氷壁 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.65
  • (140)
  • (205)
  • (301)
  • (29)
  • (7)
本棚登録 : 1913
感想 : 215
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (640ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101063102

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 新鋭登山家の魚津恭太を主人公とした小説。親友の小坂乙彦と冬山を登頂するが、頂上の直前でナイロンザイルが切れて小坂が滑落してしまう。ナイロンザイルは重さや衝撃で切れてしまったのか、人為的に切断されたのか。
    本書の説明文には「恋愛と男同士の友情をドラマチックに展開させた恋愛小説」と紹介される。この説明文では食指が動かないが、製品に欠陥がないかという消費者問題の要素もある。序盤は不倫がテーマのようであまり読み進められなかった。しかし、ナイロンザイルに欠陥があるか否か、当事者が関連会社社員であることから圧力をかけるメーカー経営者、それを突っぱねて部下を守ろうとする上司の話が出てきて俄然面白くなった。
    登場人物のセリフに「氷壁よりももっと厳しい現実」という言葉がある。冬山の登山は何を好き好んで、そのような危ないことをするのかという感覚がある。しかし、人間社会のうんざりする様な厳しさと比べると冬山に清々しさを感じることがあるのだろう。
    本書は現実に起きたナイロンザイル切断事件を下敷きとする。現実のナイロンザイル切断事件は製造物責任法を先取りする消費者問題であった。小説は恋愛要素を前面に出しており、消費者問題は後景に引っ込んだ。不都合な事実を隠蔽しようとする日本型組織の厭らしさを描けていない。結末は救いがない。無理やり終わらせた感がある。
    三島由紀夫『金閣寺』も現実の金閣寺放火事件を下敷きにした。放火理由には金満僧侶の腐敗・堕落への反発という社会意識が動機にあったとみられている。しかし、小説では滅びの美学という感じで美化されている。

  • 2回目。前穂高に魚津と小坂2人で登攀していた友人がザイルが切れて亡くなった。切れないと言われていたナイロンザイルが切れた。魚津はザイルが切れたことがザイル自体に原因があると実験をお願いする。小坂の妹やかつて一度愛しあった美那子。友情や愛情。最後に魚津は浦穂高に登攀しようとするが途中で落石にあって亡くなった。個人的には小坂の妹と幸せになって欲しかった。魚津の上司が情深く魅力のある人物であった。嫌な気持ちには一切ならない良い作品。

  • 北アルプスの山に登ったことも、また登れるとも考えなかった20数年前に一度読んだことがあって、今回は再読でした。山を少しかじったこともあって、以前は分からず読み飛ばしていた細部が分かって、違った感動がありました。「娘さんよく聞けよ、山男にゃ惚れるなよ」の唄の世界です。

  • 以前にNHKで玉木宏さん主演でドラマ化もされていました。ドラマも面白かったですが私は原作の方が好きです。30代の時に読み、電車の中で泣いてしまったのを覚えています。

  • 徳沢園を舞台にした有名な山岳小説ということで読みました。若手登山家の魚津と小坂の周囲の人間関係を描いた作品。常磐大作が持論を展開するところが結構好きでした

  • ドラマ、エンタメ作品です。ナイロンザイル切断事件は実際にあった話ですが、こちらの詳細はあまり書かれていないので肩透かしを喰らった感じです。事件については別の書物を読もうと思います。

  • 事件の究明までやってくれると思ったが、始終男女の色恋沙汰をうにゃうにゃ描写し終わった

    山も出てくるが、思っていたより少なく…
    山岳小説が読みたかったなぁ

  • 山を舞台に男の友情と恋愛を描く傑作。

  • (2回め読書)
    登山テーマの小説としてあまりにも有名なこの本。切れるはずのないザイルがなぜ切れたのか。ミステリーの要素も含みつつ、危険をおしても山に向かおうとする登山家の高揚感と、挑戦を拒む北アルプスの厳しさが迫力満点に描かれます。
    1回目に読んだときは、主人公を取り巻く人間模様が印象に残ったのですが、再読の今回は、上高地への弾丸旅を決行し、戻ってすぐに一気読みしたこともあって、距離感や、見上げる山の高さ、稜線の険しさや、鳥のさえずりに水音…と、体感したことがすべて小説にそのままの形で出てくる、井上靖の筆力に圧倒されました。


    (1回め読書)
    上高地から奥穂高にチャレンジする道のりの情景、厳しい山に向き合う登山家の孤独と覚悟と高揚感の入り混じる心境が伝わってくる、迫力の一冊でした。

    最後の最後まで登山家であろうとした魚津の行動は、男のロマンというにはあまりにも切ない。

    そこに絡む美魔女美弥子。あぁこんな女性に絡め取られちゃいかん!と思うのに。どうしてあいつもこいつも男たちは…。

    ということなども含めて、読み止まらず一気に読み終えました。久しぶりの井上靖長編。やはりよかったです。
    作中序盤に引用されるデュプラの詩が、最後のページを読み終えるまでずっと胸の中にとどまっていました。

  • 昭和38年出版の本
    その時代が感じられて 面白く読ませてもらいました

    自分でも 山に登るのが好きなので 他にも山岳小説を読んでいますが その中でも この本は面白い方でした

    おすすめしたいです^_^

    • razy.cさん
      ありがとうございます^_^
      ありがとうございます^_^
      2018/01/06
全215件中 11 - 20件を表示

著者プロフィール

井上 靖 (1907~1991)
北海道旭川生まれ。京都帝国大学を卒業後、大阪毎日新聞社に入社。1949(昭和24)年、小説『闘牛』で第22回芥川賞受賞、文壇へは1950(昭和25)年43歳デビュー。1951年に退社して以降、「天平の甍」で芸術選奨(1957年)、「おろしや国酔夢譚」で日本文学大賞(1969年)、「孔子」で野間文芸賞(1989年)など受賞作多数。1976年文化勲章を受章。現代小説、歴史小説、随筆、紀行、詩集など、創作は多岐に及び、次々と名作を産み出す。1971(昭和46)年から、約1年間にわたり、朝日新聞紙面上で連載された『星と祭』の舞台となった滋賀県湖北地域には、連載終了後も度々訪れ、仏像を守る人たちと交流を深めた。長浜市立高月図書館には「井上靖記念室」が設けられ、今も多くの人が訪れている。

「2019年 『星と祭』 で使われていた紹介文から引用しています。」

井上靖の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×