沈める滝 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101050119

感想・レビュー・書評

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  • 越冬のエピソードだけでも面白い。

  • 初めて三島由紀夫の作品を読み、感情表現や比喩の豊かさ、独特で偏った思想をリアルに描写していることに驚いた。読み慣れない文章や馴染めない思想を理解する難しさを感じつつ、的確な言葉の使い方がとても美しいと思った。

    石や鉄などの硬い無機質の物質を愛する青年は女性の無機質な部分(無感情)に惹かれる。愛を知らない男女が「人工的な愛」を生み出そうとする話。

    読了後に、沈める滝という題が恐ろしく感じる。まっすぐな愛が、受け止められずに捨てられた場合、愛は歪み極端な結果を生むことになる場合があると思った。

  • (2023/12/04 3 h)

  • 滝が女性の溢れる情熱を表しているようで、それが「沈める」とは、いい題名だと思う。
    自然の中の大きな人工物であるコンクリートのダム、雪に閉ざされた閉鎖的な観測所、手紙のやりとり、何にも心が動かない男女。モチーフが良い。でも女性が感情を呼び覚まして、男が興味を失って絶望している流れは、そこまで印象に残らない(ありきたりに思えてしまう)。肉体の快楽でも精神的な依存でもなく、手紙やほんの一言の電話でしか愛を交わせない関係とは、どのような愛の形なんだろうと考える。

  • 愛を信じない美貌の男が、不感症の女を初めて愛する。女が、男が幼い頃に親しんだ、不感の物質「石と鉄」と同じように見えたのだ。女のほうも、初めて自分の肉体を愛してくれた青年を愛する。誰をも愛せない二人が出会ったのだ、数式の負と負を掛け合わせて正を生むようにと人工的な愛をはぐくむ試みを行う二人。それは成功していくかのように思えたが数年後、不感症が治った女のことを、男は愛せなくなっていた。女がなににも感動しないが故に愛していたという男の本音を知り、絶望した女は身を投げる。・・・結局また「死」で終わってしまった。三島の思想の行きつくところは死なのだろうか。女が死んだことをなんとも思わない男に憤りを覚えた。

  • 比較的早い時期の長編小説だが、すでにして大作家の風格は十分だ。主人公の昇は、門閥、資産、学力、学歴、勤務先、容貌と、あらゆる点で恵まれている。彼は常に、女とは一夜限りの関係を続けてきた。ドン・ジョヴァンニがそうであるように、猟色は愛の不毛に他ならない。顕子がかつては肉体的に冷感症だったごとく、昇は精神的な冷感症に捉えられており、彼はとうとうそこから抜け出すことはできなかった。先行作では『禁色』の悠一に、そして後の作品では『春の雪』の清顕に繋がる三島文学の、ある意味では主流をなす愛のニヒリストの系譜である。
     なお、越冬後の田舎町の描写をはじめ、随所に三島の「うまさ」も堪能できる作品だ。

  • 20230812再読

  • やっぱり死んだ。
    昇と顕子、2人で心中のパターンかとも思ったけれど、顕子だけが死んだ。

    私は思うのだが、昔の方が人は感情的だったんじゃなかろうか。大昔は失恋のショックで心臓麻痺を起こし死ぬ。三島由紀夫くらいの昔は恋のショック、己の恥ずかしさから、生きる気力を無くして自殺。現代人は恋のために命を捨てるだろうか。

    この本はとても読みやすかった。終始冷めた感じの昂にはどことなく共感できた。あまり昇の感情がしつこく書かれていないのがまたよかった。読みやすかった。
    暑苦しいのは嫌いだ

  • 独特の世界観。愛を信じないイケメン貴公子×不感症の女 って題材が尖ってるが、けっこう人間味のある結末。あらすじから想像した話とは違ったが、三島由紀夫らしさのある作品だった。

