豊饒の海 第四巻 天人五衰 (てんにんごすい) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101050249

感想・レビュー・書評

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  • 夢の崩壊。
    運命的な人間と世俗的な人間の違いはどうにも言葉で説明できないけれど、卑しい者が生き延びて美しい者にも終わりがあるこの世に、聡子の静かな目線が目を覚まそうとする。

  • ジン・ジャンの転生と思われる少年、安永透を養子にした本多繁邦。しかし転生の連鎖はついに絶たれてしまう。

  • 『この世には幸福の特権がないように、不幸の特権もないの。悲劇もなければ、天才もいません。
    あなたの確信と夢の根拠は全部不合理なんです』

    76歳になった本多は転生の神秘にとりつかれ
    ジン・ジャンの生まれ変わりを賭け、安永透を養子に迎える。彼は美しい容姿と並外れた知能を持っていたが…

    最初からテンポよく非常に面白いと思って読んでいたが、
    透の冷酷さが過激化してくるにつれて不快な気持ちになった。清顕や勲の冷静さ冷酷さとは違い、
    自分は選ばれた者と信じ、
    自分以外の全てを愛することのない透。
    本多は信じていた運命から
    大きなしっぺがえしをくらうことになってしまった。

    三島由紀夫の当初の『天人五衰』の構想メモとは
    まったくかけ離れた結末になった。
    この本を三島由紀夫の遺書として読むならば、
    本多の老いの苦悩、
    透の自尊と絶望、
    『あなたは最初から偽物だったのよ』と言い放つ慶子の言葉…
    全てが彼自身の彼に向けた言葉にも思えてくる。

    考えさせられるシリーズだった。
    いまもまだ考えている。

    いつかまとめることができたらまたレビューを書き直そう、
    とか思っているくらいです。

  • 2012年の読み納めとして、夏頃からのろのろ読み進めていた「豊饒の海」を最後まで読み終えた(文庫版で登録したが、実際には新潮社の三島全集13・14巻にて読了)。いつもなら第一巻のみ登録してレビューを書くところだが、この作品についてはレビューを書くなら最終巻にしておかないと…それくらい、第一部の読後感と第四部まで読み終えての印象とに大きな差がある作品。
    タイトル通り春先の雪のような清さと儚さが美しい第一部「春の雪」、盛夏のような生命の炎の熱さを感じる第二部「奔馬」、実りの秋のような熟れた肉体を持つ“転生の清顕”、その官能の陰に忍び寄る腐敗をも感じる第三部「暁の寺」、そしてこれら若さを散らしていく美しい命たちを見守り続けた男が老いという人生の冬を迎える第四部「天人五衰」。織り込まれた四季のモチーフのほか、明治末から昭和の戦後までをカバーする物語の時代背景が、移り変わる日本の姿と共に「全ては須臾の間」という何とも言えない無常感を与える。
    ドラマチックな転生のモチーフが前面に立つのは第二部まで。第三部・第四部はむしろ、若さの盛りで命を散らし再び青春を輝かせるために“転生”してくる存在に固執する男――若さを謳歌することなく通り過ぎた男・本多の、息詰まるような執着(憧れと欲望がないまぜになったような)が前に押し出されている。ドラマチックな若い生の傍観者であり続けた本多、彼がその執着の対象である“転生の清顕”と見込んだ少年を手元に置くと、少年は課せられているはずの運命を免れ、本多は解脱にたどり着くことなく、月修院門跡の一言に茫然自失して物語の終わりを迎えることとなる。
    転生の天人であるはずの透は、本多によって救われたのか、汚されたのか。それともそもそも、天人ではなかったのか。清顕というまばゆい存在を体当たりで「愛した」聡子が積み重ねた生の果ての老いと、そのまばゆさを「覗く」エクスタシーに囚われた本多が駆け続けた生の果ての老い、その隔たり。三島にとっての“美しさ”や“卑しさ”、世の無常と純粋な思いが持つ永遠性――この長編小説のラストに置かれた「刹那に生滅する」阿頼耶識が本多を無の世界へ突き落す結末、門跡が聡子として愛した対象と本多の執着の対象に何の重なりも見出されないラストが何を意味するのか、そこにはこの「天人五衰」最終稿を入稿したその日に自決事件を起こした三島自身の思いというものも深くかかわっている気がしてならない。
    それにしても、全編に渡って美しい日本語が堪能できる作品であった。全四巻。

