絹と明察 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101050379

感想・レビュー・書評

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  • 琵琶湖のほとりに絹糸製造の会社を運営する駒沢善次郎は
    「社員みな家族」をモットーに急成長を果たしたことで
    まるで神様のような尊敬を集めていたが
    その内実は
    貧しい若者を囲い込み、洗脳し
    厳しい規律でがんじがらめに縛り付け、生産性の向上をはかるという
    非人間的なものであった
    まるで戦時中を思わせるそのやり口は
    いろんな意味で、内外からの密やかな反発を招いていた
    戦前、フライブルグでハイデガーの薫陶を受けた岡野という人物も
    駒沢善次郎への敵意を隠し持つひとりだった
    善意の仮面をかぶり、人に近づくフィクサー岡野は
    数滴の毒を落とし
    自らの手を汚すことなく、駒沢を破滅へと導いた
    しかし、にもかかわらず
    すべてが終わったとき彼は
    天皇主義に基づく純粋な善意の人、駒沢善次郎への畏れを
    新たにするしかなかった

    おそらくは世界人類滅亡の夢を抱いている岡野にとって
    駒沢の示すヒューマニズムこそ最大の障壁となろうから

  • 初読の感動が、今回なかった。実在の労働争議をもとに、ブラック企業の社長を描いた。相変わらず、三島の女性像は滑稽極まるが、本当にいそうで怖い。

  • 東洋も西洋も関係なく、資本家は労働者を搾取するんじゃ〜!
    岡野も大槻も駒沢と何ら変わらんのじゃ〜〜!
    とてもスラスラ読めました。

  • 人間の業、大人になると言う事は裏を知る事。裏を知らない純粋なものは結局敗者。最後のどんでん返しは受け狙いの三島らしからぬ終焉

  • 超久しぶりに三島の作品を読んだけど、相変わらずおもしろかった。やけに社会派な内容だなと思ったら、実際に起こった近江絹糸の労働争議を題材にしたものだった。
    駒沢紡績の社長駒沢善次郎(父)とその従業員(子)たちを父と子の関係で表し、会社というものを通して日本の父親の問題について扱った内容。
    子に代表される従業員大槻と社長駒沢(父)との労働争議を中心としたやり取りのすえ、最終的には社長(父)が従業員(子)に滅ぼされていく過程は読んでいておもしろかった。
    また、昭和の日本らしい家父長的な経営者駒沢と、ハイデッガーの思想に傾倒した西洋思想の岡野という、日本的なものと西洋的なものの観点からの明察がストーリーの中に繰り広げられていておもしろかった。
    現代の観点からすると、本当に昭和的だと思ったけど、こういった会社は現代でも存在するんだろうな。何か和民とか近い気がした(笑)
    最近三島の本を全然読んでいなかったけど、これを機に三島の未読の作品を読んでいこうと思った。

  • 実際の労働争議をテーマに、
    経営者と労働者、そして父と子の関係性を描く。

    読後、テーマを捉えられたようで捉えきれず、
    解説に助けられた感あり。
    でもこんな企業は今でもあるんじゃなかろうか。

    そしてこの労働争議自体に興味が沸いてしまった。

  • じっさいに起きた「近江絹糸争議」をモティーフに、労使間の対立を描いた作品。いまだに戦争小説はたびたび出版されているけど、さすがにこういう題材の小説はもうあらたに生まれることはないだろう。使用者側の主人公・駒澤善次郎は、一代で事業を急成長させたやり手の社長であるが、そのいっぽうで典型的なワンマン経営を行い、労働者の権利を極端に制約するなど、その非人道的な扱いからのちに労働争議を起こされるハメになってしまう。現代の感覚でいえば、さしづめ「元祖ブラック企業」といったところか。すくなくともわたしの年代(20代)の読者にとっては、使用者側の代表である大槻らに肩入れする以外の選択肢はないように思われる。結果的には使用者側の勝利に終わるのだが、じつはこの争議には黒幕がいて、それが岡野という男である。であるのだが……、どうにもこの岡野の役割というのが個人的にはつかみにくかった。労働争議というものにあまり馴染がないせいもあるだろう。このフィクサー的な人物が登場することで、作品をたんなる労使間の対立とは異なった趣に変えていることは間違いないが、その細かい意味まではうまく読み取れなかった。ただ、そういう難しい考えを抜きにして、単純に小説としてはおもしろかった。三島はなにを書いてもすばらしいのだなとあらためて実感した。

  • 60年前に近江絹糸で起こった労働争議を題材にした小説です。
    自分のやっていることに間違いはない、崇高な理念が凡人には理解されないだけだ…って思っている人が、客観的に見てダメダメってのは痛いな~って思いました。
    この社長さんのそばには、行動を客観視して忠告してくれる人がいなかったんだね。
    三島さんの文章は、美しいうえに考えさせられるなぁ~。

  • 近江絹糸の労働争議を題材とした長編小説です。

    ある意味美徳とされてきた「日本的経営」の過酷な実態が描かれていて、自分がごく一面的な見方をしていたということを突き付けられた作品です。

    何気なく手にとって読んでみたものですが、文章表現も美しく良い作品だと思います。

  • どうかするとノスタルジックに語られたりする日本の「家族的経営」の実態を抉った作品。社員はみな息子・娘とみなすのは、言い換えれば決して一人前の人間扱いしないということ。
    黒幕的人物がハイデッガーを奉じているというのがもっともらしい。

著者プロフィール

本名平岡公威。東京四谷生まれ。学習院中等科在学中、〈三島由紀夫〉のペンネームで「花ざかりの森」を書き、早熟の才をうたわれる。東大法科を経て大蔵省に入るが、まもなく退職。『仮面の告白』によって文壇の地位を確立。以後、『愛の渇き』『金閣寺』『潮騒』『憂国』『豊饒の海』など、次々話題作を発表、たえずジャーナリズムの渦中にあった。ちくま文庫に『三島由紀夫レター教室』『命売ります』『肉体の学校』『反貞女大学』『恋の都』『私の遍歴時代』『文化防衛論』『三島由紀夫の美学講座』などがある。

「1998年 『命売ります』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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