  • 2022/02/26 読了

  • 昭和30年頃を舞台に、当時の三島由紀夫自身と遠くない年代と見受けられる主人公による物語が展開している。独特な心象世界のようなモノを有する青年の、或る女性との交流による「揺れ動き」というような物語かもしれない。そして、作品の発表当時に女性と交際していたという経過が、作中の描写に大いに繁栄されているという説も在るらしい作品だ。
    主人公の昇は、電力会社に勤める土木技師である。発電所の建設等に係るという仕事だ。
    この昇は、電力会社の会長を務めていた祖父の下で育ったという生い立ちだ。大学で学んで技師になって安定した給与も得ているが、一定の財産も持っている。「付合いが悪い…」とはよく言われたが、昇は自身としての愉しみ、人生を謳歌していると言えた。「一夜の関係」という感で、色々な女性との交流が在り、そういうことを愉しむことを専らとしていた訳だ。
    そんな或る時、昇は顕子と出会う。「感動しない女」と称する、少し変わった個性の若い人妻である顕子に、昇は強く惹かれたようだ。
    その顕子と知り合った頃、昇の周囲では建設が始まったダムの仕事で現場に入るという話しが在った。雪深く、冬季には近くの街との往来が困難な現場での“越冬”という話しも在った。昇は、そのダム建設現場の“越冬”に参加する間、可能な手段でとりあえず連絡を取ることを顕子と約し、そして現場へ向かった。
    昇と顕子との関係が如何いうようになって行くのか?更に2人の各々の人生は如何なるのか?そういう物語だ…
    “越冬”という状況も含めて、昇が動く辺りの描写が色々と出て来る本作だ。それらに凄く強く惹かれる。そして、この少し変わった性格、感じ方の顕子が昇との関係で様相が変わって行く。そんな物語がなかなかに興味深い。
    愉しく本作に触れながら、何となく「こういう作品がドンドン世に問われていた時代が在った…」と複雑な想いも湧き上がった。何か「不思議な魅力」の一冊になっているような気もした。
    存外にお薦めな作品を見出したというように思う…

  • 生まれと才能と容姿と、何もかもを持っているのに何も持たずに生きている男の話。

    最初の頃の「はぁすべてに恵まれてるのに何にも興味が持てない俺つらっ!」みたいなノリは愉快な男だなーという感じだったんだけど、結構負けず嫌いのように感じるし、自己弁護というか「俺が悪いわけじゃない」っていう開き直りの責任転嫁もめっちゃ多いよなー。そこが人間臭いといえば人間臭いのかもしれないけども。
    終盤で瀬山に対して「陰でとりなしてやったのに」ってすっごい恩着せがましい上から目線かましてるところも「君別に万物がどうでもいいみたいな厭世家ではないじゃん」って感じだったし、顕子の旦那が仕事場に乗り込んできてめっちゃ動揺したくせに「いやあの動揺は凡人の動揺とは意味合いが違って」みたいな説明入るとこ、基本昇の視点で話が進むせいもあってうわダサッ!という気持ちになってしまった。結構小物なのにそれを認めたくないがあまりに壮大な問題に言い換えようとしている感じがすごい。

    ただ風景描写の美しさは本当にすごいし、ラストの「丁度俺の立ってるこの下のところに小さな滝があったんだ」で顕子の存在がもうダムに沈められた様々なもののごとく彼女の死が昇にとっては過去のことだという表現は鳥肌立っちゃったし、そこに「あなたもそろそろお嫁さんをお迎えにならなくちゃいけませんね」って被せてくるところマジで怖い。時代背景的に真っ当な一人前の男にならなきゃいけませんねって意味だと思うとなお怖い。昇の言葉に絶望して死を選んだ顕子の存在自体が「まあそんなこともあったねー」で片づけられるおそろしさ。

