鍵のかかる部屋 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101050287

感想・レビュー・書評

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  • ときどき買いためていて未読の三島を読む。最初は、よく少女の気持ちがわかるなあ、などと思いながら読んだ。「慈善」はなんだか安っぽいポルノみたいな設定だなあなどと思った。そして、「訃音」。まあ、なんだか大蔵省の経験か何かをもとに書いているのか、などと思いながら読んでいて、パイプをなくしてイライラするあたりの感情の起伏を楽しんだ。そして、最後のシーン。私は、ああパイプが見つかったんだろうかと全く安易なオチを想像したが、「訃音」。なるほど。こんなことば知らなかったなあ。物語が一気に引き締まった。そして、表題作「鍵のかかる部屋」。なんかどこかで読んだことあったかなあ、「鏡子の家」かな?などと思いながら読んでいた。少女に対する主人公の揺れ動く気持ち。そしてあぶない夢。これでこそ三島、と言っていいのかどうだか。そして向かえる初潮。いやあ、おもしろい。まあ、他にもいろいろとあったわけだけれど、少し長めのこの3作が印象に残った。

  • 「女を抱く時、我々は大抵、顔か乳房か局部か太腿かをバラバラに抱いているのだ」

    「隠れた名作」という言葉が良く似合う三島由紀夫の短編集。地味目な話が多いけれど、収録された話の内いくつかは三島ワールドの濃密さがたっぷり楽しめる珠玉の出来。

    「怪物」はタイトルに相応しい傲慢で悪魔的な性格の男が、突如介護が必要な身体状況に陥ってしまう。「江口初女覚書」は是非、現代のビッチに置き換えてリメイクしてほしい話。表題の「鍵のかかる部屋」では年端もいかぬ少女と密室の中で繰り広げられる秘密が、三島らしい人間観とともに語られる。

  • 語彙力がありすぎて、とても昭和の文学者って感じがしない。
    ・・・っていうと、昭和の文学者って何なんだって気がしなくもないけど
    明治の文豪あたりが使ってそうな語彙までカバーしてる感じがある。

    普遍的なバックグラウンド(自然や心情など)があれば
    それを表現する「言葉」というのは
    誕生してからどんなに時を経ても残ると思うし、実際残っているんだけれども。
    では
    その「言葉」を使うかどうか、
    ということに関しては
    使い手が、その言葉の表現しうる「事柄」に対しての気づきがあるかどうか
    にかかってくると思うんです。
    要は
    ある物事をどう見るか、またそれがどう見えるか、
    内外からの視点に気付ける感性を持っているかどうか、
    ってことなんだけれども
    彼はとにかく
    何に対しても感性が鋭いし
    その鋭さを持て余さないための語彙武装が
     ス ゴ イ (←私の語彙力…)。

    そんでもって
    一番驚かされるのは
    語の組み合わせのセンスの良さ、です。
    部屋の黴臭さ
    雪の上に物が落ちる音
    他人の絶望が自分の希望に変わる瞬間の逆流する血液
    そういうのが
    目の前で繰り広げられているかのように
    今ここで体験しているかのように
    入り込んでくる。

    三島の作品を日本語で読めるって幸せだな
    と改めて実感させてくれる1冊。

  • 年代バラバラの短編集。
    何をコンセプトに編んだのか、気になる。

    印象に残ったのは「祈りの日記」。
    筒井筒の引用から始まる冒頭。わくわく。
    幼少期に仲睦まじく過ごした様子から、約束を違えて疎遠になり、また年月を経て以前とは違った親密さを表すようになる男女。
    女の子が恋に芽生えて、それと知らずに戸惑うシーン、いいねえー。

    かと思いきや、「鍵のかかる部屋」では、お母さんと良い仲になっていた男が、続いて9歳の娘に翻弄される。
    そういう「妄想」に、ひたすら取り憑かれる男が下衆すぎる。
    母娘の、部屋に鍵をかける音がほんとうに脳内に響いて、すごいなと思った。

    「訃音」では、地方の役員達にナメられまいとする若手金融局長。
    お気に入りのパイプを失くして、そんな小さなことと思いつつも、どんどん平静を取り戻せずにいるところに、妻の訃報が。
    皆が、なるほど!そういうことだったのか!と合点しちゃうわけで。
    小心から美談への跳躍。ラストシーンは、男のしてやったり感が腹立つけど、笑えて良い。

