岬にての物語 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101050263

感想・レビュー・書評

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  • 三島由紀夫が20歳前から40歳にかけて書いた短編小説13編を収めた1冊。戦前に書かれた現実離れした幻想的な作品から、ホラーやコメディ的な作品まで多様な小説が収められている。

    三島由紀夫自身の幼年時代が描かれた作品や、三島文学の主流を成す、現実の事件を取材した小説も収められていて、三島由紀夫を知るには適した短編集かもしれない。

    表題作『岬にての物語』は、幻想的で夏の読書におすすめの1編。三島由紀夫の切れ味の良い美しい文体を楽しめる名短編集だ。

  • 鵜原海岸を舞台にして三島由紀夫が書いた作品があると知って手に取った。

    鵜原海岸の現実離れした美しい佇まいを描き、爽やかな緑やオルガン、白い廃屋など西洋的な彩りを背景にうつくしい少女と少年の純粋な束の間の永遠の恋を描いた作品。

    第二次世界大戦末期にこんな美しい世界を作り出したことに感服。

  • 短編も面白い…と久しぶりの三島由紀夫ブームが私に到来しています。

    特に好きだった作品について、、
    「岬にての物語」私は読んでいて鏡花の『春昼・春昼後刻』を思い出していたのだけど、鏡花は散策子としてあくまで傍観者、"見る側"なのに対して、三島の方はどう見ても三島由紀夫にしか見えない少年が"見る側"兼物語の積極的な登場人物として描かれていて(まあ"見る側"としての要素は強いけれど)、いわゆる認識と行動であったり、
    最後の「…人間が容易に人に伝え得ないあの一つの真実、後年私がそれを求めてさすらい、おそらくそれとひきかえでなら、命さえ惜しまぬであろう一つの真実を、私は覚えてきたのである。」広義の美だなと思うのですが、などなど三島が好きそうな要素(=私が好きな要素)がちりばめられている。
    それにしても、心中に水は絡まざるをえないのかしら

    「夏の名残の薔薇だにも
    はつかに秋は生くべきを
    きょう知りそめし幸ゆえに
    朽ちなん身こそはかなけれ」あの薔薇を思い浮かべる

    「頭文字」こちらは『外科室』のイメージがつきまとうのだけど、私の好きな恋愛小説ですね。
    「…やがて宮のもとへ朝倉中尉の戦死が伝えられた。妃があの幻影を見たと同時刻に、中尉は心臓を射貫かれて斃れたのである。そのしらせがお手許に届いたとき妃は顔いろもお変えにならなかった。しかしその日以来喪服を身にまとわれ、爾後けっして宮と寝室を共になさらなかった」
    いいよねえ、うっとりしちゃうよね。ASとナイフで刻んだ時の「やばい」感と、それを大事に別の男に嫁いで、子供を産んだ後は心をその男にささげた女…。あの夜以来再会できていない二人は、二人の間にある神聖な絆を信じ、来世を信じているというその確信にうっとりしちゃう。お互いそんなに時間を過ごしていないからこそのだと思うけれど、小説だから美しいよね。

    「親切な機械」いやーこれもとても気に入った一作
    元カノをなんだか取られるのは面白くないような、でも彼女は新しい男に殺されることは望んでいるという。そして男は女を殺す。見出しからは想像できないような、でもこんな話があったら美しいだろうなと思う話に仕立てる三島由紀夫、さすがである。。。後記に記されているように、「事件というものが一種の古典的性格をもっていることは、古典というものが年月の経過と共に一種の事件的性格を帯びるのと似通っている。事件も古典と同じように、さまざまの語り変えが可能である。この小説もその語り変えの一つである」ということだ。

    結婚なんてケッと思ってしまうけれど、猪口の純粋さがかわいらしくもある。あくまで傍観者の元カレ(その時惚れている女には敬語を使うというのも、なんだか愛嬌がある)
    「牝犬」も本作と似ているところがあるなーと思いつつ、ヒモ男が年上ストーカー養い女から逃げる様は、なんだか今風だななんて思ってしまいました

    「椅子」
    これまた三島由紀夫ご本人(平岡公威君と言った方が良いかもしれぬが)の話を透徹な眼で見ながら、フィクションも混ぜ込むなかなかの一品。「…すると二階の藤椅子から母が見ていたものは、とりもなおさず、母自身の姿ではなかろうか?」

    「志賀寺上人の恋」
    高僧と御息所の身分違いの恋もどきな想いと、現世と来世、解説にもある「現実(実在)と非現実(不在)の相克」というのがうまく絡みあって一つの絵草子のようになっているのがなんともいえない

    「水音」可哀想な兄妹
    貧しさと病と兄妹という関係性とが立ちはだかり、解説の「父を殺す相愛の兄妹…これらの愛には禁断、不可能という条件が本来的であり、したがって現世を否定する彼岸への想いが登場するか、死または殺人という悪の結末が必要となる」のだ…

    「十九歳」すがすがしい話

    「月澹荘綺譚」怪談というよりか、ただの殺人事件というかホラーといえばいいんだろうか。殿様の「見るに徹底する姿勢」というものに、改めて「やばさ」を感じるのだけど、解説の「見つめる目と愛の不能、言い換えると意識と行為の絶対的な溝というテーマの、グロテスクで美しいフィクションである」というところに還ってきてしまう。見る人は行為する人にはなりえないのだという痛烈な信条が、こうも美しい(議論の余地は認めるが)一篇に昇華される、というと平易で平凡で申し訳ないが、「こうも美しい」というのがポイントなのだ。三島自身はその間というか、見る人よりだけど完全にはそうではないという心情だったのだねえというのがよくわかります。

