天平の甍 (新潮文庫)

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著者 : 井上靖
  • 新潮社 (1964年3月20日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (230ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101063119

天平の甍 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 聖武天皇が治める奈良・天平の御世に実現した、唐の高僧・鑑真の来日の影で、それぞれの運命に翻弄された5人の日本人留学僧の約20年に渡る姿を、静謐なだけでなく、鮮明な視覚的イメージと説明しがたい感傷を読み手の胸に呼び起こす、独特な文体で描いた歴史小説です。  
    733年の第9次遣唐使船で、「普照(ふしょう)」、「栄叡(ようえい)」、「玄朗(げんろう)」、「戒融(かいゆう)」の20代の若き僧4人が留学生として入唐を果たします。中でも、奈良の都より派遣された普照と栄叡の二人は、十数後に実施される「だろう」第10次遣唐使船派遣までの間に、近代国家確立への道を模索しながらもいまだ迷走を続ける日本に、政治的・仏教的双方の理由から、戒律を授けてくれる高僧を先進国たる唐から招くという使命を背負っていました・・・。  

    彼らより30年近く前に入唐していた「業行(ぎょうこう)」を含め、命がけで海を渡った日本人留学僧5人でしたが、入唐後の運命ははっきりと分かれます。  

    入唐早々、大陸の広大さと不可思議な魅力の虜となり、「この国には何かがある」と、托鉢僧となって出奔し、消息を絶った「戒融」。

     唐へ向かう船の中で既に「祖国へ帰りたい」と弱音を吐くほどに意志薄弱で、入唐後も誰よりも帰国を願っていたくせに、皮肉なことに、唐の女と結婚して子供までなして還俗し、帰国叶わず唐の地へ骨を埋めることになった「玄朗」。

     祖国へ少しでも多くの知識をもたらそうと、広大な唐土各地に散らばる経典の写経に入唐後の50年近い人生を捧げながら、帰国の船が難破し、彼自身の命よりも大切にしていたすべての経典と共に、透き徹る海の底に沈んだ「業行」。  

    入唐9年目に唐でも屈指の高僧・鑑真に来日を打診して以来、ひたむきな情熱と行動力で鑑真来日のために立ち回りながら、異国の地で病没した「栄叡」。  

    そして、栄叡や業行ほどの行動力も情熱もなくだた彼らに引きずられていたようでありながら、誰よりも彼らを理解して手を貸し、在唐20年目の753年、広大な唐土を放浪した果てに高僧鑑真を伴ってただ一人、祖国の土を踏んだ「普照」。  

    戒律のために来日を決意した742年から来日した753年までの約12年の間に、5度の航海の失敗や愛弟子たちの死、老齢の身である自身の失明などを経験しながらも、一度も気持ち揺るがす異国へ続く海を渡った鑑真の重厚な姿と比べると、狂おしいほどにもがき続けて歴史の渦の中にひっそりと埋もれていった5人の日本人留学僧の姿はあまりにも小さくて儚く、それ故に却って心に染み渡ります。  

    抑制のきいた文体と鮮やかな情景描写が、人の運命の儚さを見事に表現しており、この作品を一層印象深いものにしていました。

  • 名作と言われるだけあって、人間の生き方の本質を考えさせる作品。史実だけをなぞってしまうと、大変な苦労をして留学僧が鑒真和尚を、日本仏教興隆の為に、渡日させることに成功しました。ということになるのだろうが、作者は、そこに、其々の留学僧の生き方考え方を、豊かな想像力で生き生きと描くとこにより、今でも通じる人間としてのあり方を問いかけている。

    自分がどのタイプの留学僧に当たるのか考えると、登場する主要5人の中の誰かに、多くの人は当てはまるのではないだろうか。私は戒融、業行とはかなりタイプが違う。流させれやすいという点では、普照かな。

  • 「異国に行く」ということ。
    その重みが現代とは桁違いに大きな時代に、仏教を学ぶため、遣唐使船で唐に渡った若き留学僧たちがいました。
    鑑真という、日本史を語る上で欠かすことのできない人物が大和の地を踏んだ、その背景には彼らの存在があったのです。

    唐で学び、さまざまな人物に出会う中で、彼らは各々の道を歩み始めます。
    自身の信念を貫く者、使命を胸に奔走する者、彼の地で新たな生き方を見つけた者。
    鮮やかに描かれる彼らの姿は現代を生きる私たちにも通じるものがあり、天平時代のスケール感と相まってぐわぁっと迫ってくるような臨場感がありました。
    特に、他の登場人物たちと比べると一番流されているように感じた普照が、鑑真とともに日本に帰国した、ということがとても印象に残っています。
    「運命は自分で切り開くぜ」というのもかっこいいけれど、本書で描かれた「運命に抗わなかったゆえの成功」が、実はより現実に近いのではないかという気がします。

