午後の曳航 (新潮文庫)

  • 1419人登録
  • 3.68評価
    • (146)
    • (152)
    • (292)
    • (19)
    • (4)
  • 169レビュー
著者 : 三島由紀夫
  • 新潮社 (1968年7月15日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (181ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101050157

午後の曳航 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

並び替え:

表示形式:

表示件数:

  • ★★★
    13歳の登は、隣の母の部屋への除き穴を見つける。
    父は5年前に死んだ。母の房子は33歳の女盛り。
    そして目撃した、母と船乗りの竜二が抱き合う姿、刹那に響き渡る汽笛。
    その瞬間は登にとって人間の美の頂点というべき特別な光景だった。

    竜二は一見寡黙だが内心に大仰なロマンスを持ち合わせていた。
    登は竜二に理想の男の幻想を見る。
    登には”首領”を中心とした、メンバーを番号で呼び合う仲間たちがいる。
    首領は少年たちに、残虐性を孕んだ美学、哲学を説く。

    竜二は房子との結婚のために船を降りる。
    そこここで見え隠れする小さな違和感。
    竜二が普通の男になることに自分の美学が崩れた登は、
    ”首領”の先導により少年たちと共に、竜二を洞窟へと誘う。
    少年たちはその幼い手に、麻酔やナイフを持っていた…。
    ★★★

    前半「夏」は、男と女が出合い、少年の危うい思春期を示し、そして別れによりギリギリに保たれた理想の描写。
    後半「冬」は、理想の瓦解。
    母の恋人に殺意を抱きますが、マザコンとかオイディプスコンプレックスとかではない、あくまでも自分が理想とする男の幻想が崩れることを防ぐための怒りが原動となっている。そして三島自身の、自分自身である少年に殺されたいという欲望も含んでいるそうな。

    しかし登の殺意がなくても、竜二自身にも迷いがあり、このまま結婚しても常にどこか別の所を見る生活だったのかな。竜二と房子が完全に幸せな状態でないように書いたのも、危うい均衡を保っていると思う。

    ≪以下ネタバレ≫

    三島由紀夫のノートによると、小説の終わった後に、少年たちの解剖シーンも準備していたようですね。
    前半で自分たちの理性の訓練のために猫を殺し解体することとつながっているようで。
    しかし前半の猫でその可能性を示し、後半はここで辞めたのはよかったと思う。

  • 母親の裸体をのぞき穴から夜毎に見つめ続ける13歳って…… まずそこがおかしい!

    のぞき穴から見える部屋。さらにその部屋の窓越しに見える海、聞こえる船の汽笛。それらが13歳にとっての世界の全てだ。母親が新しい恋人を部屋に連れ込んで以来、その少年の世界が崩れ始め……

    一方、母親の恋人となった船乗りが船を捨て、陸に上がりそこで日常生活を営もうとすると、彼の世界もまた崩れ始める。

    奇妙な二重構造を持った小説で、どう物語が転がっていくのか見当もつかなかったが、最後は少年と元船乗りの世界が奇妙な一致を見る。

    この作品でも三島の変態ぶりが見事に発揮されている。女の汗と肉の匂いがむんむんして、匂いフェチの私にはもうたまりません! 官能小説より官能的。

    かの松井秀喜が敬愛する小説家が三島だそうで、中でも一番のお気に入りがこの作品だそうだ。これって、「私は変態です!」って宣言しているようなものじゃないのか?

  • 酒鬼薔薇聖斗の出現を予言した!やっぱり三島は凄い!!という意見もあるようだが、それはそれで置いておいて良い事象だとは思う。頭でっかちで美学を持った少年達の持つ、純粋で歪んだ「大人」という概念と、彼らの繊細で残酷な心を上手く表現した、危うい一作という印象だ。

