- Amazon.co.jp ・本 (407ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101036229
感想・レビュー・書評
-
遭難して帰らぬ人となった兄を重ねて読んだ。人をそのまま受け入れて行くこと。自分の弱さを出せるほどに強くなること。自分なりに兄の死を受け入れて来たことを思い、まだまだ受け入れられなくてわだかまっている事にまた少しだけ向き合えた気がした。
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
夏休みに父と双子の兄のいるジョージアにロビンが遊びに来たところから物語は始まる。
アフリカ系アメリカ人の父とイタリア系アメリカ人の母は離婚して、兄のハーモニーは父とジョージアで、妹のロビンは母とニューヨークで暮らしているのだ。
ニューヨークとは全く違う、アメリカ南部の暮らし。
気候も、風習も。
白人であるか黒人であるかで大きく暮らしぶりの違うアメリカの南部。
彼らはそのどちらでもなく、またどちらでもある。
夏休みが終わりロビンがニューヨークへ帰り、そして起きた9.11。
南部にいてロビンとその母を心配する、父とハーモニー。
ニューヨークにいて事故の現場を目の当たりにし、帰らない母を待つロビン。
この事件が家族に残した傷の深さ。
けれども、人生は哀しみばかりではない。
恋をし、親友をつくり、人に優しくなり、強くなっていく二人。
これは極上の青春小説だ。
中学生や高校生にも是非読んでもらいたいと思った。
ちょっと難しいと思っても、ゆっくりと丁寧に読んでいけば、きっといろんなことが伝わるから。
そんなことを思って読んでいたら、解説に豊﨑由美が全部書いていた。
“大事なことを、大仰な言葉なんかひとつも使わずに、普段着の言葉で、まっすぐに伝える。”
トヨザキ社長、私が言いたかったのは、まさにそこなんですの!
たくさん付箋を貼りました。
“私は、絶対に自分の中の扉を閉ざしたくない。それは、自分が心にかけている人々から、自身も同じようにされたいからだ。”
“「湾岸戦争の話、聞かせて下さい」
「別に。ただの戦争だったよ」”
父の兄であるウィリアム伯父は、湾岸戦争に従軍していたので。
“彼女(お母さん)を疎ましく思い始めた頃、ハーモニーは、自分に期待されているものの多さに、いつも身震いしていた。そんなものを一向に意に介さずに、やんちゃなままでいられるロビンがつくづく羨ましかった。何も望まれない人になりたい。彼は、そう切望した。父といて嬉しかったのは、彼が自分そのものを面白がってくれたからだ。”
“好きな人は、側になんかいなくたって、いつだって抱き締められるのよ。”
“「約束って、未来のためにあるんじゃないのよ。今のこの瞬間を幸せにするためにあるのよ」”
“自分は、何か困難が待ち受けた時、それに立ち向かおうとする。そして、それが不可能だと知った際に涙を流す。その涙は、主に、怒りや悔しさや後悔のために使われる。(中略)それでは、ハーモニーの涙はどうだろう。彼の涙には、もっと柔らかな出所があるような気がする。”
“私は、既に、幸せな無知ではなくなった、とロビンは感じている。あんなことは、もう起きない。起こしてはならないと人は言う。けれど、起きた現実を肌で知るものには、こう言える。起きてはならないことが起きることだってあるのだ、と。”
舞台はアメリカで、いろんな国を背負ったアメリカ人たちが出てくるけど、これは日本の小説だと思った。
どうしてかなあ?
夏から秋にかけて翻訳小説を固め読みしたけど、それとは違う、日本の小説って気が確かにする。
村上春樹には感じないんだけど。なんだろう?
