土 (新潮文庫)

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著者 : 長塚節
  • 新潮社 (1950年6月13日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (361ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101054018

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土 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

  • 幼い頃から、母に「『土』はいつか必ず読みなさい」と言われていました。夏目漱石も娘に読ませたいとの言葉を寄せたそうですが、実際に読んでみるとその意味がよく分かりました。

    私の恵まれた人生が始まるまでに受け渡されてきたバトンリレーには、こんなふうに毎日毎日、懸命に働いてお金を貯めて命をつないで来た先祖の姿があったんだな、と思います。

    食うや食わずの時代、生きるか死ぬかの時代。身分差別、性差別のあった時代。外国など遠い存在だった時代。仕事に自己実現など求められない時代。…豊かで平和な現代に到るまでに、様々な時代を生き抜いてきた日本人達がいたのだと、強く認識させられました。

  • 茨城県地方の貧農一家を中心に据えて、彼らの報われることのない生活を至極巧みな自然描写で彩った農民文学の記念碑的名作。
    現代から見たら既に100年以上前の作品だ。しかし本書を開けばたちまち100年前の農民の生活が眼前にありありと浮かび上がってくる。
    夏目漱石による書評もまた秀逸なものだった。

    舞台は現在の常総市国生、そこには長塚節の生家も残る。今から6年ほど前に近くまで用事があった私は、まだ本作も読んでいないのにその生家跡に立ち寄ったものだ。読み終えた今は是非ともまた訪れたいと思っている。

    自然描写の驚くべき巧みさよ!そして作者はそこに何の寓意やメタファーも用いず、ただ農村を取り巻く環境を細部に至るまでリアリスティックに描写しているだけなのだ。そうした説教臭くない点にも惹かれた。
    例えば、油したたり落ちる鰯の食欲そそる描写ひとつとってもそうだ。ここまで素朴なものを大層なご馳走のように描いた文章もなかなかお目にかかれるものではない。

    土浦の土方!100年前ですら「土方なんちゃ碌な奴等は居ねえっていうから」と煙たがられていたのだ。当時の鬼怒川で開墾に勤しんでいた彼らの原始的な姿を、現代にも土浦に居るであろう土木作業員と重ね合わせて不意にしみじみとしてしまった。

    お品の死の描写も壮絶であった。熱に浮かされた病人の息遣いまで聞こえてくるような怒濤の文章だ。同時に病状の経過を淡々と描くことで、抗いがたい運命に翻弄される農民の弱さが引き立っている。
    農民は土に生きて土に還る。土によって媒介された病に斃れ、死してもなお足の裏が土に触れるように埋葬されたお品よ。

     本書で描かれる彼らの姿には遠慮が無い。彼らの持つ貪欲や利己心を包み隠さず生々しく表に出しているのである。葬式の井戸端会議、盗癖、そして、火…。
    ただ、終わりはやや唐突なように感じられた。これからやっと物語が盛り上がっていきそうな場面で突然糸が切れたかのように終わってしまうのが心残りだった。

    彼らが送ってきた報われない日々から100年が経ち、我々の生活も大きく変わった。しかし私は本書の読了以来、彼らがこの世に存在していたこと、またその悲哀に満ちた生活とを時折思い出すことになるだろう。今でも青々とした田畑に覆われた日本の田舎へ行けば、彼らの残像が煌めいているような気がするから。

  • 人事の櫻井さんから勧められた本。
    夏目漱石をして、「自分の娘に読ませたい本」と言わしめた本でもある。
    日本の農業文学の代表作。

  •  夏目漱石が「苦しいから読め」と評した(「土に就て」)長塚節の小説です。漱石が言うように、面白い小説ではありません。ただひたすらに苦しく、息が詰まりそうになります。農民の生活や村の生活を精緻に「写生」した農民文学であり、その緻密な描写に価値がある作品だと思います。

     土の「牽引力」というフレーズが出てきます。農民は土の上に生まれ落ちた時から、ひたすら土の上で働き続けるのです。貧しさ、苦しさ、そういった運命も含めて農民は土と「くっついている」のだ、と。農民が「土」と密着して暮らしていることを描き出した点が特に優れていると思います。

