森 (新潮文庫 の 2-4)

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  • Amazon.co.jp ・本 (593ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101044040

感想・レビュー・書評

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  •  99歳の作家が、最後に残した傑作。
     読み終えたことを自慢したくなる文章です。皆さまも、ぜひお読みください!(笑)。ブログに感想書きました。
     https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202307160000/

  • 森に包まれたキリスト教を基礎に置く所謂「女大学」の教えとは異なった近代女性の育成を目指す学園に菊池加根は入学する。同級生や上級生との青春、そこに集う女学生達や関係者の嫉妬、恋愛、苦悩、故郷の一族郎党との家族関係や幕末から明治期にかけての勝海舟や内村鑑三といった人物の文化史までも網羅し、明治33年からの3年間の出来事を綴った、作者の死によって遺稿となった未完の小説。個人的には、後半の主人公(?)である園部はるみの印象が強くて加根の存在が希薄になってしまう。はるみが果たしてどうなったのかが知りたかった。

  •  森の学園に纏わる群像劇は、自叙伝に収まらない、豊潤な創作による近代文化史。
     幕末から明治へ、激動と勃興の変遷を背景に、筆致は淡く静かに、その時代に生きた人間像を浮かび上がらせる。
     歴史的人物の実名とモデルとしての仮名の人間達が、齟齬をきたすことなく一つの世界に溶け合い、物語を紡ぎ出す自然さが見事。
     当初主人公と思われた菊地加根は筆者の投影と察しがつくが、その位置付けは観察者に近く、ヒロインは寧ろ美貌の女生徒・園部はるみの方がそれらしく描かれる。
     出生と混迷、恋愛や憧憬、屈折と嫉妬など、ドラマティックな要素が瑞々しく表出する。
     また、荻原守衛を模した篠原健の渡米や、信仰にも恋情にも狂信的な一途さに走る加部圭助ら、男性陣に顕著な一本気な気風は、伝統と新時代の過渡期にあって、頑なさや純粋さ、黎明と連関が絡み合う不思議な生々しさを見せる。
     あるいは、人間は人間に過ぎず、主体は題名通り、市井から離れた宗教的共同体たる森そのものなのかもしれない。
     野上文学らしい未完の大作が、重ね重ね惜しい。
     結末の雰囲気は、評論家には推測可能だとしても、自分は個々の心象風景の完遂された描写を見たかったので、安易に想像して済ませてしまいたくない気がする。

  • 2003年1月 読了。図書館の本。

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著者プロフィール

野上彌生子

小説家。本名ヤエ。大分県生れ。明治女学校卒。英文学者,能楽研究家である夫野上豊一郎〔1883-1950〕とともに夏目漱石に師事し,《ホトトギス》に写生文的な小品を発表。1911年創刊の《青鞜》にも作品を寄稿した。《海神丸》《大石良雄》から長編《真知子》と社会的視野をもつ作品に進み,戦前から戦後にかけて大作《迷路》を完成。ほかに《秀吉と利休》がある。1971年文化勲章。

「2022年 『秀吉と利休』 で使われていた紹介文から引用しています。」

野上彌生子の作品

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