黒い雨 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101034065

感想・レビュー・書評

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  • 広島への原子爆弾投下後の街や人々の凄惨な状況を日記を清書していくという形式で綴られます。
    その昔、読み終えた時は、ただ痛ましい印象が残ったが、さて、冷静な状況描写に、驚きと何か意思を感じました。

    小説と思っていたものが、実在の被爆者の日記と、作者自身が多くの被爆者からの聞き取りを基にしたものでした。
    「千万語を費やした反核・反戦・平和の言葉より事実に勝るものはない。」とし、地名・人名ともそのまま使用して、虚構としない作品にしたかったそうです。

    不正義の平和の方が良い
    広島の末路
    来るところに来てしまった
    状況が判明していくにつれ、表現は暗く重くなる。
    そして、敗戦を迎え日記は終わります。

    歴史と文学の館『志麻利』の館長さん?の「黒い雨」本当に伝えたかった事の動画良かったです。重松さん(日記の方)や井伏鱒二の想いとか、手紙とか。読む前に見つけてたら尚良かったですが、何年かしたらまた読みますね。

  • 面白い話ではない。しかし、何十年経っていてもこの小説の文章を読めば、重松が見たような光景や生活を思い描けるような話になっているところがすごい。

    原爆症と診断されていないのに原爆症だと噂されて結婚が遠のいてしまう姪っ子のために、証拠の日記を相手方に示そうと当時の記録を追っていく話。戦後と昭和20年8月5日〜15日までをいったりきたりする。

    重松は姪っ子の縁談がどうにかうまくいかないものかとすごく気を揉んでいる。どうしてあんな噂なんか信じるのか、最近は特に可愛くなってるし良い子なのに・・と、心の中でヤキモキしてイライラして、奥さんすぐ隣の部屋にいるのに「おいシゲ子、わしの日記を出してくれ」と急に大声で呼びかける。
    おっさんが突然デカい声を出す現象はこれだったのか。気持ちは分かるけどびっくりするのでやめてほしい。

    痛々しい場面になる度に一回小説から離れたくなるので数ページ読んで、置いて、数ページ読んで、置いてを繰り返した。なかなか読み終わらなかった。
    しかし、重松をはじめ、なんとか奮闘し続ける人たちの話が盛り込まれているので、少しずつでも読み進めたい話になっているようにも思う。

    ただ、普通では考えられない死に方、怪我、内部から生き物が破壊されていく得体の知れない怖さはずっと付きまとってくる。

    後半、臭かろうが姿形が変わろうが、身内としては生きてほしい、奇跡が起こってほしい、と願って捜しまわってその後も看病し続けるエピソードが、怖ろしさに怯む以上にどうにかなってくれないかと願うものなんだと逞しかった。爪の先程も悲惨さは及ばないけど、根本的な気持ちは変わらないのだと、自分の経験と重なるように思えて涙が出た。

    過去に何度も読もうとして挫折していた本。多分、火傷とか虫とかグロテスクなところばっかに目がいってて何も分からず最初の方までしか読めてなかったんだと思う。やっと読み終える事ができた。確か原爆関係の本で、「いいご身分ですなぁ」と嫌味を言われるシーンがあったなと薄っすら記憶していたものもこの本だった。

  • 2020年8月、「黒い雨」訴訟のニュースを目にした。原爆関連のニュースであることは分かるものの、自分はそれ以上に詳しいことを知らない。

    そこで本作、黒い雨を手に取った。

    果たして、内容は事前の予想とはやや異なる。広島を、原爆を描いていることは確かなのだけど、徹底的に市民目線だ。

    大きな爆撃が起こった。今回の爆弾は何かが違う。不安感が止まない。

    そのような観察や心理描写が続く。

    それはとてもクリアな追体験だった。道端に打ち捨てられた死体の、その臭気が音を伴って匂い立つような、とても深い読書体験。

    また、これらの描写は「被爆日記」の清書という形で為される。戦後の視点から過去を振り返るという手法は、ある種ユニークだった。

    総評。とても重たくディープな一冊。けれど、恣意性を排しているので、誰もがあの時代のあの場所に降り立つことができる。

    本書の紹介文はこのようにある。

    原爆の広島――罪なき市民が負わねばならなかった未曾有の惨事を直視し、“黒い雨"にうたれただけで原爆病に蝕まれてゆく姪との忍苦と不安の日常を、無言のいたわりで包みながら、悲劇の実相を人間性の問題として鮮やかに描く。

    なるほど。「無言のいたわりで包みながら」というのは非常にしっくりくる形容。


    (書評ブログもよろしくお願いします)
    https://www.everyday-book-reviews.com/entry/%E3%81%84%E3%81%BE%E8%A2%AB%E7%88%86%E6%97%A5%E8%A8%98%E3%82%92%E8%AA%AD%E3%82%80_%E9%BB%92%E3%81%84%E9%9B%A8_%E4%BA%95%E4%BC%8F%E9%B1%92%E4%BA%8C


  • 意外と掴みどころが無い井伏鱒二の作品の中で、本作は克明な描写と確かなリサーチが合わさったかなり骨太な作品。
    第二次世界大戦につき記した作品が林立する中、原爆と被爆者に触れた本作は戦争文学の金字塔と称されている。
    内容的なヘビーさを排して、言葉選びが平易でとにかく読みやすさが目に付いた。
    当時の惨状・敗戦の歴史を後世に伝えなければならない昨今、間口が広いこの作品が文学的に重要である事は間違いない。

  • タイムリーになってしまった。
    大切な姪の結婚の為の覚書として書いたという所が良かった。死ぬも地獄生きるも地獄。ピカドンの一瞬で全てが変わってしまい、何が起きたか分からない死体だらけの中大混乱の日常。不安で、それでも何とか生きていく人々の姿に応援したい気持ちになる。
    横の繋がりで幾らか救われ、大事だと思った。
    終わり方もよかった。

  • もうこれ以上の無駄ごと、僕らの気持ち、わかってくれんかなあ、という重松の呟き。
    無辜の民の生活の破壊に一体何の価値があったのか。人間の愚かさに怒りを感じる。

    姪の望む縁談話に影を落とす原爆病の噂。その払拭に足取りを示そうと重松は姪の日記を手に取るのだが…

  • 後世に、絶対に残さないと行けない作品。
    戦争は絶対に起こってはいけないことを、特に若い人たちにこの本を読んで、感じてほしい。

  • 戦争の悲惨さを後世に語り継ぐために必読の一冊

  • 残酷な、悲惨な描写はあるのに、そこに作者の感情・感傷は入り込まず、1日1日が続いていく。そのことが原爆投下の結果をまざまざと見せつけてきて、なによりも苦しい思いを感じさせる。
    何が起きても、とにかく毎日を生き切るしかないのだと、きっと原爆や戦争だけでない世の中の不条理への人の在り方を痛感させられた思い。

  • 課題で読まされた本
    描写がリアルで読み進めるのがしんどかった
    一生のうちで読んでおきたい、知っておきたい話ではあるけど中学生のうちに読むのは少し辛かった……

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著者プロフィール

井伏鱒二 (1898‐1993)
広島県深安郡加茂村(現、福山市加茂町)出身。小説家。本名は井伏満寿二(いぶしますじ)。中学時代より画家を志すが、大学入学時より文学に転向する。『山椒魚』『ジョン万次郎漂流記』(直木賞受賞)『本日休診』『黒い雨』(野間文芸賞)『荻窪風土記』などの小説・随筆で有名。

「2023年 『対訳 厄除け詩集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

井伏鱒二の作品

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