  • 今まで「豊饒の海」には物語が完結してないがために満点をつけなかったが、最終巻ともなれば満点にするしかない! 「暁の寺」で輪廻転生の謎は極致に来たが、この「天人五衰」にはすべてを覆す凄絶さがある。結末をどのように受け止めたら良いのかという複雑な思いで胸が動悸を打つ。また、この作品の原稿を書き上げた日に命を絶った三島の死に対する価値観が反映されているようにも読め、感慨深い…。

  • どんでん返し。輪廻転生を追う1〜3巻の展開のまま終着点へ向かうのかと思いきや、生まれ変わりと思って養子にした透は生まれ変わりでもないただの少年だった。過去を共有できる最後の相手として縋った聡子にも、松枝清顕なんて知らない、本当にいたのか?と言われ、過去の記憶、現在、生きてきた人生すべてが透明になっていくような結末。

    慶子が通るに全てを打ち明け透の矮小さを思い知らせるシーンは突き刺さった。今だからこういう人いるよねーと思いながら読めたけど、たぶん思春期に読んでたら正面からくらってたと思う。

  • なるほど。
    本多が固執する「転生の人」は、本多のために存在していたのか。今回は「それらしい」若者は出てくるが、「しるし」があるものの彼は転生者ではなかったらしい(この辺はいろいろ解釈できそうだが、もはやそれはどうでもいい)。
    「豊穣の海」の主人公は本多なのであって、結局彼は「永劫」に溶けていったのか、あるいはそもそも彼は「永劫」の住人だったのか……

    三島の遺作、というのがまた、読後に別の感慨を起こさせる。
    遺作が未完の作家(漱石、太宰、安部公房、隆慶一郎、松本清張などなど)が多いなか、三島はあえて「遺作」を完成させてから、この世からおさらばした。彼の遺作である「豊穣の海」は彼の死によって完成したようにも感じる(個人の意見です)。
    そしてこの作品こそ彼の遺作にふさわしい気もする。

    しかし、盲者と遺伝性の狂人との間の懐妊というモチーフはエグイ。江戸川乱歩みたいだ。莫大な遺産を相続するであろうこの「歪んだ」2人が構築する世界は『夜のみだらな鳥』のような世界ではないだろうか。
    というわけで余力があったら(前に途中で挫折した)『夜のみだらな鳥』を読もうかな。

  • 2024.02.05読了

  • 最初読んだ時は結末に納得がいかなかった。だが、阿頼耶識を知りそういうことなのかと腑に落ちた。読んでいて世界が広がる本。

  • イケメンが醜女と結ばれちゃうのが嫌。好きじゃ無い。

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著者プロフィール

本名平岡公威。東京四谷生まれ。学習院中等科在学中、〈三島由紀夫〉のペンネームで「花ざかりの森」を書き、早熟の才をうたわれる。東大法科を経て大蔵省に入るが、まもなく退職。『仮面の告白』によって文壇の地位を確立。以後、『愛の渇き』『金閣寺』『潮騒』『憂国』『豊饒の海』など、次々話題作を発表、たえずジャーナリズムの渦中にあった。ちくま文庫に『三島由紀夫レター教室』『命売ります』『肉体の学校』『反貞女大学』『恋の都』『私の遍歴時代』『文化防衛論』『三島由紀夫の美学講座』などがある。

「1998年 『命売ります』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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