青の時代 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101050201

感想・レビュー・書評

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  • 「あらゆる絵具を混和すればパレットは真黒にしか彩られない」

    多くの不幸は〈欠乏〉の姿で来る。
    〈過剰〉の不幸に気づく人は少ない。

    少年の心と戦後混乱期の闇金融。
    蝕んだのはどちらが先か。

    回転中のコマだけが放つ虹色を、
    真実でないと誰が言える?

  • 本編の物語よりも、途中途中で、作者が物語に「ちなみに」ってノリで茶々を入れる技法がシニカルで凄いインパクトを持っている。文豪の凄み。
    アフォリズム(短いぴりっとした表現で、人生・社会・文化等に関する見解を表したもの。警句)っていうらしい。

  • 三島由紀夫の、数々の作品の中で比較的落ち着いた作品と言うことで、
    傑作と言うわけでもなく、問題作ともみなされていないこの作品。
    青の時代、要は青春物語は、1人の人生を子供のころから、20代後半まで、
    時代背景は、戦前から始まり、戦中はサラッと過ぎ、戦後の復興の中で、
    夢を追いつつ、あることをきっかけに企業を立ち上げ、金もうけをしていく中での、
    人との関りを描いている。

    読んでいて、太宰治の人間失格、ジブリ映画にもなった堀辰雄の風立ちぬ、
    現代作品で言うと、森見登美彦の四畳半神話大系が似ていると感じた。
    どこが?ってのは、時代背景や構成や雰囲気の何れかってこと。

    三島由紀夫の作品は初めてだったので、
    聴く限りでしか、ほか策を知らないのですが、
    初めて読む入り口としては読みやすいのかななんて思ったりしました。

  • この作品を読んでみて、漸く三島由紀夫の作風が何となく分かったような気がした。崇高な精神を持ち、公の理解に阿ることなく自分の表現を貫く。分かりやすさよりもある一定の教養がないとついていけない、そんな冷たさを持っているのだと感じた。

  • 私の記憶の中で一番最初に見たドラマは「青の時代」。オープニングとタイトルぐらいしか思い出せないけど、なんとなく印象に残っていて、古本屋でこのタイトルが目について「えっあのドラマって三島由紀夫が原作だったのか」とすかさず手に取った。

    けれど内容はそれとは違う別物で、堂本剛とは違う「青の時代」がしっかりと描かれていた。

    父の期待や、他人からの過剰な評価。
    自分の思いに反して膨れ上がる、周囲が期待する「誠」のイメージについて行こう必死になる。そうではなく自分の思う「誠」を生きたいと思うようになった主人公は頭が良いのにとても不器用で、私なら今のあなたにこう言ってあげたい、と思わせる。

    でもそれは私のエゴでしかなく、主人公の頭の良さや、考察について行くのに必死になりました。

  • 三島も4作目になりました。精神分析とその描写はほんとに詳細で繊細でなめらかで不器用で、気づくとつと共感をおぼえてしまう自分に怖さを感じる。男の人って多くの人がこんな風に父と決別するものなんですかね。しかしソシオパスな誠さんに振り回される女性たち、特に逸子さんのその後が気の毒です。

  •  戦後実際に起こった光クラブ事件をモデルにした小説。
     超合理主義である主人公山崎誠は、一高、東大法学部に進学するほどの秀才。一方で、過剰な自意識を持っており、随所に出てくる『』で囲われた心情の吐露は、彼が尋常ならざる自意識の持ち主であったことをうかがわせる。
     戦後の混乱の中で、彼は「太陽カンパニイ」という高利貸しの会社を設立し、みるみるうちに大きな額のお金を動かすようになる。しかし、彼は物質の豊かさが精神的な豊かさにつながるとは考えていない(この辺りの哲学的な観念は私の読解力が足りなくてよくわからん)。女が精神的に自分を愛したとき女を棄てることを画策するあたりに、歪んだ人格が垣間見える。
     物語の最後に、彼の幼少期の回顧シーンがある。大きな展示用の鉛筆の模型(非売品)を手に入れたいと強く願った日々。法外なお金にしても、輝子にしても、子供のころに欲しがった鉛筆の模型にしても、手に入れられないものを手にいれるプロセスを楽しみたかっただけなのかな。「数量刑法学」の研究を続けていたら彼は、私たちの社会はどうなっていたのだろうか。

