蜘蛛の糸につかまって自分だけ助かろうとした男のエゴイズムの果てを描く「蜘蛛の糸」。
    贅沢と転落を繰り返し、人間に愛想をつかした若者が仙人になりたいと望んで……「杜子春」。
    新鮮な抒情、傑出した虚構、そして明晰な文章で、今なお人々を魅了してやまない不世出の天才の代表的作品を、一冊に収めた21世紀への日本の遺産。

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著者プロフィール

1892年(明治25)3月1日東京生れ。日本の小説家。東京帝大大学中から創作を始める。作品の多くは短編小説である。『芋粥』『藪の中』『地獄変』など古典から題材を取ったものが多い。また、『蜘蛛の糸』『杜子春』など児童向け作品も書いている。1927年(昭和2)7月24日没。

「2021年 『芥川龍之介大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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