- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101050119
感想・レビュー・書評
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越冬のエピソードだけでも面白い。
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(2023/12/04 3 h)
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比較的早い時期の長編小説だが、すでにして大作家の風格は十分だ。主人公の昇は、門閥、資産、学力、学歴、勤務先、容貌と、あらゆる点で恵まれている。彼は常に、女とは一夜限りの関係を続けてきた。ドン・ジョヴァンニがそうであるように、猟色は愛の不毛に他ならない。顕子がかつては肉体的に冷感症だったごとく、昇は精神的な冷感症に捉えられており、彼はとうとうそこから抜け出すことはできなかった。先行作では『禁色』の悠一に、そして後の作品では『春の雪』の清顕に繋がる三島文学の、ある意味では主流をなす愛のニヒリストの系譜である。
なお、越冬後の田舎町の描写をはじめ、随所に三島の「うまさ」も堪能できる作品だ。 -
20230812再読
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やっぱり死んだ。
昇と顕子、2人で心中のパターンかとも思ったけれど、顕子だけが死んだ。
私は思うのだが、昔の方が人は感情的だったんじゃなかろうか。大昔は失恋のショックで心臓麻痺を起こし死ぬ。三島由紀夫くらいの昔は恋のショック、己の恥ずかしさから、生きる気力を無くして自殺。現代人は恋のために命を捨てるだろうか。
この本はとても読みやすかった。終始冷めた感じの昂にはどことなく共感できた。あまり昇の感情がしつこく書かれていないのがまたよかった。読みやすかった。
暑苦しいのは嫌いだ -
2022/02/26 読了
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石と石、不感動と不感動が出会ってそこに生きた恋を作ることを試みる。基本的には主人公の心の機微を主題にした作品で、人間への潔癖な愛情や、人間的な高潔さの希求に溢れているように感じる。主人公の心の機微が繊細で、読んでる多くの人間には手放しで同意出来るものではない(と思う)ので、心情表現が冗長で難解...でもその徹底ぶりは面白かった。主人公の一人称で進むのでたくさんある自然描写も主人公の心情の理解が進むので、文の密度が濃い小説だった。
まあ私はこの主人公嫌いですけど。 -
無機質である有機体を愛する城所昇。その無機質で無感動であった顕子への人工的な愛を醸成するべくダム建設の行われる雪山で一冬を過ごす。まるで人間的から程遠い環境の中でこそその愛は花開かんとしていた。春を迎え、人間世界に降り立つや、一切が新鮮に見える中、不感症が治癒した顕子は昇にとってもっとも凡庸な女に変わっていた。雪山の中で人工的に作り上げた愛が「愛」であり、身投げした顕子の遺体がいまやダムに沈み想起される小滝こそが顕子との「愛」の縛りである。あらゆる存在は観念の中において創られるという三島文学の要素が詰まった作品。