遥拝隊長・本日休診 (新潮文庫)

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著者 : 井伏鱒二
  • 新潮社 (1955年6月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (135ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101034034

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遥拝隊長・本日休診 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

  • 戦後間もない悲惨な社会生活を背景にしつつも、どこかユーモアを湛えている井伏鱒二の短編2編。

    『搖拝隊長』は元陸軍中尉で任務中の事故が原因で頭がおかしくなった岡崎悠一を中心に、周囲の皆が彼の言動に困惑・翻弄されながらも、戦中と戦後の分かち難い社会思想の断絶をユーモアを交えながら描いた作品です。
    何と言ってもこの作品の可笑しみは、いまだ戦争中だと錯誤している岡崎元中尉が突発的に繰り出す軍隊号令で、たまたま周囲にいた人間が否応なく巻き込まれてしまう様がとても面白かったです。狂人の言うことだとわかってはいても、これに面倒くさいながらも波風立てず従うか、あるいは逃げ出すか、または彼の自宅へ連れ戻すかの選択を迫られるわけで、そうした状況がとてもユーモラスに描かれています。
    一方で、戦争中にさんざん聞かされ続け、しかも与太話に過ぎなかった戦争思想や軍隊号令を、戦後においてもさえ聞かされ続ける周囲の者にとってみれば、とてつもなくブラックユーモアな話であり、そうした彼らの反応の描写は反動としての戦後社会の風刺にもなっています。
    解説によると、著者はマレー作戦に従事していたとのことで、途中で挿入されるリアルな軍任務の描写がその後の奇妙な狂人のふるまいに違和感なく直結していて、これまた見事な構成でした。
    しかし、何かにつけて達観している岡崎元中尉の母親がもっとも凛々しく、この短編を大いに引き立てていたとも思います。
    戦中・戦後の社会思想の変化を題材として、井伏ならではのユーモアに満ちた佳作だったと思います。

    『本日休診』は東京は蒲田で開業した産婦人科医・三雲八春先生を中心に周囲で巻き起こるもろもろの出来事を描いた作品です。
    おそらく当初は、たまたま休診日に一人病院にいることとなった三雲先生が、休診にもかかわらず忙しくも立ち振る舞うことになった様子をユーモアたっぷりに描く構想だったと思われますが、途中からあれっ?休診日でない話にぽんぽんと移っていって、う~む、これはさてはネタ切れだなと思っていたら(笑)、解説によると3回くらいに分けた雑誌連載物だったということなんですね。それで途中で構想が変わったということか。合点。(笑)
    産婦人科医とはいいながら、専門外の盲腸手術をしたり刺青抜き手術をしたりと、大忙しの三雲先生には終始なぜかユーモアが漂っており、もう少し連載が続いても良かったのになと思わせる働きぶりでした。(笑)
    それぞれのサブストーリーで三雲先生が診ることになった患者の多くは、戦後間もない頃の誰もが極貧の中にあり、またそれが故に社会からはみ出した者もいて、そうした世相がきっちり描かれているのですが、三雲先生の穏やかでほのぼのとしていそうな性格描写がこうした悲惨な社会の様子を和らげ、あまつさえユーモラスにも見えるという井伏らしい結合を見事に成し遂げている作品であったと思います。
    作品自体はどこかユーモラスに覆われながらも、ラストはやはり社会への皮肉を重視した余韻溢れるものになっています・・・。

  • 色んな意味で時代を感じさせる作品。
    個人的には『遥拝隊長』を推す。この作家らしく声高に反戦を論ずることなく、日常に戦争の異常性を無理なく溶け込ませて物語を進めていく。
    よくユーモア溢れる作家と評されるが、ユーモアとは厳しい批評性の一つの表出であることを実感させてくれます。

  • この小説は、「遥拝隊長」と「本日休診」の二作品が収録されている文庫版ですが、「遥拝隊長」は戦地から復員していた男性が、精神に変調が来て頭がおかしくなった事によって周辺住民が迷惑をかける話ですが、話の最後にはその住民は出できません。「本日休診」は戦中戦後の話です。ある町に開院した医院の話で、戦後に開院してしばらくした後に医師、看護師が休養のため保養しに行った事によって残った医師「三雲八春」医師が奮闘する話です。

  • 「遥拝隊長」(1950)/「本日休診」(1949)

    「本日休診」も小芝居的におもしろいのだけど、それよりもとにかく「遥拝隊長」である。「遥拝隊長」は何度読み返しても、かなしいなあ、とおもう。これは一般的に評されているような、軍国主義の欺瞞を暴くだけの作品ではない。社会で生きるとは他人の目に晒され、無邪気な暴力を受けながら生きることであり、同時に社会それ自体の強大な権力に振り回されることでもある。そんな風にして生きなければいけないことが、ひとりの人間をいかに壊すかということが描かれている。もうほんとうにかなしいとおもう。悠一の育った環境、大衆迎合的な村人たちの視線、過剰なまでに軍国主義を信望しなければならなかった悠一の哀しみ、軍国主義の欺瞞と愚かさ滑稽さ、狂気に陥るほかない悠一。井伏鱒二がここで描いていることは、本質的にあらゆるかたちで誰しもの日常に潜んでいる。切っても切り離せない。どうして世の中はかくもままならないのか。なぜ絶対的な真理はないのか。やりきれない。

  • 先生~、休みは休んでください!と言いたくなった。
    医者自体も少ないだろうし、命にかかわることだから「休みなんで!」と突っぱねるようなことも出来ないだろうと思うけど。

  • 出来事としては哀しいことばかりなのに淡々とした言葉で語られるのがよい。しょうがないなぁというような軽い諦めはあるが、絶望感がないところに安堵させられる。しっかり生きるというのは英雄的な行為でなくて、何があっても淡々と前へ進むことなのかも知れないと思った。

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