戯作三昧・一塊の土 (新潮文庫)

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著者 : 芥川龍之介
  • 新潮社 (1983年11月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (292ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101025056

戯作三昧・一塊の土 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 色々あります龍之介。



    近頃の芥川熱が高じてまたしても手が伸びた。
    名の通った作家なのに気軽に読める。しかし重みもある。それが芥川先生のいいところだ。
    予備知識ゼロで読んでみた。裏表紙の概略すら読まなかったぐらいだ。
    はじめが『或る日の大石内蔵助』だったので、いつもの感じに歴史物かと思ったが全然。
    まず文章に驚いた。私が心開いているからと言うのもあるかもしれないが、芥川ってこんなにも心理や情景の描写に卓越していた作家だったっけ、と数ページ読んだところで考える。きれいと言うよりうまいのだ。そして掘り下げ具合も調度良い。淡泊な作家だと思っていたが内蔵助の心模様は妙に込み入り、しかしまたいい具合に引く、というよい綱渡りを見せる。私好みの塩梅だっただけに読んでいて思わずにやりとしてしまった。


    本作に収められている中で私のお気に入りは『戯作三昧』『舞踏会』『秋』の三つ。
    『戯作三昧』はあの馬琴が主人公で、その創作生活に関して書かれているのだが、それがまた何とも具合がいい。
    作家を扱ったものって一般の人から見ると、わかったけれども、いわば陶酔と苦悩のあいだにたゆたわれてもなんだかな、という時がある。しかし、ここにかけての芥川の”わかりやすさ”は健在だ。創作家と読み手の距離とそれぞれの思惑がバランスよく書かれているのだ。くそ真面目に陥らない。“易しい”と言うより、“優しい”のだ。そして驚く程、文章が冷静。
    二つ目の『舞踏会』コレは本書に収められている中では私の一番のお気に入り。
    単純にこんな優美なものを書くんだ、という驚きがまずあった。後書きには『一塊の土』では芥川の育ちと繋がりが薄い階級の人間を扱ったものも見事に書き上げている。とあったが、私にはこちらの方がそういった驚きが大きかった。芥川と鹿鳴館って、異色の取り合わせではないのか。
    いや、私には芥川について予備知識がないのでこういった、いわばミシマが得意とするような社交界が芥川と繋がらなかったのだろう。書くとしても花柳界、いやそれもイメージにないな。芥川ってやはり王朝物の名手ってイメージがあるのだ。
    ミシマの場合だと執拗に描写を盛り込み散々期待させるようなじらしをするのが十八番だが、芥川はすらりとただ純粋に美しい物語として収めている。コレにも驚いた。何この人。『潮騒』びっくりの清らかさだわ。
    『秋』もそれに同じ。キャクターは醜さを露呈せず、淀むことなくある。これの場合はラストが特に気に入っている。
    全体を通して言える事だが、登場人物がみなそれぞれ確かな一本芯が通っている。それは善人だろうが悪人だろうが関係ない。一貫した素直な役割があるのだ。だからそこには人間らしいずるがしこい矛盾はない。わざとないようにしているのだろう。これを堂々とやるのがすごいよな。意図してか、それとも無意識にか。しかし作品の気質って人間性が非常に出るものではないだろうか。芥川の人となりを垣間見えるようで気になったりもするが、はてさて。
    ともかく読む事に驚かされた。初心者の私だからかもしれないが、自分は長らく芥川に対して固定観念がつよすぎたのかもしれないと、ふと思う。




    純文学モノという分野を読むときは、出来事を期待してはいけない、と私は考えている。
    今回収録されていた物語のほとんどがそれに該当しており、大きな展開めいたものはなかった。特に芥川の場合は短編ばかりを書いた人間なので筋ときっぱりと言えるような形を読者が捉える前に物語は早々に決着を付ける。しかし、このぐらい簡潔に物語をまとめられるのならば、無駄な期待を高め、読者をがっかりさせることは少ないのではないかと思う。そう言う意味でも芥川は”優しい”のだ。
    こういった類の小説は文章の美しさを味わい、また物語の芯を感じ、うまくいけば代弁されたことによる共感を経験する事がメインなのだ。
    勿論、筋を持ってそれを表現できる作家もいるだろうが、それにはかなりの技量がいる。それは読み手の方にも言える事で、筋を追いかける事に夢中になって、終わった頃には、なんだっけ?ってなってしまう事もある。

