天平の甍 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101063119

感想・レビュー・書評

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  • 鑑真の凄味が伝わってくる。また、派遣かれた僧もそれぞれ個性があり、面白い。この時代の航海は、生存率何パーセントだったのか?

  • 鑑真が主人公の話だと思っていたら、日本に鑑真を招聘するために奔走した日本人留学僧が主人公でした。日本史の教科書的にはどうしても鑑真一人にスポットライトがあたってしまうけれども、鑑真来日には多くの人間が関わっていたことに思い至りました。前半は天平5年(733)の第九次遣唐使船で入唐した4人の学僧のいきさつ、後半はその1人で20年後、鑑真とともに帰国した普照という人物に沿って物語が進んでいきます。
    最初は頭でっかちで共感しずらかった普照ですが、世界を広げ、周りの人物と関わる中で変わっていき、鑑真からの信頼を得るまでになります。英雄を描くのではなく、普通の人間の成長物語。歴史小説というよりも、歴史を舞台とした青春小説です。

  • 鑑真を渡日させることに 多くの僧が 人生をかけた理由は 理解できなかったが、日本と中国は 仏教で 繋がっていた歴史を知れた小説だった

    仏教のイメージは 無、自然、清貧、老荘思想、徒然草、良寛 しかないが、普照はじめ 登場する僧たちには 我の強さ、律の重さを感じた

    少し織り込まれている 神秘的現象の意図は 何だろうか

  • 遣唐使の一員として唐に渡り、鑑真の招聘を実現することに努力した普照という留学僧の視点で描かれた歴史小説です。

    普照は当初、みずからの学問のことにのみ関心を向けており、高僧を日本へ招聘するという計画には、それほど熱心ではない若者として設定されています。そんな彼の冷静な視点から、言葉には出さずとも、日本へ渡る決意にほんの少しの揺るぎもみせない鑑真をはじめ、鑑真の招聘にひときわ熱心な栄叡、唐の国土を歩いて真実の仏教を求める戒融、学問への志を捨てて唐の女性と結婚した玄朗、そして、みずからの才能に見切りをつけ、今は経典を日本に送り届けることだけに情熱を傾ける業行など、他の登場人物たちの生き方が生き生きと描かれます。また、彼らとの交流を通して、また長い年月を経ることで、やや
    て狷介な若者として描かれていた普照自身の態度にも、しだいに変化が現われていきます。

    物語の語り口は抑制が効いていますが、鑑真渡来という歴史的事実そのものに十分なロマン性があるためか、おもしろく読むことができました。

  • 鑑真の来日をテーマにした4人の僧侶の話。
    人間の意志を超えた存在に翻弄されながらも生きることが歴史を繋いでいく事ではないかと学んだ。

  • 本作は、何度も困難に遭いながらもけっして渡海を諦めず、最終的に日本にはじめて戒壇を伝え、唐招提寺を建立した鑒眞を描いた小説であり、映画化もされた影響で広く知られている。じっさい、わたし自身も手に取る以前からその程度の智識はあった。しかし、読んでみると印象はだいぶ違う。まず、主人公はむしろ榮叡や普照であるといったほうが正しく、そのほかの場面においても、眼につくのはつねにあまたの「無名」僧侶たちである。歴史的な知名度はどうしたって鑒眞がもっとも高いが、こと本作のなかにおいては、むしろ彼を支えたほかの僧侶たちのほうが深く描写され、鑒眞じたいは史実をなぞる程度でしか出てこない。そして、このような人物配置こそが、本作の最大の魅力である。たとえば、業行という僧侶がいる。歴史の表舞台には登場してこないが、どうやら実在の人であるらしい。(ただし、詳細はわからない部分が多く、彼に限らず多くの逸話の大部分は創作である。)この人物は、入唐後しばらくしてひたすら写経に没頭するようになり、その成果である厖大な写本はやがてほかの人物に託されるようになるが、航海の都合上日本へ帰らずにいったん唐国内の寺院に納められてしまう。このことに対し、業行はいつまでも根に持ちつづける。孤独な外国生活を何年も続けていれば、ふつうは日本人に逢えるだけでも相当うれしく、過去にしこりがあったとしても表情も自然と緩むはずであるが、彼に限っていえばそうでもない。まったくの堅物で、ひたすら仏教のことしか頭にないのである。これだけならまだありそうな人物設定に思われるかもしれないが、彼の人生にもまた波瀾があり、最終的には誰もが恐れていた最悪の結末になってしまう。誰よりも信心深いはずの宗教家が、大意を果たせぬまま亡くなってしまうことは衝撃的であると同時に、さまざまな問題提起を孕んでいると思う。このような人物は、はたして幸せであったろうか? 著者にはけっして仏教を否定する意識はないと思うが、ヘタをすればそういう考えにも繫がりかねない。鑒眞といえばとかく航海の「成功」のみにスポットライトがあてられがちではあるが、その裏には多くの努力があり、時として死すらあったということをあらためて確認することができた。