    芥川の『羅生門』よろしく、本来の結末はもう数ページ存在していたらしいが、あそこで終わらせるのが正解だろう。『ライチ光クラブ』が好きな人にお勧めしたい。

  • 私にとっては初・三島由紀夫だった。さすがだな~という感想。
    三島氏自身はエリート育ちなのに、よくこういう小説を書けるなと思う。少ない登場人物の心理描写が鋭く光っている。
    物語は、主人公の少年とその母、母の恋人で船乗りの男がメインで、少年の仲間たちも影響する。少年はある日、壁の穴から母の新しい恋人と母との情事を覗き見てしまう。少年は船オタクで、航海に強い憧れがあった。3人の視点から次々に映し出される心もようが鮮やかである。
    よくこの手の格調高い小説には、理解不能な比喩や、文字面を眺めても頭に入ってこない表現も散見されるが、三島の本にはそれがなく、美しい文章でありながら、ストレートに響く。それがまた複雑で矛盾しつつも容赦ないのに、病みつきになってしまうのである。
    とても面白かった。三島の他の本もぜひ読みたい。

  • 成長と大人を悪だと決め込み、それを拒絶するために危ないことを行う少年たち。
    私も小学生くらいのころに、大人と自分は異なる生き物で、絶対にそうならないと思っていた。
    でも現在、私は当時忌み嫌っていた大人になってしまった。
    大人になると、かつて自分もそうだったはずの子どもが怖くなるなんて、奇妙な感じ。

    純粋さと、信じ深さと、残酷さは、もう忘れてしまった。

  • 緻密な構成にため息が出る。
    主人公は前半で完璧なる均衡を構築し、後半でそれが崩れそうになるのを必死に防ごうとする。美や理想のための作品だ。不気味なまでに美しい。
    穴を見ている時の主人公のポーズなど、至極些細なところにも意味がある。それを考えるのも楽しく、緻密さにまたため息が出る。


    題にある「曳航」とは船が船をひく様子の事で、「曳航」と「栄光」をかけている。その理由は、英語での題を読むとわかりやすい。「The Sailor Who Fell From Grace with the Sea」、即ち「海と共に優雅さを失った船乗り」。一人の男が栄光を失って行く、その様子が描かれた作品、という事が題からも暗示されているのだ。

  • 海とともに生きてきた船乗りの男が安定を求めて陸に留まる。恋した女との陸での永住を決意し、女の子どもの良き父親になろうと父親らしく振る舞おうとする。船乗りの竜二に憧れていた少年にとってこれはぞっとするような裏切りだった。

  • 金閣寺をはじめとして、三島文学は現実を超越する認識の美学であると思っていた。しかし、これを読んで、現実から乖離されすぎた認識は狂気を宿すことを知る。観念への確信と、現実からの乖離、そしてその見事なまでの錯綜。気づいたら、ある人は1人を殺しており、ある人は手放した過去を夢想しながら終える。あの夢想の中の彼こそ、夢描かれた英雄の姿である。お互いの観念同士が作り上げた世界であり、完全にすれ違ったまま1つの連帯を織り成す世界構造。見事なり。

  • ムキムキの男性の肉体を賛美する作品(もちろんそれだけじゃないけど)。
    美しい文体で浮かび上がる、海辺の男たちの焼けた肌と筋肉の表現が官能的で素晴らしい。

  • 小説の最後の文章がめちゃくちゃかっこよかった。意外にさらっと読めて、ちょっと高尚な昼ドラを見ている気分。鍵穴から覗いた性世界はエロ漫画よりも興奮した。活字恐るべし。子猫のシーンだけは、残酷で読むに耐えなかったが、それが竜二に置き換わると読みたくなってしまう不思議。読書って、自分の本性が剥き出しになる瞬間があるんだなぁ。三日月の眉毛、いかにも育ちがよさそうだ。美しさと残酷さ、全能感の結晶のような少年。思春期に読んでたら影響されてたかもなぁ。

全169件中 1 - 10件を表示

三島由紀夫の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
三島 由紀夫
フランツ・カフカ
谷崎 潤一郎
三島 由紀夫
三島 由紀夫
有効な右矢印 無効な右矢印

午後の曳航 (新潮文庫)を本棚に「いま読んでる」で登録しているひと

午後の曳航 (新潮文庫)を本棚に「読み終わった」で登録しているひと

ツイートする