- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101034058
作品紹介・あらすじ
昭和30年代初頭、東京は上野駅前の団体旅館。子供のころから女中部屋で寝起きし、長じて番頭に納まった主人公が語る宿屋稼業の舞台裏。業界の符牒に始まり、お国による客の性質の違い、呼込みの手練手管…。美人おかみの飲み屋に集まる番頭仲間の奇妙な生態や、修学旅行の学生らが巻き起こす珍騒動を交えつつ、時代の波に飲み込まれていく老舗旅館の番頭たちの哀歓を描いた傑作ユーモア小説。
感想・レビュー・書評
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まぁ、よくしゃべる番頭さんだこと。
読み手に一息つく暇も与えず、旅館の裏話や色恋話を愉快に語る。
昭和初頭のにぎやかな風情を感じられます。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
堅気な商売のようだが実は江戸前の粋な世界に浸りながら、駅前旅館の番頭におさまる主人公の、活き活きとした立ちまわりを回想体の文章により表現した著者ならではの面白小説。
まず、その語り口が「古き良き」昭和の旅館とその周辺を再現していて面白い。べらんめい調だったのが、語り調になったり、旅館の隠語がみだり飛んだりと変幻自在だ。
ひとつの話も脱線して別の話になっていきそれがまた面白く、実はさっきの話の前振り話だったのかと戻ってくることもしばしば。なかなかついていくのも大変です。(笑)
番頭仲間でつるんだりとぼけたりする話や、旅館の泊まり客の様子も面白いが、主人公の派手だが結局はしぼむ淡い恋愛模様もそこはかとなく彩りを加えます。数々の与太話!も微に入り細に入る説明でついつい笑みがこぼれてしまいます。(笑)
話が唐突に終わったような感じだったが、もっと続いていても良かったな。 -
個人的名作です。
番頭さんや女中と、お客様のやり取りに風情があり味わい深い作品です。
小説全体から旅情が溢れだし、旅好きでお酒好きな私としては場面毎の風景が頭の中で浮かんできました 笑
コロナ禍のいまだからこそ家で旅行気分に浸れる小説かと思います。 -
やっぱり井伏鱒二ですね。番頭の身の回りに起こったこと、訪れた客のこと、お色気な展開に発展しそうで特に何もなかったこと。感情の起伏は乏しく、一歩引いたところから見た光景をただただ書き記したもの。落ち着いて読めます。最高でした。
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表紙のイラストを見て、ほのぼの系なのかと思ったら、思い切り寅さんの時代でした。
昭和30年頃の、上野駅前の番頭さんの語りを元に、旅館の仕事や観光業界の裏の世界を興味深く描いたもの。
映画にもなったことがあるらしいです。
慣れた番頭さんたちの、客引きや、お客の値踏み(ふところ具合や出身地)、困ったお客のあしらい方や、夜の遊び場所の紹介の仕方やら…
面白かったのは修学旅行の引率の先生たちで…
番頭さん同士のお付き合いも、ライバルであり、友人でもある関係が面白い人間模様。
まあ、根無し草でやくざな稼業な感じもしますが、語り手の生野次平さんは、一本筋の通ったお方でもありました。
生野さんは能登の出身ですが、仲間の番頭さんたちの語り口など、江戸っ子のべらんめえ口調が残り、時代を感じました。 -
上野の本屋さんで見つけた本。井伏鱒二はこんな本も書いていたんだなぁ。昭和30年代の旅館業の様子を垣間見られ、楽しく読めた。
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井伏鱒二なんて学校の教科書でしか
読んだことなかったけど
これは表紙のジャケットに惹かれて。
字も大きく読みやすくなってたし。
番頭さんの自叙伝みたいなおはなし。
仕事のあれこれを追うだけで
戦後の東京の旅館業の盛衰が楽しめる。
品の悪い修学旅行生が
関西方面からなのが、ひっかかるけど(笑) -
昭和三十年ごろの、上野駅前の旅館の番頭の一人語り。
ユーモア小説か、と言われると、もはやそうは読めない。
むしろ、当時の雰囲気を味わうところに価値がある気がする。
柊元(くきもと)旅館の番頭、生野次平。
なさぬ仲の母に連れられ、上野の旅館の女中部屋で育ったという人物。
十代で母に死に別れ、その後ずっと旅館で働く。
当時の日本有数の旅館激戦地だった江の島での修行、修学旅行生や引率教師のあしらい方など、その業界の裏話が興味深い。
履物、持ち物でどこから来たか分かる、泊まるお客を一目で見抜き、遠くからお辞儀一つで、糸をかけたようにして客を吊り上げる。
こういう番頭の技は、今はもう絶えてしまったのだろう。
一方では、今でも接客業の人は、これとは違う、いろんな手管を持っていそうだ。
そういった業界の裏話とともに、番頭仲間の遊びの様子も語られる。
女性関係に疎くはなさそうな次平だが、結局結婚も、特定の女性と深い中になるわけでもない。
誘う水あらば、という風情なのに。
番頭仲間の杉田屋の高沢の愛人が引き起こす騒動やら、学生の客の松山さんの騒動やらに巻き込まれてばかりいる。
プロットがない小説。
ラノベに慣れた人だと、堪えられないかも? -
井伏鱒二はこれで、3作目。
僕の語彙力の貧弱さも原因としてあるだろうが、井伏の言葉の豊饒さには舌を巻く。
この物語は、生野が自身の仕事にまつわるあれこれを語るスタイルで描かれている。平静な時分は丁寧語だが、途中気持ちが乗った部分はぞんざいな喋り方になっているのが面白い。
僕はこの作品にそれほど魅力を感じなかったが、恐らく僕の読書量が少ないことと、作品の理解力が低いことが原因だと思われる。作品の質は高いのではないだろうか。再読したら、感想が変わりそうで楽しみだ。