午後の曳航 (新潮文庫)

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著者 : 三島由紀夫
  • 新潮社 (1968年7月15日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (181ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101050157

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午後の曳航 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

  • ★★★
    13歳の登は、隣の母の部屋への除き穴を見つける。
    父は5年前に死んだ。母の房子は33歳の女盛り。
    そして目撃した、母と船乗りの竜二が抱き合う姿、刹那に響き渡る汽笛。
    その瞬間は登にとって人間の美の頂点というべき特別な光景だった。

    竜二は一見寡黙だが内心に大仰なロマンスを持ち合わせていた。
    登は竜二に理想の男の幻想を見る。
    登には”首領”を中心とした、メンバーを番号で呼び合う仲間たちがいる。
    首領は少年たちに、残虐性を孕んだ美学、哲学を説く。

    竜二は房子との結婚のために船を降りる。
    そこここで見え隠れする小さな違和感。
    竜二が普通の男になることに自分の美学が崩れた登は、
    ”首領”の先導により少年たちと共に、竜二を洞窟へと誘う。
    少年たちはその幼い手に、麻酔やナイフを持っていた…。
    ★★★

    前半「夏」は、男と女が出合い、少年の危うい思春期を示し、そして別れによりギリギリに保たれた理想の描写。
    後半「冬」は、理想の瓦解。
    母の恋人に殺意を抱きますが、マザコンとかオイディプスコンプレックスとかではない、あくまでも自分が理想とする男の幻想が崩れることを防ぐための怒りが原動となっている。そして三島自身の、自分自身である少年に殺されたいという欲望も含んでいるそうな。

    しかし登の殺意がなくても、竜二自身にも迷いがあり、このまま結婚しても常にどこか別の所を見る生活だったのかな。竜二と房子が完全に幸せな状態でないように書いたのも、危うい均衡を保っていると思う。

    ≪以下ネタバレ≫

    三島由紀夫のノートによると、小説の終わった後に、少年たちの解剖シーンも準備していたようですね。
    前半で自分たちの理性の訓練のために猫を殺し解体することとつながっているようで。
    しかし前半の猫でその可能性を示し、後半はここで辞めたのはよかったと思う。

  • 母親の裸体をのぞき穴から夜毎に見つめ続ける13歳って…… まずそこがおかしい!

    のぞき穴から見える部屋。さらにその部屋の窓越しに見える海、聞こえる船の汽笛。それらが13歳にとっての世界の全てだ。母親が新しい恋人を部屋に連れ込んで以来、その少年の世界が崩れ始め……

    一方、母親の恋人となった船乗りが船を捨て、陸に上がりそこで日常生活を営もうとすると、彼の世界もまた崩れ始める。

    奇妙な二重構造を持った小説で、どう物語が転がっていくのか見当もつかなかったが、最後は少年と元船乗りの世界が奇妙な一致を見る。

    この作品でも三島の変態ぶりが見事に発揮されている。女の汗と肉の匂いがむんむんして、匂いフェチの私にはもうたまりません! 官能小説より官能的。

    かの松井秀喜が敬愛する小説家が三島だそうで、中でも一番のお気に入りがこの作品だそうだ。これって、「私は変態です!」って宣言しているようなものじゃないのか?

  • 酒鬼薔薇聖斗の出現を予言した!やっぱり三島は凄い!!という意見もあるようだが、それはそれで置いておいて良い事象だとは思う。頭でっかちで美学を持った少年達の持つ、純粋で歪んだ「大人」という概念と、彼らの繊細で残酷な心を上手く表現した、危うい一作という印象だ。