  • 友だちが「おもしろかったで」と言って手渡してくれたので、借りて読んでみることに。
    歴史小説を読むのなんて、ほぼ初めてと言っていいと思う。
    今ぱっと記憶をたどっても、出てこない。
    正直にいうと、歴史小説は堅苦しそうで読もうと思わないしわざわざ買おうと思わなかった。
    大河ドラマは好きやけど。
    でも、この本は私の歴史小説読まず嫌いを払拭してくれる作品になったかもしれない。
    しれないと書いたのは、まだ新たな歴史小説に手を出していないから。
    思ったほど堅苦しくなく、読みやすく、いらん表現も少なく、本当にさっと読み終えた。
    そして、昔習った歴史のことをすっかり忘れてしまっていることにも気づかせてくれた作品でもある。

  • 鑑真招来の話と言ってしまえばそれだけなのだが。

    当時の遣唐使ははっきり言ってまず唐につくことが困難、帰ってくるのは至難。

    その中で、戒律をただすために鑑真を伴って帰ろうとする僧の話です。

    普照という僧を中心に書いているのですが、その筆致は淡々としていて、鑑真についても触れてはありますが、遣唐使として唐に向かった留学僧がどのような見聞をもったか、ということのほうがメインにも思えてきます。

    不思議な感動でした。
    面白かった。

  • 中学生くらいの時に近代文学の歴史を覚える中で、
    井上靖、天平の甍というキーワードを覚えていましたが、
    内容はどのような作品かは全く把握していませんでした。

    たまたま図書館で見かけたので、読んでみることに。

    本書は天平(奈良時代)の時代を舞台にした、歴史小説で、
    遣唐使として、中国(長安、揚州)に入った僧の
    考えや人間模様、遣唐使としての活動が描かれています。

    中国の律を日本に持ち帰りたい為、経典を写経し続ける僧、
    中国の広大な土地や世界観に魅せられ旅をし続けた僧、
    写経ではなく、中国の高僧(鑑真)を日本に招きたい為、
    日本への帰国を目指すが、何度も座礁し、戻れぬまま、亡くなった僧。

    など、奈良時代の渡航の難しさや、情報の伝搬方法の地道さというのを
    ひしひしと感じられました。

    最終的には本書のメインである普照が鑑真を日本に招くことに成功し、
    唐招提寺を建立するという歴史的にも有名な部分が描かれています。
    (阿倍仲麻呂や吉備真備など教科書に出てくる人物も出てきます)

    当時遣唐使として日本に情報を持ち帰ろうとしたが、
    心半ばにして亡くなった人もたくさんいたんだろうな。。。と思いました。

    58年前の作品で、少し漢字が多く読みづらいところもありますが、
    そこを乗り越えると遣唐使の人たちの葛藤を知ることができます。

    それが教科書にも取り上げられる所以なんだと思いました。

  • 使命を果たすべく唐に渡る4名の僧侶。それぞれの時間のかけ方、行動の対比が強烈に無情さを感じさせる。

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著者プロフィール

井上 靖 (1907~1991)
北海道旭川生まれ。京都帝国大学を卒業後、大阪毎日新聞社に入社。1949(昭和24)年、小説『闘牛』で第22回芥川賞受賞、文壇へは1950(昭和25)年43歳デビュー。1951年に退社して以降、「天平の甍」で芸術選奨(1957年)、「おろしや国酔夢譚」で日本文学大賞(1969年)、「孔子」で野間文芸賞(1989年)など受賞作多数。1976年文化勲章を受章。現代小説、歴史小説、随筆、紀行、詩集など、創作は多岐に及び、次々と名作を産み出す。1971(昭和46)年から、約1年間にわたり、朝日新聞紙面上で連載された『星と祭』の舞台となった滋賀県湖北地域には、連載終了後も度々訪れ、仏像を守る人たちと交流を深めた。長浜市立高月図書館には「井上靖記念室」が設けられ、今も多くの人が訪れている。

「2019年 『星と祭』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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