  • 石と石、不感動と不感動が出会ってそこに生きた恋を作ることを試みる。基本的には主人公の心の機微を主題にした作品で、人間への潔癖な愛情や、人間的な高潔さの希求に溢れているように感じる。主人公の心の機微が繊細で、読んでる多くの人間には手放しで同意出来るものではない(と思う)ので、心情表現が冗長で難解...でもその徹底ぶりは面白かった。主人公の一人称で進むのでたくさんある自然描写も主人公の心情の理解が進むので、文の密度が濃い小説だった。
    まあ私はこの主人公嫌いですけど。

  • あらゆるものに恵まれた青年、城所昇。彼は子どもの頃から、物にしか興味を持たない人間である。そのため女性に全く興味を持たない青年だったが、知り合った人妻、顕子が不感症で物のような存在と知り、惹かれるようになる…。
    二人が愛し合っていることを確認するために、一度、物理的に離れようとして、昇はダム建設の仕事へ行ってしまう。その後、顕子はより昇を慕うようになるが、以前と違って、物としての存在はなくなり、悲しいことに愛し合うがゆえに離れていくという悲劇が起こる。なんていうか、もうどうしたらよかったのかよくわからない…

  • 無機質である有機体を愛する城所昇。その無機質で無感動であった顕子への人工的な愛を醸成するべくダム建設の行われる雪山で一冬を過ごす。まるで人間的から程遠い環境の中でこそその愛は花開かんとしていた。春を迎え、人間世界に降り立つや、一切が新鮮に見える中、不感症が治癒した顕子は昇にとってもっとも凡庸な女に変わっていた。雪山の中で人工的に作り上げた愛が「愛」であり、身投げした顕子の遺体がいまやダムに沈み想起される小滝こそが顕子との「愛」の縛りである。あらゆる存在は観念の中において創られるという三島文学の要素が詰まった作品。

  • 昇のモンスターぶりにクラクラしながら読み進めたが、最後に菊地っつうラスボスの登場で一面焼け野原って感じ。顕子の最期の描写があっけなかったかなぁー。
    陰惨な誇りっていうフレーズに心刺された。

  • 最初は面白そう。最後はあまり。

  • 山ごもりしてるところがつまらなかった。

  • ヒロイン顕子は失恋するのだろうなあ、最後は自死を選ぶのだろうなあ、そうしないと物語を終えられないのだろうなあ、漠然とそんなふうに考えていた。顕子は主人公昇のどこに魅かれたのだろうか。他の男たちと何が違ったのだろう。というか、昇はどうしてそうモテるのか。まあ、うらやましいと言えばそう言えなくもないが、誰のことも好きになれないという点ではかわいそうにも思う。顕子を好きになったはずだったのに、男と女の間で、相手の思いが重たく感じる気持ちは、今もずっと昔も変わりはしないのだろう。・・・ああ、そんな思いになってみたい。いや、そんな思いにさせているのだろうか・・・。「あの人は感動しないから好きなんだ。」瀬山が顕子に、昇がどうして顕子を好きになったかの理由を言ったとき、彼女の時間はすべて止まってしまったのだろう。自分に似た滝に身を投じずにはいられなかったのだろう。

  • 石や鉄のように心が冷たい男女の物語。

    男がダムだとしたら女は滝だと、暗に示している。女の感情を溢れんばかりにせき止めるダム。女は死に、滝はダムに沈んでいく。

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著者プロフィール

本名平岡公威。東京四谷生まれ。学習院中等科在学中、〈三島由紀夫〉のペンネームで「花ざかりの森」を書き、早熟の才をうたわれる。東大法科を経て大蔵省に入るが、まもなく退職。『仮面の告白』によって文壇の地位を確立。以後、『愛の渇き』『金閣寺』『潮騒』『憂国』『豊饒の海』など、次々話題作を発表、たえずジャーナリズムの渦中にあった。ちくま文庫に『三島由紀夫レター教室』『命売ります』『肉体の学校』『反貞女大学』『恋の都』『私の遍歴時代』『文化防衛論』『三島由紀夫の美学講座』などがある。

「1998年 『命売ります』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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