  • 茨城県の貧農勘次一家の暮らしを克明に精緻な筆致で描いた作品。その地域の年中行事や、百姓の暮らしを描くことはもとより、それぞれの四季の移り変わりの自然の描写がその話の筋を追いがたくするほどに細かく、巧みに描いている。 また、会話文は方言をそのままにしているため、よくわからないところが多いが、雰囲気が伝わってくる。
    読み進めていくなかで、なんら幸せなことがこの一家に起こるわけではない。むしろ、不幸なことばかり起こる。また、勘次は生活のために盗みを働くなどする。しかし、それで村八分にされるということもなく、村のなかで馬鹿にされてはいるが、近隣住民と助け合いながら生きているのがせめてもの救いだ。

    隣の家のかみさんが優しすぎる。おつぎがいいこすぎる。与吉はかなりのアホ。おつぎを早く嫁に行かせてやってくれ、いつおつぎは嫁にいけるんだとやきもきした。

  • ■お…重かった…。国語の授業の「文学史」では必ず出てきますが、読んだことはなかった1冊。農民文学の傑作ってフレコミだけで、重いんだろうなとは思ってたけど、ここまでとは…。
    ■もう出口のない貧乏。その生活がデフォルトで、彼らは他の景色を知らないので、なんでこんなに生活つらいんだろう?とか、これを抜け出さなきゃ!とか、そういう気持ちには一切ならない。ただ、1日1日をなんとかしのいで生きていく。生活に余裕がないので、あらゆる行動が切羽詰ってる。年老いた舅がいるのに、わざと蕎麦を硬く茹でて食べる量を減らそうとする描写とか、自分が役立たず化してることに絶望した舅が首括ろうとするところとか、もう読んでてつらい。こういう暮らしだからこそ「姥捨て山」とかの発想も出るんだなと。
    ■文体は、私にとっては非常~に読みにくかったのですが、面白いと思ったのは、描写が写実に徹してて、状況把握があとから追い掛けていくこと。序盤は特に、地の文であまりフォローをしてくれないので、妻が弱っていくところとか、夫の盗癖のあたりは、読み進めているうちにようやくどういう事情なのかわかってくるんですよね。こういう描写もあるのか!とそこは私にとって新鮮でした。

  • 作中の会話が方言の為、非常に読みにくいですね。其処を我慢すれば、貧農一家と生活を共にしたような感覚になるかな。

  • 【本の内容】
    茨城県地方の貧農勘次一家を中心に小作農の貧しさとそれに由来する貪欲、狡猾、利己心など、また彼らをとりかこむ自然の風物、年中行事などを驚くべきリアルな筆致で克明に描いた農民文学の記念碑的名作である。

    漱石をして「余の娘が年頃になって、音楽会がどうだの、帝国座がどうだのと云い募る時分になったら、余は是非この『土』を読ましたいと思っている」と言わしめた。

    [ 目次 ]


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     でも、読後感は悪くないです。そんな本でした。

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    ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
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    ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
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    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 『土』といふのは、実にぴつたりの表題と申せませう。
    著者の地元である茨城県の結城地区を舞台に、リアルな農村の生活を活写してゐます。ドキュメンタリイかと思ふやうな臨場感なのです。
    その描写は、時として過剰な丁寧さをもつて記述される。読むのに時間がかかります。
    では読みながら退屈するのかといふと、さうではありません。なぜかペイジを捲る手は止まらないのでした。

    主要登場人物は、勘次・お品の夫婦とその子供であるおつぎ・与吉の姉弟、そしてお品の父で勘次とはうまくいつてゐない卯吉。
    といつても特段に感情移入できる人物は少なく、むしろ農村の風景や習俗、農民たちの生態といつたものが中心でございます。

    突然、苦しんで呆気なく他界するお品。貧しさ故、盗癖が治らない勘次さん。おつぎに辛く当ります。そのおつぎも成長するにしたがひ、頼もしい存在となつてきます。父親を叱る場面も多い。家のために娘盛りを犠牲にしてゐます。与吉はまだ使へねえな。卯吉さんは自らの狷介さも原因とはいへ、不遇な晩年を過ごしてゐます。
    かうして見ても、誰一人として生活に満足出来てゐないのであります。
    そして、与吉のいたづらにより、災禍に見舞はれる一家...何といふことでせう。

