- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101034058
感想・レビュー・書評
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堅気な商売のようだが実は江戸前の粋な世界に浸りながら、駅前旅館の番頭におさまる主人公の、活き活きとした立ちまわりを回想体の文章により表現した著者ならではの面白小説。
まず、その語り口が「古き良き」昭和の旅館とその周辺を再現していて面白い。べらんめい調だったのが、語り調になったり、旅館の隠語がみだり飛んだりと変幻自在だ。
ひとつの話も脱線して別の話になっていきそれがまた面白く、実はさっきの話の前振り話だったのかと戻ってくることもしばしば。なかなかついていくのも大変です。(笑)
番頭仲間でつるんだりとぼけたりする話や、旅館の泊まり客の様子も面白いが、主人公の派手だが結局はしぼむ淡い恋愛模様もそこはかとなく彩りを加えます。数々の与太話!も微に入り細に入る説明でついつい笑みがこぼれてしまいます。(笑)
話が唐突に終わったような感じだったが、もっと続いていても良かったな。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
いつまでも感想を空白にしておくのもしゃくなので、他の方の感想も見ながら少しだけ記録。
読み終えたら、その本をぱらぱらとめくって内容を思い出しながら感想を書く性質なのですが、どういうわけか、引っ越しのあわただしさに巻き込まれ、本書が見つからないのです。
引っ越し前に読んだのが悪かったか…
語り口は、とても軽妙だったことを覚えています。
井伏鱒二というと、『黒い雨』が有名ですし、みんな大好き太宰治が「師匠、描写力が半端ない」とはしゃぐくらい写実的な方だと思うのですが、だからと言って決して重くはなく、廃墟同然の姿しか見たことのない駅前旅館の風景に、知らないはずなのにノスタルジーを感じてしまうくらいでした。
それにしても、本当に、どこに紛れてしまったのか… -
駅前旅館。見かけなくなりました。
旅行の移動手段が鉄道中心だつた頃は、結構な数の駅前にあつたさうな。
しかし中小の駅前は寂れ、一方大都市の駅前は大型ホテルが林立する時代になり、風情はなくなりました。
駅前はビジネスホテルが全盛ではなからうか。ま、旅客が「旅館」より「ホテル」を好むやうになつてきたのでせう。実際ホテルは便利であります。
またもや個人的な話。
以前住んでゐた家の最寄り駅に、「F旅館」といふ駅前旅館がありました。外観を一瞥しますと、良く言へばまことに大衆的、悪く言へばぼつさい風体の建物です。
北九州市小倉出身の英語教師であるK先生が、この土地へ来てまだアパートが見つからない間、このF旅館に投宿しました。先生が言ふには、部屋に座布団がなく、枕は破れてゐて、仕方がないので自分の枕を駆使したとのこと。
数年後、この「F旅館」は、「ビジネスホテルF」と改称し、名称だけはビジネスホテルになりました。外観はまつたく変りません。しかし客は増えたみたい。
一度ここで泊つてみたいと勘考してゐたのですが、何しろ自宅から徒歩15分ですから、その機会はありませんでした。そこへ、弟の友人が遊びに来るといふので、半ば騙すやうな形で一晩ビジネスホテルFを利用させました。結果は、K先生が泊つた時と全く同じ状態だつた...
あ、この話に何の寓意も教訓もありません。
東宝映画『駅前旅館』の原作といふことですが、もちろん森繁・伴淳・フランキーは登場しません。
「柊元(くきもと)旅館」の番頭・生野次平による独白体で話が進められます。
これといつた話の筋があるわけでもありませんが、魅力的な語り口で、戦後の駅前旅館を描写します。さまざまな隠語やしきたり、客扱ひの極意...哀愁を帯びながらもユウモワに満ちた作品ですね。
とにかく読んでゐて幸福な気分になれる一冊であります。
http://genjigawakusin.blog10.fc2.com/blog-entry-36.html -
井伏鱒二を読むと、普段の生活やいつも読んでいる本からは得られない何か微量栄養素みたいなものを得られる気がする
駅前旅館の番頭の風俗などこちらは知る由もないのだが、いかにも本物らしくありありと描き出される。かならずしも堅気の商売ではないらしい。子供の頃にウチの母親が少し眉をひそめていたあたり、よく覚えていないのだが祭りのテキヤとか上野駅前で托鉢していた虚無僧とか、そのへんの人々に近いか。要は勤め人とは違う世界。なぜこんなものを読んで面白いのか言葉にしがたいのだが面白い -
2017/09/19-09/22
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最初 19771201
観光業の可笑しさと面白さがギューッと詰まってます。
その方面の方、
仕事に疲れたら、これお薦めです。 -
(1966.03.31読了)(1966.03.31購入)
(「BOOK」データベースより)
昭和30年代初頭、東京は上野駅前の団体旅館。子供のころから女中部屋で寝起きし、長じて番頭に納まった主人公が語る宿屋稼業の舞台裏。業界の符牒に始まり、お国による客の性質の違い、呼込みの手練手管…。美人おかみの飲み屋に集まる番頭仲間の奇妙な生態や、修学旅行の学生らが巻き起こす珍騒動を交えつつ、時代の波に飲み込まれていく老舗旅館の番頭たちの哀歓を描いた傑作ユーモア小説。 -
旅館の番頭、生野次平が主人公。
旅館にくるさまざまな客、あるいは旅館の女中や板前、番頭同士のドタバタ人情劇。
戦後、敗戦の憂鬱を吹き飛ばすかのような、上を下への、多忙を極めた番頭仕事。小気味良くテンポよく、読み手の心を楽しませる。
あるときは旅館の女将と。またあるときは芸者上がりの女工と恋の駆け引きがあったりする。笑
それにしても、読みながら感心したのは、やはり日本人という民族は接客業に対してたぐいまれなる熱意をもってして、さまざまな趣向をこらしたおもてなしを、昔から徹底してたんだな…。てことですかね。