ナショナリズムとは違う。
根っこのところ、メンタルが、日本人っぽいのかなあ。
日本人っぽいってなんだろう? -
失礼な話しだが、私にとって山田詠美は鼻持ちならない作家だった。強くしなやかであろう作者が見てきたものを自分が見ていないという焦燥感のようなものがそう思わせるように思う。
それがどうしたことか。受賞歴もそこそこの作者の作品群にあって、当作品は割に平凡なのだろうと思っていた小説にやられた感がある。
私が大人になったのか?山田詠美が大人になったのか?(^^)
私は、日常の中にある物語という彼女が求めるものを今まで理解できていなかったようだ。枝葉としてのエピソードに振り回されて、嫌悪感をもよおしてしまっていた。
911も311も巻き込まれて行く個人の心について、よく語られるところだが、その作者の想いをなんと爽やかに、そしてストレートに語っていることだろうか。ロビンも、ハーモニーも私ではないが、私だという小説に大切な要素を用いて。
計算が見え隠れするストレートな表現も前はげんなりしたものだった。が、今回は心に響き過ぎて、通勤車中で自分に混乱するほどだった。おそらく、作者の技量が格段に上がっているのだろう。ストレートな文体なので、それを私が測ることはできそうにないけれど。
本当に素晴らしい作品だと思う。思春期の揺れのなかに、家族の危機がありながら、決して希望を失わせない、けれど、嘘くさくないという絶妙な筆使いをぜひ、ご堪能ください。 -
世界で一番好きな本
-
「ある家族のお話」。ただそれだけだけど、それぞれが恋人を優先したり、その中でも互いを思いやったり、ごくありふれた家庭の日常を双子の2人の視点から描いていく様子がとてもイイ!
-
なんでだかわからないけれど何度も泣きそうになりながら読んだ。
ロビンの考え方がなんとなく自分に似ていたからかな…。
ハッとさせられるセリフが多かったからかもしれない。 -
図書館でぶらぶらしていて何気なく読んでみた。
こういう家族、友達、いいなあ。
青春にもいろいろな形があるもんだなあ。
家にある文庫版、読み込んで背表紙ぼろぼろになってる。 -
『ロビン、今のために将来をないがしろにはしてはいけないし、将来のために今をだいなしにしてはならないよ。』
じゃあ、今と将来を大切にするにはどうしたらいいんだろう。
山田詠美の言葉を読んでいて「うわっ」と思うのは、言葉にできない心の景色を素直な言葉で書けることだと思う。かっこいい文章でもなくて、正直に「あっ、それ。私、それを言葉にしたかったの」っていう気持ちをいともたやすく文章にしてみせるところが気持ちいいと思う。
この小説の主人公たちはわたしよりも5歳も年下なのに、なんだか、気持ちが手に取るようにわかって、それは私がまだまだ精神的にコドモということなのかな。笑
『笑い。素敵じゃないか。物事をうまくいかせるには、それが基本だ。笑からすべてを始めること。』
いつも思うけど、私は物事をうまくいかせようと思って笑うわけじゃない。だけど、笑顔があったほうが、みんな良い気持ちになれることは間違いないと思って、みんなハッピーになれたらいいと思って、笑顔を大切にしている。
『まるで甘いお菓子を口にしたときのようだ。けれど、たとえてみれば、そのお菓子の名は、チョコレートブラウニー。甘くて、苦くて、そして、あまりにも、やはり、悲しみに近い。』
ハーモニーが恋した大人の女に対して思う切ない気持ち。これきたーって感じ。この物語の主人公のような感じ。相手を思う切ない気持ちがチョコレートブラウニーだなんて、ちょっといいんじゃないか。
『ロビンは、自分が、その言葉を聞きたくて駄々をこねているのだと気付いた。子供の手段を使っている。それを知っている私は、大人だ。』
痛いなぁという感じ。わかるなぁ、この、ロビンがわがままを言いたくなったり、ちょっと不機嫌になってみたりする心の内側が・・・・・。わかりすぎて、読んでいて自分が痛くなってきた。
本当に、私が隠してしまいたいと思うちょっと自己中な気持ちとか、恋愛に対する考え方だとか、そういう表向きな言葉にしずらいものを、いともかんたんに言葉として紡ぎ出すことができるのって、すごいなぁ、と感じる。
-
ニューヨーク・アメリカ南部を舞台に、ロビンとハーモニーの恋、家族との別れが描かれていきます。
何も言わずに一度は読んでほしい本。今いちばん、人にすすめたいと思える一冊です。