巡礼 (新潮文庫 は 15-7)

著者 :
  • 新潮社
3.76
  • (12)
  • (23)
  • (22)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 176
感想 : 31
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (289ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101054179

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 生きることは、巡礼なんだなぁ。

  • 最初はゴミ屋敷の主人と近所の住民とのトラブルの話かと思ったら、ゴミ屋敷の一家の歴史が描かれていく。どんな人間にもそれまでに至る当然の過程があるのだが、普段見えない部分を掘り下げて、読者もそのストーリーに引きずり込まれていく。読み終わった後で読む前とは違う自分に気づかされる。

  • ゴミ屋敷と化した家に独りで暮らす下山忠市の生涯、それに悩まされる向かいの家の吉田家や、ワイド・ショーの取材にこたえる矢嶋富子、そして町やそこに暮らす人びとの変化を見てきた田村喜久江などの登場人物たちの心理をたどった小説です。

    著者の作品はおおむね、小説であれエッセイであれ、「近代」もしくは「戦後」という時間を生きてきた人間の精神の軌跡をえがくという手法がとられており、本書もその基本的な手法を共有しています。ゴミ屋敷をめぐる問題については、一人で暮らす老人の孤独といった、現代という時間だけをとりあげるかたちで語られるのをしばしば目にしますが、そうした表層的な見かたを越えて、大きな変化を遂げた戦後という時代に目を向けたところに、著者のねらいがあったように思います。

    他方、忠市の弟である修次が、実家の惨状をテレビで知ってそこへ駆けつけてからの展開は、やや性急に感じられます。これも著者の小説にありがちなことではあるのですが、「時代」とそれを生きる「人間」をえがいたことで目的は達せられており、小説としての「締めくくり」を仕上げるのに、それほど関心がなかったのではないかと感じてしまいます。もっとも、忠市の生きてきた戦後という時間と空間は現代にもつづいており、われわれ自身もおなじ時間と空間を現に生きているのだと考えるならば、「締めくくり」などないのかもしれません。

  • 戦後の雰囲気で、語られなかったことが実はたくさんある。「3丁目の夕日」のようにいいところばかり語られているが、そうじゃないこともありる。3.11のことも片付いていないまま走っている今を見ているのかもしれない。
    自分のしていることが無意味であるかもしれないということをどこかで理解している。しかしそれを認めてしまったら一切が瓦解してしまう。それが抑圧された絶望。

  • 「昔はあんな人じゃなかったよ」
    ゴミ屋敷に住む老人の一生。

    ゴミ集めが「無意味」な事は判っている。が、その無意味を指摘されたくなかった。

    自分が巡るあてもない場所を巡り歩いていた事。 会いたい人に会いたい。 そう思いながらの生涯はとても判る気がする。

  • 一人の男性の人生を通して、時代とは、家族とは、発展とは何かを問うた作品。正直「こんな締めなの?」と思いました。でも、そういうものかも知れません。人生って。

  • ゴミ屋敷の住人忠市。戦後の好景気を迎える日本で、まっとうに生きてきたはずなのに、何故ゴミにすがる晩年に落ちぶれたのか。
    人間の生き方の難しさを知る。完璧な人生などない。有り得ない。いつ災いが降りかかるか解らない。マニュアルなどない。
    最後の眠りに就くとき、自らの魂が安寧の地に向かうことができるのか?少し不安に感じた。

  • 分かり合えない存在は確かにいる。それなのに、ぼくは知らないうちに分かり合える大変狭い世界で生きている。まるで分かり合えないものなど存在し得ないというように。

著者プロフィール

1948年東京生まれ。東京大学文学部国文科卒。小説、戯曲、舞台演出、評論、古典の現代語訳ほか、ジャンルを越えて活躍。著書に『桃尻娘』(小説現代新人賞佳作)、『宗教なんかこわくない!』(新潮学芸賞)、『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』(小林秀雄賞)、『蝶のゆくえ』(柴田錬三郎賞)、『双調平家物語』(毎日出版文化賞)、『窯変源氏物語』、『巡礼』、『リア家の人々』、『BAcBAHその他』『あなたの苦手な彼女について』『人はなぜ「美しい」がわかるのか』『ちゃんと話すための敬語の本』他多数。

「2019年 『思いつきで世界は進む』 で使われていた紹介文から引用しています。」

橋本治の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×