    芥川の『羅生門』よろしく、本来の結末はもう数ページ存在していたらしいが、あそこで終わらせるのが正解だろう。『ライチ光クラブ』が好きな人にお勧めしたい。

  • 私にとっては初・三島由紀夫だった。さすがだな~という感想。
    三島氏自身はエリート育ちなのに、よくこういう小説を書けるなと思う。少ない登場人物の心理描写が鋭く光っている。
    物語は、主人公の少年とその母、母の恋人で船乗りの男がメインで、少年の仲間たちも影響する。少年はある日、壁の穴から母の新しい恋人と母との情事を覗き見てしまう。少年は船オタクで、航海に強い憧れがあった。3人の視点から次々に映し出される心もようが鮮やかである。
    よくこの手の格調高い小説には、理解不能な比喩や、文字面を眺めても頭に入ってこない表現も散見されるが、三島の本にはそれがなく、美しい文章でありながら、ストレートに響く。それがまた複雑で矛盾しつつも容赦ないのに、病みつきになってしまうのである。
    とても面白かった。三島の他の本もぜひ読みたい。

  • 成長と大人を悪だと決め込み、それを拒絶するために危ないことを行う少年たち。
    私も小学生くらいのころに、大人と自分は異なる生き物で、絶対にそうならないと思っていた。
    でも現在、私は当時忌み嫌っていた大人になってしまった。
    大人になると、かつて自分もそうだったはずの子どもが怖くなるなんて、奇妙な感じ。

    純粋さと、信じ深さと、残酷さは、もう忘れてしまった。

  • 緻密な構成にため息が出る。
    主人公は前半で完璧なる均衡を構築し、後半でそれが崩れそうになるのを必死に防ごうとする。美や理想のための作品だ。不気味なまでに美しい。
    穴を見ている時の主人公のポーズなど、至極些細なところにも意味がある。それを考えるのも楽しく、緻密さにまたため息が出る。


    題にある「曳航」とは船が船をひく様子の事で、「曳航」と「栄光」をかけている。その理由は、英語での題を読むとわかりやすい。「The Sailor Who Fell From Grace with the Sea」、即ち「海と共に優雅さを失った船乗り」。一人の男が栄光を失って行く、その様子が描かれた作品、という事が題からも暗示されているのだ。

  • 海とともに生きてきた船乗りの男が安定を求めて陸に留まる。恋した女との陸での永住を決意し、女の子どもの良き父親になろうと父親らしく振る舞おうとする。船乗りの竜二に憧れていた少年にとってこれはぞっとするような裏切りだった。

  • ムキムキの男性の肉体を賛美する作品(もちろんそれだけじゃないけど)。
    美しい文体で浮かび上がる、海辺の男たちの焼けた肌と筋肉の表現が官能的で素晴らしい。

  • 小説の最後の文章がめちゃくちゃかっこよかった。意外にさらっと読めて、ちょっと高尚な昼ドラを見ている気分。鍵穴から覗いた性世界はエロ漫画よりも興奮した。活字恐るべし。子猫のシーンだけは、残酷で読むに耐えなかったが、それが竜二に置き換わると読みたくなってしまう不思議。読書って、自分の本性が剥き出しになる瞬間があるんだなぁ。三日月の眉毛、いかにも育ちがよさそうだ。美しさと残酷さ、全能感の結晶のような少年。思春期に読んでたら影響されてたかもなぁ。

  • 金閣寺のプロローグとも言える
    現実と夢想とのパラドックスに悶えた男達の話。
    この本を読んだ今なら金閣寺を燃やした理由が
    見えてきた。

    大義、栄光という漢としての夢想に耽る少年、登。
    少年が思うそれらとは船であり、海であり、
    水平線へ消えていく憧れの船乗りの背中であった。

    登は少年ながらにして大人びた考えを持ちながらも
    栄光を憧れ信じ続けている。
    彼は世界の果てまでも知り尽くしたかのような
    優越に浸っているようでいた。
    しかしそれらは彼の童心がもたらす
    ファンタジーに過ぎないのであった。

    少年達は夢の中を生きる。
    しかし大人達もかつては皆、少年達であったのだ。

    竜二も男に憧れ沖の彼方へ身を消していった。
    しかし陸の世界からは見えない水平線の彼方にあるもの。
    それは空気圧計、風速計、温度計を観測する日々、
    退屈な日々なのであった。
    竜二の現実への回帰は少年の夢を放棄した
    堕落だったのだろうか。
    栄光なぞはどこにもなかった。
    船乗りたちの夢、南十字星の下でさえも。
    彼らは現実世界の隅々までも知り尽くしてしまったのだ。

    しかし、少年にとっての
    彼の安住という大人の選択は
    絶望という名の逃避でしかなかった。
    絶望がもたらすものは絶望でしかない。

    それは少年主観の相対的視点なのだろうか?
    華々しい争いを夢見た大人が
    現実との真っ向からの決闘試合の泥臭さに飽き飽きした結果、
    試合放棄をしたという揺るがぬ絶対的結果。
    とは言えないだろうか?

