獣の戯れ (新潮文庫)

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  • 新潮社
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感想 : 61
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101050126

感想・レビュー・書評

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  • もう少し、3人だけの閉じた世界に浸っていたかった。

  • 少し昔な情景や心情のレトロでお洒落な描写がとても良かった。哲学的な日本語の使い方が現代には無い雰囲気を醸し出しててよかった。

  • すごく不思議な、なんともいえない読了感に包まれて、一夜明けました小説でした…笑
    三島作品の中では、私的には結構異色の方で、なんとも形容しがたい。『獣の戯れ』というタイトルと、本の裏表紙にあるあらすじからとは、およそ想像できない不思議な浮遊感を持つ一作だった。うーん、ん?という気持ちで田中美代子大先生の(先生の解説はいつも安心感があって、澁澤龍彦などとも並んで好きな三島解説である)解説を読んで、そうそうそうそうとなった。こんなに解説に「君は一人じゃない」と励まされたことはないかもしれない笑。この解説を無名で29歳の女性に任せた三島由紀夫も、その期待に応えて書き上げた田中美代子も、本当に尊敬してしまう…

    まずはその解説から。私の読了感すべて綺麗に言語化されているのだもんな。。
    「音楽や絵画を解説しても何物も伝えたことにならないと同様に、小説の世界をいかに解説しようとしても、それは無駄な骨折りである。…作品の梗概・背景・思想…それらが一体何を伝えたことになるだろうか。文学は文体(フォルム)によってしか伝達され得ない、というのが『獣の戯れ』の作者の頑固な信念なのであって、作品はあらゆる夾雑物の介入を許さない。作品自体が唯一の解答である。読者はよろしく文体の魅力を味われるがよい。はじめから、何故こんな邪慳なものいいをしなければならないか、というと、何よりもこの小説自体がそれを主張してやまないからである…」

    三島由紀夫、こんな小説の解説指名するなんて無茶ぶりじゃん!という気持ちも、見えてくる笑
    三島由紀夫作品は特にこの感想が引用になってしまうのはこういうことなのだよ…という気持ちもある。

    さてそんなフォルムの世界からいくつか。
    …スパナはただそこに落ちていたのではなく、この世界への突然の物象の顕現だった。…何か云いようのない物質が仮りにスパナに化けていたのにちがいない。本来決してここにあるべきでなかった物質、この世の秩序の外にあって時折その秩序を根柢からくつがえすために突然顕現する物質、純粋なうちにも純粋な物質、…そういうものがきっとスパナに化けていたのだ。われわれはふだん意志とは無形のものだと考えている。…しかしわれわれの意志ではなくて、「何か」の意志と呼ぶべきものがあるとすれば、それが物象として現れてもふしぎはないのだ。(p.47)
    これは典型的な悲劇の要素がある

    そして解説にある、
    「…作者は一つの解決策を提示しているのだ。私たちは、根源の生命の秘密ーー死の願望ーーによって、つまり沈黙によって、連帯を回復し得るだろう、と。作者は、そしてこの理解のための言葉を失った人間たちを、清潔な比喩で「獣」と呼ぶのである…」
    を読んだ時、<死によって結ばれた愛の共同体>の姿がよく見えるようになった。『金閣寺』も連想しつつ、鏡花の作品をいくつか思い出した。

    晩夏の寂しい晴れた日に、また読み直したいと思う。

  • 三島作品は好きでよく読むのだが、この作品は「文学」性が強く、なかなか理解するのに難儀した。まず設定からいって特異で、よくある男女関係、三角関係を描いた作品なのだが、うち1人が障碍犯、1人がその被害者と聞けばどうであろうか。これだけでも一筋縄ではゆかない作品であることがよくわかるはず。ただ、「解説」で田中美代子が述べているように、本作は小難しい理窟など考えずに、ただありのまま読むのが正解なのかもしれない。本作が描き出す世界は何かのメタファーであり、何かのメタファーではないのだ。

  • 考えないといけないところがたくさんありすぎて、もうわけがわからなかった。
    離れなくても離れられない奇妙な三人。こんな不思議なものをなんの違和感なく読ませるなんて。

  • 面白かった~~~~~!!

