音楽 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.54
  • (138)
  • (288)
  • (461)
  • (41)
  • (8)
本棚登録 : 2513
感想 : 263
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101050171

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • こういうものは無いと思うけれど、幼少期に形成されたものがうちに潜む衝動を爆発させる瞬間があるのだろうか。誰しも。

  • 『絹と明察』を読んだ後に『音楽』を読んだ。
    2020年4月上旬コロナにより緊急事態宣言が出ている。
    精神科医 汐見の書いた記録
    絹と明察は語り手が登場人物でなく情景の描写が金閣寺のように多かったが、
    音楽では精神科医の書いた記録であり小説家の書いたものではないという設定だから 情景が細かく書かれておらず隠喩を楽しむこともなかった。
    (レコードの音が聞こえていなかったことに気づいたという例えは小説家じゃなきゃ、そんなたとえできないと思ったが)
    また絹と明察でも出てきたハイデッガーの実存が一度出てきた。

    小説は言葉を流さず繰り返し二度読むようになった。

    女性に対して性的興奮がなかった?三島氏の関心が不感症 不能にありこういうものを書いたのか?

    私はそのような三島が、結婚し子を持ったことに魅力を感じる。
    料理はしなくていいが 対外的なことはしっかりやってほしいと結婚相手に望んだという三島
    本心は外には隠しておくところ 外に本心を押し通さないところ 仮面の出来がいいところ が魅力

    私は仮面で本心を覆わず、本心を露わにしているから醜い。
    社会的規範に沿って生き それが非常に嘘っぽく軽薄で その仮面の下を覗きたくなるような人間が魅力的だと思う。“社会的規範”が身についていて社会的規範の習得に苦しんでいないような人の“人間の自然”とは一体どんなものなのか気になる。

    極端なコントラスト
    兄との醜行の夜感じた “恐怖“と”願望“
    醜行は最も”ぞっとする“行為である故に、最も”神聖な”記憶
    粗暴な中にも繊細な指の動きから、小3のあの感覚を思い出していた。忘れがたく、いつかもう一度繰り返したいと恥じらいながら待ちに待っていた感覚を。
    何てあさましいことだと思いながら、私の良心(いよいよという行為に移ったとき刺し殺す)を裏切った鋏を憎んだ。

    復讐にお兄さんの子を産んでやるわ
    矮小な赤ん坊に変えてワタシの子宮に押し込んでやるから
    この観念が他の多くの観念を倒錯させ、兄との行為による兄の子の妊娠という観念が純潔と同一となった。 それさえ守っていれば永久に純潔。

    人それぞれの考え方 論理は、数学のように誰でもその論理が分かるものではない。
    破綻しているような論理でも、その人の中でその論理は正しいのだから、他人にはは破綻した論理のようでも、自分の論理に従って考え動くしかない。
    Aさんが育った環境、体験を通して確立された論理は、どんなものでもAさんの論理なのだ。
    虎穴に入らずんば虎子を得ず、客観的判断をすべて犠牲にしてはじめて真実を得ること。

    ビンスワンゲルの現存在分析は、誰がなんと言おうと、愛が人の心にひらめかす稲妻⚡️と瞥見させる夜の青空とを知ってをり見ているのだという感じ。 麗子は兄の醜行の奥に優しさを感じ取った。 小3で兄に快感を教えられてからは、掟を突き抜けなければ達せられないところの、言語道断な行為に対する準備が整えられていた。はじめから外道であるから、外道に於いてしか遂げられないものであり、もともと悪夢であるから熱病の苦痛の中にしか現れないものだった。
    誰でも彼女のような体験をすれば、そに先あのような人生を辿ることはほぼ予定されているだろう。(ある経験によってできあがる論理)

    よく聞く 整然とした論理にかなうような話をつくるのは、納得されやすい聞き馴染みのある論理であれば相手も理解するだろうという慣習(慣習で世にあふれた理由づけをする、相手を見くびっている、考えないようになってる)。
    そんな聞いたことのある客観的数学的論理よりも
    破綻した論理 ワガママな理由による行為 の方が
    ある1人の人間が経験上環境上出来上がった自分の論理のままを語っていて、納得がいくかもしれない。

  • 麗子の深い闇を抱えているからこそ、
    その闇を覗き込んだ人は自分の闇を見ることになって
    麗子の純粋性と不安定さを魅力に感じて惹かれるように思う。
    麗子の兄への思いは近親相姦ゆえの純粋性と、一方で憎しみを孕んで起こった事実を正当化しているようにも感じる。
    兄の子どもを見てある種の呪いから解放され平凡な女になった麗子はそれでもなお汐見や隆一を惹きつけることは可能なのか。
    隆一と結婚したというラストは、過去があればその不安定な魅力からは解放されることはないということなのか、結婚したからと言って音楽が聞こえ続けるわけではないということなのかと想像させられる。

  • 頭脳戦
    直感に基づく裏の読み合いで正解にたどり着くのすごい
    「音楽が聴こえる」という表現、素晴らしいと思った
    完璧でないことの神秘性ってあるよね

    精神分析私もされたい

  • 精神分析学にサラッとでも触れたことある方なら、尚のことニタニタしながら読める作品だと思う。ベッタベタすぎる。しかし、三島由紀夫は本当に精神分析学に精通してらっしゃるね。

  • 2019.08.19 朝活読書サロン(未参加)で話題になる。

  • 日常生活に埋もれている私にとっていきなりこの内容を読むと、決して重ね合わす事のできない出来事を読み進めねばならなかった。精神分析学の小難しい分析内容を医師の視点から描いているためか。三島氏がミステリーを好まなかった様に、この文体に慣れて引き込まれてしまうと、そこら辺のミステリーなんぞは読んでも読まなくても同じような気になってしまうのは三島マジックに掛かってしまったからなのか。
    女性の肉欲的に通ずる心の孤独を主人公の精神分析医が治療する。2、3度読み直さないときっと脳裏に焼き付けられないような文体が多く見受けられた。しかし読み終わった後はハッピーエンドで迎えてくれたのであった。

  • 読者を愚弄する物である。その証拠は末尾の電報文である

  • なんか…読み疲れた…

  • 三島由紀夫の作品の中で最も論理的で心理学的、そして神秘的な一作。
    兄との過去が原因で不感症となった女を、精神科医が完治させるまでの物語です。

    エンターテイメント型の展開を見せながらも、心理学的には十分に重厚で、一部キリスト教的なテーマも含む傑作かと。

    物語の構成が少し似ている…と思ったのが、フランスの没落貴族ヴィリエド・リラダンの名作「未來のイヴ」です。

    ヒロインとなるのは「音楽」では性的不能者の麗子、「未來のイヴ」では心だけは何よりも人間らしい機械人形(ホムンクルス)のハダリーで、

    どちらの女も心身ともに美しいが、男の性欲を破壊する「冷たい体」を有すこと、即ち性的に不感症という点で共通している。

    また、両作ともに不可能の恋に悩む青年が物語の発端となるところも興味深い。
    青年は「音楽」では精神科医に、「未來のイヴ」では科学者エジソンに出会い、女の不感症を紐解いていく……。

    さて、どちらの物語も青年からの電報によって締められるわけですが、不可能な恋を叶えることに成功したのは、科学者ではなく精神科医でした。

    電報によりハッピーエンドを報せた「音楽」、電報によりハダリーが海に沈んだこと報せた「未來のイヴ」。

    「音楽」のラストシーンでは、麗子の不感が完治したことを知らせる電報が精神科医のもとに届く。
    「オンガクオコル、オンガクタユタルコトナシ」と。
    それはきっと、添い遂げることができなかった機械人形ハダリーの未来。

全263件中 31 - 40件を表示

著者プロフィール

本名平岡公威。東京四谷生まれ。学習院中等科在学中、〈三島由紀夫〉のペンネームで「花ざかりの森」を書き、早熟の才をうたわれる。東大法科を経て大蔵省に入るが、まもなく退職。『仮面の告白』によって文壇の地位を確立。以後、『愛の渇き』『金閣寺』『潮騒』『憂国』『豊饒の海』など、次々話題作を発表、たえずジャーナリズムの渦中にあった。ちくま文庫に『三島由紀夫レター教室』『命売ります』『肉体の学校』『反貞女大学』『恋の都』『私の遍歴時代』『文化防衛論』『三島由紀夫の美学講座』などがある。

「1998年 『命売ります』 で使われていた紹介文から引用しています。」

三島由紀夫の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
三島由紀夫
三島由紀夫
安部公房
フランツ・カフカ
三島由紀夫
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×