    破滅という少年達の選択。
    それはヤケな逃避行ではなく、
    絶望から目を背けるだけの惨めな鼠に成り下がることなく
    栄光への憧れの中を生き続ける為であった。
    死に狂いという必然的な世界の構築は
    世界に対する全面戦争なのだった。

  • 英雄になりたい息子の願望を抑圧するのは
    母親のちらつかせる涙である
    そのジレンマを解消するのは、父親の与える教養だが
    平和のお題目が唱えられる現代
    父には、母の押し付ける偽善的世界観を論破しきれない
    息子はそれに失望する
    子供としての自由が失われる前に、母のつけた枷を引きちぎらなければ
    そう思い、焦る彼は
    ある極端な英雄的行為をそそのかされるのだった
    それは、法の守りを保険としたもので
    しかも相手は本当の父親ではなく
    そのうえ他人の思いつきに流されただけの
    英雄的とはとうてい言えない行為だが

  • 少年の話である。好きな話である。大人塾で三島の話を聞いた。「金閣寺」と「春の雪」を予習で読んでいった。「豊饒の海」の残り3冊は読む時間がなかった。もう一度読んでみたいと思った。その前に、薄い本書を取り出して読んだ。少し話題に上っていたからでもある。海外で映画化されているということだが、日本ではちょっと無理なのかもしれない。前半はともかく、後半の猫殺しや父親殺しの残虐さをどう映像で表現するのか、難しい。父親に対する首領のことばは痛烈だ。「正しい父親なんてものはありえない。なぜって、父親という役割そのものが悪の形だからさ。」「父親というのは真実を隠蔽する機関で、子どもに噓を供給する機関で、それだけならまだしも、一番わるいことは、自分が人知れず真実を代表していると信じていることだ。」これは13歳の少年が発することばであろうか。そしてまた、登が隣室の母親を覗くシーンは、ミシマである。これが、最初の場面にあるのが、好きな話である理由の一つだ。

  • 遠い昭和が普段とあって、アンファンテリブルの寓話ともいうべき構造がますます強調される感。しかし男と男、父と息子の対峙にあって、女はホント小道具かきっかけ、またはそれらを生むのみの存在と描かれており、締め出されっぷりにはポカンとするしかない。さすが三島!笑笑

  • 何者にもなっていない自分に怖れを抱き、理想の姿と現実との狭間に、埋めようのない溝を見出し、手に入れた安寧と折り合いを付けたつもりが、ぞわぞわとした居心地の悪さを覚える。若さ故の傲慢は、時に無限の未来を妄想させ、時に破滅への道標として機能する。詩情に満ちた言葉の数々には表面に輝く美しさと、奥底に潜んでいる残酷さとがあり、広がり始めようとする世界を断ち切る行為に、嫌悪し、また不思議と惹かれてしまう自分がいる。完璧とは何かを分からず、それでいて完璧を求める事で生まれる不条理さを、いつか理解してみたいと思った

  • 少年期の心情、残酷性、憧れなどが見事に描かれています。
    文章を味わう作品でしょうか。
    少年の心情の移り変わりが、見事に描かれています。
    好き嫌いのわかれる作品かもしれません。

  • 小宮先生おススメシリーズ。

    2009年に読みましたが、読み返しました。

    ・・表紙が画像と違うのですが。

    以前読んだときよりも、登場人物の様子をよりいきいきととらえることができたかなと思います。
    自己満足でしょうか。

    やはり最後は殺されてしまうのかな?

