沈める滝 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101050119

感想・レビュー・書評

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  • 愛を信じない美貌の男が、不感症の女を初めて愛する。女が、男が幼い頃に親しんだ、不感の物質「石と鉄」と同じように見えたのだ。女のほうも、初めて自分の肉体を愛してくれた青年を愛する。誰をも愛せない二人が出会ったのだ、数式の負と負を掛け合わせて正を生むようにと人工的な愛をはぐくむ試みを行う二人。それは成功していくかのように思えたが数年後、不感症が治った女のことを、男は愛せなくなっていた。女がなににも感動しないが故に愛していたという男の本音を知り、絶望した女は身を投げる。・・・結局また「死」で終わってしまった。三島の思想の行きつくところは死なのだろうか。女が死んだことをなんとも思わない男に憤りを覚えた。

  • 独特の世界観。愛を信じないイケメン貴公子×不感症の女 って題材が尖ってるが、けっこう人間味のある結末。あらすじから想像した話とは違ったが、三島由紀夫らしさのある作品だった。

  • 生まれと才能と容姿と、何もかもを持っているのに何も持たずに生きている男の話。

    最初の頃の「はぁすべてに恵まれてるのに何にも興味が持てない俺つらっ!」みたいなノリは愉快な男だなーという感じだったんだけど、結構負けず嫌いのように感じるし、自己弁護というか「俺が悪いわけじゃない」っていう開き直りの責任転嫁もめっちゃ多いよなー。そこが人間臭いといえば人間臭いのかもしれないけども。
    終盤で瀬山に対して「陰でとりなしてやったのに」ってすっごい恩着せがましい上から目線かましてるところも「君別に万物がどうでもいいみたいな厭世家ではないじゃん」って感じだったし、顕子の旦那が仕事場に乗り込んできてめっちゃ動揺したくせに「いやあの動揺は凡人の動揺とは意味合いが違って」みたいな説明入るとこ、基本昇の視点で話が進むせいもあってうわダサッ!という気持ちになってしまった。結構小物なのにそれを認めたくないがあまりに壮大な問題に言い換えようとしている感じがすごい。

    ただ風景描写の美しさは本当にすごいし、ラストの「丁度俺の立ってるこの下のところに小さな滝があったんだ」で顕子の存在がもうダムに沈められた様々なもののごとく彼女の死が昇にとっては過去のことだという表現は鳥肌立っちゃったし、そこに「あなたもそろそろお嫁さんをお迎えにならなくちゃいけませんね」って被せてくるところマジで怖い。時代背景的に真っ当な一人前の男にならなきゃいけませんねって意味だと思うとなお怖い。昇の言葉に絶望して死を選んだ顕子の存在自体が「まあそんなこともあったねー」で片づけられるおそろしさ。

  • 昇のモンスターぶりにクラクラしながら読み進めたが、最後に菊地っつうラスボスの登場で一面焼け野原って感じ。顕子の最期の描写があっけなかったかなぁー。
    陰惨な誇りっていうフレーズに心刺された。

  • 3.5
    女の無理解について。その有機的な無神経さに蹂躙される美。一方で、有機はやがて無機に分解されゆくという機構も含む。有機と無機、女と男は互いに破壊し風化させゆくものである。ということ。

  • 初めて三島由紀夫の作品を読んだ。物語としては大変面白かった。
    ただ主題に関してはなかなか理解し難いものがあった。単純にそれは俺の感性の乏しさや稚拙さに原因がありそうだが・・・。
    もう少し三島作品に触れ、改めて読み直してみることにする。

  • ネタバレありの個人的感想

    初めて三島の作品を読んだ。
    巻末の村松の解説にあったように、三島の作品は
    「既成のものを信じないという立場に立って、
    その荒廃の上に、あらためて夢なり美なりを、
    人工的につくり出そうとするところに成り立つ」ものとして
    特徴づけられるらしい。
    本著も、「既成の愛を信じないという立場に立って、その荒廃の上にあらためて人工の愛の創造を試みた」作品やった。

    こういう風に、
    信じないことを肯定した上で物事を構築していこうとする考えがおもしろかった。
    でもまあ顕子が変わってしまってただのめんどくさい女(言い方・笑)になったのが残念です(笑)

    主人公晃の、特定化されず任意の一点になりたい、というのはよくわかる
    (わかっていいものかどうか微妙やけど)
    長距離通学をやめないのもここらへんの理由がからんでいるかと。
    役割期待から離れて他人の他人になる時間は必要やと。

    瀬山のキャラはおもしろかったな、うん。

  • 意味がわからない。まだまだ読書する訓練が足りないと実感。
    『反復を深化と取り違えないように』

  • 顕子の気持ちがいまいち理解できません……が、冬が終わったときの描写なんかが好きです。盛り上がりどころで上手く盛り上がれていなかったような。それは昇の性格の所為かもですが。ただ単に私には難しすぎただけなのかも。

  • わざと三島らしからぬ視点から三島的な恋愛を描こうとした実験作。
    キムタクは『華麗なる一族』じゃなくて、こっちの作品の主人公を演じたら、そりゃもう、世の女どもはめろめろだったろうな。
    主人公は、美しい顔も肢体も能力も、カリスマも、金も、自由も持っていて、そんなものには、初めから価値を置いていないのです。そこでであった、初めて愛を知らない女。主人公は恋愛をすることができるのか?

著者プロフィール

本名平岡公威。東京四谷生まれ。学習院中等科在学中、〈三島由紀夫〉のペンネームで「花ざかりの森」を書き、早熟の才をうたわれる。東大法科を経て大蔵省に入るが、まもなく退職。『仮面の告白』によって文壇の地位を確立。以後、『愛の渇き』『金閣寺』『潮騒』『憂国』『豊饒の海』など、次々話題作を発表、たえずジャーナリズムの渦中にあった。ちくま文庫に『三島由紀夫レター教室』『命売ります』『肉体の学校』『反貞女大学』『恋の都』『私の遍歴時代』『文化防衛論』『三島由紀夫の美学講座』などがある。

「1998年 『命売ります』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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