    と、ここまで書いてあの問答の受け売りめいているな、と気がつく。
    ちょっと前なら迷うことなく大タニザキの肩を持ったが、今では波風立たないようにそっと芥川の味方をするだろう。
    今更『痴人の愛』読めって言われたら思わず渋い顔が出てしまうだろう。あの小説が私に残してくれた教訓は「子供の名前に”ナオミ”と付けてはいけない」と言うこと。いや馬鹿にしているわけではないんだけどね。
    いや、なんだか二人の論旨とはなれた作風での話になってしまったな。
    そう思って改まってコレを書く前に『文学的〜』を試しに読んでみたのだが3章でやめてしまった。
    筋の是が非、ね。この2人では作風が違いすぎないか。結局私はコアがあればいいと思ってしまうが、正直小説はおもしろいにこした事はない。
    代弁された事の共感は読者を救う事もあるが、それにより書くことで作者がを救われている部分も大きいだろうしね。ならば自己満足にならないように気を付けねばなるまい。
    まぁ私なんかが言わずとも、表現者には色々と思う所があるのだろうがね。




    そろそろ芥川好きの人を指した通名を考えてもいいかもしれない。
    ダザイスト、ミシマニア、ハルラーとくればアクタニアとか?
    なんか三流ファンタジーの舞台になっている架空の国名みたいだな。
    芥川好きの人、でいいだろう。
    もしくは河童通とか?
    我ながら恐ろしくセンスがないな。いつか芥川好きの人にあったら聞いてみよう。

  • 自分が今まで抱いていた芥川作品のイメージとはちょっと変わったものが収録されている短編集でした。
    表題作の『戯作三昧』がじわじわ来ます。美術の課題の現実逃避で読んだらぐりぐり刺激されました、謎の意欲が。
    『舞踏会』と『秋』がすごく好きです。
    『お富の貞操』とか結構な内容なのに、芥川先生の文章って登場人物より一歩引いててすっごい冷静だから内容がすっと入って来て、やっぱり芥川先生すごいな…。うまい。と思いました。
    また忘れた頃に読み返したいです。

  • 大石内蔵助や滝沢馬琴、松尾芭蕉など歴史上の有名な人物が出てきます。羅生門から始まり地獄変、蜘蛛の糸、奉教人の死と読み進めてきましたが、この江戸期もの、明治開化期ものは文章のイメージが変わった気がしました。静寂な透き通った水底のような感じ?諦めにも似た達観した感じ?うまく言えないけど、今までとは違うように思えました。
    『舞踏会』『秋』が印象に残りました。あと『年末の一日』を読んでいると大正時代の東京の街並みを芥川とともに歩いているような思いになってしまいました。なんでだろう、孤独感に覆われたような冷たい空気に染まってしまう気がして胸が苦しくなりました。

  • この短編集は、表題の戯作三昧・一塊の土ほかに「或日の大石内蔵助」「開化の殺人」「開化の良人」など収録されています。

  • 大好きな月岡芳年の浮世絵が小説のモチーフになっていて、大学時代によく通って思い出がある東京国立博物館の展示室が舞台の「開化の良人」は好き過ぎて、何度も何度も読んだ。

  • 『秋』
    こういう話も書くのか、と一寸意外な感じがしました。
    恋を諦めて“幸せな”結婚をした女の話。

    『枯野抄』
    死の床に臥す芭蕉、
    その姿を目前に、弟子達の胸中は……。
    人間の内面を描いた忘れ難い短編。
    きっと誰もが顧みる。
    個人的にこういう主題を好みます。