  • 午後の曳航 三島由紀夫

    横浜に住む13歳の登(のぼる)は、就寝時に子供部屋の外から鍵をかけられている。夜中に脱けだしたのが母に知られてからのことだ。
    腹立ち紛れに、箪笥から抽斗を引っ張り出し、衣類を部屋にぶちまけていた時、箪笥の奥に小さな穴を見つける。そこからは隣室の母の部屋を覗くことができた。以来、母に対して苛立った時は、鍵のかかった部屋で隣室の母の様子を覗くようになる。 33歳の未亡人の母は艶かしく美しかった。
    ある晩、母が二等航海士の塚崎竜二と共に帰宅する。登は母と塚崎の裸体を覗き見る。塚崎の肉体は登の憧れを喚起した。


    こ、こーわかったー。
    これは三島版「恐るべき子供たち」?

    第一部は未亡人と船乗りのベタな恋愛と思わせておいて、第二部でぞわぞわしてきます。第一部にも予兆はありましたけれど。「午後の曳航」の意味が第一部と第二部では全く違います。
    第二部における「午後の曳航」は怖い童話のよう。

    当初、登の目に「海から飛び出してきたふしぎな獣」のように見えた塚崎。英雄になるはずだった男は、自分が英雄になれない事に気付いて、丘に上がる決意をしてしまった。憧れの獣が父親に成り下がろうとする。登のノートには塚本竜二の罪科項目が増えていきます。

    登の仲間でリーダー格の「首領」は「世界は単純な記号と決定で出来上がっている」と言います。仲間内は「首領」「1号」「2号」などと呼び合っています。登は3号。仮面ライダーかよ?と思ってたのは最初だけ。「感情のないこと」を訓練している登たち。13歳という特権階級にいる彼らは、今の彼らにしかできない方法で、英雄になれなかった竜二を救おうとします。

    ※愛猫家の方は注意。不愉快な描写があります。

  • これほど潮のかおりに満ちた本を読んだことはないです。祖父が船乗りだったので、主人公の少年と、英雄である船乗りを自分たちに重ねて読みました。
     「潮騒」も名作ですが、こちらの方が現代に通ずる狂気が鮮明に描かれており、大好きな作品です。

  • 中学生の時に祖母に薦められて読みました。
    当時の私にはあまりに衝撃的な内容で、良さは理解できずという感じでしたが、数年後に再読し魅力に気づいてからはお気に入りの一冊です。
    しかし、祖母が何を思って中学生にこの本を薦めたのでしょうか・・・笑

  • これぞ三島。久しぶりに読んだけれど、やっぱり、すごい。

  •  理想とか夢想に憧れて生活感を憎悪する生意気なガキと、かつて狂おしいほど急き立てられた理想からそっと目をそらし生活を見据え始めた男、どちらに共感するかといえば、圧倒的に後者なんだよなあ。

     大人の姿を見て自分の未来の姿を予見する、なんて賢さは自分にはなかったので成程と思う部分はあったが、やっぱり小憎らしさが先に立って、痛々しい犯罪者ポエムを読んでいるようなむずがゆさを感じてしまった。
     とはいえ…自分の身近に存在して自分と重ね合わせやすい存在には、憧憬と落胆どちらも鋭敏に感じやすいというのは分かってしまう。

     栄光じゃなくて曳航、という皮肉っぽさがいかにも似合う毒々しい稚気溢れる作品だった。

  • 小難しい言葉たちに惑わされて、シンプルなメッセージが伝わりづらくなっているように感じた。

    登たち中学生の持つ、思春期の万能感。
    竜二の投げ捨てつつある、信じていた栄光と死。

    子供達は、陸の生活に馴染み父親を選んだ竜二にひどくがっかりし、殺人へと駆り立てる。

    大人が読むと子供が読むとで全く印象が変わりそうだけれど、結婚して子供がいる自分が読むと、なんだかシラけてしまった。

  • 何度目かの再読。
    とても単純な構造の小品。
    青春の只中と、その出口での葛藤と、出てしまった後のうつすらとした後悔、この三様が、交錯する。

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