春 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 25
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101055039

作品紹介・あらすじ

岸本捨吉の教え子勝子に対する愛は実を結ぶことなく、彼の友人であり先輩である青木は理想と現実の矛盾のために自ら命を絶つ。-青春の季節に身を置く岸本たちは、人生のさまざまな問題に直面し、悩み、思索する。新しい時代によって解放された若い魂が、破壊に破壊をかさねながら自己を新たにし、生きるべき道を求めようとする姿を描く、藤村の最初の自伝小説。

感想・レビュー・書評

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  • 良かった。島崎藤村の自伝的小説となっており、彼や彼の友達の生きる事への「苦しみ」「葛藤」が、著者のシンプルながら刺さる表現力によって描かれていて、悩める現代人にも共感出来る人は多いと思う、そんな作品です。
    因みに、「春」の序章的作品である「桜の実の熟する時」を先に読むのもお薦めしておきます。

  • 「青木」として出てくるのが北村透谷をモデルにしていると言われています。この小説で北村透谷を知りました。

    この作品の内容の感想はなんとも言いがたいのですが、学生時代に読んでも、社会人になってから読んでも、なかなか理解度が高まりません。でも、なぜか文章は読みやすく最後まで読みきることができます。それだけ、島崎藤村の文章は美しいのだろうと思います。また、タイトル「春」とつけたのが難しく感じます。どうしてこのタイトルなのか。作品からは春は訪れていないように思います。春が訪れるように祈ってなのか、それとも「青春」の青を取ったのか・・・。機会を見つけてもう一度考え直したいと思います。しかしながら、この作品を読むと気持ちが落ち込むというか沈むというかそういう感じになるのが少し難点です。

  • いまでは 藤村の本を読むひとは少ないと思う
    文学の研究者か文学専攻の学生か?わたしみたいなオールド文学少女かが読む

    むかし教科書に載っていた『千曲川のスケッチ』や詩に魅せられ
    たとえばこれ

     初戀
    まだあげ初そめし前髮まへがみの
    林檎のもとに見えしとき
    前にさしたる花櫛はなぐしの
    花ある君と思ひけり

    やさしく白き手をのべて
    林檎をわれにあたへしは
    薄紅うすくれなゐの秋の實みに
    人こひ初そめしはじめなり

    わがこゝろなきためいきの
    その髮の毛にかゝるとき
    たのしき戀の盃さかづきを
    君が情なさけに酌みしかな

    林檎畑の樹この下したに
    おのづからなる細道ほそみちは
    誰たが踏みそめしかたみぞと
    問ひたまふこそうれしけれ(青空文庫より)

    すてきとおもう

    そして『破壊』『桜の実の熟する時』と読み進み わたしは『新生』を読んででしまったのだった

    『新生』…ご存知だろうか なんという内容だこと! 
    「おじ」が「めい」をあろうことか妊娠させてしまった
    それなのに逃げ出して 悩んだ末が「新生」とは
    重苦しくって汚くて、乙女のわたしには受け入れられなかった
    しかも私小説でもあるのである

    それ以後藤村の小説を封印!
    しかし半世紀たってまあなんとなくこの本を手にいれ読んだ

    『春』
    ストーリーは自伝的、明治20年代の文学青年の悩みと教え子に恋し、許婚ある教え子故失恋する、その痛みを冷静描いたもので文章も現代に通じるうまさだし、時代背景(明治の東京の街など)も臨場感あり、今となっては希少価値があると思う
    おこがましいがやはり日本文学の源流なる才能だと思う

    が、ここでも教え子と恋愛!
    ま、身を引くというか、我慢するので苦しむのだけれども

    というか いつも(若いときから)無理な恋をするしょうがないお人なのだのだな

    『春』は『破壊』の次に書かれた作品で、次に『家』があり『桜の実…』はその後で そして『新生』が書かれた
    『新生』は中年やもめになったのが主人公 だから順番に読めばよかったのかもしれない 