    「少なくとも私にはすぐにわかりました。殿様の屍体からは両眼がゑぐられて、そのうつろに夏茱萸の実がぎつしり詰め込んであつたのです」

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/713403

  • 三島由紀夫短篇集。それぞれに濃い内容で面白い。官能の奥に生と死というテーマが潜んでいる。独特の言葉の使い方や表現の仕方。外国文学のような雰囲気をまとうものも感じられた。『金閣寺』しか読んでいなかったから、もっと他の作品にも触れてみたいとおもった。

  • 三島没後50年でいろいろなフェアをやっていたのに触発され、再読。大昔に読んだときも同じような読後感。きらびやかな短編小説ばかりだ。

  • 短編集。意外とどれも読みやすく面白い。解説によると現実(実在)と非現実(不在)の相克が描かれているらしい。人の不在によって、その人を強く意識したりするというのを実感させられる作品が確かに多い気がする。印象に残っているのはやはり「月澹荘奇譚」。ラストが怖すぎる。

  • 最初の2作は難読。それを過ぎるとスイスイ読める。
    各作ともモンスターなキャラが多い中、上人の恋に心打たれる思いもしたけど、上人も結構なモンスターよね。
    恋ってなんなんだろうか。

  • 13編収録。昭和19年〜40年に書かれた短編が経時的に並んでいる。
    表題作含む冒頭2作は夢幻的な物語で私の解読力では及ばなかったけれど、突っ込みどころが満載の3作目から一気に親しみが湧いて楽しめた。一貫しているのは恋愛と生死を基調として書かれていることだろうか。届かぬものに焦がれる地獄に生きている様が静謐な文体から伝わってくる。詩的な情景から読み取れれば、さらに楽しめるのだろうと思う。

  • 比較的読みやすい短編がそろっていた。表題作の「岬にての物語」は夏の海浜の表現が美しく、潮の香りも嗅がれるかと思うほどその光景が鮮やかに頭に浮かんでくるようだった。「頭文字」の最後は多少予想がついた。

  • 13編からなる短編集。

    表題作『岬にての物語』は何だか不思議な後味を
    残して終わるお話しでした。
    子供が妙に達観してるのも独特な雰囲気を作ってたな。

    『椅子』も子供が妙に達観してる子で印象に残りました。

    他にも『頭文字』や『水音』や面白い作品ばかりでした。

    少し前なので言葉が聞きなれない分読みにくいトコロはありますが
    でも綺麗な文章に感動するし、グイグイ物語りに引き込まれていきますね。次は何を読もう(´ω`)♪

  • 「親切な機械」を読みたくて買ったはずが、学生時代に気に入っていた月澹荘綺憚が収録されていたのでそっちに夢中になってしまった。三島は短編も良いなあ。

  • 短編集。以下表題作ほか個人的によかったもの。
    大学生殺人事件の真相「親切な機械」、強烈な愛の結末を描いた「牝犬」、生まれてまもなく母親から切り離された幼年の記憶「椅子」、父親殺害を企てる兄妹「水音」、焼亡した月澹荘の謎をめぐる「月澹荘綺譚」。
    結びの一文がどれも痺れる人の死が象徴的な作品群。

  • 文芸研究6

  • 表題作『岬にての物語』が大好き。

  • 「愛と死」というものは人間とっては避けて通れない大きなテーマであり、同時にそれは文学作品にとっても重要なテーマとなる。

    映画「おくりびと」がオスカーをとったのも特に日本の文化に脈々と流れるそんな死生観が世界に評価されたからであろう。

    この三島由紀夫の短編集に首尾一貫しているのが、この「愛と死」。
    その愛のかたちは様々で、美しい愛、醜い愛、執拗な愛、高尚な愛、老いらくの愛、倒錯した愛。。。
    そしてそれに連なる死の有様もまた様々。

    私は、三島作品は最後の一行を読みきるまで気を許してはならないと思っているが、
    この短編集も例外ではなく、その最後の一行にそれぞれの愛と死の意味が凝縮されており、時として戦慄を覚える。

    特に「牝犬」、「志賀寺上人の恋」、「月澹荘綺譚」の読後のやるせなさは、
    その中に語られる死の形が、遠慮なく読む者がそれぞれ持つ愛のかたちを、遠慮なく握り締めてくるかのようだ。

  • 「火山の休暇」「牝犬」が面白かった。表題作は私的に微妙。でも、描写が一々素敵過ぎる。三島は本当に文章が綺麗。たおやかな文章だとおもう。

  • 『岬にての物語』は、心中ロマンスが大好きな私にはたまらない作品でした。作品そのものは、三島が16歳で書いたものだし、たぶんそれほどいいものだといわれないのでしょうが(過度のロマンチシズムゆえに、特に)、この作品に出てくる岬の家は、私の中で結ばれない恋人たちの終の棲家としてイメージされているものになった。

  • 三島は短編も優れている。

  • 短編集です。表題作他13編を収録。愛情がテーマなのかな?恋愛だったり親子愛だったり博愛だったりしますが。

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著者プロフィール

本名平岡公威。東京四谷生まれ。学習院中等科在学中、〈三島由紀夫〉のペンネームで「花ざかりの森」を書き、早熟の才をうたわれる。東大法科を経て大蔵省に入るが、まもなく退職。『仮面の告白』によって文壇の地位を確立。以後、『愛の渇き』『金閣寺』『潮騒』『憂国』『豊饒の海』など、次々話題作を発表、たえずジャーナリズムの渦中にあった。ちくま文庫に『三島由紀夫レター教室』『命売ります』『肉体の学校』『反貞女大学』『恋の都』『私の遍歴時代』『文化防衛論』『三島由紀夫の美学講座』などがある。

「1998年 『命売ります』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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