    巻末に夏目漱石の推薦文が収録されてゐて、お徳感があります。漱石もいふやうに、必ずしも読んで娯楽になる小説ではありません。娘には必ず読ませやうといふ漱石。面白いからではなく、苦しいから読めと伝へる心算であると。
    普段からぶうぶう言つて、何かと不満を述べる人たちが読めば、少しは大人しくなるかな。そもそも手に取らないかな?

    http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-112.html

  • 農民文学最高の作品といわれる本作。
    「土」といタイトルが実に似つかわしい。
    土にまみれ育ち、土の恩恵をうけ、そして土に縛られる貧しい農民の姿が描き出されている。

    物語として、決して面白い作品ではない。話言葉は終始、鬼怒川地方の方言で語られてるために分かりづらいし、魅力的な人物が出てくるわけでもない。ただひたすらに、農民の一家の重苦しいほどに貧しい営みがつづられているだけである。

    しかし、その生活を取り巻く自然の描写が見事だった。日本の美しき自然を描写した作品はいくつも読んだけれど、それは視覚的なものがほとんどで、せいぜい聴覚で感じた表現をする程度だった。
    この作品の自然描写は、嗅覚や触覚までも感じ、人間の感覚すべてを働かせて文字にしたような表現がいくつも見られた。この時代の農民たちの自然=土との近さを、しみじみと感じた。

    この作品を推挙した漱石は、面白いのではなく苦しいから、娘が年ごろになったら読ませようと思う、と書いている。
    確かに、苦しさや重さを感じる作品だ。でも、「読ませよう」と漱石が感じた力のある作品であることは、間違いない、と私も思った。

  • 土を掘り下げて描く気持ち
    苦しみを通り越した自然
    そう言ったものを描写・擬人化している。

  • どうにも盗みがやめられない最悪の親父とか、なんとなーく親父との近親相姦を仄めかされた娘とか、暗くじめついた内容と人間関係。読んでると気が滅入ります。人間って哀しい生き物なのよ。

  • 茨城の農民のはなし。特に面白い物語だとは思わないが、情景描写が細かく、村に流れる季節に重点が置かれていて、その中にただある家族が生きているという感じ。貧しければ清廉で、正直で、というよくある錯覚を打ち破る人間性の生々しさがある。

  • 漱石絶賛。
    自然の厳しさ。
    自然の美しさ。
    自然の素朴さ。
    これぞ、
    リアルの、
    農民文学。

    土にのめり込んでいく……。

  • 高千穂などを舞台とした作品です。

  • 藤沢周平の「白き瓶」という長塚節伝を読んだ後に読むと、わかりやすいかも。
    非常に読みづらい小説だが、読み終えた後に夏目漱石の解説を読むと非常に得心がいく。

  • 学生時代に読み終えるのが結構大変だった記憶がある。ただ、タイトルと作者名は記憶しているので何か琴線に触れる点があったんだろうと思う。

  • 読みにくい本です。会話文は方言が激しいのであまり理解できません。風景描写がじっくりなされていることもあり、ストーリーがなかなか進みません。
    ということで、この本の内容をどれだけ理解できているのか疑問はあります。ただ、生きるか死ぬかの生活を送る農民を題材とした日本の小説を今まで読んだことが無いような気がしていて、そんな小説にめぐりあえたことに驚きです。

  • 漱石の依頼によって、「東京朝日新聞」に151回にわたって連載される。作者の郷里、鬼怒川あたりの農村が舞台で、客観的な事象を精密に写生することで、自然の背後にあるものを引き出している。内容は菩提心・宗教心が強く、日本の農民が土によって抱える問題を提示している。節が歌作で達成できなかった主観・客観の融合が達成された作品とされる。

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茨城県地方の貧農勘次一家を中心に小作農の貧しさとそれに由来する貪欲、狡猾、利己心など、また彼らをとりかこむ自然の風物、年中行事などを驚くべきリアルな筆致で克明に描いた農民文学の記念碑的名作である。漱石をして「余の娘が年頃になって、音楽会がどうだの、帝国座がどうだのと云い募る時分になったら、余は是非この『土』を読ましたいと思っている」と言わしめた。

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