    わたしの読む順序がまちがっていたのか 早すぎたのか

    あるいはわたしの甲羅が厚くなったか(笑)毛嫌いしていて損をしたのかもしれない
    といまさらながら理解した次第

    『家』も『夜明け前』も読みたいと思っているし、時間があれば『新生』も再読したい
    きっと感想が異なってくるのだろうと思う

    まったく読書って 読む時、年齢、体調、嗜好、経験で違ってくるから不思議おもしろい

  • 同時代の人のより言葉が簡単で読みやすい。詩人が書く小説は本当に綺麗。ストーリーとしては退屈だけど筆の力で読ませる感じ。質の高い純文学。もちろん明治の文豪だからびっしり漢字で一見難しく見えるけど実際読んでみると柔らかい。
    島崎藤村はもっと人気あっていいだろって思うくらい読みやすくて面白い。

  • 青年の葛藤、行ったり来たり、紆余曲折、寄り道、そういったものがつまった一冊。

  • 藤村自身含め実在の人物がモデルとして登場。全体的に鬱々とした感じだけど、今も昔も人生に対する考え方は変わらないのかなとも思う。「春」の世界に浸かってあっという間に読了。

  • 友に死なれてから出稼ぎの口を見つけるまでの数十ページがとても好き

  • 明治期のモラトリアム青年のもだもだしたあれこれ。爽やかな恋の話と思って読んだらとんだ地雷だった。
    自分で未来を選べる世の中になったからこそ生まれた、自分は何になりたいかという悩み。ハッキリと決められない岸本がもどかしく感じられるも、その迷いもわかる。「何になりたい?」と聞かれ続けることのつらさ。何かにならないと生きてちゃいけないんかい、そんならべつに死んだっていいよ、と投げやりになる気持ち。あ〜もう苦い苦い。
    青木の長ったらしく自意識過剰な恋文がインパクト強くて、操はよくこんな手紙もらって結婚しようと思ったなと変に感心してしまった。
    青木も道に迷った人だったんだろうけど、妻子を作っておいて自殺するのは本当に無責任よね。(遠まわしに)「死にたきゃ一人で死ね」と言った操は偉い。

  • この作品は自然主義というか写実主義の作家の味気ない文体が出てしまっている。新聞小説ということもあってかかなり細かい章分けとなっていることがそのことに影響してしまっているのだろうか。それとも、テーマがテーマだけに踏み入った心情風景を描くことを避けたいと意識しようがしまいが思ったからなのかだろうか。それでも輔子の死に接する件以降の筆遣い藤村ならではであった。特に、透谷の死直後の場面とか輔子の死の場面とかは冷静な筆致ながらもなかなか染み入ってくる。そして、輔子の死直後についてはおそらくあえて詳述を避けている点は藤村の悲しみの深さ故のものなのだろう。個人的には感情を紙面に殴りつけるようにたたきつけてもいいというか、それも小説家の一つの姿なのかとも思うけど。

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著者プロフィール

1872年3月25日、筑摩県馬籠村(現岐阜県中津川市馬籠)に生まれる。本名島崎春樹(しまざきはるき)。生家は江戸時代、本陣、庄屋、問屋をかねた旧家。明治学院普通科卒業。卒業後「女学雑誌」に翻訳・エッセイを寄稿しはじめ、明治25年、北村透谷の評論「厭世詩家と女性」に感動し、翌年1月、雑誌「文学界」の創刊に参加。明治女学校、東北学院で教鞭をとるかたわら「文学界」で北村透谷らとともに浪漫派詩人として活躍。明治30年には第一詩集『若菜集』を刊行し、近代日本浪漫主義の代表詩人としてその文学的第一歩を踏み出した。『一葉舟』『夏草』と続刊。第四詩集『落梅集』を刊行。『千曲川旅情のうた』『椰子の実』『惜別のうた』などは一世紀を越えた今も歌い継がれている。詩人として出発した藤村は、徐々に散文に移行。明治38年に上京、翌年『破戒』を自費出版、筆一本の小説家に転身した。日本の自然主義文学を代表する作家となる。

「2023年 『女声合唱とピアノのための 銀の笛 みどりの月影』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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