    きみちゃん可哀想だった。
    「彼女はあの汚辱の記憶を、相手にはそれと知らせずに、多くの男と頒とうとしたのだろう」
    っていうのがなんか、きっと、わかんないけど、
    自分がされたことを誰かに話してしまったら、
    同情されたり、憤慨されたり、好奇の目で見られたりしちゃうから、
    何も言わずに、少しずつそうやって自分の毒を人に託して、
    たったひとりで自分を癒そうとしてたのかなって思った。

    夏の伊豆半島綺麗だった。

  • 大学生の幸二は銀座の西洋陶器の店でアルバイトしていた。雇い主の逸平は何でも持っている男で、奥さんの優子は彼をとても愛しているらしい。
    幸二は優子とあいびきするようになる。逸平は若い女を囲っていた。
    逸平と女がいるアパートに踏み込んだ幸二と優子。泣き叫ぶ優子の頬を逸平は打つ。幸二は拾ったスパナで逸平を乱打した。
    幸二は傷害罪で一年五か月の服役、逸平は右半身の麻痺と失語症、優子は伊豆で温室園芸の仕事を始めていた。

    出所した幸二を迎えたのは優子、そして会話もままならない逸平だった。
    奇妙な三人の暮らしのなかで、使用人の男が娘を強姦したことを知ったり、ハイキングしたりしながら、幸二と優子は逸平を絞め殺す。
    幸二は死刑、優子は無期懲役。三人の墓は仲良く並んで建てられている。

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    身体と頭が麻痺してしまった夫(逸平)の眼の前で、妻(優子)と加害者(幸二)が淫らな行為をしてしまうのか!?おもむろに見せつけてしまうのか!?と思いながらページをめくり続けたが、最後までそんな場面はやってこなかった。接吻止まりだった。

    三人が好きでやってるなら誰にも迷惑かけてないし、何でも勝手にすればいいじゃんという感じだった。
    それよりも「屋敷のなかであいつら三人の寝る部屋が近いんですよ、嫌らしいんですよ」とむき出しの好奇心で噂話をする村人たちのほうに気色悪さを感じた。

    三人の奇妙な暮らしは、幸二と優子の嘱託殺人(裁判では認められなかった)という結果で終わるけれど、それが愛情なのか、それとも仲良しの末路なのかはわからない。
    文庫本の裏表紙に”<愛(エロス)>の共同体”と書いてあったけど、エロスというよりもタナトスだな、と思う。
    死があるから生きられるし、生きているから死ねるのだ。

  • 引きこまれた。
    三島由紀夫ってすごいな。
    理由はわからないけど。

  • 他の作品よりも心理的に複雑であった為に、バスの中で細切れに読んでしまい集中出来ませんでしたが、読み進めました。印象に残ったのは幸二が逸平に迫るシーンです。
    蜘蛛のように糸を巡らし、獲物を絡めとろうとするのではなく自分が空虚である事を紡ぎ出さない。。ここが魅力的な主張だと思いました。逸平の性格、キャラクターを幸二が語ろうとしています。それが真実であるか否かは重要視せずに幸二と優子がどうして悲劇的な顛末に吸い上げられたのか、筆者の筆力で自由に表現されているのです。逸平の存在自体が無くなる事でしか優子と結ばれないと思った幸二の心理を文章によって読者を説得させていると思いました。ただ、壮大な物語とは捉え難く、悲劇にしろ何にせよ読者の心を吸いこむという点では構成力が足りなかった様な気がします。思い返す時にあらゆるシーンが頭の中に一気に浮かんでしまうという形です。

  • 獣の戯れ、という題名から、男女の烈しい情熱の予感を感じた。そして、その予感は間違いではなかった。

    あらすじだけを読めば、単純な男女の三角関係の話で、三島由紀夫のいう社会に対するところの孤独、神秘性は見られず、一種の恋愛小説、それも紋切り型のくだらない低俗なものに思え、読むのを躊躇した。だが、そこは文豪と呼ばれる所以、ありきたりな設定や世界観の中にも特異性を足して、普遍性の罠にかかることなく器用に書き上げている。

    特に、不気味なのは小説家の逸平の、その杳としれない言動と態度である。幸二に襲われてからというもの、自分ではもはや何もできず、すべてを妻に預けるしかない境遇にあり、身体を拭くことも食べることもできない。次第に、周りを巻き込んで、登場人物全員が、僕たち読者には不幸の底の底にあるように思えるが、周囲は、特に妻は、元気だった頃よりも幸せそうに見えるから不思議だ。そして、其処にひとつの幸せを見出せる力があるのも女性の良い点なのかもしれない。

    理由はなんであれ。


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著者プロフィール

本名平岡公威。東京四谷生まれ。学習院中等科在学中、〈三島由紀夫〉のペンネームで「花ざかりの森」を書き、早熟の才をうたわれる。東大法科を経て大蔵省に入るが、まもなく退職。『仮面の告白』によって文壇の地位を確立。以後、『愛の渇き』『金閣寺』『潮騒』『憂国』『豊饒の海』など、次々話題作を発表、たえずジャーナリズムの渦中にあった。ちくま文庫に『三島由紀夫レター教室』『命売ります』『肉体の学校』『反貞女大学』『恋の都』『私の遍歴時代』『文化防衛論』『三島由紀夫の美学講座』などがある。

「1998年 『命売ります』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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