  • 文体は堅くて漢字も多いが、文章が淡々としているからこその、伝わってくるものがある。
    日本出身の普照より、唐の高僧である鑑真の熱意が強かったのが、とても印象深かった。

    来秋に修学旅行で京都に行くが、その事前研究が冬休みの宿題に出た。
    天平の甍(課題図書の1つ!)を題材に、レポート3枚を仕上げるので、もう1回は読んで、特に地理的なところを整理したい。

  • 唐に留学した日本僧侶たちと渡日を果たす鑑真の姿を描いた内容。

    日本史の教科書で目にした「遣唐使」が苛酷な事業だとは思いもしなかった。考えればあたりまえだが航海技術が発達していないし飛行機などない時代。海を渡ることは命懸けだった。唐に行くということは生きて故郷に帰れないかもしれない覚悟を必要とした。仏教を日本に伝える使命感だけで成し遂げられる仕事ではなかっただろう。大変なことだった。


    唐に留学した僧侶たちのその後はそれぞれ異なる。放浪する者。唐で暮らすうち結婚し妻子を設ける者。ひたすら経典を模写する者。挫折し、志を果たせなかった者たちの生きる姿がそれぞれの個性を映し出している。

    そして対比するかのように描かれる僧・鑑真。静かな佇まいに宿る不屈の精神。日本に渡ることをあっさり決めたが、海賊や嵐や役人の妨害にあって五度も渡日に失敗。それでも初志を曲げず渡来。この強固な意志はどこから来るのか。小説を読んでも見えてこない。
    が、仏教を日本に伝える使命感があったのだろう。でもひょっとして’海の向こうにはなにがあるのか‘というロマンも鑑真を支えていたのではないかと読後に思った。

  • 分乗して誰かが生き残れば……という栄叡の考え方を思い出して胸がつまる。きっと栄叡は、この結末をハッピーエンドだと思ってくれるだろう。もちろん、失われたものは大きい。特に普照が幻視した光景には、悶えずにいられない。ちょうど『薔薇の名前』を読んだ時のように、書物の失われゆく様が、絶望的に、しかし大変美しく目に浮かんだ。あれはたしかに悲劇だが、史実としての空海の存在に読者は救われる。伝えようとする人が現れ続けたからこそ伝わったのだ、と思えるから。「時を隔てた分乗」と、栄叡なら言うかもしれない。

  • 鑒真和上の来日を扱った歴史小説.
    本棚にあったものだがたぶん初読.

    鑒真の静かな不撓不屈の意志が素晴らしい.
    それにもまして,異国の地に埋もれていった留学生たちに
    わたしは深い感慨をいだいた.

  • スゴイ、凄い小説だなあ!

    今夜読む本がないと思って、夕方立ち寄った駅前の本屋で何となく買ったのだが、本当に良かった!井上靖は凄い。

    あらすじは、遣唐使に混じって、留学生の僧侶が鑑真を日本に招来するまでを描いた話。

    その冒険が凄まじい。紆余曲折あり艱難辛苦あり、この史実を書いただけで十分読者は感動する。
    しかし、井上靖の凄いのは、純然たる事実を曲げないで、勝手な色をつけないで、そこに作者のオリジナリティをいれる所。そして、その文学性が成功しているのがこの小説の凄い所!
    というのは、留学生の僧侶たち一人一人に与えられたキャラクターがそれぞれ異なった行動を生み、それぞれの人生を描いてみせたということ。それによって、「学ぶとは何だろうか?」、「臆病は本当に悪徳か?」、「我々の人生は結局徒労なんではないのか?」など沢山の哲学的問いが提起される。

    今まで歴史小説の価値がわからなかったけれど、この本を通して、有能なる作者の芸術的な手際という素晴らしい価値に気付くことが出来ました。
    井上靖は凄い。

  • 天平の昔、荒れ狂う大海を越えて唐に留学した若い僧たちがあった。故国の便りもなく、無事な生還も期しがたい彼ら――在唐二十年、放浪の果て、高僧鑒真を伴って普照はただひとり故国の土を踏んだ……。鑒真来朝という日本古代史上の大きな事実をもとに、極限に挑み、木の葉のように翻弄される僧たちの運命を、永遠の相の下に鮮明なイメージとして定着させた画期的な歴史小説。

    第8回芸術選奨受賞作

  • 2017.12.08

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天平の昔、荒れ狂う大海を越えて唐に留学した若い僧たちがあった。故国の便りもなく、無事な生還も期しがたい彼ら-在唐二十年、放浪の果て、高僧鑒真を伴って普照はただひとり故国の土を踏んだ…。鑒真来朝という日本古代史上の大きな事実をもとに、極限に挑み、木の葉のように翻弄される僧たちの運命を、永遠の相の下に鮮明なイメージとして定着させた画期的な歴史小説。

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