花ざかりの森・憂国―自選短編集 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101050027

感想・レビュー・書評

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  • ときどき小説が読みたくなる。久しぶりの三島。しかし、いまの精神状態では字面を追うだけで中身がなかなか入ってこない。最初の二つの作品くらいで読むのをよそうかとも思ったが、続けて読んだ。「遠乗会」将軍が夫人の持つムチに記されたローマ字の名前を必死に読み取ろうとする姿がおかしい。私にも似たような覚えがある。「橋づくし」途中で腹が痛くなったり、最後の最後で警官に声をかけられたり、ありそうな話でこれもおかしい。「百万円煎餅」タイトルに似合わず、あやしげな作品。ネットで調べてみると、皆同じようなことを考えているらしい。一番興味がわいた作品かも知れない。そして、「憂国」切腹する場面を見てきたとしか思えない。三島本人が解説で書いているが、この作品を春本として読んだ女性がいるという。私も似たようなものだ。確かに、短編一つで三島を知るとしたら、この作品がいいかも知れない。

  • 自薦短編集。
    表題の二作は出来映えが随分両極端。
    「花ざかり」は作家本人は選びたくなかったらしい。

    好きなのは「遠乗会」「卵」「海と夕焼」「憂国」

  • 読書部課題図書その22

  • 2015/03/09 読了

  • 「美は秀麗な奔馬である。」

    花盛りの森の作中、筆者は次の様に語っています。

    「かつて、霜降りそそぐ朝の空に向かって、猛々しく嘶くままにそれはじっと制せられ抑えられてきた。そんな時だけ、馬は無垢で類いなく優しかった。
    しかし今、厳しさは手綱を離した。馬は何度もつまづき、そうして何度も立ち上がりながらまっすぐ走っていった。もう無垢ではない。ぬかるみが肌を汚く染め上げてしまっていた。

    本当に稀なことではあるが、今もなお、人は穢れない白馬の幻を見ることがないではない、祖先はそんな人を索めている。徐々に、祖先はその人の中に住まう様になるだろう。

    ここにいみじくも高貴な、共同生活が緒を持つのである。

    それ以来祖先は、その人のなかの真実と壁を接して住むようになる。
    このめまぐるしい世界にあっては、ただ弁証の手段でしかなかった真実が、それ本来の衣装を身につけるであろう。

    いままで怠惰で引っ込み思案だったそれが、うつくしい果敢さを取り戻すだろう。
    祖先はじっとその新たな真実によって、育まれることを待つだろう。
    まことに祖先は世に優しい糧で、養われることを希っている。

    その姿は働きかける者の姿ではない。
    かれらは恒に受動の姿を崩すことが出来ない。
    ものの窮まりの、―例えば夕映えが、夜の侵入を予感するかのよう、おそれと緊張のさなかに、一際きわやかに耀く刹那―

    あるがままのかたちに自分を留め、一秒でもながく「完全」を保ち、いささかの瑕瑾も受けまいとする。

    -消極がきわまった水に似た緊張のうつくしい一瞬であり久遠の時間である。」

    美しさのために死ぬというのは人生を謳歌し、何不自由無い暮らしを続け、自らがまた大霊に帰一する老人のための栄誉である時、微かに薫ってくる潮騒の匂ひは、また遥かな月の海への旅路でもあると思われます。

    死は等しく、一人の人間を久遠の時に誘い、低い次元に留まらせる時、それが完全であれば完全であるほど、幾つもの群像が織りなす激情は、その様な個としての自分自身を押しとどめ、老人という路傍の人(モブ・キャラクター)に自らの像を重ねあわせていくものであるように思えます。

    高齢化社会の中においてもはや、誰しもが年令を重ね、自らの老いを知り、遠く近くの巡礼の旅に出ることを求められています。

    死して祈りの旅路に就く前に、優しさと愛しさを以て、歴史の群像の中に自らを落とし込める時、次世代に残せるものは一体何なのかを考えてみる必要があると思います。

    90歳を超えてもまだ尚、枯渇する若者の生血をすすり生きようというのは新自由主義の化け物のようにしか見えないのです。

    せめて、老人のあるべき像として、優しい面影の中に思いとどまってくれますようにお祈り申し上げます。

    私達は、外征を行なう軍隊ではありません。
    私達は憎悪を憎みます。

    憎悪の源である貧困を憎みます。

  • 三島由紀夫さんの短編集。
    頑張って読んだよ!

    『花ざかりの森』は金持ちのお坊ちゃんが自費出版した「だからなんなの?」って本を仕方なく読んで持ち上げなくちゃならない地下人のような気持ちだった。
    むっちゃ苦痛だった!!

    三島さんてプライドとコンプレックスの塊みたいな人だったのかな…。
    あくまで らじはだけど、短編なら三島さんより太宰治さんのが好き。
    三島さんは短編はこの本にもあった『憂国』を、長編は『金閣寺』を読んどけばいいのでは…って思っちゃいました。
    頭の良い人なのだろうとは思うんだけどね…。

  • 宿題で「百万円煎餅」だけ読んだ。
    初!三島由紀夫でした。なんだか優しい文を書く人だったんですね。夢と希望と…そして絶望も感じた。

  • 憂国は、読んで衝撃を受けた。今までいくつか三島由紀夫の作品を読んできた中でも一番好き。作品全体に死の匂いが漂っていてなんともそれが甘美で綺麗。三島由紀夫はこんな風に死に対して憧れていたんだなと思う。

  • 名前は知ってるけど内容は知らない本を減らそうキャンペーン第3弾。
    どちらかというと名前は知ってるけど作品を読んだことのない有名作家を減らそうキャンペーンの方が正しいのかもしれません。

    かの有名な三島由紀夫が、自身で作品を厳選した珠玉の短編集。
    少年の倦怠を16歳で書き上げた『花ざかりの森』をはじめとして、著者のその後の作品における主題の指針となった『中世に於ける一殺人常習者の遺せる哲学的日記の抜萃』や、鮮烈な愛を描いた『憂国』など全13編を収録。

    13編入ってこの値段は安いんじゃないでしょうか。
    個人的に『憂国』の凄まじさに圧倒されてしまい、他の12編がどうこうと言えなくなってしまいました。
    男女の交わり然り、心中然り、その情景がいやでも脳裏に浮かぶような見事な描写で書き連ねられており、ストーリーの重厚さも手伝って息が詰まるほどです。
    全作品に言えることですが、作者の語彙力が半端ではないです。
    お決まりの定型文ではなく、その場その空気にぴったりとはまり込む言葉がすらすらと出てきます。
    天才とはこういうものなのかと心底感じる作品でした。

  • 美しすぎる文体

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著者プロフィール

本名平岡公威。東京四谷生まれ。学習院中等科在学中、〈三島由紀夫〉のペンネームで「花ざかりの森」を書き、早熟の才をうたわれる。東大法科を経て大蔵省に入るが、まもなく退職。『仮面の告白』によって文壇の地位を確立。以後、『愛の渇き』『金閣寺』『潮騒』『憂国』『豊饒の海』など、次々話題作を発表、たえずジャーナリズムの渦中にあった。ちくま文庫に『三島由紀夫レター教室』『命売ります』『肉体の学校』『反貞女大学』『恋の都』『私の遍歴時代』『文化防衛論』『三島由紀夫の美学講座』などがある。

「1998年 『命売ります』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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