    『庭』
    方言に親しみが湧くなと思ったら、
    モデルとなった人(芥川の友人)の実家が長野でした。
    物語の中で大事があった訳ではない、
    ですが読後感があまり良くありません。
    含む意味は違うのでしょうが、末文が『羅生門』に似ています。

  • 「或日の大石内蔵之助」
    坪内逍遥の「小説神髄」から
    近代日本文学は始まったとされるのだが
    それにおいてまず批判されたのは
    江戸期の戯作文学
    その中でも、「勧善懲悪」と呼ばれた
    読んで字のごとく、いいもんがわるもんをやっつける
    単純なお話だったという
    武家社会においては、特に「忠義」というものが
    善きこととして人々にすすめられたのだけど
    これは、日本人のナショナリズム・ナルシズムにも
    密接にかかわる重大な問題である
    「信じられるもの」のために、命をかけたいのだ
    しかし、そのような物語になんの疑問もなく熱狂することは
    あまりに信用ならない
    あまりに軽薄なことではないだろうか

    「戯作三昧」
    滝沢馬琴のスランプ時代を書いている
    日和見主義や二枚舌や
    浅はかな反骨精神の発露にあてられて
    すっかり人間がわからなくなってしまった馬琴は
    大長編「南総里見八犬伝」を
    書き進めることができなくなってしまう
    しかし、孫のからかい言葉にヒントを得て
    危機を脱するのだった
    ちなみに、芥川龍之介じしんもそれを欲していたのだが
    ついに手にすることはかなわなかった

    「開化の殺人」
    文明開化によって、義憤と嫉妬は明確に区別されるものとなった
    それは、西洋文明が、その流入初期において
    日本の風土に対するアンチテーゼとなりえたことを意味する
    それと同時に
    グローバリゼーションの本質こそ知にありと
    進歩的な人々には信じられるようになったのだろう
    この四年後、「神神の微笑」は書かれるのだが

    「枯野抄」
    松尾芭蕉の臨終を書いたもの
    芭蕉に、芥川の師匠(夏目漱石)を重ねていると言われる

    「開化の良人」
    理想とは、直観的に認識されるものである
    価値とは、具体的に計量されるものである
    進歩的な人々には、むしろこの両者を混同する傾向があった

    「舞踏会」
    社会的な二面性を使い分けなくてはならない人の
    ある種の悲哀である
    三島由紀夫は絶賛したが
    ピエール・ロティの日本評を知らなければ
    ちょっとよくわからない作品となるだろう

    「秋」「庭」「お富の貞操」「雛」
    明治時代、かわりゆく世の中でむかしを懐かしむ人々の群像である

    「あばばばば」
    世の中も変わるが人間だって変わる
    娘じみた雑貨屋の奥さんは、ずうずうしい母親に変わりました

    「一塊の土」
    ワーカーホリックの嫁に振り回される姑のはなし
    女の独立を書こうとしたのか

    「年末の一日」
    夏目漱石の墓を訪問する話
    墓参の帰り、箱車を押して坂道を登ってゆく芥川の姿は
    「トロッコ」の子供たちに重ねて読むことも可能であろう
    死の一年半まえに発表された作品である

  • 「戯作三昧」を読む.
    「舊漢字―書いて、覺えて、樂しめて」で一部が引用されていたのがきっかけ.

    八犬伝を執筆中の滝沢馬琴が,自分の中にある道徳家としての価値基準と芸術家としての価値基準の食い違いに悩む姿に,作者が自分を重ねているという.残念ながら私にはこの悩みが具体的によくわからなくて,馬琴の苦悩を十分に理解したとは言えない.何かを創作することの苦しみはよく伝わってくる.

  • 癇の強い登場人物がありながらも、悪い人に感じない、優しさのようなのを感じる。「お富の貞操」がよかった。12.12.13

  • 蜘蛛の糸や羅生門の方が読みやすかったように感じる。
    この作品を理解できるようになるにはまだ早いのかなと思った。

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