夜明け前 (第1部 上) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101055084

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  • 木曽路、馬籠本陣の主人青山吉左衛門の子、青山半蔵は、平田派の国学に心を傾け、平田鉄胤の門人となる。黒船来航により日本の有り様が大きく揺れ動き、尊王攘夷の気運が高まる中で、青山半蔵は自らのあり方や日本の国のあり方に思いを致す。
    日本という国が、外からの圧力もあり、変革を不可避とされた状況の中で、平田派国学を理想に掲げた主人公青山半蔵は、どのように考え、生きようとするのだろうか。

    時代は移り、明治維新を遠くすぎた現代もまた、変革を余儀なくされている状況に変わりはない。一市民として、理想とはなにか、時代の変化の中で個人の生き方はどうあるべきなのか。単なる過去ではなく、そこから何か普遍的に語りかけてくる声が静かに聞こえてくる。

  • やっと、この文章にたどり着いた。 この本を手に取った動機はただ一つ、如何にして青山半蔵は座敷牢へと至ったかだ。 読まねばならぬ本は数あれど、やはり心の命ずるところに従おう。 ディランが、濁声でがなりたてている。 ``And it’s a hard, and it’s a hard, it’s a hard, and it’s a hard / And it’s a hard rain’s a-gonna fall '' (「激しい雨が降る」詩:ボブ・ディラン)

  • 島崎藤村は文豪として知られるが、読書家の知人を見渡しても夏目漱石などと比べあまり読まれていないという印象を受ける。私自身島村には馴染みはなかったが、書店でふと目に止まりあらすじを見たところ引き込まれ、全4巻一気に読んでしまった。私が読んだ歴史小説の中で傑作中の傑作である。

    夜明け前の主人公のモデルは平田篤胤の国学に心酔する宿場町の庄屋であり、「古き良き時代」を取り戻そうという志を胸に秘める。それはすなわち、武家政権を倒し古事記の時代にあるような王政を復古させるというものだった。一介の庄屋という高くはない身分の主人公であったが、勤皇の志士に便宜を図ったり草莽の志士たちが集う会合に出席したりして、彼は復古運動に密かに情熱を注ぐ。折しも幕末。開国によって社会が混迷を深める中、彼らの運動は多くの人々の心をとらえていった。

    封建制の下諸藩に強い影響力を及ぼしていた徳川幕府の力も幕末の荒波によって地に落ち、ついに大政奉還によって待ち望んでいた「復古」がなされたかに見えた。しかし現実は思わぬ方向へと進む。西欧の文物が急速に流入し、国学を信奉する主人公の居場所は次第になくなっていったのだ。かれはやがて発狂し、その生涯の幕を閉じる。

    島村は、本書に「夜明け前」という題名をつけた。近代化という夜明けの前にあった出来事という意味なのだと思う。しかし私は、この題名は、その響きのもつ芸術性は別にして、どうしても本質からずれているように思えてならない。本書は決して、近代化の直前にあった話という単純なものではないと思う。むしろ、近代そのものの話であるはずだ。近代化にとってどうしても必要だった何か、表立っては語られないが近代を影で成立させている何か、その「何か」が本書のテーマだと考える。いずれにせよ、「近代国家日本」が曲がり角に差し掛かっている今だからこそ、この作品は大きな意味を帯びるようになるだろう。

  • 武士が主人公ではない幕末の市井の人々の生活が瑞々しく描かれていて、司馬遼太郎とは全く違っていてとても新鮮に感じられた。人々のなにげない生活の中に今は失われてしまった美しさを見てしまう。決して浮つくことなく現実を冷静に見つめる人たちはどの時代にも存在するものだと実感した。

  • 幕末から明治初期にかけての歴史を、下からの視点で描く。歴史上のヒーローの物語とは違う迫力を味わえる。結末が激しい。

著者プロフィール

1872年3月25日、筑摩県馬籠村(現岐阜県中津川市馬籠)に生まれる。本名島崎春樹(しまざきはるき)。生家は江戸時代、本陣、庄屋、問屋をかねた旧家。明治学院普通科卒業。卒業後「女学雑誌」に翻訳・エッセイを寄稿しはじめ、明治25年、北村透谷の評論「厭世詩家と女性」に感動し、翌年1月、雑誌「文学界」の創刊に参加。明治女学校、東北学院で教鞭をとるかたわら「文学界」で北村透谷らとともに浪漫派詩人として活躍。明治30年には第一詩集『若菜集』を刊行し、近代日本浪漫主義の代表詩人としてその文学的第一歩を踏み出した。『一葉舟』『夏草』と続刊。第四詩集『落梅集』を刊行。『千曲川旅情のうた』『椰子の実』『惜別のうた』などは一世紀を越えた今も歌い継がれている。詩人として出発した藤村は、徐々に散文に移行。明治38年に上京、翌年『破戒』を自費出版、筆一本の小説家に転身した。日本の自然主義文学を代表する作家となる。

「2023年 『女声合唱とピアノのための 銀の笛 みどりの月影』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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