宴のあと (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101050164

感想・レビュー・書評

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  • 繊細な描写が全体として印象的だった。かづが野口と恋に落ちるまでの流れも、感情を直接的に表現する言葉はあまりないのにすごくリアルでドキドキした。選挙戦に入ってからは、初めは本当に「野口のため」だったかづの活動が徐々に「かづ自身が輝くため」に移行しているように感じられ、かづが離縁を選ぶまでの流れもとても自然に読み進められた。一方の野口がかづの返答に対して憎しみの感情を現す場面では、彼が心から、かづとの穏やかな老後を夢みていたのだろうと思えて切なくなった。

  • 舞台は政界、主役は50歳の女と60歳の男、
    それにもかかわらず、あるいは、だからなのかもしれませんが、
    ストーリーは美しく、どこかロマンチックですらあります。

    都知事選という狂乱に突き進むことで浮かび上がる、
    それぞれの考え方の違い、周囲の変化、熱狂と動揺、
    そして宴のあとの虚無感と、そこからの再スタート。
    いいですね。こういう小説好きです。

    わりかし普遍的なテーマであるため、
    三島由紀夫のクセのないところだけ美味しく頂ける、
    そんな小説として楽しむこともできるかと。

    テーマだけでなく、表現も比較的大人しいため、
    コアなファンはパンチに欠けると思われるかもしれませんが、
    さほどのファンでなかった私にとっては、
    いいじゃん、三島由紀夫、と再確認させられる小説でした。

  • うーん「潮騒」のようなインパクトは無いなあ。

    機械的で理想主義者の政治家夫と、熱情的でリスクラバーな獣系妻が協力して選挙に挑むというストーリー。

    「政治とは、倫理や志ではなく、結局はカネだ」という“政治とは何ぞや”に対する答えに、本職の夫よりも早く、妻が理解してしまうのが何とも切ない。

    より痛烈に。読んでる側が気持ち悪くなるくらい、徹底的に人間の内情を描写する三島はやっぱスゲーと思う。また、女性描写もさすが三島。50歳過ぎの熟れた女性の艶を見事に表現している。

  • 訴訟問題でも有名な、三島由紀夫の代表作。特に物語中盤から終盤にかけての盛り上がりが秀逸。
    説明的過ぎる文体が気に障るが、読む人によってはそこが「美しい日本語」と捉えられるから不思議である。

    しづという人物に対して、私は一種の扇動家のような印象を持った。天性の人懐っこさと激情、そして恵まれた肉体を武器に、次々に周りの人間を巻き込んでいく様は、どこか恐ろしい。純粋に自然とやっているから、尚更タチが悪い。その犠牲者とも言える野口がただただ哀れである。その後、しづはどのような最期を迎えたのだろう。

  • この本自体は社会の授業で見たことがあるような。
    豪放な女性、福沢かづの劇的な浮沈と周囲の社会が描かれていた。

  • 英雄が老いていく様を記録したドキュメンタリーというところか。風情あり、美しさもあり。しかし、これが作者の老いの捉え方なのであれば、悲劇かもしれない。頑なに居る事だけが老いではないはず、無論それは豊かに多様化した現代からだからこそ見える物言いだろうが。

    それに付けても、雄賢以外は宴の前後でまるで変わらない、老いない。それだけに雄賢の寂寥が際立ち、頑なが浮かび上がる。作者の恐れの投影か。

    本筋ではないだろうが、では、「絹の様な権謀術数」とはどんなものなのか、描いて頂きたかった。。

  • 政治の世界とは、国の方針を定める深い話し合いの場である
    と同時に
    覇権をめぐって権謀術数のうずまく闘争の場でもあるのだった
    闘争が精神をたかぶらせるとき
    脳内麻薬の作用で人は若返るものらしい
    それゆえ、民主主義における無血闘争、すなわち選挙というものは
    祭りや宴に例えられることもある
    「宴のあと」は、日頃おだてられて少し勘違いした成金の中年女が
    亭主の選挙活動に魅了されてしまい、首を突っ込む話
    手段と目的が逆転しているのならば
    いずれ全てを焼き尽くすか、自分自身を滅ぼすまで終わらないだろう
    世界を飲み込む自己陶酔
    民主主義とファシズムの関係性をここに見いだすこともできる
    1960年の作品
    それは浅沼委員長襲撃事件をへて
    社会党がポピュリズムに目覚めはじめた頃のこと

  • 愛した男と結ばれ、終の棲家と骨を埋める安らぎの地を得ても、結局は愛憎入り乱れる狂騒の中でこそ生き生きと輝き、最後は安住の地を捨て鉄火場へと戻ってしまう。
    仇と罵る相手に慈悲を乞う様は業深く、見苦しくもあるが、それゆえに人間の秘める刺激への渇望を最も端的に体現しており、妙な人間的魅力がある。

    行為としてはとても褒められたものではないが、反面常に宴の奔流に身を置きたいと願う心理を全否定できるほど、俗世から超越した人格者というのもそうそう居ないのではなかろうか?少なくとも自分は、ほんの僅かなれど共感することが出来た。

  • G 2016.10.17-2016.10.22

  • 都知事候補野口雄賢とその妻福沢かづが都知事選に臨む。何が選挙に勝利せしめるか。謹厳実直な夫と行動的な妻。無縁墓を避けたかった妻は、それを甘んじて受けてでも自分の生を全うする方を選ぶ。2016.8.19

著者プロフィール

本名平岡公威。東京四谷生まれ。学習院中等科在学中、〈三島由紀夫〉のペンネームで「花ざかりの森」を書き、早熟の才をうたわれる。東大法科を経て大蔵省に入るが、まもなく退職。『仮面の告白』によって文壇の地位を確立。以後、『愛の渇き』『金閣寺』『潮騒』『憂国』『豊饒の海』など、次々話題作を発表、たえずジャーナリズムの渦中にあった。ちくま文庫に『三島由紀夫レター教室』『命売ります』『肉体の学校』『反貞女大学』『恋の都』『私の遍歴時代』『文化防衛論』『三島由紀夫の美学講座』などがある。

「1998年 『命売ります』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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