  • 少年期から晩年まで書いた短編小説を集めたもの。正直難解な短編もあり、同じ新潮から出ている短編集「花ざかりの森、憂国」よりとっつきづらいが、より三島の化け物っぷりが分かる短編集だと思う。

    あと個人的に、三島の小説は普段たいして意識しない感覚のインデックスだと感じている。感覚の既視感というのか。

  • 耽美で女の子が怖い本でした。
    少女性って怖い、思春期って怖い。
    怖いこと尽くめで面白いお話が沢山詰まっていたように思います。
    続きが気になって、講義中にこっそり読んでました。

  • 三島の短編集三冊目は、意外にも"読みづらく"、本作を三島由紀夫文学の第一冊目として読んでいたら、三島にはハマらないだろうなあと思いました笑。三島ならなんでもノれると思っていたので、自分でも意外な発見。

    「訃音」「鍵のかかる部屋」など、大蔵省時代の様子が垣間見える作品は面白かった。「果実」のレズビアンの二人の話や。「美神」なんかも好きでした。

    特に気に入ったのは「死の島」で、三島はベックリンの絵は見たことがあったのだろうか、ラフマニノフの方も聞いたことがあったのだろうか、なんて思ったり。最初は勝手に和風っぽいなあと思っていたのですが(心に浮かぶは「竹生島詣」)、途中からヨーロッパに迷い込んだと言うか、ベックリンの絵の中に迷い込んだような読了感が面白かった。

    「鍵のかかる部屋」での、仕事場でふとしたことを考えている自分、夢に引きずられる自分、官庁の建物をああとらえる人間、というものをよく理解できる。

    …前途有為というやつは、他人の僭越な判断だ。大体この二つの観念(私註: 自殺・前途有為)は必ずしも矛盾しない。未来を確信するからこそ自殺する男もいるのだ。…

    …「前略、生存しております、敬具」…『生存しています、と書いたとき、あいつは自殺の決心をしていたろうか』と一雄は考えた。『不在証明(アリバイ)をつくった葉書。あいつは多分事実を報告したにすぎないんだ。あいつがあの葉書を書いたとき、多分あいつは、自分の死後にも必ず他人たちが生存して、葬列に加わることを知っていた。世界が崩壊するなんて、幻想にすぎないことを知っていた。他人は永遠に生き永らえることを知っていた。こんなことを確実に意識したら、自殺するほかないだろうな』不死は、子や孫にうけつがれるなんて嘘だ。不死の観念は他人にうけつがれるのだ。…

    ウィキペディアの奥野健男の引用によれば、「この時期の作品は「夭折をあきらめ生を全うすること」にしていた戦後の三島が、現代文学の主流になるために試行錯誤や実験をしていた地盤固めの作品群である」とのことで、この作品は1954年のものなので、この近辺のものを読むときは忘れない様にしようと思う。

    「蘭陵王」は生き生きとした短編で、紹介される能がたまたま知っていた能だからよりいっそう理解できた。私の好きな「清経」と「松風」。能は本当にちゃんと勉強しないといけないですねえ

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/713405

  • 暫定1番好きな「鍵のかかる部屋」まるでスタンリーキューブリック (キューブリックの方が後ですが…)

  • 短編集。「鍵のかかる部屋」などいくつかの作品は「金閣寺」のような戦後の日本人の混乱を描いている。愛するがゆえに殺す、悪徳が実は一番、道徳を理解しているなど相変わらず物事の価値観や表裏を考えさせる作品が多かった。印象的なのは「死の島」。作者自身の誌的表白らしい。大沼で湖から島々を眺めつつ、自分の内面を見ている作品。「生きる意志」が生をゆがめることもある。自分の生を眺めつつ、未知を探していくというような流れが好き。

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著者プロフィール

本名平岡公威。東京四谷生まれ。学習院中等科在学中、〈三島由紀夫〉のペンネームで「花ざかりの森」を書き、早熟の才をうたわれる。東大法科を経て大蔵省に入るが、まもなく退職。『仮面の告白』によって文壇の地位を確立。以後、『愛の渇き』『金閣寺』『潮騒』『憂国』『豊饒の海』など、次々話題作を発表、たえずジャーナリズムの渦中にあった。ちくま文庫に『三島由紀夫レター教室』『命売ります』『肉体の学校』『反貞女大学』『恋の都』『私の遍歴時代』『文化防衛論』『三島由紀夫の美学講座』などがある。

「1998年 『命売ります』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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