  • 大学時代に手に取った時には、読了しても多くが意味不明だったが、20年近くが経ち社会人として経験も培った今ならばと思い、再起。

    流石に全てを理解するのは難解を極めるが、大学時代の感触を3割とすれば、今回は7〜8割方吞み込めた自信がある。

    精神と物質世界の充足を相容れないものと峻別する、川崎誠の超現実主義。最終的に設計図と現実との乖離に敗北し、自ら毒を仰ぐ運命とはいえ、ともすれば幼子の意地にも似たその頑固さと一途さは、毎日に倦み疲れて理想と現実の狭間を彷徨っている自分にはなかなか眩しく見える。

    金融に手を出さず、学者になっていれば終生の研究課題となっていたであろう数量刑法学も、理念そのものは非常に合理的で辻褄が合っている。客観性を標榜しつつも結局は裁判官の心証に依拠せざるを得ず、またその裁判官の主観が判例となって以降の類似案件を拘束する現代司法の先を行く、文明を進める思想になり得たのではないか?

    無論、刑法の応報刑と教育刑という理念に真っ向からぶつかることになり、ある意味では罪刑法定主義さえも否定するため、現実に導入するには課題も多い(というより、法学会に革命でも起きない限りまず有り得ない)が、それでも人間の行為を定量的に評価するという試みは面白い。ユートピアか、あるいはディストピアかもしれないが、可能性だけは感じる。
    実際に誰か提唱している学者はいるのかな…?

    素材となる光クラブの事件から1年も経たずに上梓されたため、人物像は大部分が作者の創作であろうが、それでも戦後の焼け野原の中、現代よりもずっと広く映える空を見上げて、そこをカンバスとして誰よりも緻密に人生の設計図を描かんとした一個の人間に、一種の憧憬を感じたことは事実。

    ただ、結局彼の幸せはどこにあったのだろうか?というところだけ最後まで疑問ではあった。
    それと、どう言い繕っても結局クズであることだけは否定できない。プラグマティズムには憧れるけど、ここまで振り切ってしまってはいかんね。

  • 光クラブ事件をモチーフにした小説。
    主人公 川崎誠は、あらゆるものを疑っているように見えて、権威に対しては疑うことを知らず、また、残酷な遊戯を行うことで、非凡な事象に作り変える、など、性格に難がある(というと平凡だが)人物。
    そして、その性格に起因する合理性で自分の行動を制約し、学友の愛宕から、決して君は君の自由にならない、と言わしめるほど。
    物語の前半では、主人公の性格、心理的な動きにスポットを当て、後半では、その性格に忠実に行動した結果、どういった顛末を迎えるか、が描かれている。

  • 比喩が美しくて、素晴らしい。賢すぎる青年の苦悩。異常なんだけど、普通にも思える。そんな、狂気の狭間に、みんないるなのだと言う、怖いような、安心なような、様々な感情を味わった。三島由紀夫を読むということは、自分の価値観と向き合うということ。

著者プロフィール

本名平岡公威。東京四谷生まれ。学習院中等科在学中、〈三島由紀夫〉のペンネームで「花ざかりの森」を書き、早熟の才をうたわれる。東大法科を経て大蔵省に入るが、まもなく退職。『仮面の告白』によって文壇の地位を確立。以後、『愛の渇き』『金閣寺』『潮騒』『憂国』『豊饒の海』など、次々話題作を発表、たえずジャーナリズムの渦中にあった。ちくま文庫に『三島由紀夫レター教室』『命売ります』『肉体の学校』『反貞女大学』『恋の都』『私の遍歴時代』『文化防衛論』『三島由紀夫の美学講座』などがある